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「お泊り楽しいね~」
「あ、ああ……そうだな」
現在、8月25日となっている。
ちなみに26日から学校が始まる――という状況で、彼女はあの日からずっと泊まり続けているのだ。
「両親に怒られないのか?」
俺の部屋の床に寝転んで持ってきているゲームをやっている彼女に問いかける。
「大丈夫だよ~、寧ろ『行ってきなさい!』って送り出されたから!」
あ~、こりゃあなんか誤解されているな。
そしてそれを真に受けて泊まり続けた彼女……。
嬉しいような複雑なような、いまではすっかり慣れたが……うんまあそんな感じだ。
「そういえば蛍ちゃんも来るんだよね?」
「ああ、夕方頃にな」
「ふぅん」
「え、な、なんだ?」
いつの間にかこちらを樺茶色の瞳が捉えていた。
ただ、何故かその表情はどこか不満感を感じさせるような種類のものだった。
「ね、自然消滅した子って蛍ちゃんのことだよね?」
「そ、そうだな、そういうことになるな」
「あのさ、そこに恋感情とかってあったの?」
恋感情? まあ、俺にも優しくしてくれて決して悪くない雰囲気だったものの、そういうのはお互いになかったと思う。
何故なら、ほたちゃんには好きな奴がいたんだ。
同じクラスの格好良くて足が速い奴をいつもうっとりした目で見ていた――というか、自慢してきていた。「どうすればお近づきになれるかな」と相談されたことすらある。
残念ながらいい考えが浮かんでこなかったため、「積極的に行けばいいよ」なんて偉そうに言ったっけか。
いや、嘘をついた。
自然消滅したのではなく俺から距離を作ったんだ。
だってほたちゃんはそいつと実際に付き合って、どうしたってそっちを優先する形になり、段々と時間が減っていっていたからな。
「ないよ。そもそも、ほたちゃんはいまもまだ付き合っているからな」
「え、うそっ!?」
「本当だよ。高校は違うけどな」
ただまあ、俺が変な遠慮をして距離を作ったことは嫌だったんだろう。ま、どんな強さをもっていても俺は同じ選択をしたと思うが。
「というかさ、どうして京佳が気にするんだ?」
「……だって私が狙っているんだもん、今更やって来て取られたくないもん」
「そ、それってす――」
「ま、まだだから! まだ気になっている領域だから!」
「はい……」
大胆なところは見習いたいが、男の俺が言うとに漂う犯罪臭感が一気に凄くなるので難しいところだ。
「ま、まだかな、蛍ちゃん」
「って、まだ14時過ぎだぞ?」
「それともお祭り……先に行っちゃう?」
「あ~、会場で待つのも悪くないけど約束しているからな。それに『俺がみれないときは頼んだぞ』って言われてるし、ひとりで来させるわけにはいかないからな」
何気にメッセージのやり取りとかをしている。
別に狙っているわけじゃないのに「蛍のこと取るなよ!」と牽制もされている。
俺としては最近までほたちゃんが近くにいることを全然分からなかったからいつも「え?」と困惑するしかなかったが。
「むぅ……」
「唸っても無駄だ」
ちなみに縁は六花さんのところに既に出かけている。どうやら六花さんの家でのんびりしてから会場へ向かうようだ。
「……もういいもん、手を繋いで離さないからね」
「え、生徒に出会ってもか?」
見方によっては俺が無理やりしているみたいに捉えられてしまう。なにもせずにいても文句を言われるくらいだし、そういう風評被害だけを被ることだけは、なんとも避けたいところではあった。
「当たり前じゃん、罰ゲームだもん」
「罰じゃないけどな」
「……ば、罰なのっ、ご褒美とかじゃないから!」
「ご褒美? あ、俺にとってか? いまも言ったけど俺にとってはなんら罰に該当しないが」
ただただなんでもかんでも緊張してしまうというだけで。
「ちゃうもん……わ、私にとってだよ」
