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3話 加護の能力が開花する

 

 さらりとした銀の長髪を斜め左で束ね、ゆっくりと振り向いたときに交わった男性の蒼眼。この世のものとは思えない美しい顔、やや憂いがあるような雰囲気にレイミアは目を奪われた。


(なんて綺麗な……って、そうじゃない!)


 おそらく目を瞑っている間に助けに入ってくれたのだろう。魔物の一部が倒れているのを目にしたレイミアは、それを確信すると魔族の男性を見上げた。


 しかし、上手く声が出ないでいると、顔だけ振り向いた男性がおもむろに口を開いた。


「その純白のローブ……君が聖女か」

「……えっ、あの、まさか貴方様は……」


 ──魔族かと思ったが、もしかして。


 ここが公爵領に繋がる森林であることと、魔族の数はかなり少ないこと。

 結婚相手であるヒュースは、公爵領の安全のために日々魔物の討伐を行い、頻繁に森林に出入りしていることを知っていたレイミアは、何度か目を瞬かせた。


「もしかして、ヒュース・メクレンブルク公爵様ですか……!?」

「ああ。君が私の妻となるレイミア・パーシーだな。……と、挨拶は後だ。先に魔物を殲滅する」


 ヒュースはそう告げると、レイミアに向けていた視線を前方の魔物に向けた。


「……それにしても、今日も相変わらず多いものだ」


 嘆くように呟いたヒュースの周りから、突然風が吹き荒れる。

 至近距離にいるレイミアはその風の影響を受けず、むしろ風の盾に守られているようだ。


(これは……風魔法……!! さっきも風魔法で魔物を倒したのね……!)


 魔族も半魔族も、人間の魔術師と同じように魔力を有しており、魔法を扱える。

 肉体的にも人間より発達しているらしいが、今回は魔法を使うらしい。


「……出て来なければ、死なずに済んだものを」


 その瞬間、刃のような風が魔物たちを切り裂いていく。

 レイミアを守るようにして出来ている風の盾は、その様子を見せない役割も担っており、肉体的にも精神的にも守ってくれていることを察したレイミアは、キュッと唇を結んだ。


(ああ、なんて)


 聖女なら自分でどうにかしろと言ってきてもおかしくない、魔物を倒す現場など見慣れているだろうと配慮しなくなって、魔物にだけ集中して守ることに意識を削がなくたって構わないはずだというのに。


(この短期間でも分かる。公爵様は、なんて優しい方なんだろう。どう考えたって、冷酷だなんてあり得ないわ……)


 レイミアはギスギスとした両親の元に生まれ、そして売られた。神殿で待っていた日々も地獄だった。

 アドリエンヌに執拗に苛められ、周りの聖女からも悪態をつかれ、阻害され、神官たちには見て見ぬふりをされ──人から優しくされること、大事にされることを忘れていた。


 だから、この感情が芽生えたのも、本当に久しぶりだった。


(……私、優しくしてもらって、嬉しいんだ)


 レイミアがそんな感情を思い出したと同時に、盾となっていた風魔法が小さくなっていく。

 すると視界には既に倒れた魔物の姿もなく、どうやらヒュースがレイミアの見えないところに飛ばしてくれたらしい。


「公爵様……なんとお礼を言ったら良いか……ありがとう、ございます」


 恐怖で震えていた足に鞭をうち、レイミアはゆっくりと立ち上がると、深々と頭を下げた。


「気にするな。丁度さっきまで近くで魔物の討伐をしていたから、ついでだ。それより怪我はないか?」

「はい。私は大丈夫です。公爵様は──って、え!? 公爵様……!?」


 ちょっと立ち話でもして移動をするのかなと思っていたレイミアだったが、突然その場に蹲ったヒュースの姿に目を見開いた。


 僅かに呻るような声を上げるヒュースの状態を確認しなければ、とレイミアも地面に膝を突くと、彼の額に浮かぶ粒状の汗に、只事ではないことを再確認した。


「どうされたのですか……!? どこか痛みますか……!?」

「……っ、ここに来る前、魔物から掠り傷をつけられて、な……おそらく身体を痺れさせる効果が……っ、あったん、だろ」

「……! お仲間は近くにいますか……!? 痺れを解く薬は持っていますか!?」

「どちらも……否……だ」


(な、何ですって…………!?)


