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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.24


ドゴォッ!バキバキバキバキィッ!


派手な音を立て、辺りの木々を薙ぎ払いながら怒り狂うストーンドラゴンを前に、生徒達は果敢にもそれに挑んでいく。


「一班は前に出ろっ!足を狙えっ!二班は上から目を狙うんだっ!

三班は防御壁を展開っ!前衛を死ぬ気で守れっ!」


腕前を見込まれ、学生ながら騎士団の魔獣討伐隊に既に参加経験のある、戦闘に慣れたカインの指示に、意外にも皆が何も言わず従う姿に、私はうんうんと満足げに頷いた。


流石騎士候補生達だ。

生徒達の中で、戦闘になれば誰が1番指揮官に適しているかをよく理解している。

ここに貴族の位の上下や、カインが獣人である事など、くだらない話を持ち込めば、即⭐︎死である事を肌で悟っているのだろう。

いや、悟らない訳にはいかない状況に私が蹴り落としたのだがなっ!

ナーハッハッハッハッハッハッハッ!


いやいや、愉快痛快っ!

若者の必死な姿は見ていて本当に胸が熱くなるのぅっ!

ほれほれ頑張れっ!

気を抜くとやられるぞい。


皆を見渡せるほど高く宙に飛んだまま、私は若者達の死闘をまさに高みの見物と洒落込んでいた。

ちなみに引率で来ている教官殿はこの戦いに手出し禁止となっている。

教官殿が助けに入らねばならない事態になった瞬間に、彼らは及第点、落第となる決まりだ。

とはいえ、あのストーンドラゴンを教官殿1人で何とか出来るわけでもなし。

生徒達を守りに入るのも命懸けとなるだろう。

教官殿は先程から腕を組み、不動の体勢で生徒達を見守っておるが、その厳しい顔には滝のような汗が流れている。

こちらは私のように高みの見物とはいかぬようじゃ。

生徒想いの良い教官殿じゃの。


さて、教官殿にはそのような決まりがあるが、今回この実地訓練に同行しておる私は特別枠。

生徒が死なぬように手出し出来る事になっている。


「うわぁーーーーーーっ!!」


足を止める為にストーンドラゴンの足回りを攻撃していた生徒達の何人かが、ドラゴンの尻尾で薙ぎ払われ吹き飛ばされた。

高く放り上げられ地面に叩きつけられる寸前に、素早くカインが彼らを風で巻き上げゆっくりと地面に着地させた。


「……くっ、すまない、カイン………」


ドラゴンの尻尾による攻撃を受けた彼らは、口の端から血を流し、苦しそうに腕や腹を押さえている。


「気にするな。二班っ!二手に分かれて空中から尻尾も狙うんだっ!

必ず尻尾を切り落とせっ!

雷魔法を使える奴は剣に魔力を込めろっ!出し惜しみするなっ!

この戦い、長引けばこちらが不利だっ!」


カインの指示に即座に二班が二手に分かれ、変わらず目を狙い続ける者と、尻尾を切り落とす者が魔法を駆使して空中からストーンドラゴンに攻撃を繰り返す。


「ふむ、あまり戦力を分けるのもちと心配じゃな。

さて、あの邪魔な尻尾をどうするのかの?

おっと、忘れておった、ほい、オールヒール、リザレクト」


先程ストーンドラゴンの尻尾に投げ飛ばされた生徒達に治癒魔法をかけるついでに、生徒達皆に回復魔法のサービスじゃ。


「うぉぉぉぉぉぉっ!疲労が嘘みたいに消えたっ!

まだまだやれるぞっ!オラァァァァァァッ!」


疲労で息も絶え絶えだった生徒達が見る間に体勢を持ち直し、血気盛んな叫び声を上げる。


ホッホッホッホッ。

若い若い。

無謀な戦いにも怯まずまだ立ち向かうか。

まぁ、ヤケとも言うのかの?


