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03

読む自己で。

「そろそろ友達来るから家を出て」

「はい……」


 土曜日。

 晴天に恵まれいい1日になるかと思いきや朝から家を追い出されました。……まあ約束通りなんだけども。

 家の前で突っ立っていても仕方ないので公園へと向けて歩きだす。

 一応榎坂さんも来てくれるらしいし、適当に会話をしつつ猫を愛でていればあっという間に夕方頃になってくれるだろう。


「来てあげたぞ、志賀山」

「ありがとな。さて、愛でるか」


 ただしゃがんでいるだけで猫が近づいてきてくれるという最高の空間となっている。おまけにここら辺のは悪さもしないため、ご近所さんにも気に入られていた。


「あ、ちょっといいか?」

「ん? ひゃばっ!?」

「いや、埃がついていただけだ。取れたから安心してくれ」

「……さ、先に言ってくれればいいだろ?」

「自分で取った方が早いだろ」


 そう言いつつも彼女から少し距離を作って近寄ってきた猫を撫で始める自分。

 ……確かにそうだ、他人の、異性の頭を気軽に触るべきではない。

 少なくとも俺なんかがするべきことではないのは明白だ。


「ぬぁ~」

「はは、変な鳴き声だな」

「な」

「悪い悪い、可愛いよお前は」


 だって老若男女問わず癒やすことができるんだぜ?

 俺なんかいるだけで怖がられる存在だというのに……本気で猫に嫉妬しそうだ。


「にゃ~」

「な」

「行ってこい」


 極めつけはこれだ。

 猫でさえ彼女がいるというのに俺ときたら……。

 そろそろ恋するだけが人生じゃないから! なんて言い訳もやめないとなあ……。

 にしても、黒と白で相性が良さそうだ。

 こっちは……、


「アレクサンドラぁ!? う、浮気していたのか……」


 ……ま、悪口とかは言ってくる子ではないので悪くはないと思う。

 ちなみにアレクサンドラはいま近づいてきた猫に近づいてきた白毛の猫だ。


「……むぅ、まあいい、ボクには志賀山がいるからな」


 そ、それってどういう……? いや、真に受けるな俺。


「って、今日は猫の数が少ないな」


 いつもなら10匹くらいはここでのんびりしているというのに、いまこの場所には3匹くらいしかいなかった。


「ああ、最近アレクサンドラたちは移動範囲も広げているようでここの留まっていないんだ」

「へえ、どうやって知ったんだ?」

「猫耳をつけて尾行した。アレクサンドラは寧ろボクを案内してくれたぞ?」


 アレクサンドラはおばあちゃんだからな。よく他の子の世話をしているようだし、その結果みんなに好かれていて羨ましい。


「榎坂さんの猫耳姿か」

「お、見たいのか?」

「まあ可愛かったしな」


 俺だって結局はそこら辺の野郎と変わらない。

 可愛い子を見たら近づきたくなるし、日常的に関わりたい。

 でも、俺はスペシャリストたちとは違って上手くできないから、未だに異性の友達は榎坂さんだけとなる。


「にゃ、にゃ~」

「それは確かに猫耳だけど、苦しそうだからやめてやってくれ」


 なにかと意識しそうになってしまう俺のためでもある。

 もう少しくらいは考えてほしいことだ。


「……志賀山はどうして猫が好きなんだ?」

「だって単純に可愛いだろ?」

「それはそうだな、アレクサンドラたちは可愛い」

「それに猫語が分からないから悪口を言われているとしても傷つかないからな」


「撫でるなら餌よこせ!」とか言ってきていたら可愛いな。

 なるべく無害で美味しい物を日々探している。

 ただまあ、ちゅ○るには敵わないんだけどな。


「悪口……言われているのか?」

「いや、なんか知らないけど怖いってよく言われるんだよな。別に普通にしているだけなんだけどさ」


 俺なんか不良と比べたら全然怖くない。

 寧ろどこまでも純粋無垢な男の子だ。

 こうして猫を愛でているところを見せたら評価も変わるのでは?


