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上陸

 水不足が解消された後も、ドゥエイル王国第5艦隊はアヴァロニア大陸へと向けてまっすぐ進み続けていた。


「ん〜、清々しい朝ね。これで潮風がなきゃ最高なんだけど」


 マストの上で見張りをしていると、メリュジーヌさんが飛んできた。

 翼をはためかせながら、この前の真水精製機により作られた水を、ジョッキでグイグイと飲み干していく。


「メリーさん、それ気に入ってくれましたか?」


「ええ。あの狐が気にいるのもよくわかるわ。この水が飲めるんだったら、船旅も悪くないかもね」


 思えばあの真水精製機の存在に気付けたのは、サクヌッセンム先生のもとで魔法の修行に励んだことがきっかけだ。

 わずか半年ほどの修行ではあったけれど、それによって学んだ魔法のほとんどは、冒険者としての仕事に活かされている。

 そして今回、艦隊の水不足をなんとか解決することができた。


 もしサクヌッセンム先生と再開することができたら、今までのお礼をしなければならない。


「でも前の船、港まで持つのかしら? あれだけボロボロになって沈まないのが不思議なくらいだわ」


 確かにメリュジーヌさんの言う通り、主力となる5隻のガレオン船の損傷はひどい。

 特に旗艦であるサント・オルレアン号は、僕も一度見せてもらったけれどひどいものだった。

 クラーケンを退けたときと違い、再度襲撃を受けると耐えきれないだろう。


「また魔王軍の攻撃がないかが心配ですね……」


 このオマール号の担当は艦隊の後方警戒なので、特に後方に気を配らなければならない。

 今第5艦隊が進んでいるのは、アヴァロン洋でも西端のはずだ。

 ここからなら勇者連合の勢力下にある、ニューマルク港とニューヴィン港が近い。


「ま、何が来ようともアタシがいれば心配ないわ。あのバカガキと愉快な仲間達に比べたら、アタシの方がずっと強いもの!」


 そんな折、サント・オルレアン号のメインマストの上で、水夫が手旗信号を振っているのが見えた。


「あれ、手旗信号よね? なんて言ってるの?」


「ええと……。『前方にニューマルク港を視認。これより寄港する」


「えっ、マジで? やっと陸についたのね!」


 僕はマストの下で指揮をとっているシュルクフさんに呼びかける。


「サント・オルレアン号から手旗信号です! 前方にニューマルク港を視認、これより寄港すると!」


 それを聞いたシュルクフさんと船乗りの皆さんは、素早く寄港時の配置に変わる。


「野郎共、ようやく目的の港に到着だ! さっさと港に入る準備をしろ!」


 慌ただしく準備が始まる中、僕は水上と空中の監視を続ける。


「にしても、こっからじゃ見えないわね。アタシの目でも陸地が見えてこないわ」


「ここは艦隊の最後尾ですからね。もうちょっと近づかないと見えてこないかも……」


 そんなことを話しているうちに、水平線の下から緑の大地が見えてきた。


 ニューマルクを象徴する森林の木々と、海沿いに立つ港町の屋根が見える。

 港からはるか向こうに生い茂る森の木々が、港の開発のための伐採され、人の住む領域に侵食されつつある光景だ。


「ようやく港か。待ち侘びたぜ!」


 マストの上で作業をしていたアノーラさんも、まだ見ぬアヴァロニア大陸の大地に歓喜している様子だった。



 やがて、艦隊はニューマルクの港に入港する。

 港湾の中では大小いくつもの商船が停泊しており、第5艦隊は勇者連合軍のために空けられている区画へと入る。

 桟橋にとりつくと、すぐさま勇者パーティが下船する。


「お待ちしておりました! ドゥエイル王国勇者パーティの皆様方!」


 軍楽隊のマーチが演奏される中、ピエール様と勇者パーティの皆さんが悠々と降りてくる。