息も絶え絶えで戦線離脱していた生徒達も息を吹き返し、次々に前線に戻っていくのを見て、カインは一瞬ホッとしたような顔をしてから、手に持つ剣を頭上高く掲げた。


「雷撃っ!」


スゥッと息を吸い込むカインに気づいた周りの生徒達が、必死でストーンドラゴンの攻撃からカインを守る。


カインの剣がバチバチと放電して、雷の力が剣先に宿る。

十分に力が満ちると共に、カインは空中から一気にストーンドラゴン目掛けてその剣を振り下ろした。


「雷神滅斬っ!」


ストーンドラゴンの太く固い尻尾がカインの一撃で大きな音を立て、真っ二つに体から引き離された。


『グガァォオオォオ!!』


ストーンドラゴンが痛みにのたうち回り、逃げ遅れた生徒達が次々にその体に吹き飛ばされていった。


「ほいほい、オールヒール、リザレクト。

お〜〜い、そこの獣人の騎士よ、周りをよく見てから一撃を放たんか。

皆が皆、お前さんの呼吸に合わせられる訳ではないぞい」


親切な私のアドバイスに、カインは形容し難い難しい表情で私を見ると、すぐに頭を下げてきた。


「かたじけない、ま、魔女、魔女、様………殿」


いやなんじゃっ!その返事はっ!

それくらいサラッと言わんかいっ!

あとなんじゃっ!さっきの顔はっ!

眉毛と口はM字で泣きそうな目で、しかし何か言いたそうでって………とにかく説明しずらいっ!

そんな顔初めて見たわいっ!


どうも調子が狂うカインの相手は最小限に、私はスタッと地面に降りると、教官殿の隣に仁王立ちして生徒達の見守り役を続けた。

その私に、教官殿が目は戦いから離さず、ボソッと呟く。


「どうでしょうか、うちの生徒は?

今年度はなかなかの逸材が揃っているかと思いますが」


何かと思えばおもむろに始まった教官殿の生徒自慢話に私はハハっと笑った。


「確かにのぅ。討伐対象がドラゴンと分かった時点で何人かは逃げ出すかと思っておったが、誰一人欠ける事なく良くやっておる。

学生にしては統制もとれておるの」


私の感想に教官殿は口元だけ嬉しそうに綻ばせた。


「12の歳から共に研鑽を積んできた仲間ですからな。

とはいえ、ここまで統制がとれている学年は今までにありませんでしたよ。

まさかドラゴン相手にあそこまで出来るとは……。

それもこれも、皆に的確な指示を出せるカイン・クラインが居てこそです。

最初こそ獣人だからという理由で皆から軽んじられていたカインですが、徐々にその頭角を表し、正規騎士団の魔獣討伐にも参加し、国境防衛戦でも功績を上げ、史上最年少で騎士の称号を賜った程の天才ですから。

