07
読む自己で。
「はぁ、唯一の友達がいなくなったから私のところに来たと?」
「おう」
よく考えてみなくても六花さんと仲良くなっておいた方がいいと思うんだ。
少なくとも縁が俺みたいにやらかした場合に力になることができる。
まあ、縁と彼女なら大丈夫だとは思いたいが0ではないからな。
「あなた、縁の兄として相応しくないわね」
「そうなんだよ」
「否定しなければいいと思っているところも駄目な点だわ」
どうしろっちゅうねん。
言い訳をしたらそれはそれで文句を言うだろうに。
「あ、まあ友達云々の話はどうでもいいんだ。六花さんは縁のこと、どう思っているんだ?」
「そうね、可愛い子かしら」
「ほ、ほら、なんかあるだろ? 他にもさ」
可愛いのは一緒に暮らしているんだから嫌でも分かる。
これはこういうときにしか確認しようがないんだ、察してほしい。
が、この人の察しの悪さを知っているからな俺、あまり期待しない方がいいか?
「他……ちょっと素直じゃないところがあるわね」
「じゃなくてさ!」
「あなたも同じね、はっきり言いなさい」
「……縁のこと……好き、とかさ」
ああもう、なんで俺がこんな言葉を。
嫌いって言われたばっかだからか?
自分のことじゃないのに懸命になりすぎているのは。
「好きよ?」
「と、特別――」
「そういうのはないわね」
……そんなんだと思ったぜ。
ということは全部気づいておきながらスルーしていたということか。
「なあ、思わせぶりな態度を取るのはやめてやってくれないか、それなら」
「元々していないわよ」
そうだよな、確かに意識させるような接し方とかしてない。
ただなんだ、これまた自分のことじゃないのに悲しい結果だった。
「それと、○○が無理だから私となんて考えを受け入れられるわけないでしょ?」
「ああ、悪かった」
縁のことが気になっているとかじゃなければ友達になる意味もない。
てか、結局榎坂みたいに後に消える関係なら築くだけ無駄だ。
冷静に行動をするべきだった。
自分でも思ったよりダメージを負っていたらしい。
初心を忘れるな、これまでの俺らしく生きればいいんだ。
彼女が所属している教室、階から離れてクラスに戻る。
「縁よ、俺の席に座ってなにしてるんだ?」
「……さっきの聞いた」
「ああ……まあ、六花さん以外にもいるだろ、相性いい子とかさ」
耳がいいのも難点だな。
俺が同じ立場だったら付いていった自分を恨むだろう。
「そんな簡単に見つかるわけないじゃん!」
「ちょ……」
そうでなくても俺の印象悪いんだからさ、やめていただきたいものだが。
「あ、榎坂とかどうだ?」
「……京佳ちゃん?
「もう友達だし大丈夫――」
「……無理でしょ、誰かさんのせいで」
それな。
本当に余計なことしかしねえな俺って。
「ま、とりあえず教室に戻れよ」
最後は返事することすらなく教室から出ていった。
おいおい、まさか妹とも関係の悪化ルートとかじゃないだろうな?
そして妹が去ってから賑やかさが戻ってくる。
だが、聞こえるんだ、色々な言葉が。
……よく聞こえるって難点だな。
「え、あんなこと言うつもりなかった?」
縁ちゃんの言葉にこくこくと頷く私。
私はただ単にお母さんが助言してくれたので、それに沿って話をしていただけだ。
「思っていることとは逆のことを言えばおに――空くんが引き止めてくれると思ってたの?」
「うん……」
もちろん夏休みに県外で過ごす決まりなどはない。
友達がたくさんいると言ったのも嘘になる。
夏休みの予定は起きて、ご飯を食べる、お風呂に入る、そして寝るくらいしかないというのに……。
いや、対お母さんだったら絶対あれでも上手くいく。
その証拠に、これまで喧嘩した際はあれで乗り越えてきたんだから。
でも、相手は志賀山くん。
しかもなんかよく分からない内側にある感情と戦わなければならないこともあって実に忙しかった。
「素直に言うしかないんじゃない?」
「む、無理だよ、だって本当に消しちゃったんだもん」
それを言ったのも、通話を消したのも私だから、偉そうには言えないけれど。
いやでも、だからって速攻で消す? 5分後に見たらトークルームから退出してたんだけど……。
「それは京佳ちゃんのせいでしょ?」
「う゛っ……」
「嫌いって言ったのは?」
「え、な、なんでそれを……」
いくら妹大好き志賀山くんでもホイホイと話さないと思うけどな。
「私、耳がいいの、だから分かるの」
「……き、嫌いなわけないよ……大事な友達だし、猫好き仲間だもん」
あぁ……せめて電話じゃなくてあの公園だったら。
変な雰囲気や致命的なヒビがはいってもアレクサンドラたちが癒やしてくれたというのに。
「ね、関係を戻すことってできないかな?」
「どうだろうね、おに――空くんは頑固なところがあるから。あと、自己評価が低いからね」
どうして近づいて来てくれるんだろうとか考えてそう。
「今年の夏休みこそ友達と過ごすつもりだったのにぃ!」
「いや、だから全部京佳ちゃんのせいでしょ?」
「う゛ゅ……」
「しょうがないなあ、あの公園で待っててよ、おに――空くん連れてきてあげる」
「なんでお兄ちゃんって呼ばない――」
待って、私が「お兄ちゃん」って呼んだら少しは意識してくれるのでは?
