冬の一こま
街を行き交う人をそっと眺める。街はあたり一面クリスマスムードで、どこか浮き足立っているようなそんな感じがしてくる。
「寒いねー」
隣で僕と同じ用に道を歩く人を見ていた彼女がそう呟く。
「皆、なんか浮かれた感じがする」
「そうだなー」
「私たちはどう見られてるのかな?」
「んー……その辺にいるカップルって感じかな?」
そんな会話を繰り返しながら、また歩き始める。
今日は休日で、たまには街を歩きたいと彼女が言ったので、僕たちは目的も無く街を歩き回っていた。
「ねえ」
「なに?」
彼女が何かを考えているのは先ほどからわかっていた。彼女は時々難しいことを考えたり口にしたりする。僕的にはそこまで深く考えなくても、なんて思うこともある。まあ、それも含めて彼女の良さではあるが。
「私さ、君の彼女で良かった?」
「また突然何を言い出すんだ? 良いに決まってるだろ?」
彼女が立ち止まって突然そんなことを口に出した。僕は歩を止めて、彼女を振り返る。行き交う人は僕たちをちらちらとみるが、それだけで去って行く。
「ほら、行こうぜ?」
「……うん」
彼女はそのまま歩き出しそうに無かったので、僕は彼女の手を引っ張って歩き出した。彼女も僕に従ってまた歩き出す。
「ねえ、君はもっとこうなんていうか、元気でスポーツもできる子のほうが良かったんじゃないの?」
「はあ?」
彼女は小さな言葉でそんなことを言った。僕はあきれ返って彼女の顔を覗き込もうとするが、ふっと顔を伏せられた。仕方が無いので前を向きながら会話を続ける。
「俺はお前のことが好きだし、付き合ってよかったと思ってる。それに、これからも一緒にいたいと思うし」
「でも、私何にもできないよ? 頭が良いわけでも可愛いわけでも、ましてスポーツができるわけでもないし」
「いーやすごく可愛いと思う。笑った顔とかちょっと起こった顔とか。俺にはもったいないくらい可愛い彼女だ」
「可愛くないよ」
「可愛いよ」
「可愛くない」
彼女が自分にコンプレックスを持っているのは知っている。特に、スポーツができる女の子に対しては。彼女は小さい頃から体が弱く、運動ができる体ではなかった。テレビに映るキラキラしたスポーツ少女になりたいと言っていたのを僕は覚えている。しかし、その夢が叶うことはもはや無く。それでも、彼女は運動はあまりできないが、日常生活に支障が無いくらいに元気になって、こうして隣を歩いている。
それは、やっぱりすごいことなんだなあと僕は何度も思う。テレビに映るスポーツ選手に負けず劣らずキラキラしていると思っているし、僕が付き合えているのも本当に幸せなことだと思う。
それに、彼女はとても可愛い。本人は可愛くないと言うが、僕と付き合う前には何人もの男から告白されているのだ。
「とにかく、私は可愛くないの」
「まあまあ、そんなムキにならなくても」
彼女の手はとても温かい。一緒にいると温もりを感じる。これが好きな人と一緒にいると感じる気持ちなんだなと、つい最近になって思った。
隣を歩く可愛い彼女に今年は何をプレゼントしようかなと考えながら、十二月の街を手を繋ぎながら歩き続ける。
ここまでお読みくださりありがとうございました。
久しぶりの短編小説で、色々悩みながら書きました。
何気ない日常、何気ない会話。日々当たり前のようにしていることですが、その日々の中にも大切なことはあるんじゃないかなと考えたのがこの話のきっかけです。