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勇者パーティの入城

 昼のデュランダル城は、ドゥエイル王国勇者パーティ帰還の知らせを受けて慌ただしくなっていた。


 勇者は各国を束ねる勇者連合と、その国を束ねる国家元首に選ばれた代表だ。

 そんな勇者パーティが帰ってきて、歓迎しない者はそういない。

 国中の人々が憧れる勇者を一目拝見しようと、大勢の市民が集まってきていた

 しかし、デュランダル城の中では、それとは違う雰囲気が漂っていた。


「お、おい、聞いたか? 勇者様が戦線から帰還したそうだ!」


「馬鹿な!? 確かに魔王軍に苦戦しているとは聞いていたが……」


 勇者パーティは、各国から選ばれた勇者の権限として、パーティのみのときは自由な行動を許されている。

 しかし、意味もなく本国に帰還するというのは、よほどの被害かトラブルによるものという認識が強い。

 何も知らない民ならともかく、城に仕える者達は様々な可能性を考えた。


 パーティメンバーの誰かが戦死したのか?

 それとも、誰か手足を失ったりでもしたのか?


 そんな不安を抱えた上層部をよそに、勇者パーティはデュランダル城の門前までやってきた。

 まず、愛馬のマクシリミアン号に跨ったピエールが前に出て、門の上に立つ大臣へと呼びかける。


「ドゥエイル王国の勇者ピエール・ペガソスだ! 国王陛下にご挨拶申し上げたい!」


 立派な馬車から出てきた勇者パーティは、ジャックという平民出身の子供がいないことを除いては、全員無傷で戻ってきたようだった。


 デュランダル城の兵士らは、その様子に安堵した。

 同時に、不甲斐ない勇者パーティに対する怒りもわいてくる。


 確かに勇者パーティは、パーティメンバーのみで行動しているときは、ある程度裁量の自由を許されている。

 それは、勇者連合を設立した『最初の勇者』が「勇者は自由な行動を取ることができるようにしてほしい」と提案したからと言われている。


 だが、素行の悪さを勇者だからという理由で見逃されてきた上に、ろくな成果もあげられず帰還したことに、何の後ろめたさも感じていないのだろうか?


 謁見の準備が整った後、ピエール率いる勇者パーティは謁見の間に招かれた。


「……よくぞ戻ってきた。我が国の勇者ピエールと、そのパーティの者達よ」


 玉座に腰掛ける国王ルイ・デュランダルは、しわだらけの頑固そうな顔をピエールへと向けた。


 最初、ピエールは国王からお叱りを受けることを恐れて冷や汗を浮かべていたが、そうではないと考えたのか、口元にニヤリと笑みを浮かべている。


「は。再び陛下のお目にかかることができ、光栄の極みにございます!」


 深々と膝をつくピエールは、仰々しく国王に挨拶をする。

 ピエールの後ろには、彼とは違って顔色が悪いセルゲイ、相変わらずの無表情なロンド、ピエールと同様に反省の色が見えないマグナ、それとは違う理由で気まずそうなチャチャが並んでいる。


「……それにしても、我が娘マリアンヌが推薦した冒険者が見当たらないようだが?」


 国王は、この国の勇者パーティの一員であるジャックがいないことから、戦死の可能性を懸念していた。


「実はそのことなのですが、先日、あの卑しい少年をパーティから除名したのです」


 ピエールは堂々とした様子で、ジャックを除名したことを告げる。

 それはジャックを連れ戻すために帰ってきたことはともかく、それ自体は・・・・・いいことをしたという顔だった。


「……なぜ除名した? 申してみよ」


「は。かねてより我がパーティ、そして勇者連合軍におきましては、高貴な勇者パーティに卑しい冒険者が紛れていることに、不満の声が聞かれておりました。このままでは我らドゥエイル王国勇者パーティの沽券にも関わると考え、あの卑しい少年を除名致しました」


 国王の顔には怒りの色が浮かんでいたが、ピエールは全くそれに気がついていない。


「ただまあ、我々も少々言いすぎたと思いまして、ジャックをパーティに呼び戻そうと考えていたのです。道中で聞けば、どうもあやつはここデュランダルに戻ったとか……。あやつを呼び戻し次第、再び戦線へと戻り、必ずや……」


