↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/43

お姉さんから貰った力

「じゃあね〜、ジャック〜〜〜、メリーちゃ〜〜〜ん!!」


 メリュジーヌさん……メイドのメリーさんの冒険者登録が完了した後、僕らはギルドのトロニエ支部を出発し、そのまま南西の方角にある、ドワーフの国ジラクへ向けて出発した。

 僕はビアンカに乗り、メリュジーヌさんはその後ろで翼を広げて浮かんでいる。


「驚きました。話には聞いていましたが、本当に羽ばたくこともなく浮かんでいられるんですね……」


 竜の翼は鳥などの翼とは違い、原始的な魔法の力により、その身を宙に浮かせることができる。

 この作用により、重すぎるドラゴンや、人型の龍人も空を飛ぶことができる。


「ジャックって博識なのね。アタシみたいな龍人の翼が、羽ばたかなくてもいいことを知っているなんて」


「いや、その……一人前の冒険者は、常に知識を仕入れることを怠らないというのが僕の矜持ですから」


 常に、自分がなんでも知っているなんてつもりでいてはいけない。世界にはまだまだ知らないことであふれている。

 もし驕り高ぶるようであれば、僕は冒険者として終わっているだろう。


「……あら? この声は……」


 そんな話をしていると、メリュジーヌさんが不意に静止して、森の向こうに注目した。


「どうかしましたか、メリュジーヌさん?」


『キィィエエエェェェェェエッ!!』


 突然、上空から竜の甲高い鳴き声が聞こえた。

 空を見上げると、首と尻尾が細長く、腕からなる幅広い翼を持つ竜が、木々のスレスレを飛んでいるのが見えた。


「ワイバーン!?……なぜこんなところに?」


 ワイバーンは竜の一種であり、背中から翼が生えているのではなく、大きな腕が翼となった種族だ。

 力ではドラゴンなどに劣るものの、他の竜よりも飛行能力に優れている。

 脚の鋭い爪はもちろん、種類によって様々なブレスも侮れない。

 もし空中戦にもちこめば、大型のドラゴンでも苦戦は確実だろう。


「もしかしてアイツ……獲物を追ってる?」


 メリュジーヌさんの言う通り、ワイバーンは鎌首を下げたまま、地上を走る何かを追跡しているようだった。

 ワイバーンの速度からすれば低速なのを見るに、おそらく馬に乗った人間を追っているときのものだ。


「もしかしたら、人間を追っているかもしれません! 助けに行きます!」


 僕はメリュジーヌさんの返事を待たずに、ビアンカをワイバーンがいる方へと走らせる。


「ちょ、ちょっと待ってよ! なんで人間を追ってるってわかるのよ?」


 木々の間をすり抜けて、ワイバーンの少し前方、おそらく獲物である人がいそうな方角へと駆けていく。

 案の定その先では、ボロマントを纏った誰かが、必死に馬を走らせているのが見えた。

 やっぱり、あのワイバーンは人間を狙っていたらしい。


「大丈夫ですか!?」


 僕はビアンカを馬と並走させながら、ボロマントの人に呼びかける。


「き、君は……?」


 顔はよくわからなかったが、声からしておそらく女性だ。


「僕は石級(ストーン)冒険者のジャックです! あのワイバーンを撃退します!」


 後ろを振り返ると、斜め後ろからワイバーンが追いかけてきているのが見えた。

 やはり、あいつはこの人を狙っていたのか。


「これでもくらえ!」


 僕は閃光を発する魔法『フラッシュスフィア』を展開し、5個の光の玉を発生させる。

 玉はワイバーンに触れると強烈な輝きを発して、相手の視界を眩ませる。

 突然の閃光に、ワイバーンは草むらに落下してのたうち回っている。


「今のうちに逃げてください!」


 マントの人は何も言わずに、大急ぎで森の方へと走っていく。


「……よし、それじゃ僕も!」


 今の僕はマギ・ピストルの弾丸も使い果たしてしまい、使える攻撃魔法もろくなものがない。

 だとすれば、あのワイバーンを振り切って身を隠すのがベストだ。


「ジャック! アンタ一人で突っ走ってどうすんの!?」


 ようやく追いついたメリュジーヌさんは、ワイバーンの方を見定める。


「……しっかし、封印を解かれてから連続で竜(同族)とやり合うことになるなんてね」


 メリュジーヌさんは、おそらく封印が解かれたときに戦った、あのペルーダのことを言っているんだろう。

