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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.25


ズドンッ!!

地を揺るがしてストーンドラゴンの首が地面に落ちると、シーンと静まり返ったその場から一気に歓声が湧き上がった。


「ウワァァァァァァッ!やったっ!やったぞーーーっ!」


「俺達、本当にドラゴンを倒したんだっ!」


「やったっ!俺達はやったんだっ!」


「カインッ!すげーよっ!ドラゴンの首を落としちまいやがったっ!」


「最後の技、なんだよアレっ!あんな魔力の剣技、見たことねーよっ!」


「すげーっ!カインッ、すげーーーーっ!」


「あんなのもうっ!ソードマスターじゃねーーかっ!」


わぁぁぁぁっと沸く生徒達の中心にカインは降り立つと、自分でも不思議そうに握った剣を見つめていた。


「皆、自分の力をしっかり掴んだかい?」


私が声をかけると、生徒達が一斉にこちらを振り返った。


「魔女殿っ!さっきのは一体何ですかっ⁉︎」


「自分の中から、今まで感じた事の無い力を感じましたっ!」


「あんなに魔力を剣に込められたのは初めてですっ!」


キラキラとした生徒達の表情にうんうんと満足げに頷き、私は口を開いた。


「あれは光魔法を応用した支援補助魔法での。

士気を高め戦闘能力を上げるクルセイド、それに個々の能力を最大限まで引き出すオーバーオールの重ね掛けじゃ。

先程出した力が、現時点でのそれぞれの限界点。

感覚を忘れずにコツを掴めば、そこまでの力は己で引き出せる、という事じゃの………ただし」


嬉しそうに私の話を聞いていた生徒達が、1人また1人とガクガクと膝を震わせ、ドサドサと地面に倒れていく。


「今回は私の魔法によって強制的に力を極限まで引き出されたからの、体の方がもう言う事を聞くまい」


カッカッカッカッと笑う私を、生徒達は倒れながらポカンとした顔で見ていたが、やがて全身に走る痛みにそのまま地面をのたうち回り始めた。


「いてーーーーーっ!体がっ!全身がいてーーーーーっ!」


「ほ、骨がっ!骨がバキボキに折れてる気がするっ!」


「ヤベーーー、これっ!死ぬっ!多分死ぬっ!」


ギャーギャーとのたうち回る生徒達の中、カインも密かに片膝をつき、痛みに顔を歪めている。


「すげーーーっ!あのカインが片膝をついたっ!

カインを倒すなんて、やっぱ魔女殿は只者じゃねーーーっ!」


痛みにのたうち回りながらもそう言って笑う生徒の1人に釣られ、皆が笑い声を上げた。


「やっぱ魔女殿が最強だったなっ!」


「カイン、ざまーねーぜっ!」


「カインの敗北記念日だなっ!」


全身の痛みに耐えながら、明るく楽しくはしゃぐ生徒達に、私は思わず微笑む。

その私を生徒達がボゥっとした顔で見つめていた。


「………魔女殿が微笑んでらっしゃる………」


「び、美少女の微笑み………」


「やっぱりっ⁉︎だよなっ!魔女殿、美少女だよなっ!」


「年齢は分かんねーけど、見た目があれだけ美少女なら………俺、良いかも………」


ゴクリと生徒達が唾を飲み込んだ瞬間、カインが片膝をついたまま剣を頭上に高く掲げた。


「………雷撃…」


先程ストーンドラゴンの首を一刀両断にした剣技を繰り出そうとするカインに、地面に這いつくばりながら生徒達が慌てた声を上げた。


「バカッ!カインッ!お前何考えてんだよっ!」


「俺達の息の根止めにくんじゃねーよっ!」


「一旦落ち着けっ!なっ!カインッ!カインさんっ!」


「やめてくれ〜〜〜〜っ!」


必死にカインに抱きつき、皆で羽交締めにしながら涙で訴えている。


その光景を腹を抱えて眺める私と、呆れたように、だが優しい眼差しで見つめている教官殿。


何にしても、彼らの最後の実地訓練は大成功を納めた、という事じゃ。


わちゃわちゃとカインに絡む仲間達と、それを仏頂面でかわすカインを眺めながら、私は心の底から楽しくて仕方なかった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「魔女殿、カインのあの剣筋は間違いなく剣聖のものでした。

私はこれを騎士団に報告して、カインの今ある任を解き、騎士団に入団させたいのですが、魔女殿にも口添えをお願いしてもよいでしょうか?」


私の治癒と回復魔法ですっかり元気を取り戻し、帰り支度をしている生徒達から離れた場所で、教官殿は意を決したようにそう口を開いた。


その覚悟を決めた目に、私はふふっと笑った。


「まぁ待たれよ、教官殿。

今日のカインの事は、まだ黙っておいてくれ。

生徒達から記憶を消しても良いが、その必要は無さそうじゃ。

口外無用とだけ命じておいてくれんか?」


私の返答に教官殿は目を見開き、大きく首を振った。


「そのようなっ!何故ですかっ?

