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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者のための世界は色んな人々で回っている──裏方は辛いんです!!──

作者: 松内えみす

ノリと勢いだけで書きました。中身は無いみたいなモンなので、スナック感覚で楽しんで下さい。


「いいか諸君!諸君は選ばれし精鋭だ!超エリートだ!その自覚と誇りを胸に刻み、魂を捧げよ!!」


『イエス・サー!!』


集められた精鋭100人が声を揃える。


「この世界は魔王に脅かされている!そして魔王に立ち向かえるのは勇者しかいない!」


『イエッサー!』


「そう!その勇者が成すべき事を成すためには我々の力が必要だ!我々NPC(Not Principal Commando's)のサポートが勇者の運命、そしてこの世界の運命を担っているのだ!その事を忘れるな!!」


『サー・イエッサー!!』






──とある青年の部屋──



「あー、ヒマだわ。友達いねーし、彼女いねーし、金もねーし。前に買った福袋開けるかー。んだよ、ゴミばっかだな。ん?『ドラゴンファンタジーテイルズサーガ』?なんだこのゲーム。そこはとなくパチモン臭するタイトルに、八番煎じくらいの既視感あるパッケージ。俺のクソゲーセンサーが反応してやがる。やってみるか」







「伝令!王城より報告あり!勇者が顕現されたそうです!」


伝令のその一言に、待機していたNPCの精鋭達に電流が走った。


「聞いたか諸君!ついに来たぞ!よし、手筈通り散開!第5部隊第6部隊はハ・ジマーリ村に急行!第2、第3部隊をゾーン1から3の宿屋全てに配備せよ!第4部隊は教会にて待機!第1部隊、すぐさま行動に移れ!」


『サー・イエッサー』


司令官の命令により精鋭部隊はそれぞれの持ち場へと散っていった。


その中でも最も過酷な第1部隊の精鋭達はすぐに王城へと向かった。その部隊最年少の少女ニカは隊長に尋ねた。


「隊長、私達第1部隊の役目は何ですか?」

「我々第1部隊は精鋭中の精鋭だ。なんでもやる。魔王を倒す事以外はな。主な任務は勇者の監視だ。忘れるな」

「はっ!」


王城に着いた第1部隊は目立たない物陰などに隠れながら動いた。

王の広間から一人の青年が出てくる。


「ターゲット捕捉。ニカ、身体的特徴を記録しろ」

「イエッサー」

「その他もろもろの隊員は勇者の装備や所持品を調べろ。サーチ魔法の使用を許可する」

『了解』








「ふーん、王城から始まって、魔王討伐の旅か。王道中の王道だな。所持金は500ゴールドか。装備は皮の防具と木刀、木の盾に花崗岩のアミュレットか。ショボいな。とりあえず傷薬でも買ってモンスター殺しに行くか」







「勇者はアイテムショップに入った。座標25─21、東エリア始まりの店だ」

「ニカ、窓に行け。勇者の買い物を見てこい」

「了解」


音もなく窓に張り付いてニカが確認し戻る。


「回復ポーションを三つ購入しました」

「よし、記録しろ。すぐに勇者の後を追うぞ」

「了解」


勇者は町から出て、平原地帯をうろつき始めた。


「勇者は平原を徘徊中。おそらくモンスターとのエンカウントを待ってる模様」

「よし、目を離すな」

「あ、エンカウントしました!戦闘発生!」

「各員、その場で待機!ダメージ計算に移れ!」

「了解!」

「ニカ、モンスター撃破後の報酬金の用意!」

「すでに出来ています!あ、撃破しました!」

「よし、ステルススキルで接近!それとなくモンスターの死体の横に金貨を置け!」

「イエッサー!」










「うし、スライムはザコだな。経験値は3か。金は10ゴールドね。まだいけるな。お、またスライムか。はい、瞬殺。お、レベルアップ~。なんだヌルゲーかよ」









「勇者のレベルが4になりました」

「ふむ、そろそろ背のびするぞ。むっ、やはり行動範囲を広げた」

「あちらは森林です」

「よし、おそらくサルベージ作戦になる。用意!」

「了解」









「お、経験値うめ~。もっと行くか。このイモムシつえーな。あ、やべ、毒かよ。毒消しねーわ。勝ったけど毒状態だ。町戻ろっと。あ、エンカウント。やっべ、逃げらんねえ。あ、死んだわ」









