きよし、卑怯作戦の必要性を感じる
【前回までのあらすじ】
主人公の清は、水洗便所に流されて絶命。死んだ爺ちゃん(うんこ神)のおかげで剣と魔法の世界に転生した。清はパンダ獣人のパンパンと依頼をこなす中、自分が「うんこがたまるほど強くなる、かつ、うんこの性質を追加能力にする」ということを知る。次の依頼の最中、野球帽の少女エーリカとオネエ熟練戦士ルアーナとパーティを組むことになった清とパンパン。彼らは冒険者武闘大会『ギルドバトル』に参加する。無事に予選を通過した清たちは、ついに本戦を迎え、一回戦の強敵マックスに死闘の末勝利したのだった。
◇
透明なガラス窓の外はすでに夜の帳に包まれている。俺たちは試合が終わり次第、屋敷に帰ってきていた。
着替えやシャワーはチームの控室で済ませてきた。だが、案の定、帰る途中に俺たちの勝利を快く思わない観客によってケチャップやら謎の飲み物やらをぶちまけられたので(しかも俺だけ!)、屋敷で体をもう一度洗わなければならない羽目になった。
やり返してやりたいのは山々だけど、試合後はだいたいうんこしてるから最弱になってるのが問題だ。試合前だったら思う存分オラつけるのに。
そんで、屋敷で風呂に入って、そっから上がるころにはすっかり夜になっていた。俺は腹が減ったので食堂に向かった。シャンデリアがぶら下がっていて、縦長の机には真っ白なテーブルクロスが敷かれている。
この屋敷の執事たちの手際は恐ろしいほど見事で、俺の目の前に並ぶのは絶妙に焦げ目のついたステーキ、そして透き通った薄黄色のスープはほんのりと湯気をあげている。ちょうどパンパンやエーリ、そして屋敷の主であるホモも揃ったので、グラスに半分ほど注がれた赤ワインを顔の高さに掲げ、俺は言った。
「一戦目を無事に勝利できたことを祝いまして、アナルパンダぶりぶりーず! 乾杯!」
「乾杯♡」
「かんぱーい」
「乾杯クマ」
四人がグラスを合わせると、ガラスのぶつかった心地よい音色が部屋の中に響く。何もしてないホモがちゃっかり混ざってんのが気になるが、こいつはこの屋敷の主だから仕方ない。この飯だってこいつの懐から出てるしな。そう思うと、いくら美味しくてもいかがわしい薬でも混ざってるんじゃないかと不安になってくる。
「この飯ってお前らが作ってんのか?」
後ろの方で微動だにせず突っ立っている茶髪執事のアキトに聞いてみる。
「はい。もっとも健康的で、かつ食味にもこだわらせていただいております。ちなみに催淫効果のある食材、ないし薬品は用いておりませんのでご安心ください」
「そうですか。いつもありがとうございます」
くそ、何も言い返せねえ。また心の内を読まれているし。これはこいつらのギフトなんだろうか。だったらイユの国士無双の五感以上の何かかもしれない。恐ろしい執事だ。
「そういえば、清。最後のアレはどういう手品クマ?」
パンパンはおそらく試合の最後に見せた便性変換のことを言っているのだろう。俺は中心が少し赤いステーキ肉を頬張り、咀嚼しながら答える。
「食事中だけど……聞きたい?」
「乾杯の時のチーム名の時点でそういう配慮は必要ないクマ」
「そりゃごもっともなことで」
俺はグラスを仰ぎ、口内にへばりついた肉の脂を胃の中に流し込む。さっぱりとしていい酒だ。
「俺のギフトは大きく分けて二種類。一つ目はうんこの量で強くなる。二つ目はうんこの性質を自分の体に反映させる、だ」
「きったないギフトだよなー。うんこ漏らすから試合後少し匂ったし」
エーリカたんは、顔をしかめて鼻をつまむようなジェスチャーをする。美少女に露骨に不潔扱いされると心に来るものがあるな。ぐすん。
