1話 「はじめての悪魔召喚」
1******
聖女「それでは! 今からはじめての悪魔召喚をやってみたいと思います!」
魔女「待て待て待て。アンタ、ちょっと待ちなさい」
聖女「どうしましたティア? 可愛らしいこめかみに青筋が立ってますよ?」
魔女「こめかみに可愛いなんて概念ないわよ。じゃなくて、メルウ。アンタここがどこだかわかってるのかしら?」
聖女「もちろん。ティアの家ですよ」
魔女「そうね。教えた覚えがないのは、まあいいわ。それよりアンタがどうしてわたしの家にいるのよ?」
聖女「やだなあ。悪魔を召喚するって言ったら、やっぱり魔女のお家でやるのが一番じゃないですかー」
魔女「答えになってないわよ! 無断で押し入って何してんのよって言ってるのわたしは!」
聖女「えへへー」
魔女「赤くなるタイミングじゃないから!」
聖女「いえ、もうすぐ悪魔を召喚できると思うと、ワクワクしちゃって!」
魔女「ちゃんと私の会話に付き合いなさいよ!」
2******
魔女「まずはワケを話しなさいよね。どうしていきなり悪魔を召喚するだなんて言い出したの?」
聖女「私この度、聖女になったんです。聖人認定です!」
魔女「そうね。アンタ頑張ってたものね。おめでとう。それで?」
聖女「はい! 聖女になったことですし、まずは悪魔を召喚してみようかなと」
魔女「待って。発想が飛躍しすぎて筋道がよくわからないわ」
聖女「……? 聖女になった。悪魔を召喚しよう。どこがわからないんです?」
魔女「アンタの脳みそにはワープ装置でも付いてんの?」
聖女「私の頭には女神様しか憑いてませんよ!」
魔女「それもなんか怖いわよ……その女神様が、悪魔を召喚しろって?」
聖女「いえ、色々とささやいてきてうるさかったので封印しました」
魔女「何がどう転んでもアンタが一番ヤバい奴って事実に変わりはないわね」
3******
聖女「悪魔さんを呼び出しました!」
魔女「早いわねっ! はじめての召喚なんて言うんだから、もっとじっくりやりなさいよ。っていうかそろそろ理由教えろ」
聖女「いいんです。まずは練習ですから、これはノーカンです! まだ私の悪魔召喚はゼロ回です、バージンです!」
魔女「言い直さなくていいから。それで? その悪魔はどこにいるのよ」
聖女「……うふふ。まさか、魔女であるティアがまだ気付かないとは思いませんでした」
魔女「何を言って――まさか、どっかの女神みたいにアンタの頭に取り憑いて……! 大変じゃない、すぐに祓わないと!」
聖女「ジャーン! そこの水槽に入ってるタコさんが今回お呼びした悪魔です!」
魔女「気付くか!! なんでタコ!? あとその水槽いつの間に持ってきたのよ!? 心配したわたしが馬鹿みたいじゃない!」
聖女「ツッコミで叫びすぎてノド痛くなりません? ってよく言われません?」
魔女「アンタ以外にはない!!」
4******
魔女「ク、見た目は普通のタコのクセに、すごい魔力ね。これが本物の悪魔……!」
聖女「ビリビリきますねー」
魔女「正直、展開についていけないと思ってたけど、もしここで契約できればこの魔力がわたしのものになって、すごく格好良い魔法を使えるようになるわ!」
聖女「あっ、すごい。ん、ちょっと力が強すぎますー」
魔女「七歳から魔女を始めて十年。長年夢見ていた『紅の魔氷』や『漆黒雷鞭ドラコ・トニトゥルス』をとうとう……!!」
聖女「あー雷撃はちょっぴりパンチが弱いからもう少し強めにしましょー」
魔女「私のマッサージ器を勝手に使うのはやめろ」
5******
魔女「だけどこの悪魔。魔力はすごいけどまったく動かないじゃない。失敗したんじゃないの?」