「勇者の死亡確認!」

「死体の回収急げ!」


第1部隊の隊員らが勇者の死体に飛び付く。凄まじい早さで近くのモンスターを撃破し、勇者の持ち物と欠損した肉体まで拾い集める。


「ニカ、右足は見つかったか?!」

「大丈夫です、回収しました!」

「よし、撤収!B班は周囲を警戒!すぐに教会に運ぶ!伝書鳩を飛ばせ!」


町の教会に第1部隊が戻ると、伝書鳩で報せを受けた第4部隊が準備を終えて待機していた。


「蘇生の準備完了!」

「急げ!」

「衣服の修繕、クリーニング完了!」

「着させろ!」

「チュートリアル司教の配備完了」

「メイク、汗をもう少し吹き掛けろ!」

「オールグリーン。準備完了」

「よし、散開!隠れろ!」









「お、死んだら教会で復活か。らしいね~。ん、司教?なになに、死んだら教会で復活させてくれると。主人公はただで復活できるけど仲間は有料か。ふーん。仲間か。一人くらい雇うか」








「勇者は宿屋に行きました」

「セーブか雇用か、あるいは情報収集か。他部隊が待機している。我々はサポートに回るぞ」

「了解」









「えーっと、どれを仲間にしようかな。回復役の僧侶が欲しいが雇用費が高いな。うーん、なら魔法使いかなぁ」









「ニカ、仲間候補の様子を見てこい」

「はい」


宿のカウンターで硬直している勇者の死角をニカが音もなく駆け抜ける。

彼女は奥の部屋に入った。中には屈強な大男やグラマラスな魔女などが待機していた。


「皆様、勇者が来ております。用意の方を宜しくお願いいたします」

「いーけどよ、報酬の件は大丈夫なんだろうな?」

「はい、国から支給されます。ご安心を」

「ねえ、勇者ってイケメン?」

「そこそこかと」


ニカはそのまま、宿屋で村人に変装している別部隊の隊員と連絡を取り合った。


「首尾はどうですか?」

「問題ない。台本はみんな完璧に覚えてる。そちらは?」

「問題ありません」

「むっ、勇者が動いたぞ」









「えーっと、とりあえず戦士を一人仲間にして、後は情報収集だな。ここの奴ら全員に話聞いてみるか。ふむふむ。東の森に秘密のルートが?へー。上、下、上、右ね。あとはこっちのじいさんは?なんだ世間話か。んで、こっちの姉ちゃんは?『あら、ここには可愛い子も居るわよ。どの子にする?それともあ・た・し?』だってよ!うほ、えっろ!何回も話しかけてえわ!」










「それともあ・た・し?」


宿屋の村人に扮した女性隊員は本日7回目の同じセリフを唱えた。その表情はひきつっている。

ニカがカゲから小声に応援する。


「頑張ってっ、その内飽きるからっ」












「最高!この姉ちゃん仲間にしてーわ!くそ、くそ、くそ。ドット絵のくせにおっぱいが分かるとかエロすぎだろ!なめ回してー!」











勇者は女性隊員の体にまとわりつくようにグルグルと回り始めた。

女性隊員が不快感に顔を歪めるのをニカが声援を送る。


「耐えてっ、それ以上の事は出来ないからっ」


勇者はひとしきり回った後、今度は老人の元に行って話しかけた。そして何人か話しかけた後、また老人に話しかけた。











「やべ、また道順忘れた。おい、ジジイ、なんだっけ?上、下、上、右か。よし。お、こっちにもなんかいるわ。ほーう、荒野には変なモンスター居るのか。あ、道順忘れた。ジジイ~」










