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――忘れることは無い。

今日は澄み渡る青と少し暖かな風に揺れる桃色に胸いっぱいの期待を押し込んだとても素晴らしい日だ、そしてここがアラストライア学園、明日から私が3年間通うことになる完全寮制の世界に名を轟かせる名門校だ。少し風変わりな校風ではあるのだが、毎年多くの生徒が世界各地からここに集まる。私もその中の一人だということだ。

両手に荷物を抱えた私は、まず初めに職員室へと向かう。一刻でも早くこの重たい荷物を下ろして一息つきたいところではあるのだが、そうはいかない。まだ、この学園に入学するための手続きが全て終わっている訳では無い、全てにおいて特殊なこの学園、制服を貰うことやほとんどの手続きがこの瞬間に行われるのだ。


「失礼します」


重たい荷物を全て起き、職員室に入った私はそう告げると、担当の先生と思われる女の人が私にこちらへ来るように合図をした。長い黒髪、私よりも背が高くおっぱいも大きい美人な先生は職員室の中で必要な物を色々集めながら私を連れ回し、職員室の外に出て少し豪勢な部屋に入る。呼んだ意味とはなんだったのか。


「お前があのアメリア・サーマリーか……。これがこの学園での制服だ、サイズは私が把握しているからぴったしだろう、とりあえず着てみろ」


皮の大きな椅子に腰掛けると先生は、まず私に真新しい紺色のブレザーを手渡す。簡易的な更衣室が完備されていたため私はそこで制服に袖を通す。事前にサイズを教えた訳では無いのだが、それは私の体に気持ち悪いほどにフィットしている。


「うむ、やはり私の目に鈍りはないな」


「それが、先生の能力ですか?」


能力。そう、能力。私たちは生まれた瞬間から一つだけ特殊な能力をその名前と共に神によって与えられる。その目の良さが先生の与えられた能力なのだろう。


「ああ、そうだ。【最適眼】常に物事の最適解が分かる。お前がこれから起こることはこの能力がなくても手に取るようにわかるがな」


先生は笑った。何がおかしいのだろう。


「そしてこれが、契約の指輪(エンゲージリング)それはこの学園のあらゆることを行ってくれる。部屋の鍵、学生証、ランキングその他全ての事も」


次に先生が私に渡したものは、赤色の宝石を施した簡素な指輪。指輪って、もう少しましなものはなかったのだろうか。


「まぁ、あとは書類だな。誓約書、たとえどんな事があってもお前はこれに名前を書けばペアを変えることは出来ない。とはいえ、書かずとも変えられるとは思わない方がいいが」


「大丈夫です」


「それじゃあ、行ってらっしゃい。幸運を願ってるよ」


一抹の期待が、その先生の笑の意味を理解させなかったのだ。私は部屋番号を先生に聞くと、重たい荷物を持ち上げ部屋を去った。

一般棟を出、第三寮棟の305号室へと私は向かう、徒歩で5分と意外と遠いところに第三寮棟は位置していた。


「疲れた〜、早く一息つきたい……」


私は鍵の代わりだというその指輪を扉に近づけると錠の空いた音がする。玄関にはひとつ靴があった。先に来ている人がいるのかな? 私は胸を躍らせて部屋の中に入る。

そして次の瞬間私は、目を疑った。広いリビングに居たのは、男の人だった、それも全裸で、テレビには裸の女の人が映っており嬌声を漏らす、そして下半身に手が伸びている、イケメン。


