表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

気弱な悪人と万能印刷機

作者: 明近 夜長

「どうやら例の噂は本当なのか?」

 薄暗いたった一人のためのアジトの中。

 俺は先ほど、奪ってきた違法物品の動作を確認しながらつぶやいた。

 この小さな箱のような機械は、どんなものでも文字を入力すれば作り出せるらしい。


 試しに動かしてみるか。

 俺は光る文字盤に「金」と入力する。

 すると、ジジジっという音が鳴り数秒後、箱の扉が開き金塊が出てきた。


 なるほど、現金でなく金そのものか。

 俺はその作り出された金塊を手に持つがやはり重い。

 少なくとも、俺には本物のように思えた。


 その後俺は、何度か入力と作成を繰り返した

 そして、具体的に入力すれば大体は思い通りのものが作れるということがわかった。



「これはとんでもないものかもしれんな」

 俺は喜びを隠し切れない声で言う。

 おそらくこれさえあれば、ほとんどの望みはかなうだろう。


 金や武器、あるいは人を操る薬ですら、作ることができる。

 俺のような悪人には最高の品物だ。


 きっとこれで俺は大悪党って呼ばれるようになるだろうな。



 だが、俺は思った。

 もし俺の中に良心が少しでもあれば苦しむことなるかもしれない。


 ならば世界で最も正しいものを知り。

 一切の正しさを自分の中から消せば好きにやることができるのではないかと。


 そうして俺は再び文字盤に向かうと『世界で最も正しい』もののコピーと『それを消す薬』を機械に作らせる。


 やはり、あいまいな指示でも問題なく作れるようだ。


 もう何度も見たように機械は動き、そして箱の扉が開いた。


 その中には一冊の分厚い本とビンに入った錠剤があった。


「なるほど、本か」

 この機械では当然だが箱の中に入るものしか作り出すことはできない。

 おそらくだが、『世界で最も正しいもの』はこの中に入らなくて、代わりにそれを書いた本を作ったのだろう。


「まあいいさ。この薬を飲めばそれでおしまいだ」

 俺は作り出した薬をゴクンと飲み込んだ。


 やはり飲み薬ということは効果が出るまでにしばらく時間がかかるのだろう。

 俺は、暇つぶしに一緒に作られた本を手にとる。


 本を読み始めるがどうもおかしい。

 この本はまるで辞書のように言葉とそれの説明しか書いてないのだ。


「いったいこの奇妙な記号の配列はなんなんだ?」



 そして、万能たる印刷機は俺の部屋で誰にも『言葉』を入力されることなく、今はホコリをかぶってる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