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キヨシ・オーバー・ザ・マックス

【前回までのあらすじ】

 主人公のきよしは、水洗便所に流されて絶命。死んだ爺ちゃん(うんこ神)のおかげで剣と魔法の世界に転生した。清はパンダ獣人のパンパンと依頼をこなす中、自分が「うんこがたまるほど強くなる、かつ、うんこの性質を追加能力にする」ということを知る。次の依頼の最中、野球帽の少女エーリカとオネエ熟練戦士ルアーナとパーティを組むことになった清とパンパン。彼らは冒険者武闘大会『ギルドバトル』に参加する。無事に予選を通過した清たちだが、特殊な事情で本戦の一回戦の相手、最高マックスに稽古をつけてもらうことになった。そしてついに一試合目、清たちアナルパンダぶりぶりーず!とマックス兄貴が激突する!


挿絵(By みてみん)

 しかし白金階級レベルというのは伊達ではない。兄貴は驚きの対応能力を見せる。とっさに片足をずらすと、ボードの最も後ろ側を真下に一気に踏み込む。


「チィッ――カットバック!」


 すると先端が下を向いていたボードが一気に真上を向き、タケノコの散弾に対して身体を守る盾のようになる。回避を諦めた瞬時の防御行動であった。


 紅の散弾が凄まじい勢いでボードに直撃する。ボードも魔力で守られているが、なにぶんエーリの投擲の威力がただ事でないので、衝突したタケノコの一片一片が小爆発し、ドドドドドドッと、兄貴は後ろ方向のベクトルにボードとともに吹き飛ばされた。新品のボードには数多の凹みや傷ができ、その威力の強さを物語る。


『エーリカ選手の対空砲火がマックス選手に直撃するーッ! しかし何という威力か! 散弾のはずが爆発の規模が散弾のそれじゃないッ!』


『しかし工夫しましタネ。普通の投擲では当たらないことを前提の散弾攻撃デス。一番最初の投擲をすでに見切らせているのもポイントデス。普通は同様の攻撃と考え最小限の回避を選びますカラ。とっさに防御したマックス選手も素晴らしいデスネ』


 この隙に俺は大地からの吸収を加速させる。これでもか、これでもかと自分の腹の中にエネルギーを食らう。手のひらから流れるこむ大地のエネルギーは、激流の水道管から直接ぶち込まれているような感覚に襲われる。これまでに経験したことがないような下腹部の膨満感。拍動する俺の心臓、蠕動する俺の腸管。全てが人生の中で最も力強い。


 ありえないくらいの便意。しかしその我慢を可能にする肛門の括約力。キリキリと締め上げるそれは俺の膨大な気と魔力に支えられている。便意が高まるほど強力になる括約力。強化された括約筋の最高点と便意の最高点、その均衡まであと十秒。兄貴は今なお爆発の慣性で離れている。確実に間に合うだろう。


「効いたぜ」


 兄貴はボードを制御してなんとか場外まで吹き飛ばないよう姿勢を取り直す。さっきの攻撃でサングラスが吹き飛んでいた。身体にくっついたタケノコの破片を振り払いながら、ゆっくりと風に乗りこちらの上空に戻ってくる。


「エーリ、次も行くクマ!」


 パンパンがエーリに次弾を手渡し、エーリは大きく振りかぶる。そしてさっきと同じ要領で全力でそれをぶん投げる。爆ぜる発射音。それはさながら人間砲台だ。


「うおりゃあああっ!」


「最初は面食らったが、流石に同じ手は食わねえよ」


 追撃のタケノコが兄貴に迫るが、今度の兄貴はうねるように大きく曲がり散弾の軌道にすら入らない。外皮が燃え尽き中身が開放され散弾になったときには、その射線上に対象はいない。


「ちぃっ!」


 エーリが悔しそうに唇を噛む。だが問題ない。二人のおかげで、俺は間に合った(・・・・・)


「シャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 大きく弧を描くような軌道で兄貴が加速する。ボードに込められる魔力、それを支える体幹の気、右の拳に集中する白い輝き。もはやサングラスのない兄貴の眼光は光の軌跡となって妖しく、力強く輝く。


 空気の波、俺には見えていないが兄貴にはそれがしっかりと可視化されているのだろう。透明なその縁を最適な角度で滑空する。尾を引くボードはまるで青い彗星、逞しい肉体はまるで海神ポセイドン


 凹みだらけのボード、兄貴の腕周りや体幹の一部にはさっきのエーリの一撃で受けた青あざが多数ある。彼女の投擲の威力なら、ワンチャン空中で撃墜することさえできると思ったが、さすが兄貴である。


 だからこそ、俺達も保険の保険、さらにその保険まで用意している。


 俺は大地から手のひらを離すと、腰を下げ低い姿勢で兄貴を見据える。空気の波に乗り、まるで一本の槍のように爆速で俺に襲いかからんとする兄貴。その表情はどこか楽しげで、口元には白い歯が覗く。


