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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.15


クックックッと不気味に笑う私に、教皇は真っ青な顔でガタガタと震え、縋り付くように皇帝にしがみついている。

それもその筈、こ奴は私の魔族狩りを目の前で見ていた1人なのじゃから。

教皇の手前強気で剣を構えていた教会騎士達だが、その実手が面白いくらい震えておったから、奴らもあの場に居たのじゃろう。


「さて、教皇、そちらからこちらを呼び付けておいて、見下ろしながらよく来たなとは、随分なご挨拶じゃったな。

私も貴様にならって不躾な挨拶をして構わんか?」


ニヤリと笑う私に、もう教皇は口をパクパクと魚のように開け閉めするだけで、声も出ない様子だった。


「先程の無礼は私が改めて謝罪させて頂く。

赤髪の魔女殿、我々の申し出に応じてもらい、感謝する」


その教皇を庇うように皇帝が再度頭を下げると、その皇帝に倣うように宮廷人も私に向かって頭を下げた。


教皇の不甲斐ない様子にどうすればいいのか分からない様子の教会人は、オドオドとそれを見ているだけだったが。


「ふん、まぁ良い。貴様に免じて許してやろう。

しかし、最近の教皇は高位神官を装い、命の恩人に対して悪魔だ鬼だ化け物だと、仇で返してくるのだな。

随分と教会も道理を失ったものよ、なぁ?」


冷たい目でそう言って脅すように睨むと、教皇はついに泡を吹いてバターンッと後ろに倒れてしまった。

大聖堂内は騒然として、教皇は担架で運ばれそのまま退場となった。

それにほとんどの教会人が連れ添って出て行ってしまい、教会の大聖堂内だと言うのに、残ったのは皇帝とその付人達だけ。


いや、何人か残っている教会人もいるようだが、皆渋い顔で頭を抱えている。

自分達のトップである教皇の醜態を、どう挽回すれば良いのか頭を悩ませているのだろうが、無理じゃな、あんなもの。

即効頭をすげ替えた方が早いじゃろう。


その中から1人の教会人が進み出て、私の前で深く頭を下げると、申し訳なさそうに口を開いた。


「私共の猊下が本当に失礼を致しました。

どうか代わりに私からの謝罪を受けて下さい。

私はこの教会に属する枢機卿で、名をカハル・ロペス・アンヘルと申します」


高い背に中性的な見た目、歳の頃はまだ40代くらいの神秘的な雰囲気を纏ったその男に、私は片眉を上げて口の端を微笑ませた。


「ほう、アンヘルとな?王国の大司教も確かアンヘルであったか?縁者か?」


楽しげな私の問いに、アンヘル枢機卿は頭を下げたままで答えた。


「はい、その通りです。王国の大司教様は私の伯父にあたる方です」


ふむ、なるほどなぁ。

優秀なアンヘル家の者であれば、こ奴は信頼出来るであろう。

若くして中央教会の枢機卿になるほど優秀なら、私と企み事をするのに丁度いい。


「良いだろう、カハル、教皇の愚行、そなたに免じて今回は許そう。

魔族討伐の際と先程の分、どちらもだ」


ニッコリ私が笑うと、カハルは顔を上げて助かったと言わんばかりに表情を輝かせ、何度も何度も頭を下げ続けた。


「魔女様、その深い慈悲に心より感謝申し上げます。

ありがとうございます、ありがとうございます」


カハルの後ろにいた教会人も同じように頭を下げ、それで私はあの教皇の愚行を許してやる気になった。

何より、アンヘル家の者を手中に出来たのは大きい。

年齢的に教皇選挙には参加出来んが、何も投票する側でいる事はないのだからな。


「で、そっちは何をしに来たのじゃったか?」


フンと鼻を鳴らしながら皇帝を見ると、皇帝は人の良さそうな笑顔を浮かべ、両手を広げた。


「我が帝国は、赤髪の魔女殿との友好条約を結びたく」


「却下じゃな」


興味なさげに顔を背けると、皇帝とその付人達が明らかに顔色を変えた。


「そ、そのように、早計に判断なさらずとも、そうだ、そこにいるアルムヘイム公爵家令嬢、エブァリーナ嬢は我が息子と婚約を」


「それも却下じゃ」


心臓まで凍りつかせるほどの冷たい目で睨むと、皇帝は息を呑んで口を閉じた。


「良いか?私は私の気に入った者としか友好など結ばん。

国や立場など、私には関係ないものと思った方が良いぞ?

