きよし、意図せずして女騎士にはずかしめ“られる”
【前回までのあらすじ】
主人公の清は、水洗便所に流されて絶命。死んだ爺ちゃん(うんこ神)のおかげで剣と魔法の世界に転生した。清はパンダ獣人のパンパンと依頼をこなす中、自分が「うんこがたまるほど強くなる、かつ、うんこの性質を追加能力にする」ということを知る。次の依頼の最中、野球帽の少女エーリカとオネエ熟練戦士ルアーナとパーティを組むことになった清とパンパン。彼らは冒険者武闘大会『ギルドバトル』に参加する。無事に予選を通過した清たちだが、特殊な事情で本戦の一回戦の相手、最高マックスに稽古をつけてもらい、ついに本戦の開会式に臨むのだった。
………………
…………
……。
「ふぅ、すっきりしたぜ」
ホントは昨日からうんこしてないし、少し便意はある。だけど明日まで我慢しなきゃいけない。
小便を終えて部屋に戻ると当然だが実況はまだ続いている。俺はエーリカたんとパンパンの間の元いたスペースに座る。
『次は、第二シード。海洋都市シーガルの英雄、ポセイドンスピアの入場ですッ!』
おっ、久しぶりにまともそうなチームじゃん。そう思ってテレビの画面に注目する。
三叉の槍をかついだ馬面の男と、ナックルを両手につけた坊主の男が先行し、後ろにはいかにも回復専門風な女魔導師と大きな白い弓を背おった美人エルフが後ろに続く。なかなかバランスの取れたチームのようだ。
『ポセイドンスピアは去年準決勝まで駒を進めましたが、惜しくも敗退してしまったチームです。チームの核となるのは、通称海神、ヒポキャンパス・シーホース選手ですね』
『彼は透金階級の非常に優秀な戦士デスネ。ギフト、体術、魔法のバランスが非常に優れています。チームとしては彼を中心とした立ち回りになるデショウ。他には、後衛のリーナ選手に注目デス。彼女は珍しくエルフ種族ですが、その弓の腕には定評がありマス』
この様子だと、俺達の反対側の山は実質、紅蓮抜刀隊とポセイドンスピアの勝負になりそうな気がする。テレビに注目していると、何かどこかで見たことがあるような爺さんが、杖をついて登場する映像が流れる。
『次に姿を表したのは、これも第三シード。王都門球倶楽部のご老人達ですッ!』
「あっ、この爺さん! 昨日の獣人リンチの時に止めに入った!」
「あの変態クマ!」
「変態爺だ!」
画面の向こうで杖をついてゆっくり歩いている。杖の値段が凄く高そうなのも、微妙に顔がいやらしいのも一緒だ。他の老人も剣を杖にしてたり、車椅子に乗って本を読んでたり、もう無茶苦茶。最後についてきた一人に至っては、ベッドに入ったまま看護師さんに押されて入場してきている。
絵面があまりにも世紀末すぎる。
「この人達、ここを特別養護老人ホームと勘違いしてないかな?」
「なにそれ?」
エーリカたんが俺の言葉に首をかしげる。ああ、そうだった、こいつらには伝わらないツッコミだったなぁと反省する。
「自分で生活できないほど弱った老人のお世話をする施設だクマ」
なんで君は俺の世界にそんなに詳しいのかなあ。不思議で仕方ないよパンパン君。
『なんとこの王都門球倶楽部のメンバー全員が緋透金階級ですっ! 性魔導師エマ・ネグラ、性豪騎士ル・ディドー、魔導学者ボン・エーロ、死霊使いソーウ・イッキ。全員が伝説級の冒険者達です!』
『残念ながら死霊使いのソーウ・イッキさんは体調が優れないようで開会式のみの参加デスガ、今年もこの生きた伝説達は素晴らしい戦いを見せてくれるデショウ』
死霊使いがベッドに入ってるやつか。めっちゃ顔色悪いし自分が死霊になりかけてるやんけ。しかもどいつもこいつも名前がヤバ過ぎる。ヤバイと思うほうがヤバイみたいな名前しやがって、爺なのに小学生かよ。
『それでは次に入場するのはー。うんこしたい、唐揚げにレモンかけるな、我が剣を捧げよう、珍獣ハンターゲートウェイ、ドックスニッカーズ、田中太郎の皆さんでーす!』
俺ら側の山のチームが呼ばれ始めた頃、控室のドアがコンコンコンとノックされ、「そろそろ、入場の準備よろしくおねがいします」と事務的に呼びかける声がした。
「よーし、準備OKクマ! みんな行くクマよー!」
パンパンは妙に張り切って、今日戦うわけでもないのに準備体操をしている。トーナメントの参加チームが思ったよりもゲテモノ揃いなので、俺達は比較的まともな方なのではないか、と俺にも謎の自信が湧いてきていた。
「よーし、エーリ、ホモさっさいくぞ!」
「さっさでイっちゃうわよ♡」
やかましいわ。
俺たちは控室を出て入場ゲートの方に近づいていくと、まだ呼ばれていないチームが並んでいるのが見えてきた。中には町中ですれ違ったことがあるような奴らも少しはいるようだ。
しかし俺は本当に恐ろしい存在がそこにいることをすっかり忘れていたのだ。それが急に視界に飛び込んできたとき、俺は恐怖と驚きで咄嗟に目をそらしてしまう。
そう、イユである。彼女は何やらキツネ耳のレポーターのインタビューを受けているようだった。まあ、確かにあいつは地元枠での一番の有力候補だが……。
『イユ選手、この大会へのあなたの意気込みを教えてください』
『私は、絶対に負けられないんです。私の家と婚約がかかっていますから』
『えっ、婚約? それはどういう事情でしょうか』
オイオイオイオイ!
