小学校二年生までに習う漢字使用〜ゆめわたり
ゆめわたり
星野☆明美
ぼくはゆめわたり。いろんなゆめをわたり歩いている。人のゆめだけじゃないぜ。
野にさくバラやカナブンのゆめだって見たことがある。どれもこれもどくとくで、生きているいっしゅんを切りとったものばかり。楽しいもの、こわいもの、かなしいもの、ぼんやりしたもの、せん明なもの、数えあげたらきりがない。
そんなぼくは、ある日、時空わたりのデルムントと出会った。
せかいじゅの森でかれはどこからか水をとりだしてふたばのなえにかけていた。
「どうしてそんなことができるの?」
「さあねえ」
白いシルクハットと白いえんびふく。ふくのすそにはいろとりどりの石がぬいとられていた。
「ぼくはゆめわたり。あなたはだれ?」
「デルムント。時空わたりさ」
「これはだれかのゆめなの?たとえばデルムントの見てるゆめだとか?」
「そうだなあ、しいていえばせかいじゅの見ているゆめかもしれない」
ざわざわ。
きょだいな木のこずえが風にさわいだ。
「あれは、なんでわかるんだーっていってるのさ」
ぼくはくすくすわらった。
「水は遠くのみずうみからひきよせてきてるんだ」
そう言って、デルムントは水をたっぷりかけおえると、手をぱんぱんとたたいた。
気のせいかふたばのなえはしゃっきりとせをのばした。
「さて、お話をひとつふたつ」
「お話?」
「しらないのかい?せかいじゅはいろんなお話を聞いてそだつんだよ」
「しらなかったよ」
「じゃあ、はじめよう」
だい一話☆タイムマシン
「ない。ないわ!」
ユリコはへや中くまなくさがしたのだが、目てきのものがみつからなかった。
けっこんゆびわがない!
今日は五年目のけっこん記ねん日。夕方にはよやくしたレストランでおっとと食じするやくそくをしていた。ゆびわをなくしたなんてしれたら、りこんのききだ。
赤いルビーのゆびわ。7月生まれのユリコのたんじょう石。おっとがとくちゅうでつくらせたゆびわだから、せかいに一つしかない。
「タイムマシンはあなたの人生をかえる。いいみ来もわるいみ来もあなたしだい。さあ、タイムマシンにのってみ来へ」
テレビからタイムマシンのCMがながれていた。いつもだったらユリコははなでわらいとばすのに、今日だけはちがった。
「ゆびわをとりもどしにかこへいこう!」
ちょ金をおろしてなりふりかまわずタイムマシンかぶしき会社へいそいだ。
「かこへは何をしにいくのですか?」
「なくしものをさがしに」
「かこの自分とあってはいけません」
「だいじょうぶです」
「かこをかえてもいけません。なにがおこるかわからないからです」
「わかりました」
金色のカタツムリがたのタイムマシン。のりこんでみどりのガラスのふたをしめる。
赤いレバーを引いて、かこへ。
出げん先は自たくのにわ。
あの日ユリコふうふはりょ行にいっていた。家にはだれもいない。ポケットから家のキーをとりだすと、ドアをあける。
自室のつくえの上。ほう石ばこをひらく。
「あった!」
ピジョンブラッドという色のルビー。さい高きゅうのほう石。
ユリコはゆびわを手にとり、左手のくすりゆびにはめた。
もう、手ばなしたりしない!なくすくらいなら、このままみらいへもち帰ろう。
かこをかえてはいけませんといわれたけれど、きっとだいじょうぶ。
ほう石ばこをもとにもどして、いっこくも早くみらいへもどろうとあせった。
タイムマシンにのりこんで、なにもへまをしていないと思いながら赤いレバーをおした。もといた時間へ。
「それはなんですか?」
「わたしのけっこんゆびわです」
タイムマシンかぶしき会社の人たちが言うには、わたしがゆびわをもち帰ったせいでかこの時間にゆびわがそんざいしなくなる、つまりゆびわがなくなったのはわたしのせいだと。
なんてこと!