「黙れ、大馬鹿者が!!」


 国王に雷を落とされ、ピエールは親に叱られた悪童のごとく震え上がった。


「なんのために娘があの少年を推薦したと思っておる!? 勇者パーティの一員となるに値する実力を買ったからであるぞ! それを卑しい出自だからと除名するとは何事か!? そのようなことをしたから、魔王軍に敗北を喫したのではないのか!!」


 国王のあまりの剣幕に、パーティの全員がたじろいでいる。

 その中で、マグナはピエールの前に出て抗議する。


「お待ちください、陛下! ピエールは何も悪いことはしておりません。不和を招くジャックを追い出したことを、褒められこそすれど非難されるいわれはございませんわ!」


「マグナ殿……バベル教国から遣わされたそなたならおわかりであろう。勇者パーティは『最初の勇者』の遺言に従い、他国の者はもちろんのこと、いかなる種族や身分の違いをも問わず、優秀な者だけを入れるものだということが……」


 国王からの指摘に、マグナは黙り込んでしまう。

 事実として、ドゥエイル王国勇者パーティのメンバーは、ピエール以外の全員が他国の出身だ。


「にもかかわらず、出自を理由にメンバーを除名したことは、我が国にとっても、無論そなたら勇者パーティにとっても不名誉極まりないことだ!」


 勇者連合を創設した『最初の勇者』は、魔王との戦いの中でこの世界を去るまでに、新たな価値観をいくつももたらした。

 その影響を受けた勇者連合は、勇者パーティのメンバーの条件に『いかなる種族や身分の違いをも問わない』という条件をつけた。

 奇しくもその考え方は、冒険者ギルドの『いかなる種族の違い、身分の貴賎も意味をなさない』という原則と酷似していた。

 そんな勇者パーティを辞めさせられる者がいるとするならば、本来なら魔王軍などへの利敵行為を働いたか、悪意をもってパーティや国に損害をもたらしたか(あるいはそれらを計画しているか)ぐらいだ。


「して、ピエール。貴様はジャックを呼び戻すと言っておったな?」


「は、はい」


「本来なら、追い出しておいて呼び戻すなど身勝手なことだが、余もジャックが必要なことは重々承知しておる。あやつを探し、必ずやパーティに連れ戻して参れ。……直に会って呼び戻すまで、代わりの人材を紹介することはもちろん、再び城に戻ることが叶うと思うな!」


「は、ははっ!」


 恐怖のあまり、ピエールは頭を深々と下げていた。



 ピエールは城下町の大通りで、俯いたまま石ころを蹴り飛ばした。


「くそっ……なんで俺が陛下のお叱りを受けねばならない……。ジャックごときが、国王陛下に庇われる価値があるとでもいうのか……?」


 ピエールは、代々優秀な騎士を輩出してきたペガソス家の長男で、ドゥエイル王国の近衛騎士『パラディン』の一員だ。

 彼にとって、敬愛する国王が卑しい立場のジャックを庇うこと自体、ありえないことだった。


「……少し落ち着いたらどうだ、ピエール。周りの民も驚いているぞ」


 見かねたチャチャが、そっとパーティを率いる勇者を嗜める。


 ピエールは、都の淑女なら誰しもためいきをつく美男子だ。

 そんな彼が怒りに顔を歪めているものだから、市民は何事かと戸惑うばかりだ。


「しかし、困ったものだ……。花と剣の都は広く、どこにジャックがいるのかもわからない。それに、もうここを出ている可能性も考えられる……」


 オブライエンが、都の景色を眺めながら懸念を口にする。

 事実、花と剣の都デュランダルは、西ローラシアでも有数の大都市だ。

 この中からジャックを探し出すのは、相当に骨が折れそうだった。


「いっそ、ここの冒険者ギルドに問い詰めてみるか? あんときのミスリルの鎖帷子を盗み出した冒険者のこともある。俺らが勇者パーティだと知れば、ギルドの奴らも……」


 途端、セルゲイは足を止める。


「どうした、セルゲイ?」


「いや……あれ見ろよ」


 探していた冒険者の少年が、自ら勇者パーティの前に出てきた。

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