何喋り始めてるんだよ!しかもインタビューはスタジアム全体に放送で垂れ流しになってる。俺の生命をこれ以上縮めるようなことは頼むから言わないでくれ。他の選手たちもどういうことだ? とざわめいている。
「ちょっと止めてくる」
俺は仲間たちにそう言い残すと、ぐいぐいぐいと人の列をかきわけてイユの元へと向かう。頼むから! 頼むから! 余計なことを言わないでくれ!
『私は私の初めてを捧げたあの方……』
あああああああああああ!
NG! はいNGワード来ました! はい放送禁止です!
乙女のように桜色に頬を染め、胸に手を当ててイユがそう言いかけたのを、手のひらで無理やり口を塞いで封印する。いきなり俺に抱きかかえられた姿になったイユは、一瞬目を真ん丸に見開き、俺を確認した後すぐうっとりとした表情になる。
『えーっと、あの、御手洗選手……でしょうか?』
レポーターのキツネ娘も困惑している。
『放送NG! オフレコ! イユが余計なこと言うと治安が著しく悪化するの分かるでしょ? ね?』
俺は前の試合の後のことを示唆するように、必死で訴えかける。でも、伝わっていないのかキツネ娘は、はてなんでしょう?といった感じで首をかしげる。
『すみません、私この街のキャスターじゃなくて。初めてを捧げた……とは、どういうことでしょうか?』
ギギギギギギ! このクソアマ空気読めや。しかもしっかり一番いけない地雷を踏み抜いてきてるしよ。
俺が焦りに支配されてイユに意識がいっていない瞬間、俺の思考を先読みするようにイユが自分の口を覆っている俺の手を振り払う。いつの間にかイユの全身が気に覆われている。こいつこんな時に、国士無双の五感を使いやがった!
そしてキャスターに向かって彼女は言い放った。
『私、この清さんと婚姻します! 清さんはこの本大会で一対一をして、私が勝ったら認めてくれると言いました!』
彼女の声は放送に乗ってスタジアム全体に響き渡る。
ああああああああああっ、もう全てが終わりだあ!
終わりだあ!
これで終わりだあ、しか考えられなくなる。
その時、イユの顔が俺の顔に急速に接近する。急いで避けようとするが、完全に先読みされて退路を防がれる。また国士無双の五感かよ。こんなのインチキギフトだよ。やっぱり終わりだよ。
『これで終わりです!』
俺に共感したゆえのセリフだろうが、本当にそれを言いたいのは俺の方だから。
イユの柔らかい唇が完全に俺の唇を覆う。見覚えのある吸い込まれそうなサファイヤ色の瞳、長いまつ毛、柑橘系の爽やかな味、鼻腔をくすぐる桃のような心地よい香り、二回目だから狼狽えない。けど、これはずるい。こんな綺麗で可愛い子に自分からこんなことされたら、後が地獄と分かっていても癖になっちゃうよ。
『癖になっちゃいます♡』
唇を離したイユはとろんとした瞳で、自分の唇を人差し指で抑える。俺は全ての生気を吸いつくされたような気さえして呆然とその場で立ち尽くす。
『なんと、イユ選手。なんとこの場で御手洗選手に濃厚キッスをしてしまいました。皆さんにも彼女の声は聞こえていたでしょうか。これは今大会の見どころが一つ増えましたね』
観客席のほうから異様に沸き立っているような歓声が聞こえる。今日もケチャップまみれやろなぁ。
『それでは、ゲート前からコン子がお送りしましたッ。続いて入場をお楽しみください!』
取材は終わったようだった。ま、もうどうでもいいけどね。俺の社会的な死は確定したも同然だし。これから、イユのファンによるありとあらゆる私刑が俺を待ち構えているだろう。はぁ、もうやだ。
「イユ。君が俺のことを凄く思ってくれているのは分かったけど、本当に俺を思うのならもう少し考えて行動ほしいんだ」
俺はもはや何の感情もこもっていない状態で、淡々とイユに語りかける。この虚無感なら共感されても何の問題もない。
「ごめんなさい。でもどうせ婚姻するなら発表は皆の前で、しかも早いほうがいいと思ったんです」
一瞬少し申し訳なさそうにしたが、言い訳をする途中でデレデレの笑顔になってる。当然のように自分が勝利して婚姻する前提になってるのも謎すぎる。もう勘弁して下さいよ。
ちょうど俺が虚無の感情に完全に支配されているとき、なにやら近くで誰かのごねているような声が耳に飛び込んできた。訛りの強い女の子の比較的高い声と、どもりの強い男たちの声だ。
「ちょっと、なんであの女騎士が取材を受けよって、この私に何のインタビューもないんや!」
