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ペルーダ

 フェルニゲシュ鉱山ダンジョンは、この地でも1、2を争う強さの黒竜フェルニゲシュが住まうとされる場所だ。

 様々な鉱物が採れる鉱山を登っていくと、やがてフェルニゲシュが住まう城へとたどり着くといわれている。


「よし、気づかれていないな……」


 岩陰に身を隠しつつ、採掘場を行き来する魔物の群れへと注意を向ける。

 諸事情で覚えた魔法『エーテル・レーダー』を使えば、ダンジョン内でも魔物の位置を把握することは容易い。


 ここの採掘場をうろついているのは、最弱の魔物のひとつ『ミジン』だ。

 屋根上の甲羅に覆われた身体に、前面の巨大な一つ目と太い一本足がついているという、いつ見ても奇妙な外観の生き物だ。

 個々の戦闘能力はてんで弱いが、大群を作っているときは数の暴力が脅威となる。

 奴らが魔物の集団攻撃『大暴走スタンピード』を起こすと、付近の町や村を襲い、家も人も食べ尽くす。


「ビアンカ、これを投げ込んで混乱したところを狙うよ。危ないから合図するまで出ないでね」


 僕は壺型の爆弾を、ミジンの群れのど真ん中へ転がす。

 突然の爆発に、何体かが呆気なく吹き飛ばされた。


「行くよ、ビアンカ!」


 更に、僕は岩陰から飛び出し、腰のホルスターに納めていた銃を抜く。

 引き金を引くと、氷の魔法『アイシクル・ジャベリン』が飛んでいき、ミジンの1体を貫通した。


 これは、『マギ・ピストル』という新型の武器だ。

 魔王軍が保有していた銃器のひとつで、火薬により鉛玉を発射するものではなく、マギ・バレットという魔法陣を刻んだ弾丸により、魔法を発射するというものだ。

 勇者パーティにいたときに鹵獲したものを、ピエール様の『興味がない』という一言で僕の持ち物になった(そのため、返さなくてもよかった)。


 ミジンはパニックに陥り、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 でも、後続の冒険者のために、1体でも多くの魔物を倒しておくことも大事だ。


「逃がさない!」


 逃げ出すミジンの背へ向けて、更に魔法を発砲する。

 5発のアイシクル・ジャベリンがそれぞれミジンに命中し、動きを止める。


 中の『マギ・バレット』を使い果たすと、回転する弾倉の中に別の魔法を装填する。

 一部のミジンが逃げきれないと思ったのか、僕の方へと向かってきたからだ。


「ビアンカ、下がってて」


 僕の指示を聞くと、ビアンカはそっと僕の後ろへと隠れる。


「くらえ!」


 マギ・ピストルの銃口から、今度は大威力の炎魔法『ファイアーストーム』が発射された。

 荒れ狂う炎の塊が、ミジンの群れを次々に焼き払っていく。

 やがて炎が弱まる頃には、ミジンは一匹もいなくなっていた。


「……ふぅ。だいぶなまってるな」


 やはり、勇者パーティでは後方支援に徹していたせいもあって、以前よりも手間取ってしまった。

 冒険者として復帰した僕の課題は、ソロでの戦闘のカンを取り戻していくことになるだろう。


「ビアンカもよくやったね。ほら、これ」


 手伝ってくれたビアンカへのご褒美に、異次元空間から取り出した干し肉をあげる。

 これも諸事情で覚えた、異次元空間に持ち物をしまう魔法『アイテムボックス』……正式名称『ボックス・オブ・マルチディメンションズ』だ。


「さて、早速採掘を始めよう」


 採掘場からミジンを追い払ったことで、安全に採掘をできるようになった。

 この一帯は結晶が剥き出しになっていて、辺り一面をキラキラと彩っている。


「仮にも石級ストーンの冒険者になった僕が、玉級クリスタルの象徴である水晶に触れられるなんてね……」


 皮肉な納品対象に苦笑しつつ、僕は水晶をツルハシで、できるだけ傷をつけずに回収していく。

 それらを整理すると、アイテムボックス内にしまっていく。


「そういえば、あの人は元気かな……」


 かつて、僕が孤児院を出る前に出会った、凄腕の冒険者『陽光と白銀の弓取り』。

 あの素晴らしい冒険者の背中に憧れて、僕もいつかこの人のようになりたいと願った。

 結局、冒険者になってからも再開することなく、時折風の噂が聞こえてくるばかりだ。

 もし彼女に会えたのなら、冒険者として肩を並べて仕事をしたい。


 そんな思い出にふけっていると、急にビアンカにマントの裾を引っ張られた。


「どうしたの、ビアンカ……いや、これは……」


 ビアンカは主に嗅覚を活かして、接近しつつある危険をいち早く察知する能力がある。

 こういうときは、僕のレーダーでも見つけられなかった、何か危険なものが近づいてきているときだ。


「よし、一旦この水晶を持って……」


 ここを立ち去ろうと考えたところで、壁の向こうから激しい地響きが聞こえ、そこから一気に崩れてきた。


「うわああああぁぁぁっ!?」


 その大穴から現れたのは、青緑の体色が特徴的なドラゴンだった。

 壁越しに出てきた相手なら、レーダーが意味をなさないのも当然だ。


「そんな……ペルーダ!?」


 ライオンのようなたてがみと装甲に覆われた巨体を持ち、毒を持つ棘と火炎のブレスを主な武器とする。

 鞭のような長い尻尾も十分な脅威だ。


 こんな敵に出くわしてしまっては、ノルマの達成は諦めて脱出するしかない。

 目先の欲に駆られて命を落とすなんて、冒険者として失格だ。


「逃げよう、ビアンカ––」


 言い終える前に、ペルーダは尻尾を振り下ろした。


「うわっ!?」


 寸でのところでかわすものの、ビアンカと引き離されてしまった。

 でも、ビアンカの方も上手くよけたみたいだ。


「び、ビアンカ! 僕のことはいいからこのまま逃げろ!」


 ビアンカに呼びかけながら、僕はマギ・ピストルをペルーダへと向ける。

 少しでも隙を生もうと、惜しみなく風の魔法『トルネード』を発射する。


 しかし、さすがは竜だけあって、大威力の魔法も装甲に弾き返されてしまう。


「そんな……」


 唖然としている僕へと、ペルーダは再度首を持ち上げる。

 その鋭い牙につかまれまいと、僕は身を転がしてよけた。


 だが、その拍子にペルーダが壁に激突したことで、水晶に覆われた壁の一部が崩れ出した。

 更に悪いことに、僕の足元にも無数のヒビが生じていく。


 案の定、この採掘場の床が崩れてしまった。


「だ、ダメだ……わああああぁぁぁぁぁぁーーー……!」


 落ちていく中、僕を見下ろすビアンカと、一緒に落ちていくペルーダが視界に映っていた。

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