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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.27


「ああ、アルガナ先生ね〜〜。

確かに、私の家の縁戚にあたる令嬢と婚姻してるわよ」


あの後、アルガナ先生の周辺を調べている過程で奥様がビリーの縁戚にあたる事を知り、何か知らないかとビリーに聞いてみたところ、ビリーは溜息混じりに話してくれた。


「アルガナ先生って、ご両親が高齢で若くして伯爵位を継がなきゃいけなくなったでしょ?

だから条件の合う令嬢の中からうちの縁戚にあたる方に縁談の話が来て、特に問題なく婚姻したんだけど、これが条件の方じゃなくてアルガナ先生本人が問題だったのよ」


学院のカフェテリア、上位貴族にだけ許されるスペースの一角で、ビリーはずいっと私の方に身を乗り出した。


「アルガナ先生って見た目は中性的でお綺麗でしょ?それに物腰も穏やかで。

嫁いで行ったそのご令嬢も、最初は良かったのよ。

エスコートも完璧だし、贈り物も忘れずに細やか、婚約期間は問題なく過ぎて、いよいよ婚姻してみると、アルガナ先生の本質っていうの?それが見えてきちゃってね。

彼女が言うには、アルガナ先生って感情が無いらしいの。

彼女に対して、必要最低限の会話しか求めないし、接触さえ嫌がるみたい。

魔法の研究で忙しいらしくて、邸に帰ってこない日も多いし、たまに一緒にいても何を考えているのかさっぱり分からないらしいわ。

それにアルガナ先生って酷い差別主義者で、平民や獣人を平気で差別するんだって。

今だに獣人族の事を獣、人族の事を人間って表してるらしいわよ。

そんなアルガナ先生に奥方はもう我慢出来ないみたいで、彼女は離縁して家に帰りたいって言ってるんだって。

アルガナ先生の方も、爵位さえ継いでしまえばもう奥方には用がないみたいで、近々離縁が成立するするみたいよ」


ビリーからの情報に、私は内心大きな溜息をついた。

これでアルガナ先生の執着対象を奥様に変える、という案は無くなったからだ。


やはりアメリアさんに執着したままでいてもらうしか無いのかしら?

でもアルガナ先生はアメリアさんを次の奥様にしたいようだし………。

残念ながら、それは叶わない夢と消えるでしょうけど。

アメリアさんは伯爵夫人に収まるような女性ではありませんから。

そうでなければ私が困るのです。

彼女は皇太子殿下を射止め、この国で1番高貴な女性となるのです。

私が必ずそうしてみせますわ。


………となると、やはり1番厄介なのはアルガナ先生との関係です。

他の殿方のように纏めてアメリアさんに引き受けてもらっても良いのですが、さてあのアルガナ先生が大人しくそれを受け入れるでしょうか?


闇属性持ちの人間は、人への興味が薄い分、好意を持った相手にとことん執着しますし、その相手を誰かとシェアするなど、絶対に出来ないでしょう。

そんなアルガナ先生が何故よりにもよって、この国で複数の男性を侍らせる事が唯一許されたアメリアさんを選んでしまったのかしら。

運命というのは皮肉ですね。


どちらにしても、アルガナ先生の奥様との離縁が成立すれば、アメリアさんの先生への興味は薄れてしまうでしょう。

かつてのエイデン卿やブライト卿のように。


婚約者を失いフリーになった途端、アメリアさんからつれない態度を取られるようになって、2人はますます意地になっているようです。

まるで競い合いようにアメリアさんに貢ぎ物を贈っているようですから。

そんな2人はそろそろ、家からも見放されるのじゃないかしら?

エイデン卿は侯爵家の嫡男だというのに、エイデン卿の家、グロー侯爵家から後継ぎの変更届けが宮廷に申請されたそうですわ。


ブライト卿などもっと悲惨です。

もともと三男で、譲り受ける爵位も無く、シャルト伯爵家への婿入りも無くなった今、ブライト卿の家であるノーザンブル伯爵家では、それこそ新しい婿入り先を男爵家まで落として探しているそうです。

それでも見つからなくて、近々準男爵家や騎士の位の家にまで落とすそうですわ。


お二人とも、それではあまりに憐れなので、後々アメリアさんに引き取ってもらえるよう私が上手く話をしてみようと思います。

慈悲深く殿方を受け入れるアメリアさんならきっと、お二人の事も快く迎えてくれるでしょう。


と、話は逸れましたが、そんな訳でアルガナ先生が先に話した2人同様、アメリアさんから興味を失われるのも秒読みの段階なのです。

アルガナ先生が魔族に堕ちるとしたら、一体どのタイミングかしらね?

彼女からつれない態度を取られた時?

