ジョルジュ
日が暮れる頃、僕らは花と剣の都デュランダルの宿屋に入った。
今はメリュジーヌさんとアノーラさんだけではなく、かつてパーティを組んだことがあるジョルジュさんも一緒だ。
「……ぷはぁ、生き返るだ」
相当喉が渇いていたのか、皮袋の水を一気に飲み干した。
「……しっかし、そこの龍人さん……メリーさんだっけか? ジャックが困ってたときに助けてくれたみてえだな。本当ありがとな!」
「当たり前じゃない。なにせジャックはアタシのご主人様なんだから!」
ジョルジュさんは龍人である「メリーさん」ことメリュジーヌさんを珍しがっていたけど、落ち着くと普通に話ができるようになった。
「あと、そこのダークエルフさんは『陽光と白銀の弓取り』っていう冒険者だろ? 噂に聞いたことはあったけど、まさかジャックと一緒にいたなんてな……」
それに、ジョルジュさんは有名な冒険者のアノーラさんを見て、僕と行動を共にしていたことに驚いていたみたいだ。
まあ、僕みたいな弱い冒険者だと釣り合わないよな……。
「こんな出来のいい弟子ができちまった以上、見守るのは師匠として当然だからな!」
アノーラさんにそう言っていただけると、冒険者になって本当によかったと思える。
「……それで、ジョルジュさん。ピエール様のパーティにいたってどういうことですか? しかも、僕が返却したはずのそれを……」
僕は、暗にジョルジュさんのリュックの中に入っているものを指して訊ねる。
「……実はオラ、ミドガルド帝国で働いてたときに、うちの勇者様からお声がかかっただ。なんでもパーティの一員が辞めたから、代わりにオラを雇いたいって」
それはもちろん、僕がピエール様に除名されたときのことだろう。
「やっぱりアイツ、本物のバカガキだわ。こんな弱そうなモジャモジャ頭に、ジャックの代わりが務まるわけないじゃない」
「め、メリーさん、そんなこと言わないでください!」
「でもよ、勇者様とパーティの皆様方は、オラに無理難題ばかり求めてきただ。荷物持ちと斥候の両方をやれって大量の荷物を押し付けたりよ。しかも、前にパーティに入ってたジャックが『何もないところに物をしまう魔法』ってのを持ってたっつって、オラにも使えなんて言ってきただ。更にひどいって思ったのが、魔術師のロンド様も聖女のマグナ様も、それが子供でも使える簡単な魔法だって思ってたことだ。……あの調子だと、ジャックは他にも見たことねえ魔法を持ってるだよな?」
もしかして、それは『ボックス・オブ・マルチディメンションズ』のことか?
でも、僕は決してあの魔術が「一般的に普及しているもの」と説明したことはない。
「あと、軍師のセルゲイ様によく殴られててよ、本当に痛かっただ。しかも怒ったピエール様に殺されそうになって、無我夢中で逃げてきちまっただよ。そんで気がついたらオラ、これを着たまま逃げたせいで、勇者様にお尋ね者にされちまってただ!」
そう言って、ジョルジュさんは泣きながらリュックを見せてきた。
その中には、やはりミスリルの鎖帷子が輝いている。
「ピエールって奴ならやりかねねぇな。ジャックほどの成果が上がらねぇもんだから当たり散らした……なんて言われたら納得しかできねぇ。しかも、他のメンバーも大して変わらねぇときやがる」
「でも、東国の獣人のチャチャ様はひどくなかっただ。オラが殴られてたときも庇ってくれただよ」
確かに、僕もチャチャさんによく庇われていた。
あの人は、常日頃から弱い者には優しかったな。
「……やっぱりオラはおしまいだぁ。勇者様んところで働けるって浮かれて、ピエール様とセルゲイ様に言われるまんま冒険者も辞めちまっただ。今まで頑張って銀級にのし上がってきたのに……。しかも勇者連合と教会のお尋ね者になっちまって、どこにも逃げる場所なんてねぇだ!」