 拳を握り、歯を食いしばる。俺に力を与えてくれた大地を踏みしめる。肛門を全力で締め上げる。


『マックス選手を見据える御手洗選手、気と魔力ともにただ事じゃない様相になっているゥ。何がこれから起こるんだあああああッ!』


 俺は叫ぶ。


便性変換ブリブリストルコンヴァージョンッ、  大地の拳神・極キヨシ・オーバー・ザ・マックスッ!」


 俺の全身が凄まじい魔力と気に包まれ、巻き上がる砂煙と一緒に身体は硬い岩肌に覆われていく。拳の周りには特に重点的に岩が集まり、まるで激重のボクシンググローブの様相である。


 砂煙が晴れる。襲い来るマックスの全てがスローに見える。おそらく、イユの国士無双の五感(センス・ドライブ)には及ばないものの、超人的に感覚が研ぎ澄まされているんだろう。


『御手洗選手の外表面を土龍の鱗のように岩肌が覆っていくッ! その侵食は顔まで及び、斜め半分が完全に岩のマスクで覆われるッ! 拳にまとうは大地のグローブ! 砂煙の中から現れたのは、さながら大地のヒーロー、何という変身だァァァァァっ!!!!!』


「「「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」


 観客の歓声までもが低くゆっくりに感じる。


 顔の斜め半分が岩のマスクに隠れるが、眼球の部分には穴が空いていて敵の姿を見逃すことはない。全身を覆う岩のスーツのせいで体重は何倍にも膨れ上がっているだろうが、不思議と身体は軽い。圧倒的な筋力と気がそれを下支えしているのだろう。


「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」


 風に乗った兄貴は、今この場にいる誰よりも速い。俺の変身に怯んだりすることはない。そんな兄貴は俺に全力の一撃を叩き込もうとゆっくりと迫ってきている。白い気の拳はまるで兄貴の高潔な生き方を象徴してるみたいに美しい。三メートル、二メートル、一メートル衝突の瞬間は少しづつ迫ってくる。


 いいぜやってやるぜ。大地の拳神・極キヨシ・オーバー・ザ・マックスはその読みどおり、兄貴を超えるために編み出した技。


 兄貴の拳は俺の外殻に覆われてない方、右顔面を確実に貫こうと近づいてくる。だが俺の感覚は超人化している。そこに完璧に合わせるッ!


 兄貴の拳が当たる瞬間、俺は顔を左によじる。皮一枚かすめて通り過ぎる拳、驚き目を見開く兄貴。俺は拳を躱した後、その場にしゃがみ、岩のグローブで渾身のアッパーカットをボードの下から放つ。


 ボードを包む魔力は拳の表面を超音波で削り取るが、最終的に岩の拳はバキバキと白いボードにめり込み真っ二つに破壊する。それでも拳の威力は止まらない。瞬時にボードを破壊され、バランスを崩した兄貴の顎に迫る。


 人というものは空中で身体ごと回避することができない。兄貴は顔だけで拳をいなそうとするが、デカイ岩のグローブを首の動きだけで躱すのは不可能。


 当然のように俺の拳は兄貴の顎を上に打ち抜く。よく見ると兄貴の顎に彼のほとんどの全身の気が集中している。大した冒険家だ。この後に及んで、顎のダメージを最低限に抑え、意識を保っている。


 しかし、逆を返せば顎以外は完全に無防備。今の俺は大地の拳神。兄貴がここにいる誰よりも高潔で、速く滑るとしたら、俺の拳の速度、ステップの速さ、動体視力、拳の硬さはここにいる誰にも負けないだろう。


 ――拳神のコンビネーション。喰らいやがれ!


 逆の拳。最小限のモーション、そして最速で、最硬、最強、最高で兄貴のボディに打ち込む。顎が打ち上がった状態で、無防備な腹に撃ち込まれるボディーブロー。衝突の瞬間、兄貴の脇腹に鈍い音を立てて拳がめり込む。兄貴の顔が苦痛の表情に歪む。


「クァッ……ッ!」


「これが俺の最高(マックス)だ」


 決め台詞を言う。体感時間がもとに戻る。砕け散った純白のボードは宙に舞い、兄貴は闘技場の端っこの方まで吹き飛ぶ。俺の拳から煙が立ち上る。可哀想だが肋骨の二、三本は逝っただろう。だが仕方ない、お互いに本気でやると決めたことなのだから。


『コンタクトの瞬間、何がおこったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


「「「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」


『マックス選手の拳が御手洗選手の顔を捉えたかと思いきや、一瞬でボードは叩き割られマックス選手が吹き飛んでいるッ!』

 

『当たる瞬間躱してますね。そこからボードごとかち割るアッパーカット、そしてのけぞってからの強烈なボディ。恐ろしく速いコンビネーション、私でなきゃ見逃しちゃいマスネ』