だけど、今日のけっこん記ねん日の夕食にはまにあった。
まく間☆ゆめわたりとデルムント
「タイムマシンをつかわなかったらゆびわもなくならなかったの?」
「いや、せかいはきんこうをたもとうとするから、ありのままうけいれるべきだろう」
「たまごがさきかにわとりか」
「そういうことさ」
せかいじゅのなえが大きくなっていた。
「お話のえいようをきゅうしゅうして大きくなるんだね」
「つぎは何を話そうか」
「ぼくにもいろんなお話があるよ。デルムントのお話がつきたらぼくが話そうか?」
「それもいいね。どんなのがある?」
だい二話☆こんぺいとう
おさない時、だがしやでこんぺいとうを買ってもらった。
赤や黄色やみどりのさとうでできたお星さま。もったいなくて食べれなかった。
「ふしぎな形だよね」
「しょく人さんしかつくれないらしいよ」
「京とにチョコレートのこんぺいとうをつくっているところがあるって」
友だちとじょうほうこうかんする。
「高きな人の引出ものにもなるって」
「すごいねえ!」
中学生くらいの時に、お茶のセットを買った。ガラスと金色のかなぐでできているさとうつぼ。こう茶のはをいれて、おゆをそそぎ、上下させてお茶をだすどうぐ。
だいじな友だちをよんで小さなお茶会をひらいた。
「さとうはこんぺいとう?!」
わたしはくすくすわらって、金色のトングでみんなのカップのよこにこんぺいとうをくばった。
こんぺいとうを口にふくんで、こう茶を少しのむ。だんだん小さくなってゆくこんぺいとう。口の中でしゃらしゃらになる。
「なんかすてき」
女の子たちがきゃぴきゃぴいう。
秋のにわでは、キンモクセイがさきほこっていた。
まく間☆ゆめわたりとデルムント
とつぜん、小人があらわれて、ぱらぱらと何かをまきながら走りぬけた。
「なんだ、なんだ?」
「こんぺいとうだ」
む数のこんぺいとうがころがっていた。
「デルムント!せかいじゅのなえにこんぺいとうがなっているよ」
「ああ、ほんとうだ」
デルムントはせかいじゅのなえからはえているこんぺいとうを2、3こちぎりとると、ゆめわたりとわけあって口にほうりこんだ。
「もごもご」
「?なに」
「あまい」
二人は顔を見合わせてわらった。
だい三話☆セキセイインコ
あおいは、二羽のセキセイインコをかっていた。
毎日えさやりをかかさず、時どきそうじして、だいじにかっていた。
つきあいはじめのころ、ただしはあおいのそんなやさしさを目を細めて見ていたものだ。
二人がどうせいをはじめて、まもなく、あおいが入いんしてしまった。
「セキセイインコを。セキセイインコのえさかえをして」
毎日電話をかけるただしに、あおいはけんめいにうったえた。
「わかったわかった」
ただしは、はじめのうちはセキセイインコのせわをやいていたが、ある日、かごのとびらをあけて外へ二羽ともにがしてしまった。
たいいんして家にもどったあおいは目を見ひらいて空の鳥かごをぎょうしした。
「かごのそうじしてたらあいてたまどからにげたんだ」
ただしはそう言った。
おりしも冬のさなかで、外は雪がまっていた。
もう、二羽とも生きていないだろう。
あおいはなきじゃくった。
「そもそも、なんでペットなんかかうんだよ?じぶんがせわできなくなったらペットだってどうなるかわかんないだろ?」
「なんでそんなこと言うの?!」
「人間が一番。人間が生きてくのでせいいっぱい」
「出て行って!」
「やれやれ」
かたをすくめるただしに、あおいはぴしゃりと言った。
「この家から出て行って!にどと会いたくない!」
さむ空のもと、家をおい出されたただしにはあおいの気もちは理かいできなかった。
まく間☆ゆめわたりとデルムント
「ひどい話だね」
ゆめわたりはぷりぷりおこって言った。
ちゅん、ちゅん。
デルムントのりょう手をひらくと、二羽のセキセイインコがそこにいた。
「よしよし、さむかったな?ここはあたたかくてえさもほうふにあるからあん心するといい」
セキセイインコたちはひとしきりデルムントとゆめわたりにあそんでもらった後、いずこへかとんでいった。
「よの中にはひどいことはたくさんあるんだよ。それもせかいじゅに話さなきゃいけない」
だい四話☆たましいまでは売るもんか
「ほらまたきぼうにもえたわかものがやって来たわよ」
「よーし、みてろよー」
古さんのやつらがビルの上のかいから、はつ出きんの青年を見下ろしてニヤニヤわらっていた。
しょ日。
どんなむ茶ぶりふっかけても青年はへこたれない。ひとみをキラキラさせて一生けんめいだ。教えられることをしんしにうけ止めてきゅうしゅうする。
しかし。
それも日がたつうちにひとみから光がきえ、しりすぼみのへんじ、しついへとかわっていった。
社会って?会社って?こんなせかいなのかよ?