「あれ、今日到着……?」


「へ、へ、変態……だ……」


私はそう言葉を残すと、長旅の疲労とこの光景のショックにそのまま意識を失ってしまっていた。


■■■


私は、ベッドの上で目が覚めた。とてもふかふかで気持ちいいやつだ。

いや、和んでいる場合ではなかった。まさか私のペアが男で、あまつさえ変態のイケメンであったとは……

言い忘れていたが、この学園は完全寮制だ、それも男女が完全にランダムで相部屋が決定されるが。

そしてもうひとつ、この学園には変わった校風があるのだ。


「やぁ、目を覚ました?」


変態が座っていた。ベッドの傍には水や濡れタオルなどがあり、どうやら看病をしてくれていたらしいがなぜパンツしか履いていないのか、怖いから聞くのはやめよう。


「さっきは驚かせてごめん。僕は穂地 智(ほちさとし)、よろしく」


何だこのヤケに温厚的な挨拶は、そして一切恥じらいが見受けられない。やはりこいつは変態だ、要注意、いや、このままでは私の貞操すら危うい。


「……したの?」


「え?」


「なに! したの! 私に!」


こいつは変態だ。なんならもう私の純潔は散ってしまったかもしれない、何せこいつはパンツ1枚の変態だ。せめてその事実は確認しておきたかった。心置きなく殺せるように。


「べ、別に何もしてないよ……。急に倒れたから、パンツをはいてから君をベッドに運んだ、そして君が目覚めるまで待っていただけだよ」


少しだけ、安心した。こいつは疑いようのない変態だが、気を失った女の子に手を上げるほど終わった性格はしていないようだ。


「それにしても、綺麗な赤髪だね。ええと……」


「アメリア・サーマリー。私の名前よ」


「赤髪ツインテール……何年前のライトノベルだ……。それはもう廃れたコンテンツじゃ……」


「何をボソボソ言っているの……」


いや、呑気に話している場合ではない。こいつは、白昼堂々とあんなことをしている変態。そして、今も……。こんなやつと3年間同じ部屋で生活するだなんて死んでも嫌だ。私は咄嗟に部屋を出て、寮を出て、先生の元へと向かう。今ならあの笑の意味が分かる、そしてあの言葉も。


「先生! なんなんですか! あいつは!」


「やっぱり来たね、アメリア」


「今すぐ、部屋を交換してください! あいつ頭がおかしい……」


「それは出来ないよ、君は確かに誓約書を書いたはずだ。いかなる理由があろうともペアを解消することは出来ない」


「そんな……」


「それでもまだ、自衛の方法はあるだろう?」


そうだ。確かこの学園にはとてつもなく頭のおかしい規則がある完全寮制度も、狂っているがそれ以上に、おぞましいこの学園の規則。


「主従関係制度……」


この学園では、相部屋、つまりはペア間の主従関係を強制している。それをどのように使ってもいいが、その関係は確立させておく必要があるのだ。そしてその主従関係は絶対、主従関係間で行われた命令、行動はなんの罪にも問われることは無い。たとえ強姦だとしても殺人だとしても。

そんな主従関係は、一対一の先頭の勝敗によって決まる。勝者は主に、敗者は奴隷に、なんとも居心地の悪い規則なのだ、そう思っていたが……


「勝てば、主。そしてその命令は絶対」


「だから勝てば、自己防衛は完璧なものになる」


「今すぐ、その戦闘を行いたいです、先生」


「いいの? 場合によっては君が負けて奴隷になることだって……」


「いいえ先生。私は負けませんよ、絶対に」


「さすがは紅姫……、今なら第四体育館が使える、手配しておこう」


こうして、私の貞操をかけた戦いが始まる……


■■■


ここは第四体育館、10個ある体育館の四番目に大きな体育館。試合をするという噂を聞きつけた数人が観客席にいる。

そして、今度こそは裸体ではないあの変態が遅れてやってきた。


「来たわね」


「あの試合をするんでしょ? 手短に終わらせよう」


「随分と余裕そうね」


「どうだろう、ワクワクドキドキしているよ」


「そう。なら今すぐ始めましょう、あなたから受けた恥辱ここで返してあげるわ」


私たちの意思に呼応して、指輪の宝玉が赤く眩く輝く、戦闘受諾の合図だ。その合図とともに体育館から大きなブザーがなる、戦闘が開始する。

相手がどのような能力を持っているのか分からない、だが攻めあぐねていても始まりはしない。私は能力を発動させた。紅く情熱的に燃える炎が、私の意思で変態の身を焦がそうと顕れる。しかし、それを変態は見切っていたかのように交し、炎に少しだけ手を触れる。


「あちっ」


「その余裕がどこまで続くかしら!」


私の能力は【暁の貴女】と呼ばれる、熱を操る力。この程度の炎は私にとってはぬるま湯だが、ペアを殺す訳にも行かない。先生は言った、どんな理由があってもペアを変えることは出来ないと。だから、ペアを殺してはいけない。それは事実上自分の首を絞めることと何ら変わりは無いのだから。

続けて大きな炎の柱が床を焦がし天井を灼く。だがしかし、変態はその炎を軽々と交わして見せた。

予測系統の能力なの? それは少し厄介ね……

でも、予測の能力には必ず穴があるのよ

私はあの変態が絶対にかわすことの出来ない広範囲の炎を少し火力を弱めて放つ。


「ぐあっ……」


変態は、嗚咽を漏らす。だが火力は弱いすぐ簡単に立ち上がる。なぜ反撃をしてこないのか、そこが少し不安になるが私はそのまま火力を抑えずに炎で威嚇する。

だが、意外にもその火力を抑えなかった威嚇攻撃は、彼を直撃した。断末魔とも言える悲鳴のような声を上げ、彼は焦げその場に倒れた。


「やばっ、やりすぎた……」


すると同時に、リングが反応し勝利宣言が聞こえる。

私は勝ったのだ、あの変態との戦いに晴れて私は主。だが、変態は確実に死んだ、何度も何度も体感した死の感覚が達成感が確かにあった。考えてみれば、彼は変態だったが倒れた私を少し変な格好だったが看病してくれていた。変態だったが紳士でもあったのだ。そんな彼を、未来ある彼を殺してしまった。そして同時に私の未来もここで消えてしまった。

