表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/100

EP.26


「ヌハハハハハハハハッ!

長き眠りから目覚めた我をもう誰も止めることなぞ出来んぞっ!

おのれっ、憎き人間共めっ!

虫ケラの分際で我を封印するなどっ!

この屈辱っ!必ず返してやろうぞぉぉぉぉぉっ!!」


「やかましいっ!ヘルブレイズッ!」


私の放った地獄の業火が、今封印結界を破って復活したばかりの魔族を一瞬で火だるまに変えた。


「むっ、いかんいかん。

腹が立ち過ぎて血を回収する事を忘れるとこじゃった」


私はツカツカと火だるまになった魔族に近付き、炎の中に手を突っ込み魔族の首を掴んで持ち上げた。


「ガッ、ぐうぅっ、き、貴様は……一体………」


まだ声が出せる魔族に、瞬殺していなかった事にホッと胸を撫で下ろした。


「ふんっ、いつもなら名乗ってやったところじゃが、今私は虫の居所が最高に悪いのでな。

名無しの人間に滅せられる自分の弱さを呪うが良い」


ケッと不機嫌に答えると、魔族の首を掴んだ手に力を込める。

そこから魔族の血が抜き出され、私の頭の上に丸い球体になって浮かび上がった。


「ガッ………おのれ………人間……風情……が……カッ……ぐぁっ………」


血を全て抜かれてカラカラのミイラになった魔族は、フッと息をかけただけでサラサラと砂に還り風に吹かれて跡形も無く消えていった。


「まったく、魔族風情がギャーギャーと。

あ奴ら何であんなに偉そうなんじゃ?弱いくせに」


先程抜いた魔族の血を小さく圧縮して回収しながら、私はブツブツと呟いた。


私は今、最高に機嫌が悪い。

魔族で遊ぶ気分にもならない程に。

その原因は、アレだ。

カインのど阿呆のせいじゃ。


カインに2人でしたあの約束を忘れるように言われた後、茫然自失のままカインだけを騎士科の仲間の元に転送してやった。

少しの間行方不明になっていたカインは教官殿にこっ酷く叱られ、帰りの進軍訓練で荷物持ちをさせられていたが、もうそんな事はどうでも良い。


カインめっ!

よりにもよって、私としたあの大事な約束を無かった事にしたいだなどと、よくもそんな事を言いおったなっ!

たかだか皇家の人間に色々言われたくらいで日和りおってっ!

情けないっ!

それでも私の将来の伴侶かっ!

全くもって情けないっ!


お陰で超絶機嫌の悪い私に八つ当たり的に滅せられた魔族が、今ので何体目だと思うのだ。

奴らがそんな目に遭ったのは、全部カインのせいじゃな。


…………いや、カインに余計な事を囁いた、あの凡夫のせいかの?


カインに余計な事を囁いたのは間違いなく、皇帝の手の者であろう。

どこから私とカインの関係を嗅ぎつけたのか。

カインに送る手紙の宛名はアダムと偽っていたし、わざわざエブァ街から送っていたというのに。

まったく、余計な鼻が効くもんだ。

凡人と侮っていたが、あのしつこさは確かに異常じゃな。

何が何でも私をあのボンクラの嫁にするつもりらしい。


わざわざ赤髪の魔女の姿で忠告してやったというのに、全く何も効いとらんな。

あくまでエブァリーナを皇家に取り入れ、赤髪の魔女を帝国の所有に納めようという事か。

じゃからあの者は凡庸な人間だというのだ。


が、そうはいかん。

貴様の息子は既に私の手中にあるのだからな。

もう後戻りなど出来ない所まで追い詰めてある。

後は然るべきタイミングで仕上げてやれば良いだけよ。

その時になって自分のした事を後悔しても、もう遅いぞ、愚か者め。


そしてカインじゃ。

あ奴にも自分の立場を分からせてやらねばならんな。

全てが終わってからゆっくり2人きりの蜜月を楽しもうと思っておったが、こうなったらそんな事も言っとられん。

自分が私の何なのか、そして私が自分の何なのかを、じっくり教え込んでやろう………その体にな。


焼けこげた荒地でクックックッと黒く笑う私こそ、その姿を見た者の目には魔族として映る事だろう。

まぁ、魔族も魔族を狩る者もさして変わらんかもしれんが、一応見た目は可憐な美少女ゆえ、ちょっとは自重した方が良いかもしれんな、うん。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ニシャーーーッ!待ってぇ〜〜〜」


