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09

読む自己で。

 はてさて、仲直りできたのはいいのだが。


「あれ、志賀山くんの家も暑いや」

「そうね、せっかく避暑地として選んだのに残念だわ」

「そうだね、志賀山くんの家も駄目だね」


 いや最後、ふたりはともかくなんでこの人がいるのか。


「なあ、誰かの友達か?」

「はぁ、君の頭は鳥頭なの? 僕だよ僕、終業式の日に――」

「……分かってるよ、現実逃避がしたかっただけだ」


 てかなんで俺の部屋で集まっているんだ。

 ちなみに、六花さんの目的である縁は課題に専念している。


「柏木くんいい匂いする~、私より女の子っぽい」

「ううん、京佳さんもいい匂いだよ」

「きゃーなんか恥ずかしい」


 ちょっと待て、なんでそこが仲良さそうなんだ?

 六花さんの友達ならまだ平静でいられるが、このふたりが仲良くされるのはだいぶ複雑――いや、嫌だとはっきり心が訴えてきている。

 おまけに臆面もなく「いい匂いだよ」なんて言いやがってっ! 美形じゃなければセクハラ扱いされて最悪刑務所行きだぞ! 榎坂の優しさに感謝しろこの野郎!


「京佳、空が怖い顔をしているわよ」

「へ? どうして? あっ、もしかして臭かったとか!?」


 そんなんじゃねえよっ、いつだっていい匂いしているよ!

 ――って、言えないのが俺だ、チキン野郎なんだ俺は。

 はぁ、せめて俺、榎坂、六花さんだけだったなら……。


「志賀山くん」

「な、なんだよ」

「もしかして僕が邪魔とかいま思ってる?」

「な、なわけないだろ、差別はしないぞ」


 それでも帰ってくれなんて言えるわけがない。

 これはチキン野郎だからなどと卑下はせず、誰にでも優しく振る舞える自分はいい存在だとポジティブ思考をしておこう。


「ちょっと歩こうよ、ふたりきりで、さ」

「おい、どうしてそこを強調した?」

「だって京佳さんといると京佳さんばかりに意識を向けているからね」

「ばっ――そ、そんなこと……ねえよ」


 敢えて俺にだけ聞こえるような声でそう言う奴。

 もし聞こえていたら榎坂はどういう風に反応するだろうか。

 知りたいような知りたくないような、凄く曖昧な気持ちになった。


「いいからいいから、京佳さんたちはここで待っててね」

「はーい」

「ええ」


 というわけでわざわざこんな暑い日に外を歩くことになったわけだが、


「はぁ……はぁ……あちゅい……」

「なんで柏木がバテてるんだよ!」


 出てきて数十メートル歩いただけでこの有様。

 どうやって俺らの家まで来たのか不思議だ。


「志賀山くん……のみものぉかってぇ……」

「……はいはい、買ってやるからそこのベンチに座っておけ」


 なんだこいつは、Mか? Mなのか?

 そりゃ俺だって暑いとは思う。今日の気温も39度とか言っていたし。


「ほら」

「ありがと……」


 別に相手が女の子だったらもっと良かったなんてことは思わないが、なんとも虚しくなるのは確かだ。


「ふぅ……なんで僕たちは外に出てきたんだろう」

「いや、柏木のせいだからな?」

「だって……」

「ん?」


 外じゃないと話せないことでもあったのだろうか。

 それとも単純にあのふたりを不快な気持ちにさせたくないから?

 それなら一応気遣いはできる人間だということで素晴らしいが……。


「いいから言ってみろ」

「……終業式に言った言葉、覚えてるかな?」

「忘れられないだろ、一昨日のことなんだし」


 さっきから俺のことを鳥頭だと勘違いしているきらいがある。

 

「あの言葉はいい言葉? 悪い言葉?」

「悪い言葉だな、多分」


 榎坂以外に言われるなら、ではあるが。

 

「なのに」

「おう」

「なのに全然堪えてないじゃん!」

「え、傷ついてほしかったってことか?」


 それはまた質の悪い性格だな。

 いままで関わった誰よりもだ。


「というか普通怒るところだから!」

「いや、窓の外を見て時間をつぶしていたのはその通りだからな」

「もう……これだから」

「え? 昔の俺を知っているのか?」


 昔から親しい男友達というのもいなかった。

 なにより生き方が下手くそすぎたんだ。

 でも偽るのが面倒くさくなって、ひとりでいることを選んだ。

 とはいえ、家族は良くしてくれるからこそ選べる選択肢ではあったが。


「だってずっと見てきたし」

「こわっ!? え、なんでだ? なんのために?」


 まさかそっち系の人だったのか?