私は後悔した、少し頭に血が登りすぎていた。彼の変態的行為がなんだって言うのか、そんなもの私の野望に比べれば些細なものだったのかもしれない。


「ふぁー。いい攻めっぷりだ……死ぬかと思ったよ」


声が聞こえた。やけに恍惚とした表情を浮かべた変態が居た。おかしい、確実に私は彼を殺してしまったはずなのに、彼のその焦げきりなくなってしまった制服以外に焦げた跡もヤケドすらない。私は愕然とした。


「え? どうして?」


今は彼が全裸であるということはどうでもよかった。ただ彼が生きていたことが嬉しかったのかもしれない、いや、何よりもそのトリックが気になった。

まさか、能力……? でも、そんな能力を聞いたことがない、不死の能力だなんて……


「うーん、ここ人目があるし後で教えるね。僕の主様」


まるで最悪な夢を見ているようだった。

これが彼との初めての出会い。後に世界を救うことになる2人の物語。



■■■



彼との戦いに勝利し、私は彼の主となった。

彼の首には隷属の首輪(スレイヴリング)と名付けられた絶対服従の首輪が付けられより一層変態度が増した絵面以外に変わったことは何もない。

戦いの後、私は全裸になってしまった彼に上着を貸し、そさくさと逃げるように自室に戻った。


「とりあえず、()()()()。それから話をしましょう。」


私の言葉を聞くと、彼は自室に戻り服とズボンを着て戻ってきた。こうも簡単に彼が私の言うことを聞くのだろうか、彼は変態それも私の上着を羽織っているだけの全裸、そして完全防音空間となっているたった二人きりの部屋なのに、何もせず私の言う言葉に忠実に従った。これが絶対遵守の主従関係……


「それで、ええと……」


「穂地智。」


「穂地くんね。穂地……穂地……ポチ?」


「ひゃうん!」


やけに嬉しそうだ。とりあえず友好の証として彼をポチと呼ぶことにしよう。私たちはリビングの椅子に机を真ん中にして向かい合って腰かける。


「ポチ、まず一つだけ約束、()()()()()()()()()()()()()()、それだけは絶対に守ってもらう」


こくりとポチはうなづいてくれた。この約束はきっと私が守らせた一方的なものなのだろうが。


「ポチの能力、は本当に不死の能力なの?」


「僕の能力は、不死じゃない。それに限りなく近いだけ。【自己再生】常に発動されていて、僕が致命傷を受けた時その効果を発揮されあらゆる損傷を癒すんだ」


「それが不死なんじゃないの?」


「いや、不死じゃない。僕も歳をとるし、寿命でいつかは死ぬだろうし、あと餓死とかは再生されないと思う、あくまで外傷による死に対してしか効果を発揮しないんだ」


「十分すぎる能力だね……」


私は肩を竦めた。結局ほぼ死なないってことじゃないかそれは。

それから私たちは、親睦を深めるために色んなことを話した。普通にしていればポチはイケメンだから、変態ということを忘れて話せばむしろ願ったりなシチュエーションだ。まぁ、忘れさせてくれる瞬間は全くなかったが。

話を聞く限りだと、彼はドMだ。私の当てるつもりの無い炎に当たったのは自分から入っていったということらしい、死なない彼がドMだと言うのは凄くあっているのだと思う、ドMなんてただの変態でしかないが。


「そんなに強い能力を持ってるならさ、私に協力してよ」


「協力?」


「そう、協力。私、この学園、いや世界で1番強くなりたいの」


「何か、深い理由が?」


そんなに私の顔には強い決心が浮かんでいたというのだろうか。あの変態のポチがこんなに真面目な顔をしている。


「私は神を殺す」


――神。それはこの世界を作り、滅ぼしかけた存在。それはこの世界のどこかに封印されているという伝説がある。

そして私は、その神のせいで……


「――ああ、分かった。僕がこの命に変えても君の夢を叶えてみせるよ」


ポチは私の言葉を噛み砕き理解したところで笑った。

これはそう、キミと私の長い長い呪いのお話。私とポチとの不思議な不思議な関係の物語。

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