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仮面公爵と赤髪の魔女  作者: 森林 浴


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EP.10


「お嬢様〜〜〜っ!」


我が家の馬車を見つけた途端、満面の笑みでこちらに走り寄ってくるカインに、私はキュンと胸を鳴らしながら、馬車の窓からカインに手を振った。


「お疲れではないですか?お嬢様」


馬車の扉が開くと同時にこちらにスッと手を差し出すカインに、私は優雅に微笑んでみせる。

相変わらず、私の微笑みだけで顔を真っ赤にするカインに、胸のドキドキが止まらない。


ああ、良いですわ。

この胸のトキメキ……。

若返る気分になります。

実際私、まだ若いのですけど。

心の中のシニアがなかなか消せなくて。


あれから4年の時が経ち、私は10歳、カインは12歳になっていました。

カインは父上で騎士であるクライン男爵の厳しい稽古に耐え抜き、見事帝国学院騎士科への入学を認められ、来月学院の寮に入寮する予定です。


この4年間、この貧民窟で逢瀬を重ね、すっかり仲良くなった私達ですが、これからはこんな風に気軽には会えなくなってしまいます。

騎士科は関係者以外の立ち入りを厳しく制限されていますからね………。


カインに会えなくなるだなんて、寂しくなりますわ。

やっぱり我が邸に攫って閉じ込めてしまおうかしら……?

そんな私の不穏な考えになど気付く様子もなく、カインは私の手を恭しく引きながら診療所に歩いていく。


あっ、先程貧民窟と言いましたが、実はこの地区、今では立派な街に生まれ変わりましたのよ。

お母様の言う通り、公爵家の令嬢である私がこの地区に通い、人々に施しを与えているという話は光の速さで貴族達の間を駆け抜け、我先にとこの地区の復興にお金や物資や人を送るのが貴族達の間で流行しました。

そうなれば皇家ももう見て見ぬ振りは出来ませんからね、国として本格的に貧民窟の改革に乗り出し、公共サービスや施設の充実、住む人間の戸籍の整理にインフラ整理など、今更ですが動き出したという訳です。


今ではここは立派な街として、正常に機能しています。

お恥ずかしい話ですが、街はエブァ街と呼ばれていて、大通りであるメインストリートはエンジェルストリートと呼ばれています。

私を天使に見立て、そう呼ぶようになったそうですわ。


別の平民街の一角で貸家住まいをしていたクライン男爵もこの街に家を立て、カインと共に引っ越してきました。

今ではここの監視官では無く立派な市長として皆を守っています。

獣人がトップに立つ街と馬鹿にする者もいますが、エブァ街は平民街の中でも特に平和で犯罪が少なく穏やかな街として、他の街から引っ越して来る人も増えているくらいなのですよ。


カインは騎士で男爵で獣人の子、から、騎士で男爵で市長の子、に変わった訳ですが、もちろん我が家に釣り合うにはまだまだです。

まぁ、私の武力で全てを薙ぎ払いカインを手に入れる事は容易いのですが、私は平和を尊ぶ公爵令嬢ですから、荒事は最終手段にして、地道にコツコツとカインを育てる事にしました。


実は私の家の財力と権力で、獣人研究家に資金提供して、獣人に関する書籍を出し、更にお金の力でその全てをベストセラーにして差し上げましたから、この4年で随分世間の獣人への偏見も改まってきました。

獣人であることを理由に数々の武功を挙げてきたクライン男爵が男爵位しか戴けなかった事を疑問視する声も増え、この度クライン男爵は改めて子爵の位を叙爵する事になりました。

もちろん、一代貴族から世襲貴族へと変更もされます。

これで最低でも、カインは子爵を継げるわけですね。

もちろん、これでもまだまだですが。


ですが、これで子爵令息となった訳ですから、位に差はあれど同じ貴族同士。

私のお友達として何ら問題はありませんから。

お父様を黙らせるには十分………とはいきませんでしたけど。

イザークから報告を受けたお父様は私の護衛騎士を増やし、お目付役の侍女やメイドまでつけて、あの後の私の貧民窟訪問はさながら大名行列のようになってしまいました……。

お陰で貴族達の目に止まり、この街が潤ったのですから結果的には良かったのですが……。

私としては、カインと2人きりでゆっくりお話ししたいのに、それもなかなか叶わず、最初の頃は歯がゆい思いをしたものです。


ですが、安易に私に侍女やメイドをつけたのがお父様のボンクラなところですわ。

カインの見た目に彼女達がメロメロになる事など、ボンクラなお父様には想像もつかなかったのでしょうね?

