きよし、アイドルをいじめる
やっと選手紹介終わりです。長くなってすみません。
【前回までのあらすじ】
主人公の清は、水洗便所に流されて絶命。死んだ爺ちゃん(うんこ神)のおかげで剣と魔法の世界に転生した。清はパンダ獣人のパンパンと依頼をこなす中、自分が「うんこがたまるほど強くなる、かつ、うんこの性質を追加能力にする」ということを知る。次の依頼の最中、野球帽の少女エーリカとオネエ熟練戦士ルアーナとパーティを組むことになった清とパンパン。彼らは冒険者武闘大会『ギルドバトル』に参加する。無事に予選を通過した清たちだが、特殊な事情で本戦の一回戦の相手、最高マックスに稽古をつけてもらい、ついに本戦の開会式に臨むのだった。
俺たちは係員に連れられ、闘技場の中央スペースへ通じるゲートの前まで案内される。ゲートの向こうからは観客達の溢れんばかりの歓声が聞こえ、外から流れこむひんやりとした空気が肌に触れて心地よい。門の向こうに少しばかり覗く空は澄み切った水色で、昼間なのに白い月が見えるくらいだ。
『次に入場するのは、アナルパンダぶりぶりーず! の皆さんです!』
小走りでお天道様の下へ走り出す。開ける視界、人で埋め尽くされた観客席、歓声と罵声は入り混じり鼓膜を震わす。そして、次々に降り注ぐサンドイッチやらケチャップやら。慣れたくても慣れれるもんじゃねえ。
とりあえずファンサってことで手を振ってみる。
「御手洗清、死ねー!」
さっそくおっさんから罵倒される。悪逆非道の鬼畜冒険者【御手洗清】を殺せ! なんてボードを掲げてるやつもいる。プロ野球選手が観客の野次に言い返す気持ちがわかった気がするぜ。
『御手洗清! ゴミ階級の超新星! やはり、この選手で話題は持ちきりです。さきほど、イユ選手が婚約宣言、それだけでなく濃厚キッスまでしてしまいましたからねえ。彼女のファンは怒り心頭でしょう』
「「「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」」」
凄まじいブーイングだ。怒った観客が立ち上がって暴れてる。自意識過剰と言われるかもしれないが、俺はこの町で一番ヘイトを集めている人間かもしれない。真面目な話、夜道に気をつけないといけない。とんだとばっちりだよ。
『このチームには、今までに一度もギルドバトルへの参加がない白金階級冒険者のルアーナ選手も所属しています。彼は冒険者としての評判が非常に高いですから、アナルパンダぶりぶりーず! が今後どういった戦いを見せてくれるかが楽しみですね』
『何気に残りのメンバーも基礎能力が高そうですカラネ。とくに御手洗選手の卑怯戦術に注目デス』
俺らは学校の運動会みたいな感じで、まだ誰もいない端っこの方に整列する。隣には、例のなるたん親衛隊の奴らが並んでいる。練浜なるは文字通り親衛隊の三人に“囲われ”、何か不満そうな表情で頬を膨らませている。
『さて、次はシーガルの波乗り男、シーライダーwaveの最高選手の登場ですッ!』
『彼は金階級ですが、どうやら金色が好きで腕輪の更新を怠っているようデス。デスカラ実力は白金階級と同レベルでしょうネ』
兄貴が白いボードを脇に抱えて悠々と入場してくる。金アクセが派手にきらめき、風になびいた半袖シャツの下はこんがり焼けた肌、そして見事な腹筋。うん、兄貴だ。
もしかしたら、初っ端からまともな戦士と当たってしまう俺たちは、相当くじ運が悪いのかもしれない。俺がイカした兄貴の方を眺めていると、思いがけない方向から声をかけられる。
「御手洗だっけ、評判すごい悪いけど君も転生者?」
「なる様!こんな汚い男に声をかけてはなりませんよ。孕まされますから」
声の主を確かめるように振り向くと、それは騎士に囲われた黒髪の姫、練浜なるであった。不審なものを訝しむような表情。俺が最高にヒールだったとしても初対面に失礼なやつだ。あと、囲いの男よ、言葉だけで孕まねえから。
「そうだけど?」
ちょっと態度がムカついたから突っかかるように聞き返す。騎士達が途端に険しい顔になる。練浜はアイドル衣装をで決めポーズを取ると、そんなの全く気にしない様子で俺に言い放った。
「ちょっとあの女騎士と仲が良くて注目されてるみたいやけど、この大会のセンターは私だから」
なんだこいつ。俺らの世界のテレビ中だと天然キャラだったけど、ここまで来ると支離滅裂だ。確かに顔は可愛い方だけど、エーリカたんやイユに比べたら大したことない。そもそも俺のタイプじゃないしな。
勝ち進めばどうせ戦うかもしれない相手だし、ちょっとここらでジャブ打ち込んどくか。
「は? この世界にまで来てなにナントカ総選挙みたいなこと言ってんだ? 誰もお前みたいなブスなんて興味ないぞ」
……w
きもてぃーーーーwwww 俺は心の中で笑みを浮かべる。一回言ってみたかったんだ、調子こいたアイドルに面と向かって興味ないって。はぁ、畜生としてこの世界に名を馳せるのも悪くないかも。
「興味ない……」
なるは、目を点にして言葉を失ってしまう。今までにそんなことを面と向かって言われたことがなかったのか、口をパクパクさせて固まっている。
「「「貴様ァ!」」」
騎士達が激昂するが、流石に開会式の場じゃ殴りかかるわけにもいかないだろう。俺は畜生モードにスイッチを入れると、追撃のストレートをぶちかます。わざを舌を出して馬鹿にするような顔をする、そして最大限挑発するように言葉を選ぶ。