それに私はエブァリーナを気に入ってはおるが、そのエブァリーナと貴様の息子がどうこうなろうと、貴様らに力を貸す気は無い。

くだらない話をまだ続けるつもりなら、この国を一度更地に戻して新たな国でも建国してやろうか?」


ギリッと睨みつけると、皇帝とその他はもう顔色も悪く、目を泳がせるばかりだった。

その時、エブァリーナ役であるイブちゃん2号がナイスタイミングで私の腕に手を添えて、困ったように微笑んだ。


「魔女様、陛下はそのようなおつもりで言ったのではありませんよ。

私と皇太子殿下の婚約は決まったものではありませんもの。

それを引き合いに魔女様と懇意になるつもりなど、陛下にはございません」


イブ2号ちゃんの言葉に皇帝がピクリと肩を震わせたのを見逃さなかった私は、鋭い視線で皇帝を突き刺しながら、ニヤリと笑った。


「そうか、それは勘違いをしてすまなんだ。

私はてっきり、私の力を利用したいが為に、貴様の息子とエブァリーナを婚約させようとしているのかと思ったのだが、そうでは無いのだな?

では家柄か?エブァリーナが皇太子に相応しい家柄である事が理由か?

だとしたら、逆に貴様の家と息子はどうじゃ?

この帝国で唯一私と懇意に出来るエブァリーナに見合っているのかの?

言っておくが、私を好きに利用出来るエブァリーナは最強じゃぞ?

そのエブァリーナの将来の夫として、不足ないか測られるのは貴様の息子の方じゃ。

その事ゆめゆめ忘れてくれるなよ?」


私の低い声色に皇帝はビクリと体を震わせ、諦めたように首を縦に振った。


「………承知致した……」


絞り出すようなその声に、私はニヤリと笑い、イブ2号ちゃんの手を握り、転移魔法の魔法陣を床に出現させた。


「……幾重にも結界の張ってあるこの教会の、特に強固なこの大聖堂に、易々と魔法陣を……」


カハルの息を呑んだ声に私はカッカッカッと笑って、周りを見渡し、その場にいる皆の顔を一人一人改めて確認してから、転移魔法を発動させる。


「ではな、皆のもの励むが良い。

カハルよ、教皇に次は無いぞと言っておけ」


私の言葉にカハルが慌てて深く頭を下げたのを確認してから、私はイブちゃん2号を連れて、私の城(小屋)へと転移した。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆



さて、あれだけ釘を刺しておけば、陛下とて私と皇太子殿下との婚約を強引に結ぶ事もないでしょう。

何せそんな事をすれば、赤髪の魔女を怒らせてしまうかもしれませんからね?

うふふ、まぁ怖い。


先ほどの件で赤髪の魔女には自分達の持つ権力や権威など何も通用しないと思い知ったでしょう。

なにせ魔族を一撃で倒し、更に塵に還すほどの力を有するのですから、機嫌を損ねればどんな事になるか分かりませんからね。


もちろん、このまま皇家や教会が大人しくしていれば、私とてそのような無慈悲な事は致しませんよ…………それは最終手段ですから。


さて、私と皇太子殿下との婚約話はこれで頓挫した事ですし、皇家として出来る事など我が家に皇太子殿下の婚約者候補として名を連ねて欲しいとお願いしてくる事くらいかしら?