更に私と並ぶとその美しさはまるで一枚の絵画のよう、だそうですわ。

眼福を与える私達カップルに、侍女とメイドがノックアウトするまで、そんなに時間はかかりませんでした。


侍女とメイドの協力の元、私とカインは沢山2人きりで過ごしてきました。

騎士達も私の虜にしておきましたから、私達が2人でいる時はかなり距離を空けていてくれるようになりましたし。

あの目の上のタンコブだったイザークは丁重にお父様に返却しておきましたので、私達の逢瀬を邪魔する者など、この街の中には1人も存在しませんわ。

うふふ、本当に素晴らしい4年間でした。



「カインが騎士科の寮に入ってしまうなんて、私本当に寂しいわ……」


目を潤ませカインを見上げると、カインは目の下を染めてうっと息を呑んだ。


「直ぐにイブを護衛出来るような騎士になってみせるから、少し待ってて欲しい」


真っ直ぐなカインの瞳が小川の水に反射した光を映して一層美しく煌めくのを、私は溜息混じりに見つめていた。


インフラ整備でこの街にも綺麗な水が引かれ、小川が作られた。

その水際の岸に2人で並んで座り、私達は間近に迫った別れを惜しんでいるところだった。


「でも、私心配ですの。カインが私を忘れてしまわないか……」


悩ましげに溜息をつくと、カインは私の両手を握って真剣な瞳でジッと私を見つめた。


「俺がイブを忘れるなんて、それこそあり得ない。

イブは俺の………大事な人だから……」


そう言ってカッと真っ赤になるカインに、私は胸を躍らせながら小首を傾げた。


「では、私とお約束してくださる?」


私の甘えるような声にカインは目を輝かせ、何度も頷いた。


「うん、いいよ。何でも言って」


思わず目をキラーンと光らせそうになり、慌てて目を瞑ってから、私はゆっくりと瞳を開いて真剣な顔でカインを見つめた。


「大きくなったら、私と結婚して、カイン」


その私の言葉にカインは驚いたように目を見開いて、しどろもどろな言葉を口にした。


「なっ、け、結婚……俺とイブが……!

でも、俺達、身分が………」


「あっ、貴族の間では結婚では無く婚姻と言うのよ」


私のそんな今どうでもいい情報にまで必死でコクコク頷くカイン。


「カインは嫌?私と婚姻するのは……」


瞳に涙を浮かべて見上げると、カインはブンブンと頭を振った。


「い、嫌じゃないっ!俺、身分が違いすぎて、今までずっと言えなかったけど……俺っ、俺っ、イブが好きだっ!大好きだっ!」


やっと聞けたカインの告白に、胸がキューンと鳴って、目の前が幸せでクラクラとする。


「私もカインが大好きよ。だから大きくなったら私達、夫婦になりましょう?」


うふっと小首を傾げると、カインは真っ赤になって、それでもやっぱり遠慮がちに口を開いた。


「……でも、やっぱり……公爵家のお嬢様と俺じゃ……釣り合わないよ……。

きっと許してもらえない………。

俺、貴族について勉強したんだけど、イブみたいな位の高い貴族は、結婚するのに皇帝陛下の許可がいるんだろ?

俺なんかじゃ、許可が貰えないよ……。

俺が父さんから受け継ぐのは子爵だし、それに俺、獣人だし……。

人のイブと獣人の俺じゃ、もし結婚出来ても子供が出来ないかもしれないよ?」


あらあら、私の可愛いカインは随分弱気ね。

身分差だけで無く種族も違うのだもの、当然と言えば当然だけど。

貴方がそんなんじゃ、私達が結ばれる未来なんて永遠に来ないわ。

そして私はそれを許さないわよ?


「カイン、身分差は貴方の頑張り次第で何とでもなるわ。

貴方は騎士として強くなって、いつか剣聖になるのよ」


「剣聖…………って、あの剣と魔法を極めた人を超えた伝説の騎士っ!

でも俺、獣人だから魔法は使えないよ?

使えるのは妖術だけだよ?」


私の言葉に最初ポカンとしていたカインは、直ぐに目を見開いて驚きの表情でそう言った。


「あら、魔法も妖術も極めれば強さは同じよ。

どちらも魔力を源にしているんだから。

カインの魔力は人並外れているじゃない、獣人の中でもダントツに高い方だってカインのお父上も言っていたわよ?