「好きでこんなギフトになったわけじゃないし……。でだ、ポイントは何をもって“俺のうんこ”と判定されるか。そこにある」
「茶色くて臭かったらいいんじゃないクマ?」
「そんなことないわボケ!」
自分のうんこは草食だから臭くない、とでも言いたそうなドヤ顔やめろ。
「アタシは分かったわよ。つまり清の肛内にあるということね」
「気持ち悪い表現をあえて選ぶなホモ。正解だけどよ」
ルアーナは俺のケツを見て、うふふと微笑んでいる。背筋にぞわぞわと寒気が走る。
「要はするに俺の腸管内にあれば、それは便とみなされる。例えそれが経口摂取されたものじゃなくても……だ」
「つまり、清はマックスの攻撃であえなく絶叫脱糞したクマ。けど、試合前に用意してた浣腸用の注射器でお尻に水を注入し、それが便とみなされたクマね」
「そういうことだ。うんこの性質が認識される部位もどうやら肛門近くだから、水を注入した場合、それにちなんだ便性変換になるという仕組みだ」
「なるほどクマー」
パンパンはボウルに山盛りになったサラダをむしゃむしゃと平らげている。タケノコ以外のものもちゃんと食ってるようで良かった。栄養失調でこいつに死なれたら俺が困るからな。
「次の、相手さー。トロピカルばんびーずだっけ。ルアーナ、そいつらのこと知ってる?」
「ガオンのとこね。個人としてのバランスだけで言えば彼女よりマックスが上だけど。今度は相手もチームだからずっときついわよ」
「ええ……あれ以上ってやばすぎクマ。まぁ、でも今回はルアーナもいるから安心クマね!」
「残念だけど今回も出れなさそうなのよねー」
「はい?」
こいつ今なんて言った?
「次も三人でがんばりなさい。YOUたちならいけると信じてるわ♡」
なんてことはない調子でルアーナはにっこりと笑う。いやいやいや、おかしいっしょ?
「いい加減にしろよ! お前予選から今の今まで一度も試合に出てないじゃねーか!」
「ごめんなさいねぇ。そうは言ってもねえ。この頃アタシも立て込んでてね」
その割にはお前全然申し訳なさそうじゃねーじゃねーか!
「なんか忙しいのかー?」
エーリカたんは相変わらずマイペースを貫きながらホモに尋ねる。余裕の表情でご飯を食べる姿はまさに鋼のハート。パンパンもさすがに苦笑いしてるし、なんだかんだ三人の中で一番肝がすわってるのって彼女かもしれない。
「そうねえ。YOU達にも話しておいたほうがいいかしら。巻き込むのは気が引けるんだけど」
ホモは少し困った顔をして思案している。
「仲間なんだから遠慮することはないクマ。衣食住用意してもらってるクマし、困っているならいつでも力になるクマ」
「仲間……、そうね」
ルアーナは少し寂しそうな表情でフフッと笑うと、諦めたように語りだした。
「ギルドバトルは、その勝敗が賭けの対象になるの。とくに裏の世界では莫大な金が動くわ」
「それは俺たちの勝敗もか?」
「もちろんそうよ。今日、アタシたちのチームに賭けてた方はきっと大勝ちしたはずよ。アタシが出ないという知らせが出てから、ほとんどがマックスに賭けたしね」
「なんかスッキリするようでムカつく話だな」
となるとルアーナの事情と言うのも、その金がらみのことなんだろうか? 意外と黒いとこあるなこいつ。
「金が動くということは、もちろん八百長を企もうとする連中も出てくるし、それを止める勢力もいるわけ」
「じゃあ、おいら達にも今後声がかかることもありえるクマ?」
「無くはないけど、可能性は低いわ。なぜならアタシがチームにいるから」
「ルアーナがいるから?」
エーリカたんが不思議そうに聞き返す。
「そう、どちらかといえばアタシは賭博を止める側だから。冒険者ギルドから正式に依頼を請け負っているわ。そもそもギルドバトルで賭博をする行為自体が違法なの」