それとも、彼女を自分1人のものに出来ないと知った時?


出来れば新しい魔族が生まれた瞬間に勝負を決めたいわ。

彼に人を殺めさせたくない。

獣人を未だ差別する彼の人となりは好ましくありませんが、教育者、研究者としては本当に優秀な方ですからね。

罪を犯す前に滅して差し上げたいけれど、そんなに上手くいくかしら………。


何事も、一事が万事私の思う通りにいく訳ではありませんから。

今回のアルガナ先生の事がまさにそうです。

まさか先生がアメリアさんとあのような関係になっていただなんて、流石に予想していませんでした。

先生の事だけは、完全に私の失態でしたわ。

せめて新しい魔族が生まれないよう、最悪生まれたとしても直ぐに始末出来るように努力しなければ。

それにしても、アメリアさんの好きにさせておく事がこんなにも危険な事だったなんて………。

傾国の美女だなどと言いますけれど、まさか本当に1人の女性のせいで国が危険に晒される事になるだなんて。

私はその辺を呑気に考え過ぎていたようですね。


……さて、やはりあまり時間はありませんね。

これ以上アメリアさんの好きにさせておくのは危険過ぎます。

早々に彼女にとっての最適な場所を整えなければ。


さて、私の大事な駒は、頑張ってくれているでしょうか?



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「お久しぶりでございます、エブァリーナ様」


目の前で穏やかに微笑むカハル・ロペス・アンヘル枢機卿に、私も穏やかに笑い返した。


「カハル様、お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます」


ソファーに座ったまま立ち上がりもせずそう答えながら、私は自分の目の前の席を手で差した。

現段階で教会が帝国内にあっても独立しているとしても、私は公爵家の令嬢、申し訳ないけれど教会人に謙る訳にはいかない。


カハル様はそんな私の態度を全く気にする様子もなく、進められるままに私の対面にあるソファーに腰掛けた。


「早速ですけど、首尾の方はいかがかしら?」


小首を傾げながらそう問いかけると、カハルは困ったように眉を下げる。


「はい、赤髪の魔女様に言われた通りに、自分の支持者を集めてみたのですが………とても教皇猊下に敵う数では………」


しどろもどろにそう答えるカハル。

カハルには次の教皇選挙に立候補するように、事前に赤髪の魔女から指示を出していた。

帝国の教会の腐敗ぶりを案じた王国の大司教が密かに派遣してきたのがカハルですから、本人はまさか次期教皇の座に自分が座るなどと思ってもみなかったのでしょうね。

もちろん、いくら赤髪の魔女の指示とはいえ、素直に頷きはしませんでした。


ですが、気まぐれな赤髪の魔女が、それならば自分は他国に移る、などと言い出しては話が別です。

魔獣や魔物の多く蔓延るこの帝国から、赤髪の魔女がいなくなってしまっては、この帝国にとって大きな痛手でしょう。

その責任が自分にあるかのように言われては、カハルとて首を縦に振るしかありませんでした。

脅したようで心苦しいのですが、元々カハルに赤髪の魔女の提案を断るだなんて選択肢は無かったのですから、仕方ないですわよね?


「数などはどうでも良いのです。

貴方を支持する心ある人間が、まだこの教会に存在する事に意味があるのですから。

貴方の支持者のリストは出来ていまして?」


うふふと笑う私に、カハルは慎重に頷きながら一枚の紙を渡してきた。

それを受け取ると、私はサッと目を通し、2名の人間の名を指差す。


「この方とこの方は教皇が貴方に差し向けた密偵ですわ。

この2人には以後接触しないように。

こちらで秘密裏に懐柔して、逆に教皇側に密偵として送り返しておきますから。

思っていたより貴方の支持者は多いですね。

良かったわ、教会にまだ心ある人間がこれだけいて。

現在枢機卿は72名、内、貴方を支持する者が18名。

十分な成果だわ、さすが信心深く崇高なアンヘル家の家人ですわね、カハル様」


ニッコリ笑うとカハルはあんぐり口を開いて驚愕の目で私を見つめていた。


「流石あの魔女様に唯一認められた方ですね。

教皇様の密偵の存在まで見破るだなんて………」


カハルは随分驚いているようですけど、それくらいなら想定範囲内ですし、既に枢機卿達は全て調査済みです。

今のところ密偵ぐらいで済んでいる事がむしろ奇跡ですわね。

………まぁ、自分とカハルでは支持者の数が圧倒的に違うので、教皇も油断してくれているのでしょう。


さて、先ほどから私とカハルが何を話しているかと言うと、教皇選挙、つまりコンクラーヴェですわね。

枢機卿による投票で次の教皇が決まる訳です。


………えっ?普通、現教皇がご薨去してから行われるんじゃないのか?ですか?