 相手は既に目眩しから回復しているようで、怒りのこもった視線を僕らへと向けている。


「襲われていた人はもう逃げました! 後は僕らも逃げるだけです」


 僕の呼びかけに、メリュジーヌさんは不思議そうな顔をしている。

 しかし、その表情はすぐにイタズラを企む子供のそれに変わった。


「アタシが片付けてもいいんだけど……ジャック、試しにこの魔法を撃ってみなさい」


 そう言いながら、メリュジーヌさんは僕の顔に両手を添えて、額にキスをする。


「なな、何を……えっ!?」


 その途端、僕の頭の中に見たこともない魔法陣と、この魔法の概要、そして呪文が浮かび上がった。


「こ、これって……!?」


「説明は後よ! ほら、アイツが!」


 メリュジーヌさんの言う通り、ワイバーンは既に起き上がって、怒りに任せてブレスを撃とうとしている。

 この魔法の詳細を訊ねている暇はなさそうだ。


 僕は攻撃魔法を撃つときと同様に、手をかざして呪文を唱える。


「風よ、氷よ、我が身に集え。凍てつく吹雪を巻き起こし、天高く昇る竜のごとく螺旋階段を築きたまえ……」


 ワイバーンが炎のブレスを吐き出す寸前、やっとこの魔法を撃つ準備が整った。


「アイスストーム!!」


 僕とワイバーンとの間に、冷気を含んだ竜巻が生じる。

 初めてメリュジーヌさんと出会ったときと同様に、凍てつく竜巻がブレスを防ぐ盾となる。


『ギュアッ!』


 予想外の事態に面食らったのか、ワイバーンは驚きの声をあげ、空へと飛び上がる。


「逃げられるとでも思ったの?」


 メリュジーヌさんは逃げるワイバーンに向けて、風の魔法『ウィンドカッター』を撃った。

 初歩的な遠距離用の魔法だけど、メリュジーヌさんの魔力からなるそれは、普通よりも遥かに威力が高い。


『ギエエエッ!!』


 ブーメランのような風の刃が左翼の皮膜を切り裂く。

 そのままワイバーンは高度を下げていき、森の中へと墜落していった。


「さすがね、ジャック!」


 横からメリュジーヌさんが勢いよく抱きついてきたが、それどころじゃない。


「あの……この魔法は一体……?」


「ジャックの使い魔であるアタシの魔法を、アンタも使えるようにしたのよ。使い魔とのつながりがあれば、こんなこともできるってわけ」


「メリュジーヌさんの魔法を、僕が……?」


「まあでも、アタシが使うような魔法なんて、相当な魔力を消費するはずよ。ジャック、もともと見慣れない魔法をいくつも使えるだけあって、魔術師としての適性もかなりのものなんじゃない?」


 とんでもない魔法を僕も使えるようにしてしまうなんて、やはりメリュジーヌさんはとても凄い。

 そして、そんな魔法をあっさり使いこなしてしまった自分が恐ろしい。


「それで、追われてた誰かさんは助けられたの?」


「そ、そういえば……」


 ワイバーンをなんとかするのに必死で、逃げていた人のことを見失ってしまったらしい。


「すみません。逃げてくれたんですが、見失ってしまって……」


「まあ、損得勘定抜きで人助けをするってのは、実にアンタらしいわ。……やっぱり、あの師匠の影響かしら?」


 そう、かつて僕が冒険者に憧れるきっかけとなった『陽光と白銀の弓取り』は「冒険者ってのは人助けをしてなんぼ、報酬なんざ二の次だ」と言っていた。

 彼女の言葉は、今も僕の行動原理となっている。


「そうだ! 墜落したワイバーンを調べに行きましょう。周囲に危害を加えうるようなら放っておけませんし、あの人を追っていたのには理由があるのかもしれませんから」


 常に様々な事態を想定し、状況をよくするための行動をすることは、冒険者としては初歩的なことだ。


「よし、そうと決まればあの間抜けワイバーンを追うわよ! ほらビアンカ、とっとと走りなさい!」


「ウゥ……」


メリュジーヌさんに指図されたことが気に入らなかったのか、ビアンカは不満そうにうなっている。


「ビアンカ、文句言ってないで行くよ!」


 僕はビアンカを促すと、ワイバーンが落ちていった方角へ向かせる。

 僕とメリュジーヌさんとビアンカは、ワイバーンを探して木々の間を進んでいくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。