STEP1
「最強」とは何か。
何をすれば「最強」になれるのか。
「最強」とは一人だけなのか、それとも複数いるのか。
また「最強」になってしまったらそこで終わりなのだろうか。
ゆえに考える……「最強」とはいったい何か、と。
「最強……」
「心ここに在らずね。残念だけどこれで終わりよ」
目の前からそんな声が聞こえたと思った時、すでに目の前に剣が迫っていた。
そこまで認識した時。
「……俺は、最強になりたい!」
内側から熱い衝動が溢れ、体を突き動かした。
☆★☆★☆
4月2日。
季節は春。
別れの3月が過ぎ、出会いと始まりの4月。
この春で中学を卒業し、高校へと進学した。
まさに別れを済ませ、これから出会いと始まりの道へと一歩を踏み出す。
そんな新しい日々を想像し、期待に胸を膨らませる。
「……何してるの?」
そこで後ろから声がしたので振り向くと、そこには怪訝な顔をした女子が俺のことを見ていた。
黒髪黒目、薄く化粧をしているようだが幼さの残る顔立ち。
背丈は160センチほどだろうか。
制服はピシッと着こなしている。
見るからに美少女だ。
「何って……ぼーっとしてただけだよ」
「朝早くから学校に来て、ぼーっとしてたの?」
桜舞う校庭で一人佇んでぼーっとしていたのがそんなに不思議なのだろうか。
……いや、普通に考えれば不思議すぎるか。
「今日が楽しみであんま眠れなかったんだ」
「子供じゃん!」
そう言ってクスクスと笑う女子。
俺としては逆にこの子がここにいる方が不思議だった。
「君こそ何でこんな時間にこんなとこに?」
時間は朝の7時。
今日はこれから高校の入学式がある。
早めに着いてしまった俺はすることもないので、ここで考え事をしていた。
この子も同じような感じだろうか。
「私はこれから通う学校がどんな感じなのか、事前に見ておきたくて早く来たの。それで門を抜けてすぐに綺麗な桜が咲いてたから見てたら、君がいたから声をかけてみたの」
なるほど。
確かにこれから通う学校がどんなところか気になる気持ちは分かる。
そして綺麗な桜が咲いていたから見ていたのも分かる。
「よかったら少し話さない?せっかくだしさ」
何がせっかくか分からなかったが、特にすることもないので頷く。
「いいよ」
「それじゃ、校舎の方に行ってみよっか!」
そう言ってご機嫌に歩き出す。
その後をついていくように俺も歩き出した。
「そう言えば、お互い自己紹介してなかったね」
俺が彼女の背中に追いつくと、うっかりといった表情でこちらを向きそう言った。
私は漆野華那。好きな食べ物はチョコレートケーキで趣味は料理。よろしくね!」
「俺は天ヶ瀬大河。好きな食べ物はハンバーグ、趣味は特にないかな。こちらこそよろしく」
彼女と同じように自己紹介を終えたところで、俺達は校舎の前へとたどり着いた。
「このままぐるっと回ろっか」
「うん」
そうして校舎の周りを歩く。
「天ヶ瀬君は何で月光学園を選んだの?」
月光学園。
今俺達がこれから通うこの学校の名前だ。
全校生徒300人、一学年100人が在籍している。
校則が他校より緩く、基本的に生徒の自主性に任せている。
「ここってあんまりバッツ強くないし、選んだ理由は何かあるのかなって思って」
この世界では15歳になるとフォースと呼ばれる武器を持つことが許される。
それは代々受け継がれてきたものだったり、市販のものをかったり、自分で作ったり、様々なものがある。
そしてフォースを用いて試合形式で戦う場をバッツと言う。
バッツは世界的にも人気で、現代では教育課程に入れている高校や大学がほとんどだ。
今ではバッツをすることを目的として進学する人ばかりだ。
しかし彼女の言う通り月光学園はそのバッツが強くない。
「俺がここを選んだ理由は自由にできるから。校則緩いし」
「あ、それ私も!校則が緩いのって魅力よね!ほら!」
そう言って手の甲を見せてくる。
よく見てみるとその指先の爪は長く、黒のマニキュアが塗られていた。
「この通り私ネイル好きなんだけど、ネイル禁止ってとこが多くてさ。それでこの学校には化粧とかネイル禁止って項目がなかったからここに決めたの!」
そんな理由で……。
まあ自分の好きなことが出来るという点は共通しているので、彼女の言うことも分かる。
「そうなんだ。じゃあ俺と一緒だね」
「そうだね!」
その後も他愛ない話をしながら歩く。
その間校舎の外観を見ていたが、築年数を50年は超えるはずの校舎は、そんな年数を感じさせないほど綺麗で立派だ。
特に華美な造りをしているわけではないが、洗練されていてどこか厳かな感じもする。
そんな事を考えていると、だんだん生徒の姿が多くなってきた。
「そろそろ体育館に行こうか」
「うん、そうしよ」
こうして体育館へと向かう。
時間を見てみると8時を回っていた。
入学式は9時からだから、すでに来ている生徒達も俺達と似たような理由で早く来たのだろうか。
「そう言えばさ、天ヶ瀬君ってフォースの指輪してないけどさ、普段持ち歩いてないの?」
「ん?」
フォースは様々な武器の総称だが、当然それを持ち運ぶとなれば手間だし物騒だ。
それを解消するためにフォースに与えられたのが待機形態と言って、指輪の形に変形し持ち運ぶことができる。
そのためほとんどの人が指に嵌めているのだが、俺は指に嵌めていないため不思議に思ったのだろう。
「俺はあんまり指に嵌めるのが好きじゃなくて、普段はここにしまってるんだ」
そう言って首から下げていたネックレスを見せる。
そこにはフォースの待機形態である指輪があった。
色は雲ひとつない青空のような色をした水色で、太陽の光を受けてキラキラと光っている。
「これが天ヶ瀬君のファースの待機形態なんだ!すごい綺麗だね!」
目をキラキラさせながら俺のフォースの待機形態を見ていると、ふと右手の中指に嵌めている指輪を見せてきた。
「あっ、これが私のフォースの待機形態だよ!真っ黒で綺麗でしょ!」
こちらも太陽の光を受け、漆黒の指輪がキラキラと輝いていた。
漆野さんは身につけているものが黒が多いためか、その指輪は彼女にマッチしていてとても似合っていた。
「うん、確かに綺麗だ。漆野さんにとても似合ってる」
「えへへ、ありがとう!」
似合っていると伝えると、彼女はとても喜んでいた。
そうしているうちに体育館に到着したので中に入る。
席は特に決まっていないようなので、漆野さんと後ろの方の席に座る。
これから始まる高校生活に想いを馳せながら、漆野さんと入学式が始まるのを今か今かと待っていたのだった。