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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.14


赤髪の魔女による、高位神官並びに騎士、民間兵無差別台風巻き上げ事件。


300年前に封印した魔族、魔王ザハードの封印が緩んできている事を察知した教会が、教会騎士と国に依頼した騎士、更に民間兵を雇い、万全の体制で再封印に乗り出した。

のだけど、彼らが到着した時には時遅く、魔王ザハードは既に復活していて、彼らはその脅威的な力の前に何も出来ず、殲滅寸前。

そこに突然現れたのが、赤髪の魔女。

たった一撃でザハードを討ち破り更には滅してしまったその力に、恐れをなした人々は彼女を怒らせる発言をしてしまい、竜巻によって帝都に送り返されてしまった。

もちろん、皆無傷の状態で。


ザハードとの戦いで殆どの者が満身創痍、虫の息であったのを赤髪の魔女の治癒と回復のお陰で、奇跡的に死傷者の無かった今回の事件を、教会も国も重く受け止め、国を救い彼らを救った赤髪の魔女に対して、こちらの対応はあまりにも不適切なものだった、どうか釈明の場を与えて欲しい、と我が家に連絡が入ってきたのはつい先日の事。


ねぇ?本当に、悪魔だ鬼だ化け物だと最初に叫んだあの高位神官、どうしてやりましょうか………うふふ。

もちろん我が家は赤髪の魔女に教会と国からの要望は伝えてはありますが、どうするかはあの気まぐれな魔女次第ですから、どうなる事やら、ふふふ。


そんな事を考えながらニヤニヤ1人笑っている時、珍しくお父様付きの執事が私の部屋に訪れた。


「エブァリーナお嬢様、閣下がお呼びになっております」


私に対しては常に好々爺然とした執事の固い表情に、私は何事かあったのだといち早く察し、大体の予想はついている事柄に重い腰を上げ、大人しくお父様の執務室を訪れた。



「……よく来たな、エブァリーナ………」


イブ、ではなくエブァリーナと呼ぶお父様に、私はやっぱりね、と内心溜息をつきながらカーテシーで礼を取る。


「お呼びにより参りました、お父様」


要件は分かっているから早くしてくれないかしら?

少しだけイライラしながら顔を上げると、お父様は見ていて可哀想なほどに顔を真っ青にして目を泳がせている。


「……うむ、よく来たな、エブァリーナ……」


それは先程聞きました。

まったく、早く仰って下さい、私だって暇では無いのですから。

無言の圧をお父様に向かって放つと、お父様はビクリと体を揺らして、ゴホンと咳払いをした。


「……皇家からお前に縁談の話が……」


「お断り致します」


お父様の言葉に被せるようにハッキリと答えると、お父様は一瞬ホッとした顔をした後、すぐまた難しい表情に戻った。


「……うむ、今まではお前の耳には入れず断ってきたのだが………今回は向こうも本気でな……。

今までとは違い、我が家の爵位だけで話を持ってきているのでは無い……。

この帝国で唯一あの赤髪の魔女と交流のあるお前を、皇家に何としても取り入れるつもりだ」


………やはり、そうきましたか。

こうなるだろう事は、事前に全て分かっていました。

分かっていて、私と赤髪の魔女の繋がりを公にしたのです。


その理由の一つは、我が家の財力。

これを赤髪の魔女にも自由に使えるようにする為。

更にもう一つは、放っておけば起きたであろう、赤髪の魔女争奪戦を回避する為。

今後私は赤髪の魔女として派手に立ち振舞うつもりです、それこそ国を巻き込んで。

人の人生は長いようであっという間ですから、面倒ごとを避けて裏でコソコソと動いていては、私の一生ではとてもでは無いけど足りません。

派手に暴れる為にも、赤髪の魔女にはアルムヘイム家の後ろ盾が必須なのです。

我が家が抱え込んでいる魔女に、他に誰が手出し出来ましょう?

例え皇家であれど、おいそれと手など出せないでしょうね。


それでなくとも今回の件で、赤髪の魔女は一撃で魔族を葬る事の出来る強大な力を持つ事が皆に知れたのです。

そのような危険人物を無理やり取り込もうとすれば、どう機嫌を損ねてしまうか分かりません。

そうなれば皇都にどれだけの被害が起こるか……。

まともな者ならそんなリスクは犯さず、我が家、つまり彼女と懇意にしている私を通した方が安全だと考えるでしょう。

むしろ、その考えに至らせる為に、私と赤髪の魔女の繋がりを公にしてあるのです。


…….ですが、そうするといずれ起こるであろう私の争奪戦。

こちらも勿論、考慮の内でした。

貴族内最上位の我が家に婚姻の申し込みが出来る家などおいそれとはありませんから、まず間違いなく皇家が1番に言い出すであろう事も織り込み済みです。


運が悪い事に、皇家には私より2歳上なだけの皇太子がいますから、まず間違い無く、皇太子の皇太子妃になれという話でしょうね。


お断りですけれどね。


私には既に、カインという心に決めた殿方が居ますし、この人生を賭して必ずやり切らなければならない使命もあります。

王太子妃だか王妃だかに割く時間など1秒だってございませのよ?