「それでな、まずは上に行く。それで下に下がってまた上がるんじゃ。そして切り株を右に行けば秘密の泉じゃ」


老人に扮した隊員は長いセリフを繰り返した。これで4回目だが、噛まずに繰り返した。ニカが感心する。


「流石ですね。あれだけの台本を忘れずに詠唱出来るとは」

「しかし、あの勇者め!女性隊員にはセクハラするし、老年隊員には何度も同じ事言わせるし、もっと人の事考えられないのか!」

「まあまあ、何事も堪忍ですよ」


勇者はしばらくして宿から出ていった。


「おっと、アンタ第1部隊だろ?早く追っかけた方が良くないか?」

「ええ、そうですね。ではみなさん、また別の宿でもよろしく!」


ニカも後を追って出ていく。









「よーし、仲間も居るしもっと奥に行くか。お、つええじゃーん。じゃんじゃん狩るべ。こいつの素材高く売れるな。おー、良い金策見っけ。乱獲するべ」








「隊長、大変です!」

「どうした!」

「勇者がナッツラットばかり討伐しています!このままではこのエリアのラットが絶滅します!」

「なに!?なぜだ!ニカ、分析結果は!?」

「は!恐らく金策かと」

「金策?」

「この周辺で手に入る素材で最も採算が取れるのはナッツラットです。勇者は町のアイテム屋とこのエリアを二回行き来してますが、すでに5000ゴールド程の売買を行っております」