 レイミアはいつか加護の能力が発動すると信じ、アドリエンヌたちが任務に出向いているうちに魔物のことについて調べていた。

 だから、牙や爪に痺れ作用を持つ魔物は複数存在しており、その痺れの殆どは命に別条はないものの、相当の苦しみを負うらしいということを知っていたのだ。


(公爵様は半魔族……身体は丈夫だし、回復力も普通の人間よりは高いはず……命に別条はないと思うけれど……これではここから動けない……っ)


 先程まで魔物がわんさかといたのだ。いつ何時、再びここが魔物で溢れ返るかは分からなかった。


「公爵様……! 私の肩に捕まってください……っ! 辛いとは思いますが、立てますか……?」

「……っ、あ、ああ」


 普通の人間ならば指一本を動かすのでさえきついと言われているのに、レイミアの力を借りて立ち上がるヒュースには凄いの一言だ。


「森林を抜ける道、もしくはお仲間が居るところまで案内してください……! 私が必ず、公爵様を安全なところまで連れていきます……!」

「……っ、無理、だろう。一歩も動けて、いないぞ」

「……こ、これからです! ふんぬっ!!!」


 気合を入れて、まず一歩──。


 しかし、レイミアの足は片足が前に踏み出しただけで、その後が続かなかった。産まれたての子鹿のように足をプルプルとさせて顔を真っ赤にしながら立っているのが精一杯だ。


「む、無念です……っ、もっと鍛えていれば……!!」

「私の体重を……君のような華奢な女性が、支えられるはず、ない、だろう」


 ヒュースは一見細身に見えるが、鍛えているのかずっしりとしている。頭一つ分以上優に高い身長のせいもあって、レイミアにはどうともならなかった。


「……ここは危ない。私に構わなくとも……良いから、先にこの森林を、抜けるんだ」

「そんな……! そんなことをしたら公爵様は──」


 魔法を発動するには、それなりの集中力がいる。十中八九今の状況では無理だろう。

 それに、いくら肉体的に強くとも、痺れていては元も子もない。


 そんな状態のヒュースを、恩人である彼を見捨てるなんてこと、レイミアにはできなかった。


「そ、その、私でも、盾にはなれますから……!!」

「……変な、聖女、だな」

「申し訳ありません……お役に立てるのが、盾になれるだけなんて」


 魔物を自身で処理できなかったこと。自身の身を結界を張って守ることもできず、ヒュースを回復してあげられないことからも、おそらく彼にはレイミアが求めていた聖女とは決定的に違うということがバレてしまっただろう。


 結婚の話は無くなり、罪人として牢屋に入ることになるかもしれない。


(けれど今は、そんなことを考えても無意味。死んだら、終わりなんだから)


 そう、どうせ思考を働かせるなら、どうやったらここからヒュースと共に出られるか、生きて帰れるかを考えたほうが良い。

 しかし悲しいかな、力を持たないレイミアには方法は思いついても、どれも実践することはできなかった。


(悔しい……っ、今まで惨めな気持ちはいくらでも味わってきたけど、こんなに悔しいと思うのは初めてね。どうして私には紋章があるのに、何の加護(ギフト)も発動しないというの……! どうして……!!)


 しかし、そんなレイミアの思考も嘆きも、魔物にはお構いなしだった。


 茂みから聞こえるザザッという何かが動く音に反応したレイミアとヒュースは、先程と同様に現れた大量の魔物に目を見開いた。


「おい……! 良いから早く逃げろ……! 時間稼ぎぐらい、なら……なんとかする、から」


 額に汗をかきながら弱々しい声で、そう告げるヒュース。


(公爵領の役に立たない名前だけの聖女だってもう分かってるはずなのに、責めるどころか、まだ守ってくれようとするなんて……)


 神殿に入ってから徐々に言いたいことが言えなくなっていったレイミアだったけれど、ヒュースの優しさに触れたからか、このときは何故か、思いを口にすることができた。


「出来ません……! 公爵様は、当たり前のように私を助けてくださいました。惨いところを見せないよう、配慮までしてくださいました。そんなお優しい方を……放って逃げるなんて私にはできません……! 嫌です……!!」

「……っ、君は……」


 そのとき、レイミアの胸辺りが、突然何か熱いものが込み上げた。


「……っ? なに、これ……魔力……?」


 元から魔力は有していたものの、こんなふうに自然と込み上げて来たことはなかった。

 それに、左のふくらはぎにある紋章からも同じような熱を感じ、レイミアは感覚的にそれを理解した。


(……加護(ギフト)が使える気がする……!)


 それにもう一つ。まるでその使い方を知っていたかというように、レイミアにはその加護(ギフト)がどんなものなのかも理解できた。


「おい、どう、した……? 」

「……言葉……魔力を、言葉に乗せる……」

「……っ、本当に、どうし──」


 ──その瞬間、ヒュースの言葉を遮るように一斉に襲いかかってくる魔物の群れ。


 ヒュースは痺れる体に鞭を打ってレイミアを庇うよう前に出ると同時に、レイミアは大きく息を吸い込んだ。



【こっちに来ないで!! 今すぐ立ち去りなさい!!】

読了ありがとうございました! 


◆お願い◆


楽しかった、面白かった、続きを読んでみたい!!! 

と思っていただけたら、読了のしるしに

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なにとぞよろしくお願いします……!

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