鼻にかかった甘えた声が聞こえ、私は咄嗟に近くの木の後ろに姿を隠した。


学院でいつものようにビリーとマーニーとランチを楽しんだ後、1人で少し散歩をしていたところ、彼女の声が聞こえてきたのだった。


「こらこら、アメリア、いけませんね。

学院内ではアルガナ先生と呼びなさいといつも言っているでしょう」


自分に抱きついてきたアメリア嬢を嬉しそうに受け止めながら、優しく諭すようにそう言う彼に、私は密かに片眉を上げた。


ニシャ・アルガナ先生。

この学院の特別教諭。

まだ伯爵位を継いだばかりの青年で、確か年は25歳。

年は若いけれど、既に魔法学において影響力のある実力者で、魔法の天才だと言われている。

私は魔法が苦手なので、彼の講義は必ず取るようにしていた。


えっ?魔族をバカスカ滅しておいて、魔法が苦手?

と思われるかも知れませんが、残念ながら、私は魔法というものを理解し切っていないのです。

魔法とは体内の魔力をイメージに沿って具現化する、いわば儀式が必要なもの。

その儀式をマニュアル化したものが呪文や詠唱なのですが、その知識が私には決定的に足りないのです。


幼い頃から魔法の家庭教師はついていましたが、私は光魔法を中心に学んでいましたから、風と火の属性については簡単な基礎を学んだのみです。

風と火は荒事に必須の力。

そこを強化したいだなどと、公爵家の令嬢である自分の立場では言えず、座学はしっかり学んだものの、実践はさせてもらえませんでした。


………まぁ、実践なら赤髪の魔女の方で散々やってきたんですけどね。


なら何故今更魔法の知識が必要なのかというと、やはり呪文や詠唱です。

前世でファンタジーな読み物や映像を好んでいた方には不思議に思われるでしょうけど、私はその辺がカラっきしで。

いまいちピンとこないのです。

馴染みがないので、この呪文ならこんな効果、などパッと思いつかないんですね。


例えば、風魔法の初級魔法、エアーシュート。

空気の塊を相手にぶつけるだけの魔法ですが、あっ、もちろん、私の魔力量で本気で打つと相手の腹に風穴が開きますけどね。

ですが私にはその呪文という概念が定着していないので、座学で学んでいてもパッと出ないんです、エアーシュートって。

で、実戦でどうなるかというと、なんか空気を丸くして打つやつっ!と頭で考えて放つのですが、側から見ると無言でいきなりエアシュートを打つ、という絵面になる訳です。


不思議なもので、呪文無しだと上手く魔力が乗らないんですよね。

それでも目の前の相手を倒すくらい訳ないのですが、私の魔力は現世で使い切る為にあるので、少しでも魔力を魔法に乗せたい訳です。


アルガナ先生の授業は魔法の原理から始まり、呪文の種類や意味、その効果、新しく構築された呪文などをとても分かりやすく教えてくれるので、私にはありがたい事この上無いのです。

特に公表していない土魔法と水魔法の呪文を学べるのは大変貴重です。


そして彼の授業が大変人気である理由の一つが、闇魔法についての講義がある事です。

希少な闇魔法の呪文や種類、その効果を学べるのですから、私にとって彼の授業を受けない理由がない訳です。


実は聖魔法に関しては、学ばずとも勝手に呪文が頭に浮かび使えるのですが、闇魔法は他の属性と同じで知らない呪文は使えませんし、知っていても効果が解らなければいまいち魔力が乗りません。

その辺、闇魔法も光や他の4属性と変わらない、自然の力だという事ですね。

聖魔法については、もっと人智を超えた、神の力に近いものと言えます。

だから聖女だなどと崇められるのでしょう。


さて、そんな私にとって貴重な存在であるニシャ・アルガナ先生ですが、アメリアさんといつの間にあんなに親密な関係になっていたのでしょうか………。

彼女に関しては後々の事を考えれば、自由にさせておくしかないので、特に監視なんかもしていませんでしたが、よりにもよってアルガナ先生ですか………。

既婚者なんですけど………。


貴族社会では基本、婚姻していない者は爵位を継げません。

もちろん何事にも例外はありますから、マーニーの叔父上のように未婚のまま急遽爵位を受け継ぐ例もありますが、問題の無い爵位継承であれば既婚である者に継がせるのが通例です。


ですから当然、アルガナ伯爵である先生は既婚者な訳で………。


アメリアさんとうっとり見つめあったり、ゆっくり顔を近づけ口づけたりと、大変甘い雰囲気ですが………それは、如何なものでしょう?