まぁそれで当面皇家が大人しくなるのなら、それくらいは許容して差し上げても良いですけど。

あまりに拒否ばかりしていては、あちらも意固地になってまた強固になる可能性もありますからね。


それにしても、教会の無様だった事。

トップである教皇があれでは、然もありなんといったところですけど。

お金と裏工作で不正に教皇選挙で選ばれたのが丸わかりでしたわね。

あのような者が教会を動かしていては、さぞ神様もお嘆きでしょう。


多くの魔族が先人達の尊い犠牲の元、封印されてからもう長い月日が経ち、新しい魔族も長く生まれず、他の魔族は鳴りを潜めている中、魔族の脅威に怯える民の為、その身を犠牲にしてでも人々を守ろうという教会本来の尊い理念も失われて久しいのでしょうか。

本来なら人々を守る為にある特別な力、光魔法を金儲けの道具にするだなんてね。


治癒や回復の力をお布施と称して暴利な金銭と引き換えにし、金を払えない貧しい者を見捨て、平等を謳いながら偏見と差別から平気で獣人の治療も断る。

あの教皇ならなるほど納得といったところですわね。

まぁ、そのせいで今教会の威信は地に落ちているのですけど。


だって、私がいますから。


元貧民窟だったエブァ街で、私自ら無料無償で光魔法の治癒を施し、診療所もいくつも建てて希望する医者に無償で与え、更に治癒師も常駐させていますから。

医者も治癒師も正規の料金で診てもらえますし、貧しい方には我が家からの保証が与えられ、私が診ていた頃と同じように無料で診療や治癒が受けられます。

更に前世の保険制度を導入して、負担額を軽減していますから、一般的な家庭でも無理なく利用できますし。

ちなみに成人前(15歳)なら全て無料です。


戸籍を整え、光魔法により祝福も与えられ、様々な負担軽減制度のあるエブァ街は、今や帝都の住みたい街No. 1。

他の街からの移住希望者が後を絶たない状態ですのよ。


あっ、光魔法の祝福ですが、こちらは本来産まれた赤ん坊には当然の権利として与えられるものなのですが、今の教会はそれさえも金銭に変換しているのです。

ですから、貧民窟であったエブァ街には、産まれた時の祝福を与えられなかった人も多く、それも全て与え直しています。

もちろん、希望する人には街の人間である無いに関わらず、祝福を与えていますから、今やわざわざ教会にお金を払ってまで祝福を授かりに行く平民などいないかもしれませんね。

まぁ貴族は別ですが。

彼らは浅ましくも平民に混ざり、無償で祝福を受けるなど、という考えですから。

ですがそもそも、出生時の祝福に金銭が必要だという事自体、あり得ない話なのですけどね。


腐敗し切った教会の所為で誤った認識が定着しつつある事に、神様もさぞお困りでしょう。

神様とは多少のご縁がありますから、それくらい私がお力になろうと思った次第だったのですが、こうも教会が平民からの信頼を失い、猜疑の目で見られるようになるとは………。