きぼうにみちていた日がなつかしい。
カレンダーがめくられていって一年がたった。
「ほおら、また新入りくんがやって来たわよ」
「今年もこてんぱんにいっちょもんでやりますか」
古さんがけらけらわらっている。
「いったいどうして新人いびりするんですか?」
「新人いびり?人聞きのわるい。通かぎれいだよ、一しゅの」
青年はなっとくがいかなかった。
新かんののみ会のせきでのめませんと言っているなみだ目の新人に古さんがしつこくさけをすすめていた。
「のまなくていい!」
「えっ!?」
青年はさけをとりあげて、店いんにつきかえすと、古さんをむしして新入りとウーロン茶で語りはじめた。
「おまえ、みてろよ?」
古さんが青年に耳うちする。せすじにこおりでも入れられたようなさむ気が走り、いがねじれそうなかんかくをおぼえる。
「あの人たちはひねくれてしまってるんだ。おれたちはあんなふうになっちゃいけない」
「でも、だいじょうぶですか?」
「ギリギリまでやってみる。たえられなくなったらこの会社やめるよ。はけんやパートやアルバイトだってかまうもんか!たましいまでは売るもんか!」
「先ぱい!」
その夜はわか手がもりあがった。
青年はその会社でずいぶんふんばってしごとしていたが、ある日じひょうを出してさって行った。
古さんたちはせいせいしていたが、間もなくこの会社自体がつぶれてみんなちりぢりになった。会社がつぶれたのは、ゆがんだあいし社せいしんのせいだろうとだれもが思った。
青年は今もどこかで元気にやっている。
まく間☆ゆめわたりとデルムント
「まあ、自分を強くもつことは大じだよ」
「そうだね。でも、しごとに行くのに人間かんけいがあんなじゃやってられないよね!」
「ゆめわたりはしごとをしたことがあるのかい?」
「ない」
「みんながみんなあんなふうじゃないからあん心して」
「うん」
だい五話☆AIへいき
だい三じせかい大せんがぼっぱつした。
かっ国でさい新えいのへいきがかいはつされ、いつはてるともしれないたたかいがくり広げられた。
地上にかくのあらしがおこり、人るいはげきげんした。
「こんなふ毛なあらそい、やめさせないと」
少年は一人立ち上がった。
さばくで交せん中のAIへいきのむれを遠くからかんさつして、パソコンかた手にウイルスを作っておくりこんだ。AIへいきはことごとくきのうをくるわせてすなにしずんでいった。
一言でAIへいきといってもその形じょうはピンからキリまであった。
少女が交せんのさ中からぬけ出して少年と出会った。
少女は少年にこいをした。
「わたしはあなたが…」
こく白しようとして、近くにおちていたわれたかがみに目線をおとした。
これが、わたし?
わたしのすがた?
