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ー月曜日ー 裏道カレイド  作者: 虹峰 滲
7/10

–5– ジェットコースターの噂【裏野の場合】

◇登場人物◇


 檻原 柵(おりはら・さく)   学生

 沫河 冷華(まつかわ・れいか) 学生


 溝朽 霙(みぞくち・みぞれ) 元遊園地ガイド

 黒屑 最果(くろくず・もか) 遊園地オタク

 裏野 うらら(うらの・うらら) オーナーの孫

 伝言坂 言伝(でんごんざか・ことづて) 廃墟写真家

 濃紫 小麦(こむらさき・こむぎ) スタッフ

 


 ◆表◆


 ◇裏野◇

 ジェットコースターの事故ですか?

 うふふ。オーナーの孫だからって、何でも知っているわけじゃあないんですよ。知っていたとしても、お話しできないこともあります。


 それよりも知っていましたか?

 この裏野ドリームランドには、アレが無いんです。

 それは……観覧車です。この遊園地には観覧車が無いんですよ。

 不思議でしょ?


 だったら、赤い池のところにあった観覧車の支柱のようなものは、一体なんだったんでしょう?



 ◆裏◆


 そもそも、黒屑さんの足には靴擦れの痕が残っていた。それは、あのぶかぶかの靴を履いて、彼女自身が移動したという証拠だ。

 ミラーハウスでの黒屑さんの失踪。あれは、彼女の自作自演だった。そう考えれば腑に落ちる。


 迷路の最短ルートを熟知していたであろう彼女が、迷路の出口とは逆方向に靴を残していたのは、僕たちの注意を出口から遠ざける狙いがあったのではないか。あの謎の暗号も時間稼ぎのためだ。失踪が自作自演だったとすると、彼女の失踪時のアリバイに意味はない。


 黒屑さんは、自分が失踪したと見せかけるために、自分のあの特徴的な靴を残していった。ならその代わりに履いていたあの靴は一体誰のだろうか。黄緑色のぶかぶかの靴だ。

 皆自分の靴を失ってはいないが、一人だけ靴を失った可能性がある人がいる。


 濃紫さんだ。


 彼女の遺体は着ぐるみの中に入っていた。今も上半身だけ外に出ているが、靴を脱がされていたとしても、僕らにはわからない。

 逆に言えば、黒屑さんに濃紫さんの靴を渡した時既に濃紫さんは絶命していたと考えられる。靴を履かずに廃墟内を移動できないのは濃紫さんも同様だ。たとえ着ぐるみを着ていたとしても。


 つまり黒屑さんに濃紫さんの靴を渡したのは濃紫さんではあり得ないということだ。



 それが誰であったかどうかは置いておくとして、話を先に進めよう。



 黒屑さんは誰に殺されたのか。というより、いつ殺されたのか。

 黒屑さん失踪時に濃紫さんが絶命していたとすれば、僕たちの前に現れたウラビィの中には黒屑さんが入っていたはずだ。その後僕たちの前から消えて、再び僕たちの前に遺体が現れる間に、色々なことがあった。



 地下道を進んでアクアツアーへ。

 赤い池に浮かぶ着ぐるみ発見。伝言坂さんと再会。

 再び地下道に入ってから、溝朽さんを置いて再度アクアツアーへ。

 赤い池の水が抜かれ、濡れた着ぐるみの中の濃紫さんの遺体。

 廻ったメリーゴーランドに黒屑さんの吊るされた遺体。





 ここで一つ、僕が気になった事象がある。

 廻ったメリーゴーランドだ。

 動力を失ったアトラクションは動かない。

 それなのに廻ったからこそ僕たちはメリーゴーランドに近づき、黒屑さんを発見した。ならば当然、メリーゴーランドが廻った事に対して意味があるはずだ。僕たちがそれが廻ったと考えた理由はなんだったのか。



 それは、黒いペガサスの位置だ。


 ミラーハウスから出て来た時、出口の真っ正面から見えた黒いペガサスが、その地点から見て真反対に位置するアクアツアー側に移っていたから、僕たちは廻ったと考えたのだ。


 廻っている状況を見たわけではない。廻った後の結果を見て類推しただけに過ぎない。ならば、その状況を作り出すことができさえすれば、廻らないメリーゴーランドを廻すことはできる。



 注目すべきは、沫河が撮影した黒いペガサスの写真だ。

 その風景。太陽が沈みつつある空が見え、三日月がうっすらと見える。

 その、三日月だ。三日月は、夕方の西の空に見える。



 ここで一度園内の地図を見てもらいたい。


挿絵(By みてみん)