貴方が本気で頑張れば、きっと剣聖になれるわ」


カインの両手を握り、無邪気にニコニコと笑う私に、カインは力が抜けたようにフニャッと笑って、尻尾をブンブンと振った。


「そうだね、俺が頑張れば良いんだよね。

剣聖か………大変だと思うけど、うん、俺頑張るよ。

俺が剣聖になれたら、イブと結婚出来るんだよね?」


嬉しそうにそう言うカインに、私も嬉しそうにニコニコ笑って頷いた。

剣聖と認められれば自動的に侯爵の身分が与えられる。

実はそれでも私との婚姻には今一歩届かないのだけど、勿論、その今一歩は私がカバーするつもりですわ。

それくらいなら簡単な事ですから。


「頑張って剣聖になれば………イブが俺のお嫁さんになる………」


頬を染めて噛み締めるようにそう呟くカインに、もう、キュンキュンが止まりません。

私は思わずその頬に口づけてしまいました。

カインは一瞬何があったのか分からないと言った顔でキョトンとした後、直ぐにみるみる真っ赤になって、私が口づけた頬を手で押さえた。


「ふふっ、約束、ですわよ?カイン」


ニッコリ笑いながら小指を差し出すと、カインは真っ赤な顔のままコクコク頷いて自分の小指を差し出し、私の小指に絡めた。


ああ、幼い恋のメロディですわね。

本当にドキドキし過ぎて血圧が上がりそうです。

あっ、今は健康な子供の体ですから、多少血圧が上がっても問題無いのでしたね。

良かったですわ。


遠くで私を護衛していた騎士達と、密かに見守っていた(覗いていた)侍女とメイドが小さく拍手しながら涙を流しています。

私達を祝福してくれる協力者もいる事ですし、今日の約束は必ず叶えて下さいね、カイン。

貴方が剣聖と認められる為に、私も出来る事は全てやりますよ。

この私が後ろ盾になるのですから、安心して下さいい。

貴方はただ、剣と妖術を極限まで磨くだけで良いんです。

ねっ?簡単でしょ?



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆◆◆◆◆



あれから私がエブァ街には行けぬまま、カインは騎士科の寮に入ってしまいました。

手紙をくれると約束しましたし、お休みの日には街に帰ってくると言っていたので、また会える日を指折り数えながら待ちたいと思います。

カインは私達の未来の為に頑張ってくれるのですから、私も私で最大限の努力をしましょう。



「どうかしら?イブ2号ちゃん」


赤い髪にレッドゴールドの瞳、歳の頃は16〜17歳の華奢な少女。

でも見た目と中身の年齢は必ずしも一致しない。

それが私が作り出した年齢不詳の魔女、名もなき赤髪の魔女。

その姿で鏡の前でクルリと回ると、イブ2号ちゃんはパチパチと小さく拍手してくれた。


「完璧です、ご主人様」


私と全く同じ見た目に雰囲気、意識まで共有している私のコピー、イブ2号ちゃん。

こちらも完璧な仕上がりなので、私が赤髪の魔女として邸を抜け出しても絶対に誰にもバレる事はないでしょう。


10歳になって肉体的にある程度安定してきた私は、いよいよエブァリーナと赤髪の魔女の二重生活を開始する事にしました。

カインに出会った事で日々は驚く程早く過ぎて、あんなに長く感じていた体の成長もあっという間でした。

とはいえまだ10歳では体は未完全なまま。

イブ2号ちゃんを維持しつつ、赤髪の魔女として活動するにも限界があると思いますので、活動限界の見極めも兼ね、最初は様子見、試運転になるでしょう。


何事も慎重に進めなければ、全てが無駄になってしまう可能性もありますからね。

それだけは避けねばなりません。


さて、私が赤髪の魔女として成すべき事、それは魔力の消費です。

通常人の持つ魔力はよっぽどの事がない限り年と共に緩やかに下降するのみで、全てが無くなる事はありません。

しかし私は神様からの使命で、この膨大な魔力を全て消費しなければいけないのです。

死ぬ時には全てを自然に還してから死なねばなりません。

それが私に課せられた神様からの使命の一つ。

というよりも、実は頼まれているのはこれだけなのですが、私には他にも気掛かりな事がありまして。

それを解決するには膨大な魔力の消費が必須となります。

ですから、神様からの頼まれごとと共に、私の憂いを晴らす事はとても効率が良い解決策なんですよね。


まぁそれくらいしないと私の持つこの膨大な魔力の消費は叶わないでしょう。

ひょっとしたら神様はそれを見越していたのかも知れませんが、結局決めたのは私自身です。

私はその憂いを晴らす事を宿願と定めて、早々に動き出さねばならないのです。


あっ、もちろんカインも私の運命にしっかり巻き込みますわよ?

そこを遠慮などしないのが私です。

いつの時も私と彼は2人で一つでしたから。

私の運命に巻き込む事に躊躇などしません。

私に関わらなければもっと平和で幸せな人生を、なんて思ったりもしませんね。

だってあの人にとって、私こそが唯一無二の幸せなのですから。

それは、彼が獣人に生まれ変わってきた事が証明しています。


わざわざ、私しか居ないのだと、まるで証明するように獣人に生まれ変わってきてくれたのですから、私はその気持ちに答えるまでです。


ですから彼が少しでも生きやすい環境を作るのが私の彼に対する責任でもありますね。

獣人の地位向上。

その為にはもうグズグスしている時間はありません。

彼が学院で過ごす間に、獣人に対しての謂れのない差別を無くして差し上げなくては。


さぁっ!その為にも、赤髪の魔女としての活動に取り掛かりましょう。

赤髪の魔女、始動ですわっ!

皆様、よろしいかしら?うふふふふ。





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