「この世界でお前のファンはその三人のキモい豚だけ! やったね! 三票で当選確実おめでとう!」
ま、実際は五票だけどな。弟者と兄者もいるから。
「……うっうう……、そんなこと……ないもん」
「「「ああッ、なる様。私達がついていますから」」」
彼女は、目に涙を浮かべて鼻をすすりはじめる。それを、三人の騎士たちが、あの手この手で慰める。泣いてる姿は結構かわいい、なんとも嗜虐心をそそられるアイドルだ。
「清、女の子相手に鬼畜すぎるクマ」
「きよし、さいてー!」
「とりわけイユのことについて、俺は結構イラついてんだ。突っかかってきたアイツが悪い」
ひっひっひ! 本戦で当たったとしてもディスりまくって心を折ってやろう。そうこう言っている間にも、兄貴が俺らの横に到着する。
『ついに、最後の入場チームですっ。トルピカルばんびーずっ! ガオン選手、ニャオン選手、ワオン選手、パオン選手の四人で、前回大会ではベスト四の強豪チームです! レミラスさん、彼女たちについてどうお考えですか?』
『ガオン選手の攻撃力が突出して高いデスネ。攻撃力だけで言えば透金階級と渡り合えるでしショウ。精神的な不安定さが課題ですが、それを残りの三人が支えマス』
『最後のシードチームになりますが、何か弱点はあるのでしょうか?』
『パオン選手がゴミ階級ですから、そこを狙われる可能性がありマスネ。実質三人でも強いデスガ』
入場する四人を見ると、ガオンは相変わらず背が高くて筋肉質、露出の多い民族服、そして出る所はきちんと出ている。ニャオンとワオンはロリで、その後ろを見すぼらしいボロ布に包まれたパオンがトボトボとついていっている。
あの虐待されている男が、俺と同じゴミ階級だと思うと同情したくなる。きっとあいつだって何か特技があるはずだ。毎日、木の棒で殴られ続けても逃げ出さないのも不思議だし理由があるのかもしれない。
トロピカルバンビーズが最後の位置、つまり兄貴の隣につくと、金管楽器で演奏された盛大なファンファーレが会場を包む。そして、前の方の台座へと一人のお爺さんと、ムキムキマッチョな壮年男性が一緒に歩いてくる。
『さぁ、ようやく全チームが皆さんの前に揃いました。それでは、トト国王から訓示がありますッ! 者共、心して聞けよーっ!』
どうやらこの爺さんが国王らしい。緑色を基調として金の刺繍の施されたマントを背負い、偉そうな王族服を着ている。国王とやらは、男性の介護を受けながら一生懸命台座をのぼる。よく見ると男性の方もなかなか偉そうな王族服を着ていた。
台座にのぼり終えたトト国王はゆっくりと口を開く。こんな校長先生の話を聞くみたいなノリ、久々だな。
『えーーー、あーーー、冒険者、諸君。えーーー、本日はそれぞれの都市を、代表して。えーーー、よく、集まってくれましたね。私がですね。本当にですね。あなた達に伝えたいのはですね。……』
しわがれた声でめちゃめちゃ遅いしゃべり、そして無駄に多い言葉のヒゲ、本当に国王のスピーチかな?……
………………
…………
……。
ああ、空が青いなあ。三十分はたった気がする。エーリカたん白目むいて居眠りしてるし。パンパンは自分の手からタケノコを出して少しずつ隠し食いしてる。食いしん坊かよ。
『……それでですね。明日からみんな、全力でがんばってくださいね。』
ようやく終わった。長かった。すさまじく長い話だった。
国王の人柄が素晴らしいのは何となく分かったけど、もう二度と聞きたくないスピーチだよ。
◇
ビッグ・シティ某所。街は祭りの喧騒に包まれているが、ここは裏通りの裏通り。晴天であっても薄暗く、他所から来て用事もなくこんな所に足を伸ばす者はいない。
カビ臭く古い木造建築。昼間からこの酒場に出入りする客がいるはずもない。
「冒険者ギルドに嗅ぎ回られてるそうだな」
カウボーイハットを被ったヒゲの男が、机の上で金貨を転がす。木製のテーブルを挟んで向こう側にいるのは、酷く痩せた貴族服の男。禿頭に少しの金髪がちょろっと伸びた、見方によってはコメディな見た目をしている。
「ギルドというより、破壊棍だ。ちょうど数日前にも、薬の取引を何者かに邪魔されてな。ま、あの打ち殺され方、破壊棍しかありえないが」
痩せた男は苛立ちを隠さずに大腿部をせわしなく上下に揺する。ヒゲの男の方は西部劇のガンマンみたいに腰のホルダーから拳銃風の魔道具を抜くと、人差し指に引っ掛けてくるくると回す。
「それで、あんたは困ってるわけだ」
「今回の祭典は、私の家の復興が掛かっている一大ビジネスだ。邪魔されるわけにはいかない。だから帝国でも名を馳せたというお前を呼んだ」
「ふうん、そうかい」
「賭けと言っても出来レースだ。今回こそは、貴族連合を出し抜いてやる」
「俺は賭けることがビジネスだとは思わないがねえ」
ヒゲの男は獲物を自分のホルダーに収める。その表情は余裕に満ちている。貴族服の男は一瞬苦虫を噛み潰したような顔をするが、それも心の内側に飲み込む。
「金は出す。それで問題ないだろう」
「まぁね」
ヒゲの男は立ち上がる。背は高く百九十センチ近くあるだろう。ガッチリとしているが太ってはいない。服装はガンマンスタイル。腰には二丁の魔道具が装備されている。
「いいぜ、契約成立だ。俺はお前の“ビジネス”を守る。そしてそれが俺のビジネスだ」