もちろん関係を修復してからではあるけれど、そういうので少しずつ私の方へ来てもらえば親友になれる!
「だ、だって恥ずかしいじゃん……」
は? なにこの子可愛いかよ。
この子みたいな可愛さがあったらもっと仲良くなれるんだけどなあ。
「い、いいから公園に行ってなさい!」
「は、はい……」
――公園にはすぐに着いた。
「なぁ」
「あれ、クロくんだけなの? アレクサンドラは?」
「なぁ……」
「え、いないの?」
あれ、確か志賀山くんがアレクサンドラはおばあちゃんとか言ってたっけ。
それだともしかしたら寿命……考えたくもないけど生まれた以上はいつか死んじゃう。
だからこそ悔いが残らないよう毎日をしっかり生きていくのが普通――なのに私は馬鹿なことをして自ら壊してしまった。
なにをやっているんだよ私はっ。
それで修復できないかなとか自分勝手すぎる。
「にゃ~」
「あ、アレクサンドラっ!?」
「にゃ」
「良かった~」
この子を抱いて待っていれば志賀山くんが来たときもしっかり対応できる。
「ゆ、縁から嘘だったって聞いたんだけど」
って、ひゃあ!? い、いつの間にか横で黒くんを愛でているではないか!
あのときとは真逆の立場だった。
確かあのときは志賀山くんが驚いていたなと思い出す。
ふふふ、大きい男の子なのに猫を見る顔が可愛くて興味を持ったんだよね。
「……え、榎坂?」
「あ゛……む、昔みたいだね」
「はははっ、昔みたいってまだ1ヶ月も経っていないぞ?」
だよねえ……なのにすれ違いの頻度が高いよねぇ……。
なんで私ってこんなに不器用なんだろう。
元はと言えば、普通に素で接することができれば問題なかった話なのに。
そうすれば名前も呼んでもらえてモヤモヤすることもなかったのに。
海に一緒に行って楽しい時間を過ごせる予定だったのに。
「……ご、ごめんなさい、あの、そうやって気を引きたくて」
「き、気を引く?」
「あっ!? えと……友達として仲良くしたくて……」
「あ、あ~おう、俺も榎坂と友達でいたかったんだけどさ……」
というか私よ、普通に喋れてるじゃん。
は、恥ずかしいから! とかさっきの縁ちゃんみたいに考えて男の子の口調で話していたけど、全然余裕じゃん。
これってこのまま仲良くなれるフラグが立っているのでは?
「お、お兄ちゃん」
「は――え、ど、どうした榎坂」
む? 妹大好き人間なら私でもいいと思うんだけど。
だって志賀山くんより小さいし……。
「お兄ちゃんっ」
「お、おう……お兄ちゃん、だぞ~」
「お兄ちゃんなら名前で呼んでくれないとおかしいよね?」
「あのさ、で、嫌いとかって言ってたのは――」
「お兄ちゃんなら名前で呼んでくれないとおかしいよね?」
「夏休みに出かけるとか言っていたの――」
「お兄ちゃんなら名前で呼んでくれないとおかしいよね?」
は、恥ずかしいんだよっ、だから早く名前で呼んでおくれよ!
そうすればその後また名字呼びに戻っても問題ないんだから!
……そういえば何気に呼び捨てになっているよね。
もしかして志賀山くんに嫌われている!? いや、呼び捨てでいいけど!
「……嘘つきは榎坂だろ」
「ぶっ……はぃ……すみませんでした……」
「……まあでも嘘なら嬉しいよ、俺は榎坂と仲良くしたいからな」
「びゃっ!? き、禁断の愛はだめだよ!」
「本当の兄じゃないからな。それに血が繋がってない方が好都合――ごほんっ、まあそれが理想だな」
な、なんで血がつながってないと好都合なの?
あ! 私をしばきやすいからかな!?
仲良くなれるのは嬉しいけど、暴力は怖いし嫌だなあ……。
「空お兄ちゃん、仲直りしてくれる?」
「……どうしようかね~だって嫌いって言われて傷ついたしな~あ」
「え?」
「その喋り方を継続してくれたらしようかね~」
「ばか、あほ、ばか、嫌い、ばか、大きいだけの男の子!」
ま、まあ、これがもう私にとって普通のことだし? 拒む必要はないけれども。
それどころか普通に戻れるチャンスをもらえたわけなんだから拒めないけども。
「……許してくれる?」
「だからそう言ってるだろ? それにさ、他の女子といると京佳は嫉妬しちゃうからな~」
「――っ!? し、嫉妬なんてしてないべさっ」
ぎゃあああ!? な、名前呼び!?
……あれだ、お母さんやお父さんにも呼ばれているのに空くんに呼ばれたときだけは心がぽかぽかするのはなんでだろう。
「はは、なんだよその口調」
「海……行きたい」
「それなら終業式の日に行くか」
「うんっ」
って、特別思い入れがあるとかではないけれど。
ただ一緒にいるだけで楽しいし、またたく間にハイテンションになったのだった。
ワンパターン。




