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メリュジーヌの想い

 夜になって、アタシとジャックとお師匠様はそれぞれベッドで寝ていた。

 ジャックのパーティ『龍の背』を結成した後、近くの宿屋に泊まることになったのだ。


 ジャックはアタシともお師匠様とも一緒に寝たがらないから、ビアンカと一緒にベッドにくるまっている。

 せっかくアタシを瓶から出してくれたんだから、もっと甘えてくれたっていいでしょうに……。


 アタシはこっそりジャックの寝顔を覗き込んでいた。

 もしビアンカに見つかったら、思いっきり吠えられそうだ。


「ジャック……」


 思い出すのは、この子の母親であるアイツのことだ。

 アイツのことを許す気はさらさらないけど、アイツのおかげでジャックと出会えたんだから、それでよしとしよう。



 昔は人間とも関わりがあったものの、アタシら龍人は人間とか他の種族とは常識が違うもんだから、すぐにトラブルに発展する。

 群れる種族じゃないから、集団生活というものができない。嘘がつけないから、いらないことを言ってトラブルになる。龍だから、人間のような感性が理解できない……。


 かつては、仲良くなったお姫様もいた。

 でも、あのお姫様はアタシが人間とは異なるものだということを理解せず、無理矢理人間の常識に押し込もうとし続けた。

 結局、上手くいかないことに腹を立てたあの子は、アタシを化け物呼ばわりした。

 それ以来、アタシは「人間っていうのは相容れないものだ」と開き直って、気の赴くままに暴れるようになった。


 腹が減ったら、その辺をうろついてるヤツから荷物を奪ったり、ケンカを売られたら、全員再起不能にしたり、しつこく言い寄ってくる男がいたら、容赦なく殴り飛ばしたり……。

 あのころのアタシは、とことん荒れていた。


 そんなことばかりやってたもんだから、アタシは追われる身となった。

 あの頃にアタシには、アタシを追ってくる冒険者や兵士との戦いも余興に過ぎなかった。

 何十人、いや何百人に取り囲まれても、蹴散らしていくつもりでいた。


 でも、アタシはたった二人の冒険者に敗れた。

 絵に描いたような絶世の美女と、ずいぶんと逞しい男との二人組に、アタシは瓶の中に封印されてしまった。


 あの二人は『メリュジーヌは我々に敗れて改心した』というデタラメを吹聴し始めたものだから、アタシは瓶の中で怒り狂わざるをえなかった。

 でも、あのアバズレはアタシに『貴女にはまだやってほしいことがあるから』と言って使い魔契約を行った。


 やがて、あのアバズレは連れの男を失った。

 そして、アイツのお腹の中には、その男との赤ん坊がいた。


 あのアバズレにも色々事情というものがあって、身重の身体で僻地まで逃げて、そこでひっそりと男の子を産んだ。

 アイツはその子に『ジャック』と名付けて、孤児院に預けた。


 そして、使い魔であるアタシはジャックに譲渡された。


 ジャックはどうも母親に似てしまったようで、アイツに「どうしても堪えられないことがあったら開けなさい」と言われていたのに、意地でもアタシを頼ろうとしない。

 魔物に追いかけ回されたときも、金がなくて飢え死にしそうになったときも、あの勇者なんて大そうな肩書きのバカガキにいじめられていたときも……。

 アタシもジャックのことは気に入っていたもんだから、瓶をブチ破って助けに行けないことが悔しかった。


 そんなジャックも、あのペルーダに追い詰められて絶体絶命のところで、アタシの封印を解いた。

 これからは、胸元から見ているだけじゃない。アタシの手でジャックを助けてあげられることが嬉しかった。


 ジャックとの楽しい旅を送っている最中、ジャックを追い出したバカガキ共が、戦で敗けたっていう噂が流れてきた。

 当たり前だと思う一方、なぜかアタシはアイツらが敗けたことが嬉しかった。


 アタシは、自分がおかしくなったんじゃないかと思った。

 龍人は人間とは感性が全く違っていて、それこそ『他人の不幸は蜜の味』とでも言うような感覚は持ち合わせてはいない。

 でも、困惑したままのジャックの顔を見て、この気持ちの正体がわかった。


 ジャックがどれだけ役に立ってきたか証明されたのが嬉しかったのだ。


 どんなに苦しくても、自分の力で困難を乗り越えようとする。

 いついかなるときでも、損得勘定抜きで誰かを助ける。

 ……まあ、そういうところはお師匠様の影響もあるんだろうけど。


 この子が報われることこそが、アタシの喜びだ。


 そして、そんなジャックを守ろうとして、実はアタシの方がジャックに守られていた。

 なにしろアタシみたいな厄介者でも、上手くやっていけるよう機転を利かせてくれているのだから、何度助けられたかわかったもんじゃない。

 この子みたいなヤツ、今まで出会ってきたヤツらにはいなかった。


 アタシはジャックのずれた毛布をかけ直す。


「ジャック……大好き」


 そう囁きかけると、そっと自分のベッドに戻る。

 ジャックがパーティ名の『龍の背』に込めた思いの通り、この子を背に乗せて夢まで運んでいこう。

 あのアバズレに命じられたからじゃない。アタシが好きでジャックと一緒にいるんだ。

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