あの人の力③
僕は、死者の声が聞こえるんだ。きっと君のおじいさんの声も聞こえるし、話すこともできると思うよ。この家にまだ魂がいらっしゃるようだから。」
どういうことだろうか。間違った薬を投与して頭がおかしくなってしまったのだろうか。だとしたらまずい。それとも、変な催眠術とかをかけられて大事なものなどを盗まれてしまうのではないか?…だが、この人の口調は先ほどと打って変わってとても穏やかになっている。なぜか信じられるような気がしてきた。
「よく…っ…わかりませんけど…っ…おじいちゃんと話せるんですか?…」
「うん。まずは君の手を出して…」
言われるままに私は手を出した。その人は私の手を見つめる。が、その人は突然しゃべるのをやめた。目を見開いて、何かに驚いたような、怯えたような顔になった。どうしたのだろう。死者の声が聞こえるというのはやっぱり嘘だったのだろうか。
「あのー、どうかされましたか?」
泣きはらした目をしながら私は訊く。
「あ、いや、何でもないんだ。手が…」
「手?何か付いてましたか?」
私はすかさず手を確認する。何もついていないように見える。
「本当に何でもないよ。ごめんね、取り乱してしまって。はい。君はとても良い手をしてる。」
「そうですか?ほめられたことなんて一度もありませんけど…」
「シッ!」
急にその人は唇に手を人差し指を当てた。何も起こらない。
「うん。この部屋に呼ぶことは出来たみたいだ。」
えっ?全く感じない。この人にはやっぱり霊感とかがあるのだろうか。
「次だ。手のひらを裏返して。こうすることで相手に心の全身を見せることができるから。」
「はい。」
なんだか眠くなってきてしまった。駄目だ駄目だ!これからおじいちゃんと話すんでしょ!……でもやっぱり…眠い。
「うん。仕方ないね。君のおじいさんはやさしさが強すぎるあまり、眠気を催してしまうようだ。」
えっ?おじいちゃんと話せないの?そんなのいや!
「眠るんだ。僕以外の人間は、死者と直接対話をしてはいけない。死者に死へと引きずり込まれる可能性があるからね。」
なかなかに怖いことを言う。が、もう眠気が襲ってきてしまった。