「でも賭博は蔓延しているんだろ。ダメじゃんお前」
「そうね。清の言う通り全部規制することはできていないわ。なぜなら、貴族の中にも賭博に興じる連中がいて、そいつらが賭場を守っているから。アタシがやってるのは行き過ぎた行為の取り締まりだけね」
「貴族が絡むからそんだけの大金が動くクマねー」
「そんでその行き過ぎた行為ってやつ。具体的には?」
大金が絡むということは、それで生活を失うものが出てきてもおかしくないということだ。つまり、それほどまでに必死になる理由があるということ。時として手段を選ばないくらいの。
「騙し。殺し。八百長、そういった明確な犯罪行為ね」
「やはりそういうことか」
人間とは恐ろしいものだ。失うものが無くなった時、リスクを顧みる必要がなくなった時、倫理的に正しくない行動をとることへの抵抗はほとんど無くなってしまう。結局のところ、社会的な地位だとか、安定した生活だとか、そういうものは心の中の獣を縛り付ける鎖のようなものなのだ。
「ここまでは前置き。本題に入るわね。アタシが今忙しい理由は、“闇夜の烏”が現れる。その噂を聞いたからよ」
「闇夜の烏?」
「そう。金が動くときに奴らは姿を現し、金と共に消えてゆく。いわゆる暗殺者集団ね。アタシは奴らに個人的な因縁があってね。その行方をずっと追っているの」
ルアーナは目を伏せ何かを思いめぐらすような表情をする。個人的な事情とやらは突っ込んで聞かないほうがいい雰囲気だ。
「それに関しておいら達は何か手伝えるクマ?」
「YOU達に話すか迷った理由はそこね。この件に関してはむしろ関わらないで欲しいの。下手すれば命を落とすし、YOU達はまだ経験が足りない。ギルドバトルを勝ち進むことだけを考えてちょうだい」
「なるほどクマ」
「暗殺者集団とは、急に物々しい話になったな」
そんな連中が出張ってくるということは、当然雇い主がいるということだ。人を殺す一流を雇えるほどの資金力がある雇い主、それはつまり貴族かやり手の商人か。いずれにせよ金持ちには違いない。確かに深入りすると今後動きにくくなりそうな事案だ。
「そう。それなりに危険なミッションよ。そんなわけでアタシは試合に出てる暇がないわけ。アタシを手伝いたいならYOU達は今のうちにもっと実力をつけなさい」
手伝いたいとは一言も言ってないが……。まぁ、こいつがここまで言うのなら、今は本当に関わらない方がいい案件なのだろう。そう記憶の底に刻み込んでおく。
「わかったー。でも、一人で突撃して死体になって戻ってくるとかはやめてくれよなー」
相変わらず物怖じしないエーリカたん。
「あはは。若くないのに、もうそんなことしないわよ!」
どこか含みのある返答をしてルアーナは笑った。昔は特攻してたのかよ。
「そんじゃ、ホモに頼れないとなると。また作戦をきっちり練らないといけないよなぁ。今度は相手のギフトもよく分からないし」
「まぁ、ギルドバトルは一日あたり四試合クマ。次の試合は四日後だから考える時間はかなりあるクマ」
「あのガオンってやつがとくにやばそうだよな。おいホモ、試合出れないなら知恵くらいかせや!」
「あたしも、さすがにガオンのギフトまでは知らないわよ。仕事仲間でもないし」
「ちっ、使えねー」
この後、なんだかんだ作戦会議を兼ねながらの晩餐は、どうしようもない戦法談義やエーリカたんの天然発言で大いに盛り上がったのだった。
はぁ、にしても真面目な話、三人でトロピカルばんびーずに勝つのは容易でないに違いない。パンパンやエーリカたんに任せておいても、どうせろくな作戦が出ないから俺が何か有効な卑怯戦術を考えておかないといけなさそうだ。




