海星に願いを
星空が輝く静かな夜。
イルカたちは水面から顔を出して空を見上げていました。
「今夜はふたご座流星群が流れるんだって。さっき小舟に乗った漁師さんが話していたよ。」
「楽しみだな! ぼく、お願い事するよ。」
「私も!」
イルカたちはいつも海にやってくる人間たちの話を聞いています。
人間が流れ星にお願いをするという話も。
「あ、流れ星!」
夜空に光の尾を引きながら、イルカたちの上をたくさんの流星が流れ始めました。
「高くジャンプできるようになりますように!」
「シロイルカさんみたいにきれいな声で歌えますように。」
「ぼくは、えっと…、ジンベエザメさんと仲良くなれますように!」
イルカたちはみな、流れ星に願い事を唱えました。
それからじっと夜空を見上げていましたが、一匹の子イルカが水面から顔を出すことに疲れて海に潜りました。
子イルカはしばらく海の中を散歩すると、驚いた様子で戻ってきました。
「今、海の中でも星が流れたよ!」
話を聞いて、他のイルカたちも水面に目を降ろしました。
それからしばらくの間、海の中を流れる星の影を不思議そうに見つめていました。
◇ ◇ ◇
ある波が穏やかな日の昼下がり。
海の底の珊瑚村ではヒトデたちが集まってお話をしていました。
「今日は何をして遊ぼうか?」
「鬼ごっこがいいな。ぼく、前よりも足が速くなったんだ!」
「私もやるー。」
「何? オニヒトデごっこ?」
「鬼ごっこだって!」
「あらあら、子供たちは本当に元気がいいわねぇ。」
ヒトデたちは泳げません。
それでも、海の底を走り回ったり、お話したり、みんなで楽しい日々を過ごしていました。
子ヒトデたちが遊び疲れて休んでいた時、突然お日さまの光がさえぎられて、辺りが暗くなりました。
見上げると、水面をイルカたちの群れが優雅に通り過ぎていきました。
ぽつりと、一匹の子ヒトデが言いました。
「ぼくもあんな風に海の中を泳げたら、もっと楽しいだろうなー。」
「そうねー。でもそれは無理よ。私たちにはヒレもないし、こんな形だし。」
大人のヒトデは5本の腕をくねくねと動かしながら言いました。
仲間のヒトデたちもみんな頷いています。
それでも子ヒトデは諦めませんでした。
「ぼくたちだってきっと泳げるはずだ! ぼく、練習する!」
それから、子ヒトデは毎日泳ぐ練習をしました。
仲間のヒトデたちもはじめは黙って見ていましたが、子ヒトデが一生懸命練習する姿を見て、少しずつ一緒に練習するようになりました。
ヒトデたちは来る日も来る日も集まって練習しました。
そのうちに、ヒトデたちは5本の腕を上手に動かしてふわふわと浮けるようになりました。
「わあ、ぼくたち浮いてるよ!」
「地面に足がつかないのって、変な感じだなあ。」
「うわっ、波に流されるー!」
初めての感覚が楽しくて、ヒトデたちは笑い合いました。
浮くことに慣れると、今度は他の生き物の泳ぎ方を観察して、波に負けずに泳ぐ練習をしました。
子ヒトデが立派な大人になるころ、ヒトデたちはついにすいすいと泳げるようになりました。
「すごいぞ。俺たちだって、努力をすれば泳げるんだ!」
「泳ぐって気持ちがいいなあ。」
「私たちどこへでも行けるね!」
ヒトデたちは嬉しくて、たくさんの村へ泳いで行くようになりました。
◇
ヒトデたちが昆布村を泳いでいた時、ウニの親子の話し声が聞こえてきました。
「父ちゃん、あれ、何だろう。」
ウニの子供は、水面に見慣れない形の影を見つけて言いました。
「あれはきっと噂で聞いた珊瑚村のヒトデたちだ。俺たちと一緒でヒトデは泳げないものと思っていたが、努力すれば泳げるようになるんだなあ。」
「へえ! すごいなあ。ぼくも泳げるようになりたいなあ。」
ウニの子供は通り過ぎていくヒトデたちに向かって大きな声で言いました。
「ぼくもヒトデさんたちみたいに泳げるようになるんだ。ぼく頑張るからね! また来てね、ヒトデさん!」
ヒトデたちはウニの子供の元気な声を聞いて嬉しくなりました。
「ぼくたちが泳げない海の底の生き物たちを元気づけようよ!」
「うん。努力すれば願いが叶うんだってこと、他のみんなにも教えてあげよう。」
それからヒトデたちは、海の底の生き物たちに夢を与えるために泳ぐことにしました。
泳ぎながら海の底を見下ろして、困っている生き物がいれば助けに行きました。
そして他の生き物たちにも泳ぎ方を教えました。
するとたちまち、ヒトデたちは海の人気者になりました。
クラゲたちはヒトデたちとすれ違うと七色に光って喜びました。
イソギンチャクたちはヒトデたちが上を通ると嬉しそうに手を振りました。
そして海の底の生き物たちは、ヒトデたちに向かって願い事を唱えるようになりました。
ヒトデたちが泳げたように、いつか自分たちの夢も叶いますように……と。
◇ ◇ ◇
星空が輝く静かな夜。
海の底の沈没船村では、カニたちが星明りに照らされた広場でお話をしていました。
「今日はヒトデさんたちがぼくらの村に来るんだって! クマノミさんの噂話で聞いたよ!」
「やったー! 私お願い事しないと!」
話を聞いた他のカニたちも岩陰から集まってきました。
カニたちはみなで寄り添って水面を見上げました。
「あ、ヒトデさんが来た!」
一匹のカニが声を上げました。
するとたちまち、たくさんのヒトデたちが泡の尾を引いて水面を通り過ぎていきました。
「私の子供たちが元気に立派に育ちますように。」
「モデル歩きができるようになりますように!」
「ぼくは…かっこいいエビさんと仲良くなりたい!」
カニたちは海の中を流れる星の影を、楽しそうに見つめていました。
人間が流れ星に願っているころ、海の中の生き物たちは別のお星さまに願いを託しているのかもしれませんね。