彼らの年はカインが居た事が最大の幸運でしょうな」


嬉しそうに目を細めそう言った教官殿は、しかしすぐにその顔を曇らせた。


「………まぁ、その才ゆえカインの存在は高貴な方の耳まで届いてしまいましたから、あれだけの才能があってももう、前線に立つ事は無いでしょうが…………」


口惜しそうな教官殿に、私はニヤリと笑った。


「あのボンクラに目を付けられたのはそういった訳じゃったか」


ボソリと呟いた私の言葉に教官殿がギクリと体を揺らした。

高貴な方だなどと言っているが、要はあのボンクラ殿下の事を言っておるのじゃよ。

全くあの無能な皇太子め、自分の力量も知らずカインを護衛騎士に任命しおったな。

皇都でのほほんと暮らす貴様に、カインの力は過ぎたるが如しとなぜ気付かん、無能め。


確かに幼い頃私は、カインに宮廷の護衛騎士になるように言ったけれど、今となればそんなものカインには役不足というものよ。

あの頃は男爵子息だとはいえ、獣人への偏見も強く、カインが宮廷を守れる騎士になるにはどれほど努力しても難しいと思えた。

だが私の努力もあって獣人達への偏見のなくなった今、そして男爵から子爵子息になった今なら、宮廷騎士になるのも現実的に可能となったのだが………。

まさかカインがここまで強くなり、己の実力で功績まで上げるとは………。


間違いなく今のカインは正規騎士団の中でもトップの実力を持っているだろう。

まだ学生の身ゆえ、本入団は卒業後になるが、騎士団としてはカインの入団を手ぐすね引いて待っていた事だろう。


………阿保の横槍さえ無ければ。


騎士団とカインの不幸は、カインの優秀さが皇太子にまで伝わってしまった事じゃな。

あのアホ皇太子、自分の事は棚に上げて自分の周りは一流の物や者で埋めたがるからの。

正規騎士団からトップの腕前の者を自分の警護のためだけに引き抜けば周りから反発が起こるが、まだ学生であるカインならむしろご学友に選ばれ誉れと思われるだけじゃ。

しかも獣人であるカインを護衛騎士に選んだ事で、自分の懐の広さもアピール出来るというもの。

更に見目の良いカインなら、いくら獣人でも自分の側に置いていて不快では無い、程度にしか思っておらんのだろうな、あのボンクラ坊ちゃん。


放っとけば騎士団の幹部候補生として国の為になっただろうカインを、たかだか自分1人を守らせる為に横から手出しするなど………。

本当に愚かな事よ。

凡夫である父(皇帝)でさえそのような愚かな選択はせんかったじゃろうな。

いや、凡庸な人間であるからこそ、そのような才のある人間を独り占めにしてはならんと気付けるものよ。


じゃがあの皇太子はそうではない。

父のように自分の凡庸さを知らないのだ。

己の力量を見誤れば、そこが戦場であれば待っているのは死のみよ。

それさえも知らず、自分に与えられた役割も理解せず、富と贅沢と権力のみを享受するとは。


父である皇帝は凡夫ではあるが愚王では無い。

己の力量を理解しているがゆえ、元々は皇帝の地位さえ求めてはいなかった。

嫡男であったというのに、だ。

しかし、皇家の第一子である自分がそんな体たらくだったがゆえに、下の兄弟達が欲を出し、皇帝の座を手に入れんと争い出した。

その争いが苛烈を極め、とうとう自分以外の兄弟が全て殺し合ってしまったのだ………。

元々から自分に決まっていたものを安易に人に狙わせる愚かさと無責任さを、その時になってやっと皇帝は学んだのじゃろうな。

自分では役者不足と知りながら、黙って皇帝の座に就いたのだから。


そのような人間だからこそ、皇帝としての力は不足しているが愚王、とまでは私は言わない。

が、あの皇太子。

アレは、ダメじゃ。

あれこそ愚王たる逸材よ。

愚王コンテストなんかがあった日にはぶっちぎりの一位じゃ。

確かに、根は悪人では無い。

ただ、ものを知らないだけで、愚かで無知なだけ。

しかし、国を統べる者はそれさえも罪なのじゃ。

愚かで無知である事がどれほど国を傾かせるか。


カインの事が良い例じゃ。

あのように才能のある者を国を護る騎士団の最前線に出さず、自分のプライドと虚栄心の為に囲ってしまうとは………。

本当に、愚かな事よ………。


ふーやれやれと呆れて首を振る私の耳に、ガキィィィンッ!と金属が弾かれる音が聞こえてきた。


「ダメだっ!カインの剣技でも弾かれちまうっ!」


生徒の焦った声に顔を上げると、丁度カインがストーンドラゴンの太い首に剣を突き刺そうとして弾かれたところだった。