「よく大きいとは言われるな」

「確かに志賀山は大きいな。170後半か?」

「6だな。俺より大きい奴はいるんだけどな」


 そっちはイケメンとか持て囃されている。

 ※ってやつなのか、ここでもそうなのか……。


「ボクは167だ」

「女子にしては大きいよな、榎坂さんは」


 ……特定の部位も大きい。

 その点、縁はほぼないので一安心。

 だって妹の胸が大きかったら目のやり場に困るだろ?

 しかも変な男が体目的で近づいてくるかもしれないというリスクがある。

 本人は地味に気にしているようだが、兄としてはいまのままでいてほしかった。


「志賀山、異性の胸をガン見するのはやめた方がいいぞ……」

「別に欲情しているわけではないからな?」

「見ていたことは否定しないんだな……」

「それよかどうするか、夕方頃まで時間をつぶせないと困るんだよな俺」


 今日に限って猫がいないなんてついていない。

 現在時刻は10時半だ。どうやって時間をつぶそう。


「それなら少し歩こう」

「そうだな」


 ――というわけで散歩開始。

 が、夏のため気温は高い。だから途中に設置してあった自販機で飲み物を買って彼女に手渡す。


「熱射病になられても嫌だからな」

「ありがとう。……んー冷たくて美味しいな」


 残念ながらいまので僕のお小遣いは終わりを迎えた。

 なのでなるべく見ないようにして歩きだした。

 あ~……ボトルを持ったとき冷たくて良かったなぁ……。


「待て、志賀山は飲まないのか?」

「ああ、公園を出る前に飲んだからな」

「嘘をつくな、いいからこれを飲め」

「え……それって……」

「ふふ、間接キスくらいでドキドキするのか?」


 なるほど、ここで拒むのも男じゃない気がする。

 だから俺は引ったくるようにボトルを取り、飲んで、飲んで、飲み続けて、400ミリリットルくらい残っていた中身を飲み干した。


「ぜ、全部……飲んじゃったのか……?」

「美味かったぞ」

「志賀山嫌い……」

「うぇ!?」


 嫌いって言われるのは堪えるな。

 だって彼女にとってはどうか分からないが、俺にとっては彼女しか友達がいないんだ。


「わ、悪かったよ」

「……まあ元々あれは志賀山が買ってくれた物だし、文句を言うべきではないのかもしれないけど……」

「残念ながら金はもうないんだ……かわりになにかしてほしいことはないか?」


 肩たたきなら得意だぞ。

 あの母親を満足させることができるこの両手で――。


「んー、友達を作ってほしい」

「俺もそのつもりなんだけどなぁ……」


 俺の両手でもそればかりは難しい。

 俺だって好き好んでひとりでいることを望んではいない。

 あのスペシャリストたちみたいにワイワイ盛り上がりたいものだ。


「頑張れっ、応援しているぞ!」

「ああ、まあ……」


 ……この反応だと友達ではないみたいだな。

 猫を愛でる仲間、と言うのが1番正しいだろうか。

 なんか少し寂しいもんだな。


「ん、どうしてそんな顔をしている?」

「いや、頑張ってみるかなって」

「ああ、応援しているぞっ」

「……ありがとう。さて、行くか」

「待て、だからどうしてそんな顔をするんだ」

「……だってこれまで上手くいかなかったからな」


 彼女とも友達ではないみたいだし。

 おまけにうちのクラスの男子くんは女子ふたりに夢中だし。


「榎坂さんは友達がいるのか?」

「いるぞ、それもたっっっっくさんな」

「そうか、それならどうすれば友達を作れるんだ?」

「まずは笑顔だっ、やってみろ」

「こうか? いひっ」

「き、きも――す、少しぎこちないな~」


 分かってた、無理しようとすると上手くできないのは。

 猫を愛でているときは素の自分を出せていたため、彼女も恐れずに来てくれたんだろう。

 頑張る必要はあるのか? とついつい考えてしまう。

 友達ができなくても彼女がいてくれる。

 最悪ひとりでもアレクサンドラたちを愛でておけばいいんだし、やっぱり意味はないな。


「やっぱりいい」

「え?」

「友達、作らなくていい」


 別に縁と不仲というわけじゃないしな。

 