「よし、第7、第8、第9部隊に通達!召喚士をかき集め、ナッツラットを補充!」

「イエッサー!」

「ニカと俺は勇者に張り付く!残りはこの地のナッツラットの保護に回れ!勇者には気取られるな!」









「おー、だいぶレベルも上がったなぁ。金もあるし、仲間雇うか。装備はこのまんまで良いか。もうちょっとしたら売って金にしよう」










「あ!隊長、大変です!」

「どうした!?ニカ!」


ニカは双眼鏡を隊長に渡して言った。


「見て下さい!勇者の剣がっ」

「あっ!ボロボロだ!ヒビが入ってる!今にも折れそうだ!」

「このままでは戦闘中に折れてしまいます!」

「そんな事あってはならない!勇者の持ち物は壊れないという定め(システム)なのだ!ニカ、用意!B班は直ちに代替え品の調達!」

「はっ!」


ニカはステルスで姿を消して勇者の後ろに迫った。その後すぐに隊の仲間が隣に滑り込んでくる。手には交換用の剣が握られていた。


「ニカ、銅の剣だ、これで良いか?」

「はい、ありがとうございます」


勇者の戦闘が始まり、激しい戦いの中で剣が折れた。

折れたと同時にニカが走りだす。











「んあ?ラグか?あ、直った」








「ふう」

「良くやったニカ、見事だったぞ」

「はっ」


折れた剣と新品の剣を一瞬で入れ替えたニカは安心したように笑った。


「これでしばらくは安心ですね」

「む、勇者が移動を開始!追うぞ!」


休む間もなくニカ達第1部隊は移動を開始した。











「あ、アイテムボックス一杯だわ。ゴミが多いな。とりあえず要らねーのは捨てるか」









「あ、勇者がゴミをポイ捨てしてます!」

「ぬうっ、ここは自然公園だというのに!仕方ない。何人か行ってこい。ゴミ拾いだ」


第1部隊の隊員達は勇者が捨てたゴミを黙々と拾っていった。












「さ、後は高値で売れそうなもんだな。どれ売ろうかな~。ん~。めんどくせーな。全部売ったろ。いくらになるかな~」












「隊長!大変です!勇者がいきなり大量のアイテムを売りに来ました!」

「なに!?どのくらいの金額になりそうだ!?」

「10万ゴールド以上です!」

「な!?クソ!冷静に考えれば一個人の商店にそんな大量の現金があるわけないじゃないか!なんでそんな非常識な事するんだ!」

「どうしましょう!?」

「各員集合!サイフを出せ!持ってる金を合わせろ!!」


第1部隊は慌てて、アイテム屋のレジ裏に回った。












「おー、金持ち~。これで新しい防具でも買おうかなー。とりま、次の町行くか」












「ニカ、無事か?」

「う、私のサイフ······中身が無い。ただの袋のようだ」

「みんなは?」

「俺もスッカラカンです」

「俺も」

「よし、後で費用として落としておく。申請書に金額を書いておけ」


すっかり懐の寂しくなった第1部隊はまた勇者の後を追った。











「おーし。仲間も4人になったし、装備もアイテムも万全だ。そろそろダンジョン行くかー。お、手強いな。歯ごたえあるじゃねえか。よし、必殺の爆裂魔法!後はユニークスキル、ジャスティスソード!おお、スゲー破壊力!盛り上がってきたな!うっ。腹痛くなってきた。ちょっとトイレ······」











ニカがん?と首を傾げる。


「どうした、ニカ」

「いえ、勇者が急に動かなくなって」

「なに?あっ!こ、これは······幽体離脱(ポーズ)だ!」

「えっ、もしかして一切の行動が出来なくなるというあの?」

「ああ、そうだ。くそ、よりによってダンジョン最下層でっ······」

「緊急!各部隊に通達!勇者がダンジョンにてポーズ!急いで連絡を取れ!」

「イエッサー!」

「あっ、た、隊長!シルバーウルフの群れが!」

「ぐっ!くそ!勇者は動けない!なんとしてでも死守しろ!各員戦闘用意!!」


勇者の仲間達がうろたえる。


「お、おい、俺らはどうするんだ?」

「お仲間のみなさんはそこを動かないで!こちらへの援護も一切してはいけません!何があってもその場でそのまま!勇者が意識を取り戻すまで現状維持で!」


叫びながらニカも剣を抜き払い駆け出した。











「うおお~、出るっ。まだ出る!うおっ、くせぇ!ラーメンにニンニク入れすぎた!く~、まだ腹の調子が悪いな。これは長期戦になるぞ」












「うわああ!来る!まだ来る!うおっ、つえぇ!ブーメランに筋肉使いすぎた!く~、戦況は悪いな、これは長期戦になるぞ!」


第1部隊の隊員達は勇者一行を囲む形で陣形を作り、迫りくるモンスターと戦っていた。


「ぐわぁ!?やられた!」

「があぁ!がはっ!」

「いてぇ!いてえよぉ!ママ!ママぁぁあ!」

「くそ!衛生兵えぇ!」

「ニカ!側面に回られてる!通すな!」

「は、はい!」


暗闇の中で獰猛な唸りと牙が交差し、何度も激しい火花を散らしながら剣と打ち合った。

血が飛び交い、悲鳴と怒号が反響し、魔法弾の煌めきが肉を焦がした。


「うおおおー!食らえー!」

「畜生!腕があ!」

「ニカっ、後ろだ!」

「え!?きゃっ!」

「危ない!ぐっ!?ぐわああ!」

「た、隊長!私を庇ってっ······!」

「う、うぐ······」












「ふう。やっとクソがおさまったか。でもまだ違和感あるな。つべでも見て時間潰すか。は?ガチャはまだ回さない方が良い?どういう事だよ。ふむふむ。なるほど。次のピックアップまで石は温存か」










