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きよし、仲間に報いる

【前回までのあらすじ】

 主人公のきよしは、水洗便所に流されて絶命。死んだ爺ちゃん(うんこ神)のおかげで剣と魔法の世界に転生した。清はパンダ獣人のパンパンと依頼をこなす中、自分が「うんこがたまるほど強くなる、かつ、うんこの性質を追加能力にする」ということを知る。次の依頼の最中、野球帽の少女エーリカとオネエ熟練戦士ルアーナとパーティを組むことになった清とパンパン。彼らは冒険者武闘大会『ギルドバトル』に参加する。無事に予選を通過した清たちだが、特殊な事情で本戦の一回戦の相手、最高マックスに稽古をつけてもらうことになった。そしてついに一試合目、清たちアナルパンダぶりぶりーず!とマックス兄貴が激突した!


挿絵(By みてみん)

『信じられない大逆転劇ッッ! これは何の魔法でしょうか! 御手洗選手の怒涛ラッシュもマックス選手についには届かなかったァ! マックス選手の攻撃を受け、完全に武装解除ッ。変身の解けた御手洗選手、気も魔力も尽き果て、この闘技場の大地に沈みますッ!』


『マックス選手は御手洗選手の三半規管を波で揺らし、平衡感覚を奪ったのでショウ。なぜ御手洗選手の変身が解けたかは分かりませんが、これは冒険者としてのキャリアの差デスネ』


 目まいは収まってきたが、全身の力が入らない。気も魔力もほぼ零近くまで落ちている。兄貴は、俺の傍から立ち上がると、ふらふらした足取りでパンパンとエーリの方へ向かっていく。


 肉体的ダメージはかなりあるだろうが、気と魔力は燃え上がる炎みたいに立ち上っている。


 ああ、ほんのすぐそこなのに、俺の手も足も届かない。今、俺の手でつかめるのは、乾いた黄土色の土と砂だけ。


「さぁ、キヨシはこれで、ジ・エンド。まだやるか? 降参するか、お前らで決めるんだな」


 兄貴は拳を構える。もうボードはない。しかし、だからどうした、兄貴はそれでも鬼のように強い。俺抜きで勝てるほど甘くない。二人だってそれを分かってはいるだろう。


「降参なんてしないクマ」


「行くよパンパンッ」


 二人が合わせて駆け出す。そこにあるのは決意の瞳。俺が止めたってこいつらは止まらないだろう。


「タケプロダクト、調理済み(cooked)!」


 パンパンは先端がすり鉢のように凹んだタケノコを生成すると、即座にエーリに手渡す。エーリは右手で受け取り、助走の勢いをつけて全力で兄貴に投擲する。


「タケバーストッ・コラボ! 人体破壊(ホローポイント)ッッ!」


 渦を巻くように回転して、紅い流星みたいなタケノコ弾は兄貴に直進する。当たったら場外に弾け飛ぶくらいの威力、ボードを失った兄貴はそれでも避けることはしなかった。


 むしろ弾に真正面から突っ込み、魔力に包まれた手でそれを掴みに行く。


「シャアアアアッ!」


 回転する紅い弾丸と兄貴の手のひらが激突する。最初、青い魔力と紅い魔力は一進一退の押し合いになるが。しかし次第に、まるでピーラーで果物の皮を剥くみたいに、回転するタケノコの表面がどんどん削れてゆく。


「オルアアアアアアアァッ!」


 兄貴の気合とともに、タケノコ弾はどんどん薄くなっていく。最終的には、兄貴の超音波カッターによって完全に消え去ってしまった。それを目の当たりにしたパンパンは呆然と立ち尽くす。躱されることはあっても、正面から受け止められる、そんなことは全く想定していなかった。それほどまでに、兄貴の気迫は極まっていたのだ。


「そんなクマ…」


「パンパン次ッ!」


 エーリの声が届く間もなく兄貴はパンパンへとダッシュで距離と詰める。手のひらにこもる白い気、腰を溜めた低い姿勢から繰り出す武の一撃。兄貴の掌底がパンパンの鳩尾みぞおちを完全に捉え、白と黒の丸っぽい体は宙に浮いた。


「ぐあっ……」


 パンパンは体をくの字に曲げて地面にうずくまる。もともと気を使うことにあまり秀でていないパンパンに、気を用いた近接打撃技は致命的になりうる。さらに打ち抜かれた場所は、急所である鳩尾みぞおち。しばらくは満足に呼吸することすらままならないだろう。


「パンパンッ!」


 エーリの叫びが闘技場に響く。パンパンは起き上がれない。彼を一撃で倒した兄貴は、エーリの方へとゆっくりと歩いてゆく。


「……エーリ、俺様は女を殴るのは好かねえんだ。ここらで諦めてくれないかね」


 兄貴は低い声で語り掛ける。言葉を掛けられたエーリは顔を伏せ、拳を握り締め、固く唇を噛む。大地を踏みしめる両足は小刻みに震えている。満身創痍の俺は、そんな彼女を助けることもできない。


 ちくしょう。


 目の前でエーリが痛めつけられるくらいなら、イユと結婚することくらいどうでも良い気がしてくる。それでも、体は動かず、声も出ない。悔しさ、少女に頼らなければならない自分があまりにも情けない。


