08
読む自己で。
1学期最後の登校日。
窓の向こうを見ながら先生が話しているのを聞き流す。
が、カサと音が聞こえてきて視線を教室内に戻すと机の端に紙が置かれていることに気づいた。
四つ折りにされており、どうしてこんなに折るんだ? と疑問を感じつつも開いて見てみると、
『これが終わったら昇降口で待ってて』
という内容で。
この書き方的に相手は異性なんだろうけども、罠ということも有りえる。
榎坂や縁という可能性も0ではないが……もし相手が男だったらある意味怖いな。
兎にも角にも、よくある説明だけでHRが終わったので昇降口へ移動。
「あれ、空くん?」
待っていたらすぐに縁が現れた。
六花さんといないことを色々勘ぐってしまうのは悪い癖だ。
「これ、書いたの縁だったのか?」
「え? ううん、私は書いてないけど。それより京佳ちゃんと海に行くんだよね? 私も行っていい? ちょっと癒やされたくて」
「いいぞ」
「ありがと」
榎坂すまないっ、やっぱり縁優先で動きたくなるんだ。
「で、それは誰からなの?」
「それが分からないんだよな」
縁や榎坂だったら楽だったんだがな。
というかどうして榎坂はまだ来ないんだ。
「やあ、待たせたね」
「こ、これを書いたのは君か?」
「うん、だって女の子口調で書いておかないと待ってないでしょ?」
そんな異性からだったら絶対に乗るみたいに言われても……。
「そ、それでお兄ちゃんになにか用なんですか?」
「うん、そうなんだよね」
こんなときだってのに縁からお兄ちゃんって呼ばれて嬉しい。
名前呼びしてくれるのも嬉しいが、昔みたいにずっとそうであってほしいと思うのは、兄妹らしいからだろう。
「回りくどい言い方は面倒くさいから言うけど、僕は君が嫌いだ」
やっぱりそうだ、榎坂に言われたときと違って全くダメージがない。
「えっと、理由を聞いてもいいか?」
「君はいるだけで周囲を怖がらせるでしょ」
そうか? 榎坂も六花さんも全然怖がらないし、それどころか俺を圧倒してくれるが……。
「あと、全然授業に集中してないじゃないか」
窓の外の視線を向けていても意識は先生の話すことに向けてある。サボりもしないし提出物だってきちんと出す――だからテストで問題が起こらないし成績だって悪くない。授業態度だってぺちゃくちゃ喋っているクラスメイトよりはいいと思っているが。
「ごめん、待ったっ?」
「いや、この人と談笑していたからな」
今日分かったのはひそひそとされるよりも直接言われた方が楽だということだ。
「分かった、2学期からは集中するから許してくれ」
「そうしてくれると助かるよ。じゃあね」
ただいるだけで文句を言われるというのも堪えるな。
悪口を言われるのは慣れているが、そればっかりはもうどうしようもない。
雰囲気相応に行動していたらそれこそ怒られるだろうし……詰みに近いぞ。
「ん? なんの話?」
「いや。それより縁も行くけどいいか?」
「え゛」
毎回思うがその声はどこから出ているんだろう。
縁が空気を読んだのか「む、無理なら別にいいよ?」と言ったが、「う、ううんっ、大丈夫大丈夫!」と榎坂は返していたのだった。
「暑いねー……」
「だね……」
「だな」
海に来たら水をかけあってキャッキャウフフ――なんてことはなく。
砂浜に適当に腰を下ろし、青空や水面を複雑な顔で見ているだけだった。
「うーん」
「どした?」
「海に来たらもうちょっと違う結果が待っていると思ってたんだよ……」
「いまのままだと、ただ暑さに包まれるだけに終わるしな」
「そうそう……」
その点で言えば縁はもっと残念なことだろう。
「お兄ちゃん……私、もうだめ……」
「飲み物買ってきてやろうか?」
「うん……暑いの苦手……」
ふたりには日陰に移動するよう言って自販機を目指す。
「榎坂にも買っていくか」
色々な種類の物を買うと運ぶのに面倒くさいので、爽快感MAXな強炭酸のジュースにしておいた。
「あら、奇遇ね」
「お、六花さん」
奇遇ねえ、いやそんなわけあるかっ。
それでも一応偶然感を出すために別々で移動したのだ。
だって彼女と一緒にいたら縁も複雑だろうし。
「俺が来るように連絡しただろ」
「ふふ、そうとも言うわね。縁は?」
「あそこ」
縁は体操座りをして膝に顔を埋めている。
制服姿なんだからもうちっと気をつけた方がいいと思うが。
「あら、あのときの子もいるのね」
「おう、元々彼女から誘われてここにいるからな。どうせいるなら運ぶの手伝ってくれ」
「私の――」
「買うから頼むよ」
「ふふ、それなら運んであげようかしら」
彼女は紅茶がいいと言っていたが同じく強炭酸を買ってふたりのところに戻る。
「あれ、キミは前の……」
「こんにちは。六花よ」
「私は――」
「知っているわ、榎坂京佳さんよね?」
「京佳でいいよ」
このふたりは問題ないが妹の方はどうだ?