「……イブ、確認なのだが、赤髪の魔女殿とは、旧貧民窟、エブァ街で出会い、獣人への扱いや差別について何とかしたいと意気投合したのだったな?

それ以来の付き合いで、我が家の資産で赤髪の魔女殿の研究を後押ししていた、これに間違いは無いな?」


お父様の言葉に私は深く頷いて答えた。


「はい、間違いございません」


私の返答にお父様は小さな溜息をつき、再び口を開いた。


「魔女殿は変わり者で偏屈な人嫌い。

唯一認めたお前にしか連絡を入れてこない。

お前を通さず魔女殿に連絡する手段は存在しない、これも間違いないか?」


その問いにも私は深く頷いて、答える。


「はい、それで間違いございません」


私の答えにお父様は椅子の背もたれに背を預け、天井を見上げながら独り言のように呟いた。


「……何故よりによって私のイブに………。

いや、いくら人嫌いの魔女とはいえ、天使のようなイブに惹かれずにはいられなかったのだろう……。

選ばれるして選ばれてしまったのか……。

私のイブが天使であるばかりに………」


そうですわねぇ………。

その天使なら、偶に真っ赤な髪で魔獣相手に大暴れして、新鮮なコアを手に入れる為にまだ生きている魔獣からコアを取り出し返り血塗れになったりしていますけど、お父様の天使についての認識はそれでお間違い無いのでしょうか。

だとしたら、随分血染めの天使様を崇拝なさっているようで、お父様ったら変わってらっしゃるのね。


笑いたいのを必死に堪えながら、悩ましげなお父様を見守っていると、お父様は椅子から背を離し居住いを正して真っ直ぐに私を見つめた。


「エブァリーナ、赤髪の魔女殿は、誰にも実現出来なかった獣人を抑える新薬を開発し、安全な人と獣人との共存を実現したばかりでは無く、魔獣や魔物の殲滅でその強さも認められていた。

既に帝都中の貴族が、皇家までも注目し、なんとかして繋がりを持ちたいと願っていたような人物だ。

そこにきて今回の魔族殲滅の件………。

そんな人物と唯一繋がりを許されたお前に、皇家もいよいよ本気になったようだ。

いつものように軽く断れば、躊躇無く勅命を下してくるだろう。

お前は既に、皇家以外の婚姻は皇帝陛下から認められないと思った方がいい。

それでも、お前は………」


「お断り致しますわ」


真っ直ぐに瞳を見つめ返してキッパリと言い切ると、お父様は一瞬息を呑んだ後、何かを決意するかのように力強く頷いた。


「………分かった。この件は私がなんとかしよう。

お前はもう何も心配しなくてよい」


固いお父様の口調に、私はフッと笑ってすぐに答えた。


「お父様、それはお待ちになって下さい。

まだ時期尚早ですわ。

それより、今回の件は私にお任せ下さい。

私に考えがありますの」


うふふと小首を傾げると、お父様は目を見開き驚いたように乾いた声を上げた。


「エブァリーナ……お前、私が何をしようとしているのか、分かっていると言うのか……?」


信じられないといった様子のお父様に、私は意味ありげにニッコリ笑い返しただけで、何も答えず、あっと小さな声を上げて話を変えた。


「そういえば、魔女様からお返事がきましたよ。

教会からの謝罪を受けるそうです。

私に同行するように、との事ですわ」


ニッコリ笑ってそう言うと、お父様はややしてホッと息をつき、やっと肩の力を抜いた。


「そうか、魔女殿が受けてくれて良かった。

お前の同行を許可しよう。

それと、皇家との縁組の件はお前に任せる」


私を信頼してくれているお父様のその瞳に、私は朗らかに微笑み返し、カーテシーで返した。


「………お前が、男であったらな………」


小さなお父様の呟きに、私は頭を下げながら片眉をピクリと動かした。


………それについてですが、何も国を巻き込んで大暴れするのは赤髪の魔女だけに限りませんのよ?