それではカインがあまりにも………っ!」


納得がいかない様子の教官殿の目の前に私はピッと人差し指を立てた。


「教官殿、貴殿の進退を賭けてまでそのような進言をすれば、カインが気に病む。

それにアレは、自分の気に入りを取り上げられる事を酷く嫌うでな、そんな事をすれば貴殿に何をするか分からん。

ここは私を信じて、この件は任せてくれんかの?

悪いようにはせん、直ぐにカインの能力に見合った場所に配置してみせるゆえ」


私の自信のこもった目をジッと見つめて、教官殿は溜息をついて頷いた。


「分かりました、魔女殿を信じましょう」


なんとか納得してくれた教官殿に、私はホッと息をついた。


気に入りを取り上げられると駄々を捏ね出すアレ、とは勿論、ボンクラ皇太子の事じゃ。

カインは今のあ奴のステータスの一部。

更に獣人を重用する事で得られた、今までに無かった新しい賛辞をあ奴はいたく気に入っている様子じゃからな。

ただでカインを手放したりはせんじゃろう。

それどころか、カインに剣聖になり得る才まであると分かれば、ますます自分1人で囲ってしまうじゃろうな。

そうなれば、カインの剣聖になる道は閉ざされたも同然。

今余計な事をして、あのボンクラにカインの足を引っ張られてはかなわん。


カインの力の事は当分黙っておくのが得策なのじゃ。



「さて、では我々は進軍訓練をしながら帰路に着きます。

魔女殿、お忙しい身で学生達にお付き合いいただき誠に感謝致します。

魔女殿のお陰で、今年度の実地訓練は今までに無い実り大きものとなりました。

彼らの今日の訓練は、今後騎士科での語り草となりましょう」


私に向かって深々と頭を下げる教官殿に、私はニヤリと笑い返した。


「なんじゃ?語り草だなどと、大袈裟な。

これから毎年の恒例行事にすれば良いではないか」


クックッと笑う私に、教官殿は驚いたように顔を上げた。


「では、これから毎年お付き合いいただけるのですかっ?」


教官殿の言葉に、私はうむと頷く。


「元々今回の事は、私から提案したのじゃから、ちょいと毎年ドラゴンを用意するくらいならわけない事じゃ。

そのうち私がどうしても来れん年もあるだろうが、その時までには弟子を育てておくでの。

その者達に必ず同行させるゆえ。

正式に騎士団に入る前に、ドラゴンくらいは倒させて送り出してやった方が良いじゃろ」


私の話に教官殿は顔を輝かせ何度も頷いた。


「ハッ!ありがたき申出、遠慮なく頂戴致しますっ!

どうか今後もよろしくお願いいたしますっ!」


また深く頭を下げる教官殿に、私はふふっと笑った。

本当に生徒想いの良い教官殿じゃ。

まぁ、生徒にドラゴンをぶつける事に顔を輝かせる教官が良い教官であるかどうかは、人によって評価の別れそうなところじゃが。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「あ、あの、魔女殿……少し話を、その……」


