第6話:追跡
一方、おさまりのつかないのは歳三である。
何しろ、いきなり体当たりされたあげく、お守りを取られてしまい、気づけば芸妓たちに囲まれて身動き一つ取れないのだから。
しかし、あのひったくった時といい、とても女の力とは思えねえ。奴は本当に・・・女か? まさか?!
彼が顔を覗き込んだときの相手の心底ぎょっとした表情がまだ脳裏に焼きついている。
――まあいい、ひっつかまえればおのずと分かることだ。
歳三は乱暴に杯をあおると、そっと後ろの衝立に目配せした。
その裏には予想外の事態に慌てて移動してきた山崎蒸が潜んでいた。
「どうしましょう。」
「階下に永倉がいる。奴に追わせろ。お前は先回りして長州藩邸を見張れ。いいな。」
「了解しました。では早速。」
衝立が一瞬揺れたかと思うと再び静かになった。
まだそう遠くには行っていないハズだ。捕まえるのも造作ないだろう。
歳三は隣りで上機嫌になっている近藤にちっっと舌打ちすると、再び飲み始めた。
* * *
さて、その頃晋作は通りを必死で駆けていた。
ひぃひぃひぃ―――晋作の息は荒い。
何でったって女ってやつは、こんな動きにくいもん着てんだよーっっ。
着物の裾はさかんに足に纏わりつき、足が前に出ない。
その上、頭に乗っけているカツラが重くて仕方がない。豪勢な衣装もこうなったら無用の長物である。
不意に体が揺れた。
「うわっっっ!」
ずざざざざざざぁ・・・・・・。
着物の裾を思いっきり踏んづけたらしい。晋作はしたたかに顔を地面に打ち付けて倒れこんでしまった。
や、やばい・・・ここで捕まったら一貫の終わりだ。とにかく体を起こさないと――。
だが、着慣れない着物の重みで、いつものように機敏に立ち上がれない。冷や汗が出てくる。
その時おもむろに晋作の上から提灯の光が照らされた。
もう追いつかれた――?!
思わず胸に入れていたお守りを握り締める。そして――。
* * *
――しばらく後、
「おい。」
壬生浪士組、永倉新八が町を歩く侍に声を掛けていた。
「はい? 僕のこと呼びました?」
提灯を持った侍は新八の方に振り向いた。暗くてよく分からないが隣に派手目の女を連れているようだ。
「俺は壬生浪士組の永倉新八という者だ。さっきこの辺を芸者の女が通らなかったか?」
「いえ、そんな人は通らなかったですが・・・。その人が何か?」
侍は考え込む仕草をした。
「ちょっと訳ありでな。捜している。」
新八は辺りを見回した。
「どうやらこの道ではなかったらしい・・・。京の町はややこしくてかなわんな。」
「どうもご苦労様です。」
新八は頭をかいた。
「悪かったな、引き止めたりして。」
「いえいえ、では――。」
侍は軽く会釈すると、連れの女と一緒にその場を去ろうとした。
それを見送ろうとして、新八は目を見張った。
あの連れの女の着物の色―――鮮やかな朱色。まさか――。
「おいっ!!」
新八は思わず大声を出すと、連れの女の肩に手をかけた。
その瞬間――。
女の体は糸が切れた様にふらふらっと地面に崩れ落ちた。
新八はぎょっとして思わず手を引っ込めた。慌てて隣りの侍が女を抱きかかえる。
そして、キッと新八を睨み据えた。
「いきなり何するんだっっ!! この人は具合が悪くて、これからお医者に診てもらいに行く途中なんだっっ!」
怒りの炎が目に宿る。
「この人に何かあったら、あんたどう責任を取ってくれるんだ!」
あまりの剣幕に新八は思わずたじたじになった。
「いや・・・すまない。悪かった。軽率なことをした。・・・気をつけて行ってくれ。」
侍は少し表情を緩めた。
「ありがとう。」
彼らは、今度は新八が走り去るのを見届けて再び歩き出した。