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第7話:正体

 ・・・しばらく侍と女の二人は黙って歩いていたが、もう堪えきれない様子で侍が隣りの女にひそひそと声を掛けた。

「おい、もうそろそろ演技はいいから僕に寄りかかるのやめてくれ。重くてかなわん。んでもって、もう少し速く歩けんのか? いつまで経っても家につかねーだろが。」

隣りの女も負けじとやり返す。

「仕方ねーだろー。着慣れてねーんだからよー。好きでやってんじゃねえって。俺だって、お前なんかに寄りかかってんの屈辱なんだからな。」

 言い合いながら、彼らの視界の先に河原町の長州藩邸が見えてきた。

だが、そこはあえて素通りしていく。

長州藩邸に光る視線を感じつつ、二人はそのまま近くの家に入っていった。


ここは小五郎の持ち家である。


 ぴしゃっ。


 玄関の戸を閉める。

女はがっくり床に手をつけると大きく息を吐いた。

「はあ〜、助かった〜。玄瑞、恩に着る。」

「いや。しかし一時はどうなるかと思ったな〜、晋作。」

侍もへたっと玄関先に座り込む。

実はこの侍が長州藩士で晋作の親友の久坂玄瑞、女が当のお尋ね者の晋作であった。

 その時玄関の物音を聞きつけてか奥からぱたぱたっと人が走ってきた。

「高杉さ〜ん、大丈夫でしたか〜。良かったーっ。」

「弥二?! お前藩邸じゃなくて、こっちにいたんか? ――ぐえっっ。」

弥二郎は思いっきり晋作に抱きついた。

「良かった、無事でーっ。」

「俺がそんなヘマすると思うか? ・・・おいおい、泣くなって。」

弥二郎それに構わずわんわん泣いている。今回の件に相当責任を感じていたんだろう。晋作はやれやれと、ほっと息をつくと弥二郎の背中を優しくなでた。

 そうしている間に奥から栄太郎がのっそり現れた。

「あ、高杉さん、お帰りなさい。どうでした?」

彼の冷静な物言いに晋作は呆れた。

「・・・栄太、お前もうちょっと・・・何かないのか? ほれ、いたわりの言葉とかよー。」

栄太郎が何か言おうとした時、不意に玄関先から声がした。

「栄太郎、そんなのこいつに要らんからな。図に乗るだけだ。」

「あっ、久坂さん、お帰りなさい。お疲れ様です。」

栄太郎はぴょこん、とお辞儀をした。

「すいませんねえ、来たとこでこんなバタバタさせてしまって。」

「全くだ・・・。京に来た早々借り出されるとはな。しっかし、お前ら何やってんだよ。一体? ・・・ってかなー。ふふっ。」

玄瑞は晋作をちらっと見ると、肩を震わせてくすくす笑い出した。

「・・・何だよ。」

晋作はちょっとムッとした。

「そ、そのかっこ・・・いやー思いのほか似合っとんなー。さすがに通りで倒れてるのを見た時はぎょっとしたけど。」

言われて晋作の顔がみるみる赤くなる。

「うっ、うるっさいっっ! だから嫌だったんだっっ!!」


 ・・・くっそー、よりにもよって一番見られたくない奴に見られた挙句、不覚にも助けられてしまうとは――。


玄瑞はまだ笑っている。相当ツボだったらしい。

「いや〜。でも浪士組の奴に肩をたたかれた時の演技サイコーだったぜ。こう、ふらっと倒れてこられた時には僕の方がびっくりした。」

「へーっ、高杉さんでもそんなことするんですねえ。」

栄太郎が心底感心する。

それになんとなくカチンときた晋作。

「・・・弥二、離れろ。着替えてくる!」

「僕、そのままでもいいですけど・・・。とっても素敵ですし。」

「あほかっっ! お前まで何言ってやがる。もう二度とごめんだからな、こんなこと。」

晋作はすたすたと奥の部屋に行きかけて、ふと懐を探った。

「あ、ほれ、これだろ。松陰先生がくれたお守りってのは。」


ぽんっ


小袋を弥二郎の方に投げてよこす。


「そ、そうです! これです。松陰先生がくれたお守り〜。ありがとうございます!」

弥二郎はお守りをぎゅっと握り締めて言った。


 心底幸せそうに満面の笑みで溢れている。


 その様子を見ながら、栄太郎が弥二郎に言った。

「ねえねえ、弥二。そのお守り、何が入ってるの?」

「さあ、恐れ多くて開けたことないんで・・・。」

弥二郎は首を傾げている。

「この際開けて見せてよ。」

栄太郎は興味津々である。

「確かに中見てみたいよなー。」

晋作も弥二郎の傍にやってきた。玄瑞も思慮深く言う。

「あの連中に開けられてなかったのは幸いだったが、一度は確かめてみる必要がありそうだな。」

皆に口々に言われて弥二郎は意を決した様だった。

「そうですね・・・。開けてみます。」


するするする・・・。


皆が息を呑む中、小袋の包みが開けられる。

出てきたのは一片の紙。


「紙・・・ですね。」

弥二郎がその封印を解いて恐る恐る開ける。


その中を見て、皆の時が一瞬止まった。


「な、なんだよこれーっ。」

第一声は晋作だった。

「あっはっはっ。これはいいですねえ〜。」

栄太郎は大笑いしている。

「全く・・・この師にしてこの弟子ありってとこかぁ?」

玄瑞も笑いが止まらない。


――それは宮部鼎蔵が描いた、松陰先生の女装姿の絵であった。


が、弥二郎だけは笑いもせず、まじまじとそれを見ていた。

そして、がばっ、と顔を上げた。

「僕も先生みたいに頑張って女装も上手くなりますっっ!!」


「ならんでいいっっ!!」

三人が同時に突っ込みを入れた。


 遠くでほーほーとふくろうの鳴く音が聞こえた。

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