 ただ、チャチャさんだけはお出迎えが苦手なようで、オドオドとしている。


「あのバカガキ、あれだけ醜態重ねておいて、よくあれほどまでに威張れるわね」


 まあ、主力となるガレオン船は、どれも重症だし。

 多分、サント・オルレアン号をはじめとするガレオン船は、上陸が完了次第ドックで修理に入ることになるだろうな。


 続いて、上陸部隊の積荷が降りてくる。


「オラオラ、もたもたしてんじゃねえぞ! 名誉ある勇者パーティの荷物を運ばせてもらえることに感謝しろ!」


 セルゲイさんが仕切る中、ピエール様の愛馬マクシミリアン号が世話役に引っ張られて歩いてくる。

 旗艦の中で大人しくさせられていたせいか、あまり元気がないようだ。


「やっぱり狭い船ん中で大人しくさせられてたり、船が襲われたりしたもんだから元気がねぇみてぇだな。なんか可哀想になってくるぜ」


 アノーラさんは、マクシミリアン号の不調をすぐに見抜いたようだ。


「僕もマクシミリアンの世話はよくしていましたから、ちょっと心配ですね……」


 かつて勇者パーティにいたときは、マクシミリアン号と馬車を牽く軍馬の世話は、主にセルゲイさんと僕の役割だった。

 まあ、セルゲイさんはよく面倒だと言って、僕に仕事を押し付けて一人で戻ってしまうこともあったけれど。


「……また後で、ちょっと様子を見てきます」


 僕もビアンカがいるから、動物の体調は気になって仕方がない。


「ワン!」


 ビアンカが足下で元気に吠えて、マクシミリアンの方を向いている。


「うん、ビアンカも気になるよね」


「ジャックもお人好しだなぁ。ま、気になるんなら行ってこいよ。オレも邪魔が入らねぇように守ってやるからよ」


 アノーラさんは頼もしげに胸元を叩く。


「ありがとうございます、アノーラさん。いざというときはお願いしますね」



 上陸部隊が降りた後、僕らはニューマルクの街並みを満喫していた。


「ここの魚はアヴァロン洋で獲れた新鮮なものばかりだよ!」


「こっちはニューヴィンで日の光をいっぱい浴びて育った葡萄だよ! 今なら一房で銀貨4枚だ!」


 活気あふれる市場には、よりどりみどりな食料品が並ぶ。


「へえ……ずいぶんと賑やかなもんね。海の向こうって聞いてたからどんなもんかと思ってたけど、下手すればローラシアの市場よりでっかくない?」


 メリュジーヌさんは、とてつもない規模の港町に夢中になっている。


「ここは勇者連合側の勢力下にある港町でも、特に開発が進んでるところですからね」


 アヴァロニア大陸の各地には、この港以外でも、上陸してきた魔王軍と勇者連合とが入植してきた都市が、海沿いにいくつも乱立している。

 急激な都市開発は、新天地となるこの大陸で、魔王と勇者連合軍との勢力争いが激化していることの象徴だ。


「ねえねえ、次はどこ行く? アタシは美味しいものがあればなんでもいいんだけど」


「そうですね……。夕方にはまだ早いですし、この大陸で見つかった珍品の店とか……」


「じゃ、ジャックくん!」


 話していると、人混みをかき分けてチャチャさんが走ってきた。

 人に接触する度に、申し訳ないというようなジェスチャーを繰り返している。


「チャチャさん!……どうしたんですか?」


 そういえば、チャチャさんはこの前も勇者パーティの使い走りとして、僕のところに手紙を渡してくるよう言いつけられていたんだっけ。

 だとすると、勇者連合軍の動きに関することなのかも……。


「もしかして、ピエール様から何か?」


 息を切らせたチャチャさんは、コクコクと頷いた。


「ピエールから『龍の背』に呼び出しだ。ニューマルクに駐留する軍の作戦会議が始まるから戻ってこいと」

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