第1話 メイドと君
どうも、読者の皆さん。
仕口 憂です。
この作品を開いて下さり、誠にありがとうございます。
読者の皆様がこの作品で癒されていただけたらなと思っています。
朝のホームルームが始まるチャイムが鳴ると、賑やかなクラスの雰囲気はガラリと変わり全員が席に着く。担任の先生がやって来ると号令係が「起立、礼」と挨拶をし、それに合わせてクラスメイト達も礼をする。全員が着席すると今日の予定や連絡を報告する時間になる。
その報告をする時間に先生がある男子生徒に目をつける。
「おーい笹塚、もう学校始まってるから起きろー」
先生が声を上げるとその男子生徒は椅子から飛び跳ね、1時間目の教科書を手に持ち目をぱちぱちさせる。
「え、えーっと……どこ読めばいいんですか?」
「まだホームルームだぞ」
すると「くそー今週は火曜かー、予想外れたわ」と話し合っている生徒達がいた。
そう、この光景は週に1回は必ず訪れるのだ。なので他の生徒達は今週は何曜日にこの光景が見られるか、予想している。
その事を知らない男子生徒、笹塚 蓮は静かに席に座る。クラスメイトが笑っている中、1人だけ1ミリたりとも顔に笑みを浮かべない女子生徒、稲澤 咲菜がいた。
「今日も稲澤さん笑ってないな」
「あれがクラス委員長ってもんなのか」
他のクラスメイトが小声で咲菜の話をする。
咲菜はこのクラスの委員長であり、先生でさえ彼女に逆らえない程の覇気のようなものがあった。
朝のホームルームが終わり、先生が教室を出ると男子生徒、市河 広翔が蓮の席へ来る。
「今週もかましたなー!」
「あ、あぁ宏翔か……」
「おいおい、まだ寝ぼけてんのか?」
蓮は大きくあくびをし、体を伸ばすとすぐさま鞄からスマホを出す。
「(まさか蓮……見つかったのか!?)」
「(あぁ。ここがまだ『オレオフ』とコラボが終わっていない……)」
宏翔が息を呑むと蓮は席から立ち上がる。
「メイド喫茶だああ!」
大声で叫ぶとクラス中の視線が蓮と宏翔に向けられる。
拳を天高く伸ばしている蓮を宏翔は抑え、席に座らせる。
「お、落ち着け!」
「あぁいけない、いけない。つい自我が……」
これは自我というより発作のようなものだ。
『オレオフ』というのは、つい最近アニメ化が決まった『俺の恋はオフライン』という今人気殺到中のゲームの略である。蓮と宏翔はその『オレオフ』のいわゆるヲタクというものなのだ。
「ったく……んで、今日の放課後行くって事でいいんだな?」
「あったりまえよぉ」
他のクラスメイトが視線が外れる中、1人だけ蓮達のことを横目で見ている人がいた。
1日の授業が終わり帰りのホームルームが済むと蓮と宏翔は教室から出ようとする。
「おーい市河、今日掃除当番だろ?しっかり掃除してから帰れよー」
「宏翔おぉぉ!」
「すまねぇ蓮。お前だけでも先に……」
蓮は宏翔の肩に手を置くと片手にほうきを持つ。
「何言ってんだ相棒。俺も手伝うぜ」
「蓮……お前ってやつは!」
2人は「おおぉぉ!」と叫びながらほうきでゴミを掃き、ゴミ袋をまとめ捨てる。
「よし、行くぞっ!」
ほうきを掃除ロッカーに入れると勢いよく教室を出る。
廊下を走ると先生達に叱られてしまうので2人は走りの1歩手前のスピードで歩く。
「今の時間は15時47分。そして移動時間がおよそ1時間20分程度。メイド喫茶の入店が終わるのが19時30分だ」
「混んでいなければいいが……。まだコラボが終わっていないお店だから混んでいたとしたら待ち時間が3時間は超えるぞ……!」
「急ぐぞ!」