ええ、もちろん、通例はそうです。

他にも健康問題などで生前退位した例もありますが、今回のこの選挙はまた違います。


やり過ぎたのですわ、あの教皇。

教皇に即位して30数年、教会を私利私欲のために利用して、私腹を肥やし権威を振りかざし、やりたい放題に教会を腐らせ……。

もう80代後半だというのに、まだその欲は衰える事がないのですから、本当に呆れてしまいますわよね?


そんな教皇並びに教会に対して、いよいよ国民が立ち上がり、あらゆる場所で神徒達が教会へのクーデターを起しているのです。

その勢いは教会全てを焼き尽くさんばかりの勢いです。

今まで散々見下してきた皇家からは援軍を断られ、各貴族達は巻き込まれたくないとばかりにだんまり……。

流石に教会としても弱り果て、前代未聞の教皇への不信任案を発令、生前退位に追い込まれたという訳です。


ですがもちろん、それで黙って退場しないのがあの教皇ですわ。

しれっと次期教皇選挙に立候補したのですから。

教会内に根太く張り巡らせた人脈があれば、再当選は確実と、鼻息荒く立候補してきたのですから、もう本当に呆れ果てるばかりです。

教皇以外に立候補しているのはカハル1人ですから、正に一騎打ちですわね。


先ほども言いましたが、投票権のある枢機卿は現在72名。

その内、カハルを支持する者は18名。

その18名のうち2名は教皇側のスパイですから、正確には16名ですが。

つまり、56対16、このままいけば完全なる劣勢です。


そう、教皇の思惑通りにいけば、教皇の勝利は確実。

二度目の当選となれば箔がつきますし、民もそれで黙るだろうとでも思っているんでしょうけど。


………甘いですわ。

カハルの後ろ盾に私がいる事の意味を全く理解していないようね?

それはつまり、カハルの後ろには赤髪の魔女がいるという事。

そう、背後にベッタリとね。

貴方の支持者の中にはその事に気付き、もう既にカハルに擦り寄ってきている者もいるのですよ?

賢い方は嫌いじゃないわ。

例え教皇に謙り、共に民から搾取したお金で甘い汁を吸ってきたような輩だとしても、私は認めて差し上げたいと思いますの。


………そうね、枢機卿の地位から蹴り落とし、田舎の教会の神父として、今の腐り切った神道を今一度見つめ直すくらいの救済措置は与えて差し上げますわよ?


コンクラーヴェまでいよいよあと一週間。

早急にここまでの状況を作り上げる為に、私は不眠不休だったのですから、何が何でもカハルには勝利してもらわなければいけません。

私にこき使われたジルヴィスなど、真っ白に燃え尽き見るも無惨な状況なんですから。

ああ、可哀想なジルヴィス………。


それもこれも、あの強欲で卑劣な教皇のせいですわっ!

可哀想なジルヴィスの為にも、必ずや勝利をカハルの手にっ!


私がここまで本気になったのは、もちろんあのお馬鹿なカインのせいですけど。

時期が多少早まっただけで、元々あの教皇が作り上げた腐った教会は全て焼き払い更地にして、新しく清く正しい教会を作り直すつもりでしたから。

計画には多少の変更くらいありますよね?

落ち着いて臨機応変に対応すれば、案外何とかなるものですわね。

グッジョブッ!ジルヴィス!



「あ、あの、今のところ私に選挙で選ばれる要素は無いのですが………エブァリーナ様は一体どんな魔法を使われる気ですか?」


恐る恐るといった様子でそう聞いてきたカハルに、私は手元のお茶を優雅に一口飲んでから、ただ穏やかに微笑んだ。


「そのような魔法、真の教会人である貴方が知らなくても良い事ですわ」


穏やかな微笑みの中に有無を言わさぬ圧を込める私に、カハルは冷や汗を流しながらただ頷いた。


「は、はい………分かりました………」



ふふ、カハルのように清廉な人間は本当に知らなくて良い事です。

俗物の手懐け方など。


そういった事は私、いえ、我がアルムヘイム家にお任せあれ。

本気になればこの帝国さえひっくり返せる、それが我が家ですから。

たかだか教会如き、手のひらで転がして形を変えるなど容易い事………。


とはいえ、今回は少し骨が折れましたけど。

なにぶん私とカインの事情が変わり、早急に事を勧めましたから。

お陰でジルヴィスを酷使してしまったではないですかっ!


おのれっ、憎き教皇っ!

よくも我が兄、ジルヴィスをっ!

必ずや敵はとってやりますわっ!

ですからジルヴィス、あと少し、頑張って下さいねっ!

ジルヴィス、ファイトッ!!




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