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きよし、企む

【前回までのあらすじ】

 主人公のきよしは、水洗便所に流されて絶命。死んだ爺ちゃん(うんこ神)のおかげで剣と魔法の世界に転生した。清はパンダ獣人のパンパンと依頼をこなす中、自分が「うんこがたまるほど強くなる、かつ、うんこの性質を追加能力にする」ということを知る。次の依頼の最中、野球帽の少女エーリカとオネエ熟練戦士ルアーナとパーティを組むことになった清とパンパン。彼らは冒険者武闘大会『ギルドバトル』に参加する。無事に予選を通過した清たちは、ついに本戦を迎え、一回戦の強敵マックスに死闘の末勝利した。次の相手は第四シード、さらなる強敵を前に清は卑怯作戦を計ずる。


挿絵(By みてみん)


「いやー、私、いまお使い頼まれているんで」


 パオンはそれまで手のひらに握っていた数枚の紙幣をヒラヒラと俺に見せてくる。困った顔、本物のお札。こいつはガオン達の奴隷として何か買い物を頼まれているんだろう。ふーん、困ったじゃん。


 ……。


 でも、そんなの関係ねえ!

 でも、そんなの関係ねえ!


 はい……。どうせこっちの世界の人には通じないし、拳を振り下ろす動作も心の中だけにしておくけど俺は引かない。


「ほらほら! 遠慮しないで! ね! ほら!」


 俺はパオンの手首をがっしり掴むと、さながら大阪のおばちゃんみたいな強引さで、無理やり腕を引いて連行する。パオンはささやかな反抗を見せるが、全体的に栄養失調なせいなのか抗う力はひどく弱い。結果的に清 feat. 大阪のあばちゃん が彼を引きずり回すようになっている。


「困りますよ! 御手洗さん!」


「ほら! いいから! いいから! ウチおかしいっぱいあるから! 黒糖飴も濡れせんべいもあるから!」


「なんかチョイスがひどく微妙なんですけど……」


「それならハッカ飴もあるわよ」


 ずりずりずりとパオンを薄暗い廊下に引っ張って、俺たちの選手控室の前までくる。空いた手の方で扉を開け放ち、部屋の中に彼を放り込む。俺も部屋に入り、彼の退路を塞ぐように扉の鍵をしめた。


 相変わらず、明るいし空調も効いた快適な部屋だ。試合観戦するにしても、客席からよりも部屋のTVモニターで見た方が圧倒的に見やすいし、ソファーもシャワーもあるからこっちの方が上だ。もちろん、ホモと二人きりにならない前提だが……。


 打ち捨てられた乙女みたいな座り方で床の上で肩を落とすパオンはため息をついた。


「ああ、またガオン様のお仕置きを受けなければなりません。はぁ……」


「無理やり二人だけになったのは、それについてなんだパオン。まあ座れや」


 彼をソファーに腰かけるように促し、俺はルアーナが持ってきていたお茶を淹れる。仕組みは分からねえけど給湯器まであるなんて、まったく屋敷並みに便利な部屋だぜ。


 パオンはよろよろと立ち上がり、ソファーに腰かけた。俺は紅茶の注がれた二つのカップを、彼の目の前の膝丈くらいの机に置いた。そして、俺もソファーに腰かけ、香ばしい湯気の上る極上の液体を一口すすった。ホモ茶のくせにうまいんだよな、たぶん高級なんだろう。


「それで御手洗さんの本当の要件とは何なんでしょうか」


「お前、なんでガオン達から逃げ出さないの? 俺がお前の立場だったらとっくの昔に逃げて自由の身になってるよ」


 パオンは、ティーカップに手を伸ばし一度それを口にしようとしたが、躊躇うようにもう一度机の上に置いて手を放した。


「私も、私が自由であったらと思う日がないわけではありません。ですが私は、奴隷としてガオン様に買われた所有物なのです。この首輪がその証です」


「首輪?」


 たしかにパオンの首元には銀色のたいそう立派な首輪がはまっている。ちょうど喉仏のあたりに小さな鍵穴が空いているみたいだった。


「これは鍵がないと外せないうえに、主人に逆らったり、逃げたりすると失神するほどの強烈な電気ショックが流れる仕組みになっているのです」


「小さいのに高性能なんだな。お前はそれを外したくないのか?」


「それはもちろん外したいですよ。ですが、鍵はガオン様が持っていますからね」


「クックック。じゃあ、手伝ってやるよ。お前がそれを外すの」


 どうせただの鍵一つ、そこら辺の鍛冶屋にでも行けば複製鍵を作れるだろう。そんで複製鍵を手に入れたら、交換条件としてうちらに協力するようにして提示する。それでいい。


 パオンは目を伏せたまま力なく首を横に振った。俺のこめかみに汗が伝る。偉大なる企みが看破されたのだろうか。


「これは主の魔力の種類を認識して使われる魔道具です。鍵はガオン様の魔力そのものです。それでも外せるというのですか?」


「ぐぬぬ……」


 俺は思わぬめんどくささに唇を噛む。こいつの奴隷状態をなんとかするには、ガオンにこいつの鍵を外させなければならないということだ。並大抵のことではない。端的いにってダルすぎる。


 が、普通にあいつらとボコりあうよりはましか。しかしな、ぐぬぬ。


「ですが、御手洗さん。私はただの奴隷ですよ。どうして解放しようとしてくださるんですか?」


「んー、もちろん打算もあるけど。お前が見てらんないってのもあるな。街でボコボコにされてたのも実はっそり見てたんだよね、俺たち」


 これは間違いなく俺の本心でもある。この調子で奴隷として扱われ続けたら、こいつはいつか死んでしまうだろう。この世界の法がそれを許すかどうかは知らないが、無力で善良な人が意味もなく殺されるのは見ていて気分がいいものではない。