私も思ってもみませんでした。

それだけ今までよっぽど無慈悲な行いをしてきたのでしょうけど。

まぁ自業自得なのですが、教会自体がこのままではいけません。

民からの信頼を何としても取り戻さなくては。

それには教会本来の姿を取り戻し、正常で清浄な場所にしなくていけないのです。


それにはあの枢機卿が大いに役立つでしょう。

カハル・ロペス・アンヘル。

代々高名な神官を輩出してきた一流の教会人家系。

本家のアンヘル家は、帝国の隣にある王国、アインデル王国にあり、今の当主は王国の教会本部の最高責任者、大司教の地位にあります。


そんな彼なら次の教皇にうってつけでしょう。

私の見立てでは、帝国の中央教会の内情を嘆いた王国のアンヘル大司教が、密かに潜り込ませていたのがカハルだと思うんですよね。


アンヘル家は信心深く、例え他国にある教会でも、神を同じくしている以上まるで自分の事のように考えるような人間ばかりですから。

今頃帝国の教会によって虐げられてきた民を思って心を痛め、日々神様に祈りを捧げている事でしょう。

アンヘル家からのカハルという慈悲の贈り物を、必ず私が帝国の民の為、大事に活用させて頂きますわ。

本人は帝国の教会を建て直したのちは、また密かに王国に戻るつもりだったんでしょうけど、そうはいきません、逃しませんわよ、カハル。


うふふと黒く笑う私に、今頃カハルは謎の寒気を感じて震えているかもしれませんね。

あら、もしかしたら王国のアンヘル大司教も、かもしれませんね、うふふ、ごめん遊ばせ。


さっ、教会の件はよく分かりましたから、直ぐにでも動きましょう。

問題は皇帝陛下の方です。

現皇帝、16代皇帝、ルディウス・ヴィー・フロメシア。

彼は良くも悪くも凡庸な善人です。

つまり、皇帝の器にある人間では無い、という事ですね。

一人間、一家庭人としては、心優しい穏やかで愛情深い、尊敬すべき人物ですが、この帝国を統べるにはそれでは力不足なのです。

長く平和の続く帝国に似合った、いまを象徴するようなその人柄は民に広く愛されてはいますが、それも薄氷の上の平和が続く今だからこそ、の限定的なもの。

氷が破れてしまえば、今の皇帝ではもう何も出来ないでしょうね。


良い人間が良い経営者になるわけでは無いのと一緒で、安寧な日々から急転した時こそ、その手腕を発揮する人間こそが人を背負って立てるのです。


現皇帝にその力は無いでしょう。

かといって、今の平和がいつまでも続くものと思うほど暢気でも無いのでしょうね。

私(赤髪の魔女)という圧倒的な武力の発現を前にして、その力を取り込もうとするくらいには、いつか来るであろう危機に備えるつもりはあるのでしょう。


………ですが、その方法が私と皇太子殿下の婚約だなんて………。

本当に愚かしい事。

赤髪の魔女のように正体不明な人物に対して、皇家の威光などが通用すると思っていた事が、彼が皇帝の器に無いという証です。


赤髪の魔女を武力で制圧して手中に収めるなり、魔女が喜んで傘下に降るような条件を提示して籠絡するなり、魔女が絶対に逆らえないような条件下で完全に制御するなり………。

何にしても時間をかけ、情報を集め、策を練り、無常で冷酷な手も使い、手中に収めるというならいざ知らず。

とんでもない力を持つ魔女が現れた、どうやらアルムヘイム公爵家の令嬢と懇意にしているらしい、あっ、そうだ、それならば我が息子と令嬢を婚姻させ、皇家とも結びつかせれば良い………だなどと。

愚かな………とまでは言いませんけど、人が良すぎますわね。


それに赤髪の魔女がメリットを感じるか、そしてそれが赤髪の魔女にどれ程の効力があるのか。

全てが曖昧過ぎますし、実際そんなものは打ち砕かれた訳ですからね。

結局、皇家の恥を晒したも同然です。

今頃うちのお父様はご機嫌でワインを開けている事でしょう。


ただ………皇帝陛下には困った所が他にもありまして………。

それは彼が長男である皇太子殿下を溺愛している事と、非常にしつこい……失礼、粘り強い性格をしている事です。

相手がうんざりして首を縦に振るまで粘る、大変諦めが悪い………失礼、忍耐力のある御仁なのです。


ですから今回の皇太子殿下との婚約ですが、候補ならばお受けするつもりです。

こちらも妥協点を提示する事で、陛下の鬱陶しい………失礼、粘り腰な要請を緩和させなければ、そのあまりのネチッこさについうっかり赤髪の魔女が帝城を吹き飛ばすやもしれませんから、しないという自信がありません、私正直。


そんな訳で………妥協しての婚約者候補なのです………うふふ、もう本当に、エブァリーナの方はストレスが絶えませんわね…………。





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