第4話:演技
さてはて、視線の先の近藤と晋作であるが――。
「ずいぶんおとなしいんだのう。」
ぎくっっ。あやしまれた?!
とにかくバレない様に俯き加減に黙々とぎこちなくお酒を注いでいた晋作に近藤が声を掛けた。
「えっ?! いや、あの・・・。」
思わずしどろもどろ。声も裏返っている。
だが近藤は全く意に介さない。
「意外にハスキーボイスなんだね。恥ずかしがることないよ。それもとっても可愛いから。」
なんだってーっ。どんな趣味してんだよ、こいつー。
思わず後ずさりしようとした晋作であったが、彼がそうするより一瞬早く近藤の手が伸びてきた。それになすすべも無く、ぐっと強く腰が引き寄せられるのを感じた瞬間、近藤の顔がすぐ間近に迫っていた。
彼は笑顔で顔がとろけそうになっている。
「近くで見ると、ますますかわいいよ。」
熱い息が容赦なく晋作の顔にかかる。
ぞわぞわぞわっ
晋作は総毛立った。
冷や汗が流れる。
ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっ・・・。じ、冗談じゃねーぞーっっ! このままでは俺が奴らにお守り出させるどころか、逆に本当にいいようにされちまう。な、何とかしないと――。
だが、頼みの綱の小五郎は幾松と楽しそうに談笑していて、たまに頑張れサインを送ってくるだけである。
くっそーっ。あいつ楽しんでやがるな〜。あとで覚えとけよー、小五郎の奴ぅ。
ふと小五郎から視線を逸らすと、そこに黙々とお酒を飲んでいる歳三の姿が目に入った。
その瞬間、晋作の頭が急に冷えた。
―こいつがお守りを持っている――
確証など何もない。これは晋作特有の勘だと言っていい。
今までふらふらしていた晋作の頭が一気に回転しだした。
こうなりゃヤケだっ。何とでもやってやる。バレたらバレたで何とかなるだろ。その時は頼んだぜ小五郎!
「ねえ、近藤さま。」
晋作は近藤に逆に擦り寄って精一杯の猫なで声で言った。
「ちょっと小耳に挟んだんですけどぉ、最近お守りの持ち主を捜してはるって本当なの?」
「うんうん、そうなんだよー。ちょっと前に取り逃がした奴の持ち物だからねえ。」
「へーっ。ねえねえ、それどんなお守りなの? 俺・・・あ、いや、私すっごく見てみたいなぁ。」
晋作は近藤が答えるより先に彼の両手を素早く取ると両手でぎゅっと握り締めた。目はうるうるしている。
「私も近藤さまのお役に立ちたいの。ほら、ここにはたくさんお客さんも来はるし。知ってるかもしれないから、ね。」
近藤は晋作の一生懸命な口調にすっかりめろめろである。
「そこまで言ってくれるなんて、ほんといい娘だのう。なあ、トシ。持ってるだろお守り。見せてやってくれよ。」
歳三はちらっと近藤の方を見た。彼もほんのり顔が赤い。
晋作は思わず固くなって顔を俯かせた。
だが――。
「だめだ。」
歳三はそっけない。
「なんでだよトシ。せっかくこんなに言ってくれてるのに――。」
「これは大事な戦利品なんだ。おいそれと見せるわけにはいかない。第一、自分からそんなこと言い出す奴は危険だ。」
歳三の態度は頑なである。
「トシぃ。そんなこと言って、まだ持ち主見つかってないだろ。早く判明させないと、そのまま逃げられちまうぞ。」
晋作も必死である。近藤の隣りでうんうん頷いている。
「そうですよー。」
意外な方向から声がした。小五郎である。
「そういうものは旬がありますからねえ。相手も最初は探しているでしょうけど、すぐに忘れてしまうでしょう。そうなれば、たとえそれの真の持ち主であったとしても、知らない、何それ、ってことになりますよ。」
そう言うと我関せずといった風に再び杯を傾けた。
「・・・分かった。」
歳三は不本意っぽそうだったが、ごそごそと懐を探り出した。
やっぱり持ってやがったか――。
晋作と小五郎の目が光る。
それに近藤は気づいてはいない。