STEP2
時刻は9時。
入学式が始まった。
「皆さん、ご入学おめでとうございます」
校長先生の話に耳を傾けつつ、俺は周りを見る。
男女総勢100人がこの場に集まっており、これから3年間一緒に過ごすのだ。
それに、学内でメッツをする時には戦うことにもなる。
漆野さんには伝えていなかったが、俺は最強になりたい。
小さい頃から最強という言葉に惹かれ憧れてきた。
しかし何で最強になればいいのか、最強になるためには何をすればいいのか、何も分からない。
それに勉強やスポーツでは平均くらいだったので、正直最強なんて無理だと思っていた。
しかし、そんな状態でも諦めきれなかった。
そしてある時行き着いた答えが、誰もが高校進学と同時に始めるフォースを使って戦うメッツで最強になることだった。
スタートする時は同じ、それなら俺でも努力次第でどうにかなるかもしれない。
そんな一縷の望みをかけ、こうして念願の高校生となった。
あとは頑張るだけ。
幼稚な夢だけど、最強という存在に憧れてしまったからには足掻いてみたい。
「えー、それでは、これにて入学式を終了します」
そんなことを考えているうちに入学式は終わったようだ。
「終わったね!外の掲示板に何組か張り出されてるらしいから、早速行ってみよ!」
漆野さんからそう言われ、他の生徒が続々と体育館を後にする中、その流れに沿って二人で出て行く。
そして掲示板の前に着くと、人が多すぎて見えなかった。
「うーん、見えないね。天ヶ瀬君は見える?」
「いや、俺も見えないな」
視力のいい悪い関係なく、遠すぎて見えない。
もうちょっと近づかないものか。
そう思っていると、人の群れに隙間ができた。
ここだ。
「よし、行こう」
「え?」
俺は漆野さんの手を取って、その隙間を縫って行く。
「え、ちょっ」
後ろで漆野さんの驚く声が聞こえるが、そのまま掲示板の前まで進んだ。
「着いた」
「え、すごっ?!どうやったの?!」
どうと言われても、説明が難しい。
俺は昔から人と人の隙間などがあると、そこをルートとして認識できる。
人混みなどでしか役に立たないが、一種の特技みたいなものだ。
「それよりも掲示板」
「あ、そだね」
二人して掲示板を見る。
「「あった!」」
声が揃った。
俺は1年2組の出席番号1番。
天ヶ瀬という名字なので、出席番号1番はよくあることだ。
そして漆野さんは探そうとしなくてもすぐに見つかった。
漆野華那、1年2組、出席番号2番。
俺達は同じ組で出席番号は前後だった。
「何かすごいね」
「うん、すごい偶然だ」
こんなことがあるなんて。
どんな奇跡だよ。
「とりあえず、これからよろしくね」
「ああ、よろしく」
奇妙な縁だが、こういうのもなかなかあるものじゃない。
何だか漆野さんとは長い付き合いになりそうだ。
そんなことを思いながら、二人で1年2組のある教室へと向かうのだった。
☆★☆★☆
「このクラスの担任を務める鍵谷涼子だ」
俺達の担任は鍵谷という今年この学園に赴任したばかりの若い女性だった。
何でも高校時代はメッツで全国ベスト16まで行った逸材だとかで、実力も折り紙付きらしい。
プロからの誘いもあったようだが、高校教師の道を選んだようだ。
「私の授業はスパルタだから、頑張ってついてくるように。それじゃあ解散。気をつけて帰れよ」
こうして解散となった。
かなり男勝りな先生だ。
俺は帰るために立ち上がると、漆野さんが声をかけてきた。
「ねえねえ、この後どこか寄ってかない?」
「どこかって?」
「うーん、カフェとかカラオケとかどこでもいいんだけど、どうせ寮に帰るだけなら、せっかく仲良くなったんだし親睦を深めたいなと」
この学校は全寮制なので、昨日までに荷物を寮に送って今日からそこに住むことになっている。
確かにこの後帰って荷解きをしようと思っていただけだから、時間はあると言えばあるし、ちょっとくらいならいいか。
「分かった、行こう」
「本当?!ありがとう!」
そうして二人で教室を出る。
1年生の教室がある校舎は門から入って一番手前のところなので、門まで近い。
今朝も歩いていた桜並木道を二人で歩いて門まで向かう。
「でね、私がそこでホームランを打ったら逆転って状況でね!」
今は漆野さんの中学時代の話で、体育の時自分の打席の結果で勝つか負けるかが決まるところだったらしい。
「それでこうやって……」
「痛っ!」
漆野さんが実際にバットを振るシーンを再現したところ、その腕が男子生徒にぶつかってしまった。
「あっ、ごめんなさい!」