「そうだそうだ! なるたんが女騎士に負けるわけがありませんぞ!」
「そうです! なるたんこそがこの世界の、新世界の大正義となる存在なのです!」
「さすがなる様。なる様こそが真にインタビューを受けるべき至高の存在です!」
「えっと、あの。私は運営の方から依頼されてですね。困りましたね」
さっきのインタビューアーの狐娘は、三人の男たちに取り囲まれ困り果てている。
彼らの後ろにいるのは、黒髪の日本人風の女の子、どっからどう見てもド派手な黄色のアイドル衣装。顔はクラスで一番かわいい子くらいで、割と手が届きそうな雰囲気だ。そして、いつか分からないけれども、どっかで見たことあるような気がする。
「イユ。あの子知ってる?」
「まさかあの女のほうが良いとでも言うんですか?」
刃物のように冷たい声。イユの瞳から一瞬で光がなくなり、俺の手首は万力のような力で握りしめられる。怖すぎる、この子確実にヤンデレ属性も持ってる。エーリカたんをはぁはぁしてる姿見らてたら後ろから一撃で刺殺されそう。
「いやそうじゃなくって。ほらあのキャスターの子、困ってるじゃん」
「……ああいう獣耳がいいんですね」
握りしめる力が数倍に跳ね上がり、ギチギチギチと手首の骨が歪んで叫び声を上げる。DVですよ! DVやめてください! 社会問題ですよこれは!
「ああっ、痛い! そうじゃなくて俺らの近くにいるってことは、イユ達と戦うかもしれないでしょ!」
「あら、私を心配してくれていたんですね……もう私ったら……」
人を殺しそうな目から急にハート目になる。そして自分の体を両手で抱いてもじもじと全身をくねらせる。もうやだこの子。
「心配なら不要です。なぜなら、あのチームなるたん親衛隊は、私達が戦う前に清さんたちのチームと当たりますからね」
なるたん……どこかで聞いたことがあるぞ……
――我らはその相手への気持の分に応じて対象を強化できる。なるたんのサイン入り限定円盤の代償ぶん、きっちり支払って貰うぞぉ、ぶひょっ!――
弟者の言葉が不意に思い出される。サイン入りCD、アイドル衣装、美少女……
――! そうだよ、俺の友達の武ちゃんが大ファンだった椿坂49の練浜なるだよ!
俺は、もう一度彼女の顔を確認する。普通のスタイルにギリギリ手が届きそうなかわいさ、やはり練浜なる本人だ! しかしなぜ異世界に? 彼女も死んだのだろうか。そんなこと知ったら弟者と兄者はどうなってしまうのか……まっ、あのオタクのことはどうでもいっか。
そして、周りの男達はいわゆる騎士だろう。本当に囲われてるのを見ると、オタサーの姫ってまじであるんだなぁ、ってしみじみと実感する。
「はーい、ビッグ・シティ守衛団第四部隊からなるたん親衛隊までのチームの方々、入場の順番ですのでこちらに集まって下さーい!」
丁度いいタイミングで会場の職員が待機列の整理を始める。これで俺もイユの束縛から開放される。
「チッ、行くよ、みんな」
「「「はいっ、なるさま!」」」
騎士達は完全に統制された動きで、なるを三角形に囲んで防御する陣形になる。そして本人も練浜も諦めたように、職員の誘導に従って行ってしまう。
「ほら、イユも行かないと」
「はい、寂しいですが、行ってきます!」
小走りでイユも仲間の方へ駆けていく。はぁ、疲れた。俺もさっさとパンパンやエーリカたん(あとホモ)のところに戻ると、彼らは兄貴と和やかに談笑していた。
「あー、モテモテ清が戻ってきたクマ」
「おうブラザー。お前ファッキン・ビューチィフル・ヤンデレ・ガールに狙われて、羨ましい限りだぜ、HAHAHA」
多分、全体放送で俺の失態が垂れ流しになったのを聞いていたのだろう。たしかに百歩譲ってチューだけは最高だったけど、ほかはファッキン糞だ。喜びよりも圧倒的に精神的な負担のほうが大きい。
「俺の大変さを理解したなら勝ちを譲ってくれよー、頼むよー」
「それは、ノーサンキュー。全力でやろうぜ」
「ですよね」
待機スペースに残されたチームは、俺らと兄貴と、トロピカルばんびーずだけだ。
俺らから離れた柱のところで、昨日のいざこざの時に見かけたガオン、ニャオン、ワオン、パオンが時間を潰している。また何かやらかしたのだろうか、昨日ほどではないけどパオンが木の棒で叩かれてる。かわいそうに。
「はーい、アナルパンダぶりぶりーず! シーライダーwave、トロピカルばんびーずの皆さん、お待たせいたしました! 入場の順番ですよ!」




