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7.どうかこの夢が、いつまでも続きますように①

 この夏休みに入ってから、いっぱいお兄ちゃんと一緒の時間が過ごせるようになった。

 私が付いて見てたら、お兄ちゃんはどんどん裁縫が上手になってきて、今は刺繡にチャレンジ中!


「……できた……」

「どれどれー? わっ……とっても素敵!」


 クロスステッチで刺された、街の夜景。

 目数は多くないけど、都会の華やかさが上手な色使いで表現されてる!


「……ありがとう……」

「ほんとによくできてるよ! これって、どこをモチーフにしたの?」

「ん……特には、ない……憧れてる、なんとなくのイメージが、頭にあって……」


 そういえばお兄ちゃん、そんな感じには見えないけど、田舎育ちなんだっけ。


「そうなんだ? ここなのかなーって思ったけど」

「……この街、どんな感じか、知らない……引っ越すとき、ずっと下見てて……窓の外も、見てなかったから……」

「えっ、ほんと!? そんなのもったいないよ! 今からバルコニーに出て、ちょっとだけでも見てみよ!」

「ん……夜のほうがいいけど……ばれるかな……」


 そっか、お兄ちゃんは夜景を見たいんだ。確かに、それは……。


「あっ……!」


 そういえば……今日の朝言ってたじゃん!


「こんな嬉しいニュースを忘れちゃってた! 明日の昼頃まで、お母さんとお父さん帰ってこないんだよ!」


 そう、今日はお兄ちゃんとずっと一緒に過ごせる!


「……ん……なんで……?」

「ペルセウス座流星群を見るために、星が良く見える田舎までわざわざ泊まりに行ってるの。今夜が一番多く流れるタイミングで、今年は見やすい条件が重なってるんだって」

「……結華は……?」

「私も一緒に行く予定だったけど、夏休みの課題が全然終わってないからって駄々こねてパスしちゃった!」


 もちろん、お兄ちゃんと一緒にいるための嘘だけどね!

 二人とも私たちのこと油断しちゃってるな、ふふっ!


「……流星群……せっかくだし、見てみたいかも……」

「うーん、こんな都会だから、だいぶ見づらくなりそうだけど……調べてみるね!」


 スマホで検索! 『ペルセウス座流星群 見れる場所』、っと……。


「あー、やっぱりダメかな……? 流れるの、北の空が中心らしいから……バルコニーからだと、全然見えないかも」

「……そっか……」


 お兄ちゃん……なんだか残念そう。

 なんとかして、見せてあげたいな……。


「……お外で、見てみよっか?」

「……ん……」


 あ、あれ? 私……。

 今、お兄ちゃんをお外に連れ出そうと思った?


「あ、その、今日はばれないからいいかなーって、思っちゃった……えへへ」

「……大丈夫……」

「えっ?」


 目線に……少しだけ、力が入ってる。


「……結華が、その気なら……外に出て、見る……」


 お兄ちゃん、本気だ……。


「お、お兄ちゃんはいいの? 怖くない?」

「……夜なら、ちょっとは、ましだと思う……」

「でも、痕跡が残っちゃうかもしれないし……」

「……ん……気を付けたら、多分、ばれない……」


 お兄ちゃんの目線が下がって、口角が、かすかに上がって……呟きが、かすかに聞こえて。


「……それに、ばれたって……僕が選んだことだから……」


 そっか。やっぱり、そうなんだね。


「……うん、分かった。じゃあ外出計画、練ってこ!」


 お兄ちゃんは、最初から……追い出される未来を、受け入れてる。



 ◆



 お母さんとお父さんが話してるのを聞いて知った。一度でも私と顔を合わせたら、お兄ちゃんはこのマンションを出ていかなきゃいけない。

 お兄ちゃんの移住を渋るお母さんを、お父さんが説得したときに出したのが、その条件。お兄ちゃんは、追い出すことをお父さんが面倒に思ってるならと、一緒に引っ越しただけ。

 その話を聞いて、とっさにそんなルールを否定しようとして……思い出したんだ。


『……一つだけ、条件……もし、ばれちゃったときは……全部、僕のせいにして……』


 お兄ちゃんは最初から、子どもの私には庇わせたくないんだ。

 そうさせるくらいならここを立ち去るって、そう覚悟して、私との時間を過ごしてるんだ。

 それでも、私はお兄ちゃんの生活を守るために、もう会わないようにしようかって一度考えて、だけど、そうできなかった。

 だって……私が部屋から離れるときの、お兄ちゃんの薄く陰った表情に、もう気づいてしまってたから。



 ◆



 午後8時過ぎ。お兄ちゃんと私は今、マンションの外。

 夏の夜の、じっとりした空気……フードを深くかぶってるお兄ちゃんは、平気なのかな……?


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「ん……大丈夫……」


 ここの人通りはそんなに多くないけど……お兄ちゃんの手、震えてる。


「手、握ってもいい?」

「……ん……」


 ちょっとだけためらって、でも手をこっちに向けてくれた。

 握ってあげると、柔らかくて、ちょっとひんやりしてる。


「よーしっ。じゃあ、駅に行こっか!」

「……うん……」

「人が多くなってくるけど、この手、絶対離さないから。怖くなったら、握ってる感触、意識してね!」


 街灯が照らす夜道の端っこを、二人でゆっくり歩いていく。

 私たちが目指すのは……街を見渡す、展望台!





「電車、もうすぐ来ちゃうから、ちょっとだけ急ごっか」


 街中でのトラブルなく、駅に到着。ここで時間を過ごすお兄ちゃんのしんどさを考えると、今から来る電車は逃したくない!

 2枚買った切符を重ねて入れて、手を握りながら改札を通って……たどり着いたホームは、もっと人が多くて。

 お兄ちゃん、ちょっと息が浅くなってきてる……。


「お兄ちゃん……まだ、行けそう?」

「……大丈夫……」


 メロディが鳴って、着いた電車の中は……やっぱり混んでるよね。

 なんとかして、少しでも人を遠ざけないと……。


「……お兄ちゃん、できるだけドアの端に寄ってくれないかな? 私が壁になるからね」

「……ん……分かった……」


 嫌がるかと思ったけど……素直にお願いを聞いてくれた。お兄ちゃんを囲むように、腕を伸ばしてガード。

 揺れて走りはじめた車内で、フードを下から覗くと……。


「っ……」


 顔が赤くなってて……目が、潤んじゃってる。

 ごめんね。こうしないと、お兄ちゃんを守ってあげられないの。

 少しの間、頑張って耐えてね……!

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