2話 「悪魔を召喚するには理由から」
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聖女「さあ、今日こそはじめての悪魔召喚、やっちゃいますよー!」
魔女「いいところに来たわね。っていうか、昨日はよくもあんな状況で帰ってくれたわね」
聖女「あらティア。朝から何を怒ってるんです?」
魔女「アンタが召喚したタコ悪魔。覚えてるわよね?」
聖女「もちろんじゃないですか。私はティアと同い年ですよ? ボケるには早すぎますからね」
魔女「そう。じゃあ昨日、そのタコを放置して帰ったことは?」
聖女「……あれ? ティアさん、私の朝ごはんはまだです?」
魔女「ベタな返しでごまかすな!」
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悪魔「私は召喚に応じて人界へと顕現した存在。何か行動を起こすには、召喚者が近くにいる必要があります」
聖女「まあ、悪魔ってとても律儀なんですね」
魔女「アンタも少しは見習うべきよね」
悪魔「たとえそれが聖女であっても同じこと。さあ、望みを告げてください」
聖女「私が欲しいものは同僚からの羨望の視線と、信者からの敬虔な祈り。あと大きな教会を建てられる土地ですけど、叶えて貰ったら代償とかあるんですか?」
悪魔「確かに幾許かの魔力を頂きますが、今は私の生誕二万年記念のキャンペーン中です。いつもの二万分の一の魔力でいいので、貴女の魔力量なら一日ほど休めば全快しますよ」
聖女「まあ、悪魔って懐が広いんですね」
魔女「アンタも少しは見習うべきよね」
聖女「ですが私は疲れるのが嫌いなので、キャンペーンならもうちょっと頑張ってタダにしてください」
魔女「アンタはもっとちゃんと見習え!!」
3******
悪魔「いくら生誕記念でも無償という訳にはいきません」
魔女「まあ当たり前よね」
悪魔「個人的には叶えてあげたい気持ちはあるのですが、悪魔は捧げ物なく奉仕すると、意味消失を起こして死んでしまうので……」
魔女「いいのそれ言って!? 重大な弱点じゃない! 悪魔のクセにお人好しにもほどがあるわよ!」
悪魔「悪魔は情報の開示には真摯なんです。そこから言葉巧みに魔力や魂をどれだけ奪えるかが、私どもの腕の見せ所でして」
聖女「何も叶えてくれないあなたに用がありません。もう消えてください!」
悪魔「聖なる力がアヒン!!」
魔女「タコがちょっといい匂いさせて爆散した!!」
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魔女「情報とか弱点とか何の関係もなく倒したわね……」
聖女「聖女に不可能はありません。これ、来期の僧侶試験で出るので、ティアはしっかりメモっておいてくださいね」
魔女「いやわたし魔女だから。聖職者の天敵だから。どうして試験を受けると思うのよ」
聖女「クスン……私たち、こんなに仲のいい友達なのに?」
魔女「アンタを友達だと思ったことは一度もないわよ!」
聖女「友達以上の関係というのはちょっと……私ノーマルなので」
魔女「……ベタな方向で苛つかせるのが好きよねアンタ」
聖女「失礼を言わないでください!」
魔女「な、何よ。謝らないわよ」
聖女「私はティアをからかうことなら何でも好きですよ! えへん!」
魔女「胸を張るな!!」
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聖女「ティアったら可愛いこめかみをそんなにしちゃって……私には何をそんなに怒っているのかわかりません」
魔女「わたしはアンタのそのこめかみ推しがわからないわよ」
聖女「やはり私が聖女として未熟だからでしょうか」
魔女「聖女というか、人として未熟なとこだらけでしょアンタは」
聖女「けれど諦めてはいけません。どんな絶望が立ち塞がろうとも、祈ることをやめてはいけないのです」
魔女「ここ魔女の家だから。祈るなら教会に行ってくれないかしら」
聖女「ああ、神よ。ティアの怒りをお鎮めください」
魔女「ねえ、お願いだから話を聞いて?」
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聖女「それでは改めて、はじめての悪魔召喚を執り行いましょう!」