 兄貴は強かった。それでいい。体を張ってまで、君は無理なんかしなくていいんだ。


 俺の心の声はもちろん彼女に届くことはない。


 エーリは兄貴の呼びかけに答えず、黙ってうつ向いたままでいる。


「……なぁ、エーリ。答えてくれ。俺様はお前をぶちのめしたくないんだ」


 二回目の兄貴の問いかけ。エーリはさらに拳を握り締める力を強める。そして、お気に入りの野球帽のつばをずらす。黄金色の大きな瞳が、つばの下の陰から獲物を狙う獣ように輝く。兄貴の顔を決意の表情で睨みつけると、闘技場全体に聞こえるくらいの声量で、答えた。


「嫌だッッ!」


 会場全体から歓声が消え去る。風が吹く。風切り音だけの時間が過ぎる。彼女の金色のツインテールが大きく風になびいた。闘技場の中心に立つ決意の少女は俺が会ったすべての女性の中で、もっとも美しかった。彼女は少し間を開けて再び口を開く。


 兄貴は、エーリの言葉を黙って聞いている。


「清が言ってたんだ! あたしたちともっと冒険したいって」


 エーリは足元の小石をゆっくりと拾い上げる。風に吹かれて砂が舞う。  


「それにあたしは言ったんだ。あたしがついててあげるって」


 手に取った小石を、ぐっと右手で握る。


「だから、あたしは。兄貴が相手だろうが」


 そして大きく振りかぶり。


「あたしたちの冒険のために」


 ――腕が届く限りのテイクバックで


「絶対に負けられない!」


 全力で投げつける! 


 ただの小石のはずが、凝縮された魔力でルビーのように紅く、美しく輝く。それは、兄貴の正面に真っすぐ直進する。


「いいだろう! お前の決意、俺様が今ここで砕く!」


 今まで以上の勢いで射出された赤い彗星を前にして、兄貴はあえて避けることはせず立ちはだかる。彗星は強烈な尾を引いて兄貴を食い破ろうと突き進む。


「おおおおおおおおおおおおッッ!」


 兄貴は両手を莫大な青の魔力で覆い、それをキャッチャーグローブのようにしてエーリの弾丸をせき止める。強烈な魔力のぶつかり合い。じりじりと兄貴は体ごと後退する。


 なんだこれは。


 エーリと兄貴を見て俺の心の中に再び戦いの炎が燃え上がる。そうだよ、俺は何を弱気になっているんだ。俺自身なんかよりもずっと、エーリが俺のためにここまでの決意を見せてくれているんだ。かすかに動く手のひらを握る。


 俺はみんなと冒険がしたかったんだ。


 そうだ。


 俺も、いつまでもここで這いつくばっていられない。


 胸ポケットに隠しておいた針のない注射器をこっそりと取り出す。これは正真正銘最期の秘策。エーリの剛速球に馬鹿正直に付き合っている兄貴の“甘さ”を突く!


 俺は汚れたパンツの中に手を突っ込み、注射器の口を自分の肛門に差し込む。そしてシリンジの中に溜められていた“ただの水”を一気に腸内に注入した。


 一時的にMAXまで戻る気と魔力。観客も、エーリも、兄貴も誰も倒れる俺に意識を向けていない。


 彼らの意識は、エーリの紅弾と兄貴の力比べ。


 誰にも聞こえないようにひそかに呟く、


 ――便性変換ブリブリストルコンヴァージョン彗星の申し子(ウォーターテイル)


 俺の全身が蒼く力強い魔力に覆われる。チャンスは一瞬、兄貴の意識が全く俺に向いていない今この瞬間。


 冒険者には絡め手が必要。その言葉、そっくりそのまま返してやるぜ。


 足の裏にほとんどすべての魔力を集める。逆にすべての気は右の拳に。だいたい兄貴の一撃離脱攻撃と同じ理屈だ。


 ……そんじゃいくぜ。


 俺は這いつくばった体を起こし、右足で地面を思い切り蹴る。その瞬間、俺の足の裏から激流の水流ジェットが噴射し、俺の体を今までに体感したことがないくらいに加速させる。凄まじいGが体にかかるが、兄貴の攻撃に比べたら大したことはない。


 周囲の景色が置き去りにされる。兄貴との距離が一気に縮まる。気のこもった拳を振り上げる。


『まさかの御手洗選手復活ダァァァァッ!』


 実況の声で、はじめて兄貴がこちらに振り返る。もう遅い。俺の拳はもう目の前だ。


 食らえ、これが俺たちの思いの重さだッ!



便神の怒りビックベン・インパクトッッ!」



「ガハッ……」


 拳を振りぬく。兄貴のあごを拳が貫く。それと同時に、エーリの紅弾と兄貴の魔力グローブとの均衡が崩る。兄貴はその場から吹き飛ばされ、闘技場の端に叩きつけられた。


 大ダメージが直撃した兄貴は完全に意識を失い、四肢は完全に脱力し、地面に崩れ落ちる。


 やった……。


 カンカンカンカーーーーン、二回目のゴングが闘技場に鳴り響いた。


『逆転に次ぐ逆転、なんとこの試合もまた、御手洗選手が持っていきましたッ……。アナルパンダぶりぶりーずの勝利ですッ!』


「「「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」


 ホモの野郎が「いかに油断をつけるか」試合前にそう言ってたけど、ほんとにその通りになっちまったな。悔しいけどお手上げだよ。疲れ切った俺は、そのまま地面の上に大の字で寝ころんだ。


  

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