いえ、貴族男性が外に愛人やら妾やらというのはさして珍しい事ではありませんし、私がとやかく言う事でもありませんが。

ですがアメリアさんは生徒ですし、この国の皇太子殿下のお気に入りの令嬢ですし、それに他にも殿方がおられる身ですしね。


………ある意味、アルガナ先生に特別な存在がいる事、それ自体は喜ばしい事ですけど。


彼は、公表はしていませんが、闇属性を持っていますから。

同じ属性を持つ私だからこそ気付けたのですが。

ちなみに、私の方が魔力量が上なので、アルガナ先生が私の闇属性に気付く事は無いでしょう。


闇属性持ちは感情の起伏が乏しく、興味や執着心が貧しいので、心を失いやすい特徴があり、そして感情を無くし無の状態になると闇の力が変異して魔族に落ちてしまうという特性があります。

ですから、なんであれ、アルガナ先生が執着する対象が居ること自体は良い事なのですが、それが男女の関係であるのは諸刃の剣と言いますか、危険な状態とも言えます。


男女の関係は危ういものですし、アルガナ先生がどこまでアメリアさんを理解し、許容しているか、にもよりますが、基本は他の異性の存在は許せないものです。

その辺、アルガナ先生はアメリアさんの周りの殿方についてどこまで知っているんでしょうね?


もしも何も知らず、彼女が自分だけのものだと思っているようなら………2人の関係は危険かもしれません。


心配する私をよそに、2人はイチャイチャと抱き合いながら、甘く見つめあっていた。


「アメリア、殿下にまだ言い寄られているのかい?」


眉間に皺を寄せ、少し冷たい声でそう言うアルガナ先生に、アメリアさんは困ったように眉を下げ瞳を潤ませた。


「仕方ないの、だって皇太子様だよ?

怒らせたら何をされるか分からないし。

でもアメリアが1番好きなのはニシャ1人だけだよ?

信じてくれるよね?」


ウルウルとした瞳で見上げられたアルガナ先生は、嬉しそうに顔を綻ばせ、アメリアさんを甘く見つめた。


「もちろん、分かっているよ。

アメリアは可愛いからね、他の男が黙っていないのも理解している。

だけど君は、私のものだからね?

いつかアルガナ伯爵夫人になる女性だ。

殿下や他の男の相手はほどほどにしておきなさい、いいね?」


そう言ってアメリアさんにうっとりと口づけるアルガナ先生に、私は頭を抱えそうになっていた。


………今の奥様を離縁して、アメリアさんを新しく夫人に迎える夢まで見ているだなんて………危惧した通り、重症だわ………。


教師としては、良い先生だったのに………。

本当に惜しいですわね。

勿体無い事です。


アメリアさんが出来ない約束をあちらこちらの殿方と交わしている事は生徒達の間では有名な話ですのに。

特別教諭として偶にしか学院に来られないアルガナ先生は知らないのでしょう。


アルガナ先生の闇属性の事を思えば、アメリアさんには先生の側にいてもらうのが最適なのでしょうけど、それでは殿下の引き取り先が無くなってしまって私が迷惑する事に………。

ですが、彼女を失ってアルガナ先生が感情まで失い魔族に堕ちるリスクは回避したいですし………。


アメリアさんに纏めて引き取ってもらうしかないのだけど、果たしてアルガナ先生はそれを納得するかしら?

それよりも、出来れば今の奥様に興味関心が移るのが1番理想的なのだけど………。


これは少し、アルガナ先生の周辺について調べておく必要があるわね………。


それにしても、アメリアさん……貴女………よりにもよってアルガナ先生までだなんて………。

殿下や他の殿方であれば、罪の無い遊びで済みましたのに、その方は一歩間違えれば魔族を誕生させてしまう危険がありますのよ?

新しい魔族など百年以上生まれてませんのに。


アメリアさんにアルガナ先生の取り扱い方を教えて差し上げたいけれど、私にはそれは出来ませんから。

まず、アルガナ先生の闇属性を見抜いている事を知られたくありませんし、その説明も面倒ですし、そもそも彼女が私の言う事を素直に聞いてくれるとも思えません。


詰まるところ、私に今出来る事は無い、という事です。

お若い2人の恋の邪魔者役にはなりたくありませんし、馬にも蹴られたくありません。


私に出来る事は、アルガナ先生が万一闇に呑まれ魔族に堕ちた際には、可及的速やかに彼を滅する事、くらいですかね。


カインの事で八つ当たり的に滅した魔族のようにはしませんから、その時はどうかお許し下さいね、アルガナ先生………。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