「お、おい蓮!前━━━」
蓮が前を向くと誰かとぶつかってしまい、尻もちをついた。
「いてて……あ、大丈夫ですか?」
蓮はすぐさま立ち上がるとぶつかってしまった相手に手を差し伸べた。その相手は蓮の目を見るのだがその視線はどこかで感じたことがある威圧感。
蓮は恐る恐る相手の顔を見るとその相手は……。
「さ……い、稲澤……さん」
稲澤 咲菜だったのだ。
「ご、ごめんな!前見てなかったもんで……」
蓮が謝っている後ろで宏翔は身体を震わせながら1歩下がる。
「いいえ、大丈夫です。ところでお急ぎの様でしたが」
「あ、いや……まぁちょっとね」
「……」
咲菜は数秒黙るとスカートを叩く。
「廊下はゆっくり歩いてくださいね。私も用事が御座いますのでもう行きますが」
「あ、あぁ」
咲菜が立ち去る後ろ姿を蓮は何か不満げに見ていた。
宏翔は咲菜が立ち去ったのを確認すると蓮の方へ駆け込む。
「お、おい大丈夫だったか?」
「え?まぁうん」
「クラス委員長さんはやっぱり怖いよな……顔は悪くないが」
「おいっ」
「なんだよー。稲澤さん可愛い方じゃねぇかよー」
「さっきまで怯えてたやつがなんだよ」と蓮は思いつつ黙って下駄箱に行き、メイド喫茶へと向かった。
「よーっし、やっと着いたぁ」
「朝学校で寝る程探した甲斐があったぜ……」
2人は遂に『オレオフ』とコラボ中のメイド喫茶に着くと中へと入っていった。
ほとんどのお店はお客が来ると「いらっしゃいませ」と言うがメイド喫茶では「お帰りなさいませ、ご主人様」なのだ。ここがメイド喫茶の特徴の一つである。誰でもメイドの主人になることができるのだ。それだけではなくメイドによっては語尾が「にゃん」などあり、様々なメイドがいるのだ。
「お帰りなさいませ、ご主人様ー」と1人のメイドが言うと続けて他のメイドも言う。
「2名なんですけど大丈夫ですか?」
「はぁい!大丈夫ですよぉ〜。こちらに座ってお待ちくださ〜い」
2人は案内された席に座り、メイドが来るのを待つ。
1人のメイドがスタッフルームから出てくると待っている2人のもとへ迎っていた。そのメイドのルックスはほんの少しつり目で猫のような目をしており鼻は小さく、腕や足が細くツルスベ肌。しかしその容姿は蓮には見覚えがあった。
「お帰りなさいませっ!ご主……人………さ、ま」
「さ、咲━━━━」
そのメイドは稲澤 咲菜だったのだ。目の前にいるメイドが同じクラスメイトだと気づいた蓮は咲菜の名前を口に出そうとすると……
「お帰りなさいませ。ご主人様」とすぐさま言い直し何もなかったかのように逸らした。
「ん、蓮どうした?」
「別になんでも……」
蓮はすぐに気がついたのだが宏翔は気づいてはいなかったのだ。他クラスの生徒とも交流関係がある宏翔にまでバレてしまっては咲菜がメイド喫茶で働いているということを他クラスにまで知られてしまうと思った蓮は何も見ていない、聞いていないフリをし始めた。
「い、今『俺の恋はオフライン』のコラボをやってい、いるんだけどー、こちらのコースを選んでいただくとコラボ限定商品がも、もらえるんだけど、どうする?」
言葉が詰まりつつも咲菜は2人に説明をし始めた。
「それを2つ、お願いします!」
「は、ハァーイ、カシコマリマシタ」
(完全にロボットみたな喋り方になってきてるよ……にしても宏翔気づかなすぎじゃ?)
蓮は気まづい状況であるが咲菜と比べたら、と思い平然な顔を保っていた。
「あ、あとこの語尾に『ニャン』もお願いしても大丈夫ですか?」
(宏翔ぉぉぉぉぉぉ!!!!)