遠慮がちな声に振り返ると、そこにカインが困ったような顔で立っていた。


「ふむ、獣人の騎士殿、私に何ぞ用かね?」


首を傾げて問うと、カインはまごまごとしながらキョロキョロまわりを見渡し、何かを警戒している様子だった。


「は、はい、あの………畏れ多い事ですが、その、近くに行っても………?」


その随分と仰々しい態度に私は呆れながら首を傾げる。


「話があるなら近くに来ればよい」


それだけの事に、なぜカインがこうもオドオドとしているのか。

フンっと鼻で笑うと、カインが申し訳無さそうにこちらに近付いてきて、また困ったように眉を下げる。


「あの、お耳をお借りしても……?」


必要以上に遠慮がちなカインに不思議に思いながら、私は髪を耳にかけてそれをズイっとカインに向かって突き出した。

カインは目を丸くしながら腰をかがめ、私の身長に合わせると、耳元でコソッと小さな声で囁いた。


「貴女は……もしや……いえ、間違いなく、アルムヘイム公女様であらせられますよね?」


そのカインの囁きに、私は驚いて一瞬カッと目を見開いた。


………ほぅ……。

私の正体に気付いておったか。

じゃからあのように最初から私をガン見していた訳じゃな。

ふむふむ、なるほど。

いくら獣人といえども、野生の勘一つで私の正体を見破るには無理がある。

やはりカインにとって、私は………。


「あ、あの、公女、様………?」


固まったまま動かない私を心配するようなカインの声に私はハッとして顔を上げると、カインに向かってニヤリと笑った。


「はて?何の事かのぅ?私が公女とは、随分と面白い事を言う」


はぐらかすような私の笑いに、カインはカッとしながらも、声を抑えて真剣な眼差しで私を見つめた。


「誤魔化されなくても良いのです。

俺………あっ、いえ……私は、貴女の正体を誓って誰にも口外しません。

ただ貴女に、もうこんな危ない事をやめて頂きたいだけなのです。

赤髪の魔女になって、魔獣や……ましてや魔族を倒すなど……そんな荒事はもうおやめ下さい」


その真剣な瞳に私はつい嬉しくなってニヤニヤ笑ってしまい、それを見たカインが少しムッとした顔をすると、ますます嬉しくなってしまった。


「………何の事か、私にはさっぱりじゃのう……。

そうだ、公女様とやらは知らんが、お主がよく知っている昔馴染み、その者の事なら素直に答えてやろう。

さぁ、その者の名前を呼んでみよ」


ニヤニヤと笑う私に、カインは悔しそうに唇を噛んで、地面を見つめながらボソリと呟いた。


「………私と貴女では身分が違います。

あのような気安い呼び方など、畏れ多くてとても……」


そう言うカインに私はプイとそっぽを向いて、面白くない顔でチラリと睨んだ。


「では、私は何も答えんし、荒事とやらもやめる気はないのぅ」


フンっとデカい鼻息を鳴らすと、カインは驚いたように目を見開いた後、どうしたらいいか悩んでいる様子だった。

目をぐるぐる回してうんうん唸っていたが、やがて観念したように唾を飲み込み、意を決したように顔を上げた。


「………イブ……君は、イブだろう………?」


その瞬間、風がブワッと私達の間を駆け抜け、私の銀糸のような髪を巻き上げた。

薄暗く鬱蒼とした森から、開けた草原に一瞬で変わった景色にカインは驚きながら、目を見開いて目の前の私を見つめている。


「はい、カイン。私はイブですわ」


ニコリと微笑むと、カインも嬉しそうに少しはにかんだ。


「………イブ、やっぱり、君だったんだね………。

どうして赤髪の魔女なんかに?ここは一体、どこ?」


疑問が溢れて仕方ない様子のカインに、私はクスクスと笑った。


「ここは赤髪の魔女の姿の時に使っている、私の秘密基地よ。

さっ、お茶をしながらゆっくりお話ししましょ」


カインの手を取り赤髪の魔女の家に誘うと、カインは頬を染めながら嬉しそうな顔をした……でもそれも束の間。

すぐにカインはハッとしたように私の手を振り払い、数歩下がると地面に片膝を突いて私の前に傅いた。


「やはり、貴女様だったのですね、アルムヘイム公女様。

どうか、赤髪の魔女だなどと、荒事はおやめ下さい。

貴女様はこの世で最も高貴な方の後継ぎとなる、彼の方の未来の伴侶にあらせられるのですから」


頭を深く下げ、一向にこちらを見ようとしないカインに、私は残念な想いで深い溜息をついた。


「ほぅ、高貴な跡継ぎの未来の伴侶とな?

それは誰が決めたのかの?」


急に赤髪の魔女の声と口調になった私に、カインは驚いて顔を上げた。

その目に映る燃えるような赤を覗き込みながら、私はクックッと笑った。


「カイン、お前さんはあの皇太子が、傷物である私を本当に皇太子妃に迎えると、本気で思っておるのか?」


言ってニヤっと笑うと、カインはカッと顔を赤くした。


「貴女は傷物などではありませんっ!

顔の傷程度で貴女の素晴らしさは何も曇らないっ!

殿下とて、そう思って………」


「おる訳なかろう?専属護衛騎士としてあの者の側に常におるお前さんなら、本当は分かっておるのでは無いか?

聞いたことくらいあるだろう?

傷物令嬢なんかと婚約など、死んでも御免だ、くらいの事は」


ニヤニヤと笑ってやると、カインは悔しそうに顔を俯かせた。


「ですがっ、貴女ほど皇太子妃に相応しい人物は他にいないのです……。

ゆくゆくは貴女がこの国の国母となられる事が、この国のより良い未来に繋がると、私は………」


血を吐くようにそう言うカインに、私は溜息をつきながら口を開いた。


「……貴方にそのような戯言を囁いたのは、誰かしら?

まぁ、見当はついていますけどね」


エブァリーナの声と口調になった私に、カインはまた驚きながら顔を上げ、私のゼニスブルーの瞳を真っ直ぐに見つめた。


「陛下や貴方が何と言おうと、殿下は変わらないわ。

彼の方は絶対に私を皇太子妃になど迎えない」


断言すると、カインは困ったように眉を下げた。


「お時間をいただければ、殿下も理解する筈です。

次代の后妃は貴女しかいないのだと」


尚も食い下がってくるカインに、私は少々イラッとしながら、不機嫌な声を出した。


「さっきから、貴方は何を言っているか、自分で分かっているの?

ねぇ、カイン、私達約束したわよね?

将来結婚するって」


私の不機嫌な顔からカインはそっと目を逸らし、消え入りそうな声を出した。


「あの頃は幼く、現実が何も見えていませんでした。

………どうかもう、その事はお忘れ下さい……」



まるで金槌で打たれたかのように、頭がショックに見舞われる。



「………忘れる……あの約束を………?

カイン、貴方、それ本気で言っているの?」


震える私の言葉に、カインは目も合わさず、冷静で冷たい声で答えた。


「はい、もちろん、本気で申し上げております。

どうか私としたくだらない約束の事は、お忘れ下さい、アルムヘイム公女様」




もうこれで終わりだと、冷たく突き放すその横顔に、頭が真っ白になっていった………。




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