「戦力を温存してる場合ではない!第1部隊を援護しろ!」


現場に駆けつけた第7、8、9の部隊が負傷者の搬送と守備陣形を整える。勇者を中心とした戦場は血の匂いを嗅ぎ付けたモンスターが群がり、乱戦状態になっていた。


「隊長!隊長~!」

「ニカ!一旦下がれ!隊長を守るんだ!」

「は、はい!」

「報告!勇者の放った攻撃でダンジョンの構造が不安定になっています!」

「な、なに!?しまった!今にも崩れそうじゃないか!修復班、直ちに直せ!」

「崩落だぁあー!!」


『うわわああああぁ!?』











「ふう、やっと腹が落ち着いてきたな。さ、ケツ拭いて、と。戻るか」












「はあ、はあ、はあ」

「な、なんとかなった······ニカ、無事か?」

「は、はい。一応······」


負傷者を大量に出しながらも勇者の死守と崩落したダンジョンの修復が完了し、部隊は慌ただしく撤収していった。

残されたニカ達第1部隊は引き続き勇者の監視に戻る。

勇者は何度かの戦闘の後ダンジョンボスを倒し、イベントをこなして近くの町に帰った。











「なんだかんだ言ってまあまあやったな。クソゲーではないけど個性が無えなあ。暇潰しには良いってとこか。気がのったらまたやるか。えーっと、セーブセーブ······」











「あ、あれは例の究極完全保存魔法(セーブ)では?」

「間違いない!よし、第1部隊!ここが我々の見せ場だぞ!記録書を出せ!」

『イエッサー!』


第1部隊の隊員達はそれぞれがメモしていた紙を取り出し、それらを合わせて勇者の行動全ての記録書を作り上げた。


「さ、ニカ。トリはお前が飾れ」

「は!」


言われてニカは勇者に見つからないように近づき、姿を隠したまま高らかに宣言した。


『セーブが完了しました』











「よし。ふ~。疲れた。飯でも食うか。カップ麺納豆キムチ味が残ってたな」


青年はゲームを切り、部屋から出ていった。












町に帰還した各部隊は本部で慌ただしく仕事をしていた。


「えー、勇者の討伐モンスター数はこっちで······」

「おーい、アイテム金払ったやつこっちで受け取れるぞー」

「勇者保存部隊は5時間間隔で交代。次は20─30より第8部隊だ」


「隊長、腕のケガは大丈夫ですか?」

「ああ。大した事ない。ニカ、素晴らしい活躍だったぞ」

「いえ、とんでもない」


ニカと隊長は、事務窓口に出来た長蛇の列を眺めた。並んでいるのは村人や町人などの一般人であった。


「えー、では被害品は?」

「へえ。オラん家のロザリオだ。一つ」

「分かりました。ここにサインをして下さい。次の方」

「うちは現金です。ヘソクリ500ゴールド······」

「はい、こちらにサインを」

「なんなんですか?あの男!いきなり家に入ってきたと思ったら手当たり次第に物色するわ、壺は割っていくわ、お金は堂々と持っていくわ。あんなの盗賊じゃない!」

「苦情は第三課へお願いいたします。次の方」

「俺は家の壁に穴あけられたんだけど······近道だとかなんとかって」

「あー、修繕は第二課ですね。こちらの書類を持っていってください。次の方」


ニカはそっとタメ息をついた。


「やれやれ、本当にやりたい放題ですね」

「ああ、他の町でも同様の事が起きてる。しかし仕方ない。これがこの世界と勇者の運命なのだ」


隊長の言葉にニカが表情を曇らせて尋ねた。


「でも、勇者という人間一人のために存在する世界なんて変じゃないですか?こんな事が許される世界なんて」

「そうか?」

「そうですよ」


ニカは昼間の怒涛の仕事を思い出しながら不満を漏らした。


「勇者が大切なのは分かりますけど私達は何のために生まれてきたんだって感じです」

「まあ、お前の言うことも分からんでもない」


隊長はそう頷いてから、だがな、と続けた。


「もし、勇者やヒーローの居ない世界があって、みんなの目的がバラバラな世界があったとしたらどう思う?」

「え?そりゃあ······」


ニカは口をつぐんだ。もしそんな世界があったら、それこそ何のために生きるのか明瞭としない世界だった。


「自分で答えや生き方を見つけるのは大変だろうよ。勇者でも、ヒーローでもない自分が主人公の世界なんだから」


隊長はそう言ってニカに笑った。


「もしかしたら楽しいかもしれないがな」

「······」

「よし。今日は疲れたろう。俺の奢りだ。どっか食いに行こう」

「え、良いんですか?」

「ああ、今の内に英気を養え」

「イエッサ······はいっ!」




ニカと隊長は本部から出ていった。

また勇者が戻ってくるその日までは、彼女らは彼女らのための時間を過ごす。






───おしまい───

お疲れさまでした。またどこかでお会いできれば幸いです。

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