「罰ってことか? そんなに嫌がらなくてもいいのに……」
「違うから!」
罰も違う、俺についてのことじゃない、私のこと、と。
「え、俺と手を繋ぐことをご褒美とか言ってくれるのは凄い嬉しいけど」
「う゛……ち、ちがくて……」
「……ま、いいか。いまから合流して会場に向かおうぜ」
そういう催し物には誰だって早く行きたくなるものだ。
老若男女問わずテンションが上がるイベントだと思うし。
「なにか食べたいものとかあるの?」
「特にないな。京佳といられればそれでいい」
「でも、蛍ちゃんもいるじゃん」
「……断るか?」
それはちょっと考えていたことだ。
だって彼氏がいるなら奴と行くべきだろう。
他校に通っていると言っても、結局近い場所に住んでいるのだから変な遠慮は必要ない。これは決して自分勝手ではないのだ。寧ろふたりのためを思って言っているくらい。
「え? いいよいいよ、そんなこと」
「いや、俺がふたりきりがいいんだけど」
「ちょちょっ、そんな真剣な顔で言われたって私の中では蛍ちゃんとも一緒に行くって――」
「京佳と行きたいんだ、なにをするってわけじゃないけどさ」
彼女の腕を優しく掴んでアピール。
――なんて、自分勝手このうえない発言だった。
「えと……も、もうっ! 迷っちゃったじゃん!」
「ま、あとは京佳次第だ」
こちとら勇気を振り絞りすぎて逃げたいくらいだからな。
本当にらしくないことをしてしまった。
普通通りに装えているのはひとえに彼女が優しいからにすぎない。
これがもし六花さんなら「気持ち悪い」と言われて寝込む羽目になったことだろう。
夏休み最後だというのにそんな虚しい1日を過ごすわけにはいかないんだ。
「……ほ、蛍ちゃんには自分で言ってよね!」
「ああ、大丈夫だ。ちょっと電話してくるわ」
廊下に出てすぐかける。
「もしもし?」
「蛍、今日……なんだけどさ」
「あ、ごめん! 行けなくなっちゃった……いや、あの子と行くから行けないというか……」
「え、まじ? あいつと行くのか?」
「うん、部活動が早く終わったから行けるって」
あいつもたまには空気が読めるな。
いっつもこっちの気なんて知らないで愚痴とか聞かせてきていたからなあ、非モテにはただただ辛い時間だった。
「そっか、良かったわ」
これでは蛍が来れなくて良かったみたいな言い方に聞こえてしまうかもしれないがそうじゃない。大丈夫、彼女なら分かってくれるはずだ。
「ははは、京佳さんと仲良くね」
「そっちこそ、あいつの食い意地には気をつけろ」
「私が奢ってもらうつもりですからっ。はは、それじゃあね!」
ふぅ、これにて一件落着、と。
部屋に戻ると何故か京佳がうつ伏せで寝っ転がっていた。
よく見てみると耳が赤い。熱中症かと思い裏返してみると、どうしてか潤んでいる瞳と目が合う。
「どうした? あ、もしかして蛍と行きたかったのか?」
「……違う」
「とりあえず水分摂れよ」
「ありがと……」
せっかくふたりきりで行けるようになったのに体調が悪くて無理でした~なんてなったら悲しいからな。
単純に彼女が不調になったら嫌だし、しっかりと見ておかないといけないようだ。
「……気づいてないの?」
「は?」
「……なんか今日の空くん、大胆だよ? ……もう少し勢いを弱めてくれないと……調子が狂うよ」
確かに今日はなんだか大胆に行動できているような……。
この後に祭りがあるというのも大きいが、焦れったさに叫んでいる内側の感情が1番影響を与えているのかもしれない。
俺、多分会場で雰囲気良くなったら多分――なるにしろならないにしろ、祭り独特の雰囲気に流され人気のない場所に移動してまあ……自由にするかも。
「前だって一緒にいたいって思うとか、さらっと名前で呼んできたりして……」
「京佳だって似たようなことをしてきただろ?」
「……もういいっ、行こっ?」
「そうだな、行くか」