聖女「まさかー。私が一年も研究して組み上げた召喚魔術ですよ? 失敗なんてありえないです」
魔女「聖女が向けていい情熱じゃないわよねそれ」
悪魔『人の子よ……聞こえますか?』
魔女「な――直接頭の中に……! これが悪魔の力ってわけね……!」
悪魔『すぐに……望みを言いなさい……そして……私を魔界に帰すのです……もしくは…………』
魔女「(怒ってる? ……まさか、聖女なんかが呼び出したことに腹を立てて、わたしたちを殺す気なんじゃあ……!)」
悪魔『……私を……この水槽から……速やかに救出するのです……私、陸棲……もう、息が……』
魔女「もっと早く言いなさいよね!! さっさと水槽割るわよメルウ!」
6******
悪魔「悪魔として生をうけて二万年。水槽の中に直接召喚されたのは初めての経験でした」
魔女「……でしょうね」
悪魔「まあタコツボに召喚された時に比べたら、精神的な苦痛はマシですが」
魔女「アンタものすごく過酷な人生……タコ生? 悪魔生かしら……とにかく、苦労してるのね」
悪魔「ええ、語れば耳にたこができるくらいの生涯です……タコだけに」
魔女「面白くないわよ。溺れて頭もおかしくなってるんじゃない? ほら、これでも食べて元気を出して」
悪魔「お心遣い痛み入ります。……苦しくてシビれる。これは……」
魔女「いま召喚したカニよ。確かタコの好物よね? 毒がある種類だけど、好物なら大丈夫でしょ」
悪魔「だから私、陸棲。食べられませんってそんなの! ……グフッ!」
聖女「魔女が悪魔をやっつけるなんてどういう了見ですか!?」
魔女「アンタ《聖女》が怒るタイミングそこじゃないから」
7******
悪魔「私を召喚したのは貴女ですか? 黒い三角帽子に黒いローブ。可愛い顔を台無しにするファッションセンス。間違いなく魔女ですね。髪の色が金なのが唯一の救いですが、瞳の色が緑なのは個人的に減点です」
魔女「(悪魔とはいえタコに見た目をどうこう言われるのは腹立つわね……)残念だけど、わたしじゃないわ。そいつよ」
聖女「はい、私です。ステキな環境でお迎えしようと水槽を用意してたんですけど、すみませんね」
悪魔「ふむ……まったく悪びれる様子のない謝罪は魔女らしいかもしれないですが……ふむ。桃色の髪に水色の瞳。服装はいっそ華やかなまでに明るいタイトなワンピース。キレイで爽やかな顔とも相まって、とても魔女には見えませんね」
魔女「そりゃそうでしょ。そいつ、魔女じゃないもの(さっきからこのタコ、容姿にうるさいわ……)」
悪魔「ほう。魔女以外に悪魔を召喚するなど。面白いですね。では君は何者なのですか?」
聖女「やだなあ悪魔さんたら。どこからどう見ても聖女じゃないですかー」
悪魔「聖なる力がビンビン!!」
魔女「タコが食べ頃のサイズに四散した!?」
8******
悪魔「酷い目に遭った」
聖女「悪魔って浄化されるんですねー。悪魔さん、危うく私たちの昼のお食事になるとこでしたねっ! 回復魔法が効果あって良かったです!」
魔女「いや食べないから……けれどメルウ、本当は悪魔がとても危険なことはアンタも知ってるでしょ? どうしてわざわざ悪魔を召喚しようなんて思ったのよ」
聖女「いい質問ですね。三重のマルにお花も付けてあげます」
魔女「……その程度じゃツッコんであげないんだからね」
聖女「ねえ、私の二の腕ってティアみたいに引き締まりながらも適度にプニプニしてて、理想的だと思いません?」
魔女「……まあ、認めてあげなくもないわ」
聖女「えへへー」
魔女「…………」
聖女「…………」
魔女「……だから会話!!」