「おいおい、痛いじゃんかよ」
「こんなとこで腕を振り回してぶつかっておいて、謝って終わりか?」
ぶつかった男子生徒とその隣にいた男子生徒がそう絡んでくる。
ガラの悪そうな顔つきに髪は茶髪で改造した制服……これはいわゆるヤンキーってやつか。
おまけに背の高いやつと低いやつのコンビとは、また典型的というか古典的というか。
現代にもまだこんなやつらがいるんだな……。
「えっと、ご、ごめんなさい」
「謝って済むと思ってんのか?」
悪目立ちするタイプの男子生徒達は、謝る漆野さんにさらに詰め寄ろうとする。
「すみません、彼女もこうして謝ってるし今回は許してもらえませんか?」
「あ、誰だ?」
「横から口出ししてんじゃねぇぞ!」
俺が間に割って入ると、二人はそう威圧してくる。
面倒なのに捕まったな……。
「おら、こっちに来い!」
「きゃっ!」
「お前もだ!」
「うお」
俺達は二人組に腕を引かれ、そのまま校舎裏へと連れて行かれた。
それにしても、何でこういうやつらってすぐ校舎裏に来るんだろうな。
「さてと……ちょうどイライラしてたとこだし、ちょうどよかったな」
「ああ、いいカモが見つかったな。弱そうなやつらだ」
そう言って笑っている二人。
弱そうとは俺達のことだろうか。
まあ確かに俺の見た目は普通で弱そうだけれども。
「俺達は機嫌が悪くてな。お前らで憂さ晴らしさせてもらうぜ」
「ほら、端末を出して同意しろ」
そうして背の低い方からそう言われたので、俺達は自分の携帯端末の画面を見る。
そこには決闘申請を受け入れるかどうかの表示がされていた。
この端末は月光学園に入学した者が一人一台与えられるものであり、学生証を始めとしその他便利ツール等の様々な機能が備わっている。
その機能の一つがこの決闘申請システムだ。
これは学内の生徒が互いに決闘をする際に使用されるもので、基本的に学内外問わずフォースは使用禁止だが、大会や決闘をする時だけは使用していい。
この二人はこの決闘を利用して俺達を痛めつけるのが目的なのだろう。
いつの時代もあるいじめというやつだ。
「早く許可しろよ」
断っても力づくで決闘に持ち込まれることは明白なので、俺は許可をする。
それを見て漆野さんも慌てて許可した。
「何も抵抗せず許可するなんて、よほどのバカなのか」
顔はニヤついており、動きがどう見ても三下のそれだが、二人での戦闘に慣れているのだろうか。
動きや距離感はお互いを邪魔しないようにしており、またカバーもできるようになっている。
「……やるな」
「あ?何か言ったか?」
「いや、何も」
「はっ、今さら何しても無駄だ……アウェイク!」
「アウェイク!」
二人がそう言った後、それぞれの指輪が光を放ち、瞬く間にその形は武器へと変化した。
アウェイクと言う、もしくは念じることでフォースが待機形態から元の姿形へと変化したのだ。
背の高い方は剣へと、背の低い方は槍へと変わった。
近接型と中距離型か。
「俺から行くぜ?」
「ああ、今回は譲るよ」
そう短いやり取りをした後、背の高い方が漆野さんに向かう。
「きゃあぁっ!」
彼女は先ほどから恐怖からか動けずにいて、ずっと縮こまっていて、ずっと言われるがまま従っている。
このままではやられる。
フォースは武器なので、もちろん人を傷つけることができる。
この力は昔は使用すること自体に賛否両論あったようだが、現代では護身にもなるため普段の使用を制限することで一般化した、
何事も同じだが、もちろんフォースを嫌いな人も一定数いるし、現代医療ではよほどの外傷でなければ治るが、心の傷はいつの時代もなかなか治せない。
それでも今はこうして一般的に受け入れられている。
そして俺達も受け入れた人だ。
だからこういうことは想定していないといけない。
何が起こっても自己責任。
……でもそんなのは強いやつ、もしくは人でなしの言い分だ。
俺はそんな言い訳で他の人を見捨てたくない。
たとえそれが偽善だとしても、それすらもできないような人間になりたくない。
それが思い描く最強になるための条件でもあるから。
「……だから、俺は漆野さんを守る」
心の中でアウェイクと唱え、そのままネックレスを首から外す。
そして指輪は瞬く間に形を変え、最終的には濃い水色の剣へと変化した。
そして漆野さんに迫る剣を横から俺の剣が止めた。
「何?!」
「漆野さんには手出しさせない」
そのまま俺は相手の剣を弾き飛ばし、漆野さんの前に出る。
剣を正中線に構え、二人に言い放つ。
「先に仕掛けてきたのはそっちだ。こっちも遠慮なく行かせてもらう」