みにくいへいきにとうさいされたむくな少女のたましいは、あまりのげんじつにたえられずに自めつしていった。
少年は、一人、せかいとたたかっていた。
少女の思いはとどかなかった。
今日も一日がすぎていった。
まく間☆ゆめわたりとデルムント
「せんそうはぜったい、やっちゃいけない!」
「そうだね。せんそうはかなしみしか生み出さない」
だい六話☆Black box
それはマッチぼうの先ほどの大きさのBlackBOXだった。りょう先たんにはりが数本ついていて、おもにAI学習そうちにセットしてつかう。
「これをつけてると、AIのせいどがかくだんに上がるんだ」
学生のキノシタがみんなに自まんしてみせびらかした。
「なんでBlackBOXにするひつようがあるの?」
「とっきょのせいだと思う」
BlackBOXというのは、用とはわかっているが、内ぶのこうぞうがなぞのぶっ体のことである。
「キノシタくうん。アイリ、それほしいな」
女の子が上目づかいでキノシタにねだった。キノシタはかいはつしゃから人にじょうとしないようにとねんをおされていたが、じょうとじゃなくたいよならいいだろうとつ合よくかいしゃくして三日間だけのきげんつきでBlackBOXをアイリちゃんに手わたしてしまった。
「カラント!」
「はい。アイリおじょうさま」
「おまえがもっと頭がよくなるようにいいものをもらってきたの」
「それはありがとうございます」
さい新がたのAIロボットカラントは、思考回ろふ近にBlackBOXのはりをさしこんでそうちゃくした。
「わたしが何をのぞんでいるか当ててみて?」
「おなかがすいていらっしゃるのではないですか?」
アイリは地だん駄をふんだ。
「おなかはすいているわ。でも太りたくないの!」
「それはこまりました」
「こまらないわ。今どから食じはていカロリーのものを用いしてちょうだい」
「はい。おじょうさま」
三日後。キノシタが大学で同じこうぎをうけている時間たいにアイリをさがしたが、かの女のすがたはなかった。しかたなくキノシタは学校の帰りにアイリの家をたずねた。
インターホンをなんども鳴らしたがおう答がない。あきらめて帰ろうとしたその時。家の中から大音きょうの音楽がながれはじめた。
キノシタはいへんに気づき、ドアノブをまわすと、ドアはひらいていた。
「アイリちゃん!」
しょうすいしきったアイリがソファでぐったりとしている。
「いったいどうしたんだ?」
「うちのカラントにBlackBOXをつけたらようすがおかしくなっちゃって……」
キノシタがカラントをみつけて、なにがあったのか聞き出そうとしたが、カラントは人間にしたがわなくなってしまっていて、てつ学てきなことをブツブツつぶやきながら家じをしていた。
「こいつはかえしてもらうぜ」
キノシタがBlackBOXを強せいてきににとりはずすと、カラントは気のぬけたでくのぼうのようになってしまった。
「アイリちゃん、台どころを見たんだけど、ゼロカロリーの食ひんばっかりだったぜ。えいようしっちょうかもしれないからびょういんへつれていってやるよ」
「ありがとう」
「やせなくてもみ力てきなのにばかだなぁ」
「えーん」
たまらずにアイリはなきだした。
まく間☆ゆめわたりとデルムント
「女の子って、みんな見た目を気にするの?」
「そうだよ。男の子だって気にしてる」
「なんで?」
「人間になってみたらわかるだろうよ」
「ふうん」
だい七話☆あたえてうばう
コミックやゲームソフトやムック本やパンフレット、きものかんれんのおびや小もの、はてはすまい……。
子どものころからちゃくじつにしゅうしゅうしてきたたからものの数かず。
ある日とつぜん、天さいがおそって、すべて手ばなすはめになった。
いのちがあっただけでもよしとしなければならないのだろうけど、そうしつかんが半ぱなかった。
れんあいももりあがっていたときはねつにうかされてしあわせだったのに、時がすぎるとともにあい手とのかんけいにへんかが出てきて、たしかにあったれんあいの手ごたえが、いまはかんじられなくなった。
これが年をとるということなのかな?
生まれてきて時間がたつにつれ、いろんなものがこのりょう手を通りすぎてゆく。
どうしていつかなくなるのならば手元にそれらはやってくるんだろうか?