魔女「待ちなさい。今日こそはアンタの思い通りにさせないわよ。ちゃんと悪魔を召喚したいなんて言い出した理由を話しなさい」
聖女「……本当に聞きたいんですか? 後悔するかもしれませんよ?」
魔女「な、何よ。そんな重い理由があるの?」
聖女「はい。海よりも深く、天よりも高く。迸る聖女の愛の輝きが」
魔女「ちょっと何言ってるか分かんないけど……いいわ、聞くわよ。友達じゃないけど、幼馴染みだものね」
聖女「実は……悪魔と契約しようとするティアが心配で。せめて私が安全な悪魔を召喚しようと……」
魔女「……意外ね。アンタがわたしのことを、そんなに想ってたなんて……でも大丈夫よ。わたしも魔女の端くれ。悪魔召喚の注意点は心得てるから、安心してちょうだい」
聖女「ティア……(チョロい)」
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魔女「よく考えてみたんだけど、アンタが適当なことを言ってる気がしてきたわ」
聖女「私は嘘なんてつきませんよ。さすがに失礼すぎるのではと苦言を呈さざるを得ません」
魔女「……そうよね。悪かったわ。アンタの普段の行いがあれだから、つい」
聖女「嘘です」
魔女「は!? なに一瞬で意見翻してんのよ!?」
聖女「性格判断的には『今まで嘘をついたことありません』という問いにハイと答える人は、嘘つきとされるらしいですよ。そんな人いませんからね」
魔女「ふーん……なるほどねえ」
聖女「…………」
魔女「…………」
聖女「…………」
魔女「……だからどうしたってのよ!?」
聖女「ティアったらおそーい!」
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聖女「良いでしょう。たまに素直になっちゃうティアの可愛さに免じて、本当のことを教えてあげます」
魔女「ちょっと油断しただけじゃない……それで何なのよ」
聖女「聖女とは自ら名乗るではなく、認められてなるもの。つまり聖女認定された私はもう何をしても聖女なのです! ですので手始めにやるなら悪魔召喚の儀式かなと!」
魔女「聖女ってそういう自由な解釈ができる生き物じゃないから! っていうか最初からそんなヤバいとこに突っ込む理由はないでしょ!?」
聖女「いいえあります。聖女ということで許されること許されないこと。その境目を歩くことに興奮を覚えるじゃないですか?」
魔女「いや知らないわよ。わたしに聞くな」
聖女「というかもうすでにドキドキです! 聖女な私と異形な悪魔とのコラボ! ああ、ステキ!」
魔女「思いっきり境界超えてるわよ! あとツッコミきれなくて言いそびれてたけど悪魔召喚はわたしの仕事だから!」
聖女「まあ。魔女がそんな悪いことをしてはいけません!」
魔女「アンタだけには言われたくない!」
聖女「悔い改めないと火刑に処しますよ? キリッ!」
魔女「……何よその効果音とポーズ」
聖女「えへへー、ちょっとカッコ可愛くないですか? キリッ!」
魔女「ホンッとにウザいわねアンタ!?」
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聖女「本当はね……恐いんです」
魔女「恐い……? 何がよ」
聖女「私は聖女。教皇様よりそう認定されました。ですけど、それは私が人々に愛想を振りまいていただけの話です」
魔女「そんな……そんなことないわよ。アンタは戦争で傷付いた人たちを魔法で治癒して回った。戦渦に巻き込まれた力ない人たちの救いとなった英雄じゃない」
聖女「いいんです。しょせん私はハリボテの聖女。教会に信を集めるだけの人身御供なんです」
魔女「……教会の考えはどうあれ、アンタが人々に与えた希望は本物よ。助けようと立ち上がった意思もね」
聖女「そうなんですよねー。教会の予想に反してわたしの聖女パワーがすごすぎて、悪魔でも召喚しておかないと神々しすぎて教会の立つ瀬がないんですよー」
魔女「だから気を落とさずに……え?」
聖女「もう私、いつ教皇を変わってくれないかと言われるか恐くて恐くて。身動きができなくなる教皇職はしばらくはゴメンです。まだ数年はティアと遊びたいですからね!」
魔女「――やっぱりウッザいわねアンタ!? 結局どれが本当なのよ!」
聖女「キリッ!」
魔女「返せ! 真面目になったわたしの気持ちを返せ!」