私には私の、暴れるべき舞台がございますから。

その際にはひょっとして、お父様のご期待に添えるかも知れませんわよ。

私が男児で無くとも、ね。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆



「今日も美しいな、エブァリーナ」


教会の長い廊下を並んで歩きながら、私は隣を歩くエブァリーナにそう声をかけた。


「恐れ入ります、魔女様」


ニッコリと微笑む穏やかなイブちゃん2号に、私はニコニコとご機嫌に笑い返した。


教会からの謝罪を受けてやるとエブァリーナ伝に教会に伝えると、すぐに教会からその場を用意した旨が返って来た。

いつでもご都合の良い時にお越し下さいと言うもんだから、それから3日後の今日、私はこうしてエブァリーナ役のイブちゃん2号と共に教会を訪れた訳じゃ。


さてさて、案内役の神官がさっきから小刻みに震えているのは、私のような天才と同じ空間にいる事に感動して打ち震えているのか、それとも魔族を滅した私の力に畏怖を感じているのか。


どちらにしても、随分情けない事よ。

神官であれば、そのような感情は内に秘め、表には出さないようにせねばならんと思うがね。

教会の質が下がっておるのかの?

光魔法の治癒へのお布施でブクブク肥太っているだけの場所と成り下がっていようものなら、この建物ごと滅してくれようぞ。


不敵にニヤリと笑うと、案内役の神官がビクリと体を震わせ、遂にはガタガタと震え出した。


ふむ、テコ入れ決定じゃな。



やがて私達は大きな扉の前まで案内され、その扉が厳かに開かれると、それは立派な大聖堂が姿を現した。

昔の姿そのままに、大聖堂自体が貴重な文化遺産になっていた。


ふむ、見た目は華美に飾り付けてはおらんか。

それくらいの事は理解しておるらしいな。

キョロキョロと辺りを見渡しながら足を進めると、やがて祭壇の前に居た人物がこちらに声をかけてきた。


「よく来たな、赤髪の魔女よ」


鼻につく偉そうな話し方に、ついイラッとして私は指をパチンと鳴らした。


「ライトチェイン」


光の鎖にギリギリと締め上げられ、その人物はじっとりとした汗を噴き出している。

光魔法は教会のお箱かもしれんが、私の光魔法には自分達は足元にも及ばない事をその身を持って今まさに体験しているのだから、それは顔色も土気色になるじゃろい。

私の力を相殺など出来んぞ?お前如きの魔力では。


「私は上からものを言われるのが嫌いじゃ。

話がしたけりゃそこから降りてくるんじゃな」


ギリギリと締め付けられるその人物を見て、周りの神官達が不安げにザワザワと騒つきだし、教会騎士達が剣を掴んだ。

一触即発の空気の中、1人の男がスッと私の前に歩み出て、胸に手を当て頭を下げた。


「申し訳ない、赤髪の魔女殿。

私はこの国の56代皇帝、ルディウス・ヴィー・フロメシアである。

教皇の無礼を代わりに謝罪する」


この国の皇帝が頭を下げた事に、皇帝付きの騎士は剣から手を離したが、教会騎士は尚も剣から手を離さない。


この国の教会の総本山、ここ中央教会はフロメシア帝国の皇都アリエデ内にありながら、完全に独立した存在。

教会内では例え皇帝であれど、教皇の権威の下に位置付けられる。

帝国側はせめて同列である事を認めよと再三中央教会に抗議しているが、それを嘲笑うかのように、教会騎士は皇帝が頭を下げているというのに剣から手を離さないでいるのだ。


つまり、私が光魔法の鎖でギチギチに締め上げている教皇が剣を下ろせと言わない限り、奴らはあのまま、いつでも私に切り掛かれる体勢を崩さないつもりなのじゃろう。


「……面白い、私に向かって剣を構えようだなどとは………。

随分な躾をしているようじゃな、貴様」


教皇を冷たく睨み、更に鎖の力を強めてやると、教皇は苦しげに小さく手を払い、教会騎士達に剣を納めさせた。


「教皇も魔女殿のお力を十分理解したでしょう」


皇帝がチラチラとこちらを見るので、私は仕方なく鎖で縛り上げた教皇をそのままブンッと宙に放り投げ、私の目の前にドサっと落下させた。


「いっ、いだだだだだっ!腰を打った!足も腕も痛いっ!」


情けない声を出す教皇に皇帝が手を差し出し、その体を支えながらなんとか立たせると、私に真っ直ぐ向き直る。


「我々は貴女の力に敬意を表したいと思い、この場を用意致した」


皇帝の言葉に私はハッと笑って、首を傾げる。


「とてもそうは見えんなぁ、のう、教皇とやら」


ギリッと私に睨まれて、教皇はヒィィィィッと小さな悲鳴を上げた。


ほう、よく見ると、この顔………。

あの時の高位神官か。

どおりで警護が物々しかった訳じゃ。

魔族の封印をやり直すくらいなら自分にも出来ると、高位神官を装って出張って来ておったのじゃろう。

封印を直してから、それを武勇伝として語り、最近地に落ちかけている教会の威信回復に利用しようとしたな?


じゃが、運が悪かったのう、教皇とやら。

貴様は次に会ったらどうしてやろうかと、丁度思っていたところじゃ。


クックックッ。

さてさて、いよいよ楽しくなってきたのぅ。





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