「クソッ!尻尾は一撃だったのにっ!」


常にカインを上手くサポートしている生徒の言葉に、私はニヤリと笑った。


そりゃそうじゃろう。

ストーンドラゴンにとって尻尾はもっとも柔らかい部分。

何故なら切れてもまた生えてくるからじゃ。

対して首は最も固い部分じゃ。

切れてはもう生えてこんからの。

生物学上そこはどこよりも固く出来ておる。


先程ドラゴンの尻尾を切り落とした剣技はなかなかのものじゃった。

魔力を剣に最大限込め、それを放つだけの強靭な肉体………。

ふむ、少し見ぬ間に立派な体格になったもんじゃな。

無駄の無い良い筋肉がついておる。

実に私好み………いや、今はそんな事は良いのじゃ。

とにかく、カインの剣技は間違いなく帝国騎士団でも通用する素晴らしい技じゃった。


…………が、まだ足らん。

アレではまだ、ストーンドラゴンを倒すには今一歩足らぬ。


カインめ…………。

どうやら嫌な癖がついておるな。

無意識に力をセーブしておる。

あのボンクラ阿保皇太子に付き合っているうちに、力を隠し手加減する事ばかりに気を取られておったか。

まったく、あのボンクラはもちろんの事、カインもカインじゃ。

どうせ高貴な者に侍るなら常に優美に上品に、無骨な騎士科の男臭さを表に出してはならない、などとネチネチネチネチ言われたのであろう。

カインが常に本気の全力モードで覇気を放てば、あのボンクラなど腰抜かしてチビって終いじゃからな。


皇太子に付き合って皇都でチャラチャラした遊びの護衛程度なら、力を押し殺した状態でも十分過ぎるくらいに務まるじゃろうが、今は命を賭けた戦闘の最中。

例え無意識でも力をセーブするなど言語道断じゃ。


これはちぃと喝を入れてやらねばならんなっ!


私はバッと両手を上げると、生徒達全てを覆うほどの広範囲支援魔法を唱えた。


「クルセイド、オーバーオールッ!」


生徒達に銀の光が降り注ぎ、全ての者の戦闘能力、更にあらゆる能力が上昇していく。

個々の能力を最大限まで引き出す補助支援魔法の禁じ手。

なぜ禁じ手かというと、クルセイドまでなら上級魔法程度だが、オーバーオールは術者の生命までゴッソリ削るほどの魔力を消費するからじゃ。

まぁ、私の魔力がこの程度でゴッソリ消費されるなら苦労はせんが。

問題はそれだけでは無く、支援を受けた側も、つまりはストッパーが外れた状態になる訳で、常日頃の自分の能力を超えた力を使えるのだから、まぁ………筋肉痛では済まんだろうな。

とはいえ、それは個々の力の限界を突破はせんから、今時点の自分の力を知るには良い機会になる。

己の力の限界を知り、その引き出し方のコツを掴むチャンスでもある。


後々、骨が砕けるくらいの痛みに襲われようと、安いもんじゃっ!

さっ、皆頑張れっ!



「ウオォォォォォォオッ!!!」


生徒達の体から力が溢れ出し、それはオーラとなって可視化出来る程だった。


「皆っ!今だっ!一気に力を叩き込めっ!」


カインの片腕のような生徒がそう叫ぶと、生徒達は一気にストーンドラゴンに魔力を込めた剣で斬りかかる。


「グォォォォォォォォォッ!」


前足と翼を同時に切り落とされたストーンドラゴンが苦しげな叫び声を上げ、ズドンッと前のめりに倒れながら、その大きな口をガバッと開けた。


「ヤバイっ!ブレスだっ!皆っ、下がれっ!後退だっ!」


同じ生徒が叫んで、生徒達が慌てて後ろに下がる中、ただ1人、カインだけが静かに宙に浮かんだまま、ストーンドラゴンを見下ろしていた。


「………雷撃……」


静かに呟き、カインは剣を空高く掲げる。

その剣にカインの膨大な魔力が走り、空高くまで白い光が放たれた。


「…………あれは……あの力は………」


私の隣で教官殿が、目を見開きゴクリと唾を飲み込み呟いた。


カインは空中でグッと力を込めると、空を蹴りドラゴンに一直線に斬りかかる。


「雷神滅斬っ!」


長く伸びた魔力の剣がストーンドラゴンの首に振り下ろされ、今まさにブレスを吐こうとしていたその頭を一刀両断に斬り落とした。



「……………あれは、剣聖の………」


教官殿の驚愕のこもった呟きに、私はニヤリと笑った。


まっ、その、片鱗といったところじゃの。

じゃが、まだまだじゃ、カイン。

剣聖までの道は開けたばかりじゃからな。




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