『強烈な一撃ですがマックス選手、起き上がることが出来るのかぁぁぁ?』


「かはっ……。とんでもねえ一撃だなあ、オイ」


 吹き飛ばされた兄貴がよろよろと立ち上がる。口角から赤い血がうっすらと流れ落ちている。上半身は吹き飛ばされた時にできた擦り傷だらけ。まさに満身創痍。兄貴がまだ立ち上がるのなら、俺もそれに答えなければならない。


『なななななな、なんというタフガイッ! 御手洗選手の超人的な一撃を受けてなお、立ち上がるッ!』


「悪いが兄貴。これで決めさせてもらう」


 俺は大地のスーツを身にまとい、岩のブーツで大地をを蹴る。自分でも体感したことのない域のスピード。砂煙を巻き上げ超高速で兄貴に接近する。


「来いやァァァァァァッッ! キヨシィィィィィィィィィィィィィィィィィ!」


 兄貴はボロボロの身体で雄叫びを上げる。血走った目、脈打つ側頭部、獲物に飢えた白い牙。漢の中の漢、満身創痍の仁王立ち。両手を広げ、爆発的な気を拳に集める。この期に及んで俺を殴り倒そうというのか。なんという漢。


『御手洗選手、雄叫びを上げるマックス選手に突進するッ! これで試合を決めに行くのかァァァァァァァ!?』


 まずは一発目。強烈な踏み込みからの、右ストレートッ! 野獣のように瞳孔を広げ、猛り狂う兄貴の右頬に振り抜く。


「ガッ……」


 頬を撃ち抜かれ兄貴の上体が揺らめく。次に二発目。左の小さなモーションのボディ。レバーに狙いをつけ、最小、最短で打ち抜く。


「カハッ……」


 兄貴の腹部が後ろに仰け反る。密着した距離。三発目、大きく迂回する右のフックッ! これも兄貴の左テンプルに完璧にアジャストする。兄貴の口から血しぶきが飛び散る。


『さながら拳闘士ッ! 御手洗選手、ラッシュラッシュラッシュッッ! マックス選手を完全に倒しに行くッ!』


「「「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」


 キメるぜ。右足と左足の前後を切り変える。いわゆるスイッチ。左の拳に全身の気を集める。


 兄貴は打たれた顔をのけぞらせながら、ゆっくりと口を動かした気がする。


 ――甘えんなよブラザー、と。


 四発目、最後の左ストレートを放とうとする。全身全霊の一撃、最高のコンビネーション。これを貰って立ってられるやつがいるはずもない。これでキメる!


「おおおおおおおッッ!」


 その時だった。


 俺の視界が一気に歪み、回転する。そして猛烈な吐き気。


 いつの間にか俺の耳元にあるマックスの手のひら。その手のひらは青い魔力に包まれている。


「!?」


 強烈な耳鳴り。ねじれる世界。空と大地が回転して入れ替わる。どちらが上かも分からない。完全にバランスを崩し、渾身の左ストレートは空を切る。空振った拳は大地にぶつかり、岩のグラブが砕け散る。


 膝は震え、立ち上げることが出来ない。子供の時にふざけて回って遊んだときみたいに、視界がぐるぐると回転して、立つことすらままならない。


 これは何だ?


 会場が静寂に包まれる。解説が初めて言葉を発する。


『――何が起きたんでしょうか、御手洗選手倒れました』


「……ハァハァ、派手にボコしてくれやがって」


 フラフラの兄貴が地を這う俺の目の前をぐるぐる回っているように見える。そして強烈なめまいと吐き気に動くことの出来ない俺にゆっくり近づいてくる。


「わりぃな。冒険者には絡め手が……必要な時もあるってもんだ……」


 そして俺の目の前でしゃがみ込むと、俺の下腹部に手のひらを置く。立ち上がろうにも俺は全く動くことが出来ない。


「……俺は波を操る。それがお前の三半規管であっても、腹痛の波、つまり腸蠕動であってもだ」


「なんだと……?」


 兄貴は手のひらに青い魔力を込めていく。俺はそれに抗うことすらできない。


「「きよしっ!!」」


 二人の仲間の声がするが、俺の回る世界では一人を集中して見ることは許されない。兄貴は静かに言った。


「……俺様ならイくぜ(THE・MAX)ッ!」


 腹部に感じる震動、それは耐え難い腹痛になって俺に襲い来る。ただでさえ限界の便意、強制的に引き起こされる蠕動運動。パンパンに張った下腹部の中を魔物が駆けずり回る。腹痛の波の波状攻撃、こんなの下剤の比じゃない。


 圧倒的腹痛。圧倒的便意。意識を失うほどの蠕動運動。


 糞が。ここまでしても勝てないのかよ。


「ああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!」


 俺の最後の砦――肛門括約筋はあえなく決壊した。


「「「――WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」


 静寂を切り崩す俺の絶叫と同時、観客の狂喜も最高潮に達した。



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