 ミラーハウス側は、方角でいうと西に位置する。

 ミラーハウス側の出口から出た時、ミラーハウスから見て、メリーゴーランドは東側に位置する事になる。つまり逆だ。夕方の東の空に三日月は見えない。


 僕たちはミラーハウス側の出口から出たと錯覚させられていて、実際はドリームキャッスル側の出口から出ていたという事だ。


 ミラーハウスの迷路は、複雑だった。

 階段を登ったり降りたり、降りたり登ったり(・・・・・・・・)

 つまり、ミラーハウスは地下にも迷路が存在するという事だ。

 この園内マップには載っていない巨大な地下迷路が、園内を張り巡らされている。だから、地上でのアトラクション間のアクセスが悪くても問題ないのだ。地下道を通ればどこにでも行ける。



 その後、地下道を通って僕たちはアクアツアーに向かった。その時に寄ったアクアツアー側から見て、メリーゴーランドには黒いペガサスは見えなかった。その地点での写真には先ほど移っていた三日月はない。つまり、最初に僕たちが出て来た出口とは反対側に移動していることは間違いない。

 園内マップで見ると、僕たちがアクアツアー側だと思っていたところは、ドリームクルーズのある場所だと推測できる。


 ドリームクルーズは、支柱に巨大な船がぶらさがり、180度ブランコのように揺さぶられるアトラクション。船の成れの果てがあっても不思議ではない。

 観覧車のような支柱は、そのアトラクションのものだろう。

 そこに浮かんでいた赤い池の着ぐるみ。これはブラフだ。中には何も入っていなかったはずだ。

 赤い池に腰まで浸かって、中を確かめるような人間はなかなかいないだろう。目に見えて死んでいると思わせる効果も、赤い池にはあった。早くここから出ようという気持ちも相成って、しっかり確認もせずに、僕たちは地下道を通ってミラーハウス側を目指した。


 そこで、溝朽さんが身体の不調を訴えて、道を戻るように提案をした。溝朽さんのいう通りに道を戻ると僕たちは再び地上に出た。

 そのわずかの間に、池の水は抜かれ、濃紫さんの遺体が現れた。



 ここが最大の罠だ。


 僕たちは最初、ミラーハウス側の出口に出て、アクアツアー側に向かい、地下道に入って出口を目指した後に再びアクアツアー側に戻った。

 と、思っていた。すると、池の水が抜かれていたり、メリーゴーランドが廻っているなどの変化が僕たちを混乱させた。


 しかし、どうだろう。僕たちはスタートから錯覚させられている。メリーゴーランドが廻ってなどいなかった、という視点の元、僕たちの本当の行動経路を辿ってみよう。


 僕たちは最初、アクアツアー側に出た。黒いペガサスが見える東側だ。

 その後、黒いペガサスが見えない西側に移動して、また地下道に入る。ミラーハウス側を目指して。

 先ほどと同じ道を戻るように進んだ先で僕らが見たのは黒いペガサス、つまり、東側だ。


 赤い池に浮かんでいる着ぐるみを見たのは西側。

 池の水が抜かれて濃紫さんが亡くなっていたのは東側。


 僕たちは、同じ場所に戻ったと錯覚させられていたんだ。本当は逆側に移動していたことに気付かずに。

 地上に再び戻るまでの僅かな間に変化が起きたと思わせられていたが、実のところ、僕たちが見ていたのは全く別の場所の違う景色だった。


 黒いペガサスと濃紫さんの遺体、赤い池の情報を書き足すと、マップはこうなる。


挿絵(By みてみん)



 今もおそらく、ドリームクルーズに行くと、赤い池に、偽物のウラビィの着ぐるみが浮いているだろう。


 その変化に惑わされ、濃紫さんに注目を向けている間に、メリーゴーランドにて黒屑さんを殺害、遺体を吊るした。


 黒いペガサスを移動させて「風景」を変え、

 印象的な「形」の靴を残し、

 池を真っ赤な「色」に染め上げ、

 不気味な生き物の「存在」を印象付けた。



 園内を熟知し、僕らを間違った場所へと案内し、濃紫さんの遺体発見時にアリバイが無い人間。裏道の支配人。それは一人しかいない。


 溝朽(みぞくち) (みぞれ)。彼女が、この事件の、犯人だ。





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