いきなり何言ってんだと思った蓮だったが、コラボ限定で語尾に『ニャン』が無料だとメニューに書いてあったのだ。しかしその相手は同じクラスメイトでありクラス委員長である人なので「なんてお願いをしてんだ」と蓮は心の中で叫んだ。
そのお願いをされた咲菜はというと少し耳を赤らめて目がうるうるしていた。
「え、えーっと語尾に『ニャン』ですね……」
「あ、あの!嫌だったら大丈夫なので」
今にでも恥ずかしくて逃げ出しそうになっている咲菜をみた蓮は無理をさせないようにと気を使う。
「いえ。ご、ご主人様のお願い、を聞くのがメイドの務めなので……」
「……」
無理に頑張ろうとする咲菜をみた蓮は口が詰まった。
("昔"みたいにならなきゃいいけど……)
「それじゃあ、ご注文のメニューをご用意す、するから……待っててくだ、さい……。にゃん……」
蓮と広翔は銃で心臓を撃たれたかのように強い衝撃が走る。
咲菜がスタッフルームへ戻ると広翔はすぐさま蓮の方をみた。
「お、おい蓮……」
「な、なんだ……?」
「あの子めっっっっちゃ可愛くね!?」
「そ、そうだな」
("昔"から可愛いとは思っていたけどここまでとは……くっ心臓がっ)
内心で「広翔ナイス」と思ってしまった自分を叩くと落ち着きと戻す。
そしてしばらくすると咲菜がコラボメニューのオムライスを持って戻ってきた。
「こちらがコラボメニュー。キュアリンポポオムライスです、にゃん……」
(かっっっわいい……。ここのメニュー名が気にならないほど可愛い……)
意味が分からないメニューの名前だがそれも気にならない程に咲菜の語尾に「にゃん」が可愛く、蓮と広翔はうっとりしていた。
「じゃあ萌え萌えきゅ」
広翔が喋り出そうとした瞬間、蓮は広翔の口を手で塞ぐ。
「あっ、なんでもないので!いただきます!」
咲菜は少し戸惑ったがぺこりとお辞儀をしスタッフルームへ戻って行った。
「お、おい!蓮なにすんだよ」
「こっちのセリフじゃい!何言わせようとしてんねん」
「そりゃ当たり前だろ!『萌え萌えきゅん』だろ!?」
メイド喫茶中に広翔の声が響くが他の客はメイドさん達に気を取られ気にもしなかった。
「あの子にそんなんされたら吐血してあの世行くに決まってんだろ」
「いいさ。可愛い子の『萌え萌えきゅん』さえ見れたらそれで俺は死んでも構わん……」
「お前……かっこよくねぇぞ?」
「えっ」
少しイケボ風に言った広翔に蓮は冷たい反応をする。
━━━「ありがとうございましたー!」
オムライスを食べ終わりお目当ての『オレオフ』のコラボ特典を手に入れ満喫すると2人はメイド喫茶を出た。
「今7時か、広翔どうする?」
「俺は特に用事とかないけど、ちょうどいい時間だし帰る?」
「まぁそうだな」
蓮と広翔はメイド喫茶からの最寄り駅へと向かった。
「俺帰りの駅こっちだわー」
「りょーかい。じゃあまた明日な広翔」
「また明日ー」
それぞれ別々の駅のホームへ向かい蓮は各駅停車の電車が来ても乗らずに急行の電車を待っていた。
『3番線に急行、橋本行きが参ります。黄色い線の内側でお待ち下さい』
駅のアナウンスが駅のホームに響き渡ると電車がやってくる。蓮はその電車に乗ると急行ということもあって席が空いてなくドアの前に立つ。
『3番線の電車が発車します。駆け込み乗車は危険ですのでおやめ下さい』
駆け込み乗車への注意がアナウンスされるがお構い無しに駆け込んでくる人がいた。
その人がドアが閉まるギリギリで乗ると電車が動き出した。
「はぁはぁ……」
このような光景は珍しくなかった……のだが、今回は違った。
「さ、咲菜……?」
「え……?」
咲菜はしばらくの間電車の揺れと共に目を泳がせていた。
この作品を読んで下さり、誠にありがとうございます。
この作品はメイド喫茶のチラシを配っているメイドさんをみて思い浮かびました。(チラシを配っていたメイドさんありがとうございます)
クラスメイトがメイド喫茶をやっている話なのですが、クラスメイトが自分のメイドをやっている話も面白いかなと思っているので、もし見てみたいという方がいらっしゃいましたらコメントでお伝えください。
この作品の他にも書いているので投稿するのが遅くなるかと思いますが、今後ともクラスメイドをよろしくお願い致します。