 そういう形を否定するわけではないが、巻き込まれるのはゴメンだ。


「同じクラスだからだよ、中学生のときから」

「ひぃ!? え、ま、本当なのか?」

「ん? どうしてそんな青ざめてるの?」

「だ、だって、ほ、ほほほ、ホモ――」

「はぁ、そんなわけないじゃん、自意識過剰だね」


 ……ま、そりゃそうだよな。

 というか同じクラスだったのか柏木。

 全然教室内の人間に意識をやる時間がないので、気づかなかった。


「僕のこと、覚えてない?」

「んー、そうだな、そもそも今日初めて話し――」

「ほたちゃん」


 あまりに真っ直ぐな瞳すぎて俺は視線を逸らしてしまう。

 

「ほた……ちゃん……ほた……蛍丸」

「は?」

「い、いや……ほたちゃんか。そういえば昔、俺はそうやって呼んでいた友がいたが」

「ミー」

「は?」


 自分の性別すら忘れてしまったのか。

 まあ確かにこういう女の子もいそうだなって顔だが。


丹羽にわ蛍」

「え……まじかよ……」

「ちなみに嫌いと言った理由は、全然関わってくれなくなったからだよ」

「そもそも約束をすっぽかしたのはほたちゃんだろ?」

「……あのときは両親が大変だったんだもん」


 離婚からの再婚によって名字が変わったのだろうか。

 ただなあ、あのときのほたちゃんはもっと髪が長くて綺麗でいつも「お母さんが手入れしてくれてるんだ!」って自慢げに耳が痛くなるくらいには言っていたのだが、こちらを見ている彼――彼女のは短髪だ。


「それで、どうして終業式の日まで待ってたんだ?」

「だって空ちゃん怖かったんだもん」

「怖くないと思うけどな。いきなり『嫌いだ』って言うほたちゃんの方が怖いぞ」

「ま、まあそれはもういいよ。で、だけどさ、空ちゃんは京佳さんのことが好きなんでしょ?」

「す――きかどうかは置いておくとして、まあ仲良くしたいとは思っているけど」


 面倒くさい子ではあるけど可愛げがあるしおまけに猫好き仲間。

 対他の子だと印象が悪すぎるので、できれば仲良くしたい子ではある。


「だって可愛いもんね、さっきだって空ちゃんの部屋に入るとき顔を赤くしていたしさ」

「え、まじ?」

「うんっ。でもさ、ああいう子は人気だよ? もっと積極的にいかないと他の子に取られちゃうよ?」

「そうだよな……」


 友達がいるのも嘘だとか言っていたけどそんなことないよな。

 あれだけコミュ力があって六花さんとも普通に話せているんだから嘘だ。

 ……ったく、嘘つきはどっちだ、という話である。


「応援してあげるっ」

「え、いやいいよ……」

「むっ、どうして!?」

「だってほたちゃんってドジだし……バラしそうじゃん」

「ど、ドジじゃないも――きゃぁ!?」

「……はぁ、ほら」

「あ、ありがと……うぅ……」


 いやまじいい匂いしたわ。

 さっきなんて汗をだらだらかいてタオルで拭いていたくらいなのに何故だ?

 現在進行系で俺は汗をかいているが臭くないか心配なくらいなのに。


「あわあわあわ……」

「落ち着け。体に触れて悪かったな」

「み、京佳さんにしてあげて!」

「別に望んでこんなことしないぞ、嫌われるようなことしたくないんだ」


 何回も榎坂を怒らせたからこそ、慎重にいきたいと考えている。


「大丈夫か?」

「う、うん……落ちついた」

「なら良かった」

「頑張ってね、空ちゃん」

「ああ、どうすればいいか分からないけどな」


 ま、普通に接していればなるようになるだろう。


「あちゅい……帰ろう?」

「あ、ああ」


 そうして俺はドジっ子ほたちゃんと家に帰ったのだった。

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