「ボクのお願いだぞ?」

「それでも無理して作るものじゃない。そうやって無理やり頑張ったって友達とは言えないだろ」

「そう……だな、悪い……」

「いや。なんかかわりのないか?」


 金はないが肩たたきぐらいはできる。

 パシリとかでもなんでもいい、このまま帰ることは流石に俺にはできないだけだ。 


「今日だけでいいから名前で呼んでくれないか?」

「名前……なんだっけか」

「は――貴様っ」


 嘘だよ、名前を忘れているわけないだろ。

 こういうところでは察しが悪いな彼女は。

 恥ずかしいだろ、異性の名前を呼ぶとか。

 身内を呼ぶのとは違うんだぞ? そこを分かっておくれや。


「というかどうしてボクにはさん付けなんだ!」

「そりゃ関わる異性なんて身内と榎坂さんくらいだしな」

「ふむふむ、そっか、えへへ」


 な、なんでそこで笑うんだ?

「友達いなくてざっこ! 社会性が欠如しているんじゃないの!」と言われている気分に陥るからやめてほしい。


「いいからほらっ、名前で呼んでみてくれ!」

「み、京佳……さん」

「ふふふ、異性の名前を呼ぶくらいでそんなにためらっていたら本番のときに困るから練習しておいた方がいいぞ? なーに、ボクが練習相手になってやるから安心しろ」

「いや、もう呼ばないけど?」

「なっ!? 何故だ……」


 こんなの何回もできるわけないだろうが。

 舐めるなっ、俺の小心者具合を!

 

「そうだな……榎坂さんが普通の喋り方で接してくれるようになったら呼ぶかもな」


 そうすれば仲良くなっていると自信を持って言えるわけだし、確証がない、友達ですらないいまホイホイと名前呼びをするわけにはいかないんだ。


「……それはムリだ」

「そうかい、なら俺も無理だな」

「……多分、延々とムリだぞ」

「なら俺も延々とできないな」


 つか全然散歩してない。

 時間も経過してくれていない。

 残っているのは中途半端で曖昧な空気。


「あはは……なにをやっているんだろうな、ボクたちは」

「さあな」


 せめて猫が公園にいてくれたらこんなぎこちない空気にならなくて済んだ――いや、責めるのはお門違いってもんか。


「そろそろ帰るわ」

「え、縁ちゃんが出ていけと言ったんだろ?」

「別にいいだろリビングにでもいれば」


 追い出す権利なんてそもそも縁にはないんだ。

 両親が出ていけと言ってこない以上、俺にもいる権利がある。


「……そうか、ならここで別れよう。ここならキミの家も近いわけだしな」

「悪かった休日に呼び出して、それじゃあな」

「ああ……」


 が、俺は素直に帰らず公園に戻った。


「縁に嫌われたら終わるからな」


 母は公平に扱ってくれているようにみえてそうじゃない。

 父もそう、基本的に縁の味方をする。

 とどのつまり、彼女の機嫌を損ねたら家での居場所すらなくなってしまうというわけで。


「にゃ~」

「お、アレクサンドラ」

「にゃ」

「悪いな、彼女はいないんだ。あいつはどうしたんだ?」

「にゃ~」


 あ、よく見たら草に隠れてこちらを見ている。

 いや、それどころかこちらを睨んでいる!?

 おばあちゃんだけど美人なのかもしれない。


「ほら、こっちに来い」

「なぁ」

「そうだ、別にアレクサンドラを独り占めしようとしているわけでも、意地悪しようとしているわけでもないから安心しろ」

「な」


 うん、やばい奴という扱いではスペシャリストだった。

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