でも、生きているかぎり、めぐりめぐってまた新しい何かがやってくる。
いつかは自分自しんさえもきえゆくうんめいだけど、今、このいっしゅん、自分の手をじっとみつめて、生きているってじっかんする。
自分のいしきがそんざいしている間だけこの人生っていうおまつりを楽しもうと思う。
なにかちょうえつしたそんざいが今日もわたしにあたえて、そしてうばう。
まく間☆ゆめわたりとデルムント
ゆめわたりはじっと自分のりょう手をみていた。
「なにかつかめそうだけど、つかめないや」
「人間にはわかるんだろうけどね」
「ぼくらは人外だからね」
だい八話☆おれがほしいのは……
夕ぐれ時、正そうして町へでかける。
「このごろぶっそうでございます。お気をつけて」
しつじがていねいに見おくる。
ぶっそう、か……。
おれの知ってるむかしはよかった。町はこんとんの中にあり、おれはそれにまぎれてかったつだったよ。
今はどうだ?
せいふがせいびしたかん楽がい。人びとはご楽ていどにたしなむばかりでぼうけんすることもわすれてしまっている。さい近になっておれはきゅうくつな思いとしんさんをなんどなめてきただろう?
黒ぬりの車をおりて、今夜のパーティ会場へとうちゃくする。
しょうたいきゃくにまぎれて、今夜のえものをぶっ色する。
あの女!
ワイン色のカクテルドレス。長い黒かみ。つけているジュエリーも夜空にこぼれんばかりのかがやきをはなっている。
「おじょうさん、よろしければごいっしょしてよろしいかな?」
しぶい声で語りかけると、かの女は目を見開いておれを見て、む言でうなずいた。
二人でシャンパンをかたむけ、この町のしはいしゃについてい見のそういをみながらも、だいたいにおいて楽しく時間がすぎてゆく。
「なんだかよっちゃった」
「休けいじょへ行こう」
かの女はくすくすわらいながらかんいソファにたおれこむ。
「いざ!」
「っきゃー!なにするの?」
かの女がさけんだ。
「ほしい!」
「なにが?」
「おまえの生きちがほしい!」
その言ばに、かの女はさけばなかった。
かわりにはらのかわがよじれるくらいゲラゲラわらいころげた。
「うける!ちょーうける!」
「!?」
「今時きゅうけつきごっこ?ほんとへんな人!」
「……」
おれの食よくはすっかりなえてしまった。
「あらどこいくの?」
「……帰る」
しょんぼりとやしきに帰たくする。
「大じょうぶでございますか?」
「本当にせ知がらいよの中になってしまった・・・」
「ゆけつ用のけつえきのストックをおもちしましょう」
「ああ、たのむ」
上ぎをぬがせてしつじがおくにひっこんでいった。
ああ。あのめくるめくような人とのてんかい!もうこの時だいではむ理なのだろうか……?
おれがほしいのはたしかにび女のいきちだが、本当にほしいのは、きんぱくかんときょうふにいろどられた一れんのながれ、それだった。
まく間☆ゆめわたりとデルムント
「きゅうけつき・ドラキュラもかくや!」
「時だいのながれってざんこくなものだよ」
「ぼくらも時だいおくれにならないようにしなきゃ」
だい九話☆しんりゃくしゃ
ドンドンドンドン!
夜ふけにげんかんで何のさわぎだ?
家ぞく中おきてきて、ドアの前に行くと、かい光線がドアをやき切っていた。
「きゃー」むすめがこわがって母親にしがみついている。
ばたん。
ドアがこちらがわにたおれた。
しばしのせいじゃく。
ドヤドヤ。
大ぜいの「火星人」たちがおしかけてきたのだ!