 それに、俺たちは兄貴に勝ったのだから、こいつを助けた兄貴のそういう誇り高い部分も、これから背負っていかなくてはならないだろう。


「ありがとうございます。ですが、お手を煩わすだけかと思います」


「感謝してるだけじゃ、お前そのうち死ぬだろ。何か方法はあるはずなんだがなあ」


 俺は頬杖をついてしばらく思案する。要はガオンが俺の言うことを聞いて、パオンの首輪を外せばいいわけだ。すげえ強いあいつに、大して強くない俺の命令を絶対に聞かせる方法……。絶対服従。


 ――せや、ワイがガオンを奴隷にすればええんや!


 いいこと閃いちゃったぜ!


「その首輪って売ってるのか?」


「かなり高価ですが、奴隷を管理するときに使う一般的な魔道具ですから、商品の数自体は多いはずですよ」


 ククク、値段はルアーナの家に払わせればどうにだってなるはずだ。執事に言付けしておけば試合までにはブツを三つは用意できるだろう。試合中、ガオン、ワオン、ニャオンの三人に首輪をセットして俺の奴隷にする。それでゲームセットだ!


「よーし! ガオンを俺の奴隷にしてお前の首輪を外させる。お前はそれを手伝え」


「えええ? 何を言っているんですか? ガオン様は相当強いです。首輪は意識が憔悴しているような相手でないとつけられませんよ」


「馬鹿野郎! だからお前が手伝うんだよ! お前はお前の自由のために知恵かせや!」


「な、なるほど……。わかりました」


 パオンは俺の気迫に威圧されるように小さく縮こまる。こいつには、トロピカルばんびーず打倒のために大いに働いてもらわなければならない。萎縮している場合ではないのだ。


「ほら、俺とお前は協力関係。はやくあいつらのことを色々教えろ。そのうえで策を練るぞ」


 俺はこの後、ガオン、ニャオン、ワオンのギフト、ルーチン、ストロングポイント、逆に弱点などについてパオンから話を詳細に聞き出した。やはり、睨んだ通りつけ入る隙はかなりありそうだ。とくに、味方のはずのパオンに裏切られるとは考えてもいないだろう。


 情報をまとめたうえで、作戦案を話し合う。パオンがやっているのは、彼女らの身の回りの世話と言うことで、実現できそうな案は一つだけだった。暗殺とか、手段を選ばなければいくらでも方法はあるだろうが、人助けをうたっている現状それらは本末転倒だ。


 出来上がった作戦の一部分だけをパオンに手伝ってもらう。これは試合が始まるまでの仕込みみたいなもんだ。いざ、試合になったら俺たちにすべて任せろ、とパオンに言った。


………………

…………

……。


 パンパンとエーリカたんには作戦の内容を一部表現を変えて説明してある。首輪のことも奴隷にする首輪だとは言っていない。相手を拘束する首輪だと説明している。だから厳密には嘘にはならない。


 奴隷にするとか言ったら、パンパンあたりに絶対反対されるもんな。エーリカたんはそもそも無関心で何も言わないかもだけど。ちゃんと手はず通り、トロピカルばんびーずの控室周囲の公衆トイレは試合前に全て閉鎖されていた。そこはパオンがうまくやったのだろう。


 俺も今日は前回の試合よりも持ち物が多い。腰のポーチに三人分の首輪、そして虎の子、植物Xの抽出液の小瓶だ。首輪は執事に頼んだら、屋敷に常備してありますとか言って持ってきてくれた。ホモが何に使っていたのかはあまり考えないでおこう。


 それで、小瓶の方。こいつは手に入れるのに結構苦労をした。俺のもといた世界では置いてある店さえ探せば比較的簡単に手に入るものだったが、この世界で同じ植物が生えているかどうかすら謎だった。執事に聞いても珍しく分からなそうだったから、街のいろんな商店やら、薬屋、魔法材料屋、みたいな色々な怪しい店を訪ね歩いた。


 そうしてようやく見つけたのが、一本の小瓶だった。植物自体の自生はこの世界にもあるらしい。が、この街の近くには生えていないらしい。だから、少量のくせに結構値段が張りやがった。パンパンからお金を借りてなんとか支払えるくらいだった。


 俺が認識できる範囲では何もかもが準備万全。パオンの方も自信満々な様子なので、公衆トイレ封鎖以外も気づかれずにうまくやれたんだろう。素晴らしいことだぜ。くくくく。


 それに対して、ガオンの表情は余裕しゃくしゃくだ。ワオンとニャオンもにやにやと笑っている。その余裕、俺たちのパーフェクトプランを前にしていつまで保ってられるかな!?


 カーーーン、試合開始のゴングが鳴り響いた。毎度のことながら観客が津波みたいに湧き上がる。自分で言うのもなんだけど、すげえ勝ち方した一回戦、それと第四シードの試合なんだから、みんな注目していて当然だろう。どんなに、白熱する殴り合いが起きるのか、ガオンの超攻撃力が見れるのか期待しちゃうよねw


 だがな、興ざめかもしれないけどよ。今回の試合ショーは、俺たちの一方的な、しかも違う意味で盛り上がりそうな勝利で終わる。


 これこそが、御手洗清流――超卑怯戦術。無知蒙昧の観客どもよ、目ェ、まんまるに見開いて、その脳裏に焼きつけやがれ!


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