「縁、大丈夫なの?」
「うん……日差しが強くて溶けそうだったよ」
「ふふ、暑いのは苦手だものね」
「そう言う六花ちゃんもそうだよね……って、どうしてここにいるの!?」
六花さんは一瞬俺の方を見てきたものの、すぐに「私もたまには海を見たいときもあるのよ」と答えてくれた。やはり優しい、しかも喋りやすい人でもある。
「……六花ちゃんのばか」
「急に罵倒……どうしたのよ?」
「だって……好きじゃないとか言ったし」
「ああ……」
盗み聞きしていたとバラすことになっているがいいのだろうか。
「……ねえ志賀山くん、ちょっと向こうでいい?」
「いいぞ、ふたりは忙しいようだしな」
少し移動。
改めて海の方に近づいた俺たちだったが、縁ほど暑さに弱いわけではないのか彼女は微笑を浮かべていた。
「考えたみたんだけどさ、縁ちゃんや六花ちゃんのことが好きってこと?」
「ああ、まあな。でも俺が前にそれを聞いたら六花さん、特別な意味で好きじゃないって言ってきてさ」
「なるほどね、そういうのって悲しいよね。自分がどれだけ相手の子を好きになっても、その相手の子が自分を好きになってくれる可能性なんて低いしさ」
「榎坂もそういうの経験したことあるのか?」
「まあ、こんなんでも乙女ですから」
そりゃそうか。
でもあれだな、なんかモヤモヤする。
もしかしたら誰かと過去に付き合っているかもしれない。
その点、俺の恋人になる人はいい、だって過去にそういうの一切ないからな。
「志賀山くんはどう? 過去に誰かとお付き合いをしていたとかさ」
「異性の友達すらろくにいなかったぞ」
「ろくにってことはいたのはいたんでしょ?」
「ふたりいたんだけど、その内のひとりは縁だ」
これが冗談でもなんでもなく友達みたいな感じだったんだ。
その理由は、いまみたいに外ではお兄ちゃんではなく名前で呼んできていたからというのが大きい。
「え~、縁ちゃんは妹じゃんか」
「ははは、そうなんだよな。で、もう片方とは自然消滅したんだよ」
「自然消滅……どうせ志賀山くんがばかなことをしたんでしょ?」
「どうだったかな……ま、そういうものだって割り切ったけどさ」
それでモヤモヤしたとかは一切なかったのでそんなに大切でもなかったんだろう。
「私とのときみたいに?」
「だから榎坂が来てくれて助かったよ」
「縁ちゃんのおかげでもあるから」
「それな、なんか買ってやんないとなあ」
買うくらいでしか考えれないのがあれだが、少しずつ返していきたい。
「……私には?」
「え~、榎坂には寧ろ振り回されてばっかりなんだが」
「酷いっ、私がいつ振り回したんだよっ」
「だって友達認定していなかっただけで拗ねたしな」
寧ろ俺の方が悲しかったくらいだ。
友達認定していた子に友達じゃないみたいな言い方をされたら気になる。
「あ、当たり前でしょっ」
「というかいまだって飲み物を買ってやっただろ?」
「……ばか」
「酷えなぁ……」
「……そろそろ戻る?」
楽しそうに会話しているふたりを見て、
「いや、あっちは六花さんに任せるよ。俺はちょっち面倒くさい子の相手をしなければならないからな」
と答えた。
縁も自然な感じを出せているようだし、少しは状況が良くなったのかもしれない。
「え、それって志賀山くんじゃなくて?」
「いや? 榎坂京佳って子だな」
「むぅ、まあいいや。お兄ちゃんっていつもこんなんだし」
「で、出たな、その呼び方……」
正直、榎坂は身長が女子にしては大きいので妹感はないのだが、……なにのに凄くそそられるというなんというか……。
「一緒に来てくれてありがとっ」
「……そりゃ約束だったからな」
「ふふふ、そういうところが好きだよ。何回も嘘つかれたしドタキャンされたけど」
「す――それは悪かったな」
「やっぱりいいよねー海って」
「あ、ああ、だな」
いつもみたいに変な声を出さないということは気づいていないのだろうか。
単純に友達として好きということだろうか。
「あ、でもお兄ちゃんは水着姿の方が見たいよね?」
「ま、まあ」
「この下に着ているんだけど、本当に見たい?」
「ああ」
――で、脱いでくれたんだが……。
「ざ、斬新な水着だな」
「ん? あ、あれぇ!?」
いや、感触とかで分かるだろ普通……。
というか……意外とあるんだな。それと、肌白いな。あと、細いくていいな。
本当に夏休み前で良かった。
もし夏休みだったら彼女の白い肌が他の野郎共に見られていたことだろう。
「おう、綺麗だったぞ」
「うぅ……あれ、着てきたと思ったんだけど……」
「いや、分かるだろ?」
「……ごめん」
寧ろ役得じゃないだろうか。
ただ、結局その後は彼女の口数も減ってしまい、帰ることになったのだった。