家ぞくはみをよせてふるえながらようすをうかがっていた。
さいわいきがいをくわえるつもりはないらしく、「かれら」はお茶の間をせんきょした。
「あいつら、なにやってる?」
「テレビつけてコタツにはいってみかん食べてる」
「おのれ、ゆるせん!」
家長……といってもいげんのかけらもないマイホームパパが、(いかり心頭で)こそこそようすを見つづけている。
「タナカさーん」
おとなりのヨシダさんがげんかんからのぞきこんでいる。
「たっ大へんです!」
「ですよね?!うちもなんですよ」
「えっ?」
「このへん一たいこんなかんじで……」
外を見ると、行き場をうしなった人びとが夜のやみの中、さまよっていた。
「けいさつは?」
「あんまり数が多すぎて手におえんのですよ」
車にひなんしようかと考えたが、そこもせんきょされていた。
「どうしたらいいんだ……」
その日をさかいに地きゅうは火星人にせんきょされたのだった。
まく間☆ゆめわたりとデルムント
「オチはなし?」
「人るいが火星にしん出しようとしてるから、火星人がやってきたんだ。ようしゃなく」
「ようしゃなく?」
「そう、ようしゃなく」
「……」
だい十話☆アンテロープキャニオン
グランドキャニオンのおくにあるげんそうてきなけい谷、アンテロープキャニオンに行きたいとかの女が言っていた。
ピンクの岩がまがりくねり、光のかげんでさまざまな顔を見せる。一どは見てみたいものだとかの女はことあるごとにねっ心に言っていた。おれは、かの女のことがすきだったから、かの女がまっきガンだと知った時、このかの女のゆめをなにがなんでもかなえなければと心にちかった。
「ねえ、本当に、本当?」
ナバホぞくのりょう地へ入るためにアクセスはややこしかったが、大はしゃぎのかの女をつれてアンテロープキャニオンに来た。
「雨きは気をつけないといのちをおとすこともあります」
げん地ガイドが空もようを気にかけながら言った。
すなだらけのかわいた川ぞこを車は走った。
「そんなに大りょうの雨がふるのか?」
「ふる。それだけじゃなく、ここらの地形は水のいきおいでこくこくとへんかする」
さ岩は水にけずられる。そしてふかしぎなもようのけい谷ができている。
「あまり長いはしないほうがいいかもしれない」
げん地ガイドがゆううつな声で言った。
「わたし、行きたいわ」
「もちろん!そのためにここまで来たんだ」
おれはかの女をつれて、おく地へ入って行った。
「きれい・・・」
けい谷にさしこんでくるあわい太よう光がけい谷をてらしていた。
こくいっこくとへんかしてゆくけしき。
「いかん。雨だ!」
げん地ガイドがさけんだ。
何の前ぶれもなくバケツをひっくりかえしたような雨がふりだした。
「にげるぞ!」
「まって」
「どうした?」
「わたし、いきたいわ」
「?。だから来てるじゃないかここへ」
「そうじゃなくて、『生きたいわ』」
かの女はなみだをながしていた。
おれはかの女を力一ぱいだきしめた。
「生きよう。生きていこう」
「おきゃくさん、いそいで!」
てっぽう水がすごいいきおいでながれこんできた。
おれはぜったいにかの女の手をはなさなかった。
「おきゃくさんたちはうんがいいね」
すなと水でぐしゃぐしゃのすがたで生かんしたおれたちにみんなが言った。
「ガンのとうびょう、がんばれるか?」
「もちろん。こんなげんじつがあったんだもの、生きぬいてやるわ」
「いいこんじょうだ」
おれは、かの女のことをもういちどぎゅっとだきしめると、いっしょに帰国した。
せん門の大きなびょういんでけんさしたかの女は、生きられるかくりつが50パーセントといしゃに言われた。
しかし、かの女の生めい力は、アンテロープキャニオンでの体けんでより強いものにかわっていた。
おれは知ってる。きっとかの女は生かんしつづけることを。
エピローグ☆ゆめわたり
いつしかせかいじゅのなえは大木にそだっていた。
「そろそろ、行かなくちゃ」
「行っちゃうの、デルムント」
ここにはもう用はないと、デルムントは言った。
「ぼくは心細い。こんなにいろんなせかいがひしめきあっている中でどうすればいいの?」
「帰る場しょは?」
「さまよっているうちに帰りかたがわからなくなったんだ」
「そうだなあ。一番いい場しょへつれていってあげるよ。このシルクハットの中をのぞいてごらん」
ゆめわたりが言われるままにデルムントのシルクハットをのぞきこむと、きゅうううううう、すぽん。中へすいこまれていった。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
「元気な男の子ですよ」
お母さんのとなりにねかされて、心地よい空間がひろがっていた。
「人として、一生をいきてごらん」
デルムントの声がした。ゆめわたりはもんくを言おうとして、思いとどまった。
たしかに一番いい場しょかもしれないと思ったから。