ジョルジュさんはテーブルに突っ伏して泣き崩れてしまう。
僕もアルビオンの出身だし、このドゥエイル王国とマリアンヌ殿下にも恩があるという意味では、勇者連合側の人間だ。
であれば、勇者連合が指名手配しているジョルジュさんを捕まえる義務がある。
でも、それは間違っていると思った。
僕がされている分には大して気にしなかったけど、ジョルジュさんに対しての仕打ちには憤りを覚えざるを得なかった。
だとすれば、ジョルジュさんを助ける方法は……。
「……ジョルジュさん、知っているとは思いますが、僕はジョルジュさんが勇者パーティに加入する前、勇者パーティの一員でした。それに、第二王女マリアンヌ殿下など、勇者連合に顔が利く人ともつながりがあります」
僕がマリアンヌ殿下とのつながりを明かすと、ジョルジュさんは目を丸くしていた。
「ですので、僕から勇者連合の関係者に、ジョルジュさんへの恩赦をいただけないか相談してみます。もし上手くいけば、ジョルジュさんを無罪にできるはずです」
「……ほ、本当だか、ジャック!?」
ジョルジュさんは身を乗り上げて、僕に縋り付くような視線を向ける。
「まず、そのリュックの中身は僕が預かります。ジョルジュさんの恩赦を得るには、それを返却する必要がありますから」
「お、おう、もちろんだ!」
ジョルジュさんはリュックごとミスリルの鎖帷子を渡してくる。
「それから、恩赦をいただけるまで指定したところに身を隠していてください。幸いなことに、ここデュランダルにも味方になってくれそうな人がいます」
冒険者だった頃、ここデュランダルの貧民街で寝泊まりしていたけど、そのときにお世話になった人がいる。
ならず者を率いる人だけど、だからこそ勇者連合の名に屈することなくジョルジュさんを匿ってくれるだろう。
「……かたじけねえ。ジャック、恩に着るだ!」
ジョルジュさんに手を握られながら、僕はピエール様との直接の話し合いを行う可能性も念頭に置いていた。
僕とドゥエイル勇者パーティの皆様との力量差は明確だ。
ピエール様への交渉材料は少ないし、場合によっては叩きのめされてしまうかもしれない。
でも、今の僕にはメリュジーヌさんとアノーラさんがいる。
「あの、メリーさん、アノーラさん……」
「わかってるわよ。ジャックを守るのがアタシの役目だものね」
「あたりめぇだ。弟子のおめぇを守らなかったら、金級冒険者の名が廃るぜ。……それに、同じ冒険者にひでぇ扱いをするようなパーティなんざ、野放しにしちゃおけねぇからな!」
頼もしいお二人がついていれば、きっと大丈夫だろう。
「それでは、さっそくあの人への手紙を書いておきます。それから明日、マリアンヌ殿下に会いに行って勇者連合への交渉を持ちかけられないかを相談しないといけません」
つい先日デュランダル城にあがったばかりだけど、元勇者パーティの一員であることも、王女殿下の関係者であることも周知されているはずだ。
「それじゃオラ、ここん宿で部屋をとってくるだよ。ジャックとお二人の邪魔しちゃ悪いかんな」
ジョルジュさんの指摘に、思わず椅子から転げ落ちてしまう。
「なっ……!?」
「ちょ、ちょっと待てよ! オレとジャックはそんな関係じゃねぇって!」
アノーラさんも、頬を赤らめて戸惑っている様子だった。
「へぇ〜、見直したわ。意外と見る目があるじゃない」
なぜかメリュジーヌさんは、ジョルジュさんの指摘を肯定している。
「なんでそうなるんですか!?」
「前からジャックは将来女にモテそうだと思ってただよ。思ったより早かったがよ」
「だから違いますって!」
でも、こんな軽口が言えるのであれば、ジョルジュさんも安心できたということだろう。
僕も期待に応えて、勇者連合から恩赦を引き出せるよう頑張ろう。




