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【第六話】災いと学校

「よう、おはよう・・・ってどうしたんだ? なんか凄く疲れてないか?」

「ああ・・・そうかなぁ・・・」

 朝の自転車置き場。

 旧友―――もとい、悪友―――である藤原一二三ふじわらひふみが駆け寄ってきて、宮彦の隣に並んで歩く。

 そう見えるのも無理はない。

 間仕切りを買いにホームセンターに行ったは良いが、やはりそこでもカグヤに振り回され、結局昨日は間仕切りを設置したらそのまま疲れて寝てしまったのだ。

 もはや彼女は宮彦にとって災いに他ならない。

 長年閉じ込められてきた反動でああなっているのだろうが、少しは分別というものを持ってほしい。

「はあ・・・」

 そう心の中で愚痴りながら、また溜息。

「ああ、そうだ、聞いたかよ」

「何を?」

 一二三との他愛のない会話でも、カグヤのことから少しでも離れられるならこれ以上ありがたいことはない。

 が・・・

「新しく転入生が来るらしいぜ。まあ、まだ転入試験も終わってないらしいがな」

 !?

「そ・・・そうなのか」

 極力驚きを表面に出さないよう宮彦は細心の注意を払う。

 またアイツの話かよ・・・

 思わずズッこけそうになったが、あえて踏ん張る。

 というか、なんでコイツは一昨日決まったその事を既に知っているのだろうか。

 高校生の情報網、恐るべし。

「でな、朝練に来てた先輩が先生の話を盗み聞きしたらしいが、どうやら女子らしいぜ・・・まあ、女子って言っても皆が皆可愛い訳じゃないし、必要以上の期待は禁物かもなー」

「あ、ああ、そうね・・・」

 残念、いや、この場合はおめでとうといった方がいいか・・・?

 少なくとも宮彦の見る限り、カグヤの容貌ようぼうといったものは決して悪くはないと思う。

 顔だって小さめだし、目も大きい方だと思う。

 顔の造形の一つ一つは、それぞれが主張しすぎることなく、実にバランスの取れた顔だちをしている。

 やはり盗み見し過ぎた、と今更ながら思う。

 これではまるで変態だ、ウン。

「お、おい・・・今度はなんて顔してんだ?」

 複雑な顔で少々複雑な思考をしていると、一二三が声をかけてくる。

「あ、ああ、そ、そんなにひどい顔してた?」

「少し・・・な」

「まあ、お前のツラよりはまだマシだろ?」

「へっ、言ったな? 百人切りの一二三様にかなうと思っているのか?」

「“切られ”の間違いじゃないのか?」

 そんな軽口と笑いを交わしながら、二人は教室の扉の向こうへと姿を消す。





「ち〜か〜れ〜た〜・・・ゲフッ・・・」

「何が『ちかれた』だ・・・」

 机と同化現象を起こしている一二三に肘鉄ひじてつを喰らわせると、帰路に就くため鞄を持ち上げ、教室を出て行こうとする、と・・・

「あ、讃岐君、探してたとこなんだけど・・・」

 教室のガタの来ている扉を苦労して開けながら現れたのは、石川雅子いしかわまさこ、彼らのクラスの学級委員長だ。

「先生が、裏門まで来てくれって・・・そのまま帰れるように、荷物も持って行けだって」

「裏門に・・・? わかった、ありがとう」

 雅子に礼を言うと、「何の用だろうか」という疑問を抱きつつも、階下へと続く階段へと宮彦は向かう事にした。

 




「あ・・・あれは・・・」

 自転車を押しながら裏門に辿り着くと、そこに居たのはこの三日間で思いっきり見飽きた腰まで届く長い黒髪。

 カグヤだ、アレはまぎれもなくカグヤだ。

 いつもの着物ではなく、この学校の制服を着てはいるものの、間違いない。

「ん? おお、ようやく来おった・・・」

 こちらの存在に気づいたのか、「おーい」と呼びかけてくる。

 隣には担任教諭。

 うあ・・・逃げようと思ったがこれでは逃げられない。

 おまけに何故か分からないが周りの視線が痛い! 何故だ?

 そのまま自転車で逃げようと思っていたが、宮彦は仕方なく二人の居る方へと向かう事にする。

「あの、なんでしょうか・・・」

 そう言いながら教諭に駆け寄ると、教諭は申し訳なさそうに頬を掻きながら、こう切り出した。

「いやーそれがだね・・・彼女、帰り道を忘れてしまったらしくてね・・・」

 帰り道を・・・忘れた?

「アンタ・・・来るときどうやって来たんだ?」

 帰れないという事は当然来る事も出来まい。

「秋平に連れて来てもらったのじゃが、あやつは忙しくて途中で帰らねばならなくての。仕方なくお主を呼び出したのじゃ」

「・・・と、言う事で、彼女を家まで連れ帰ってくれないかね?」

 やはり申し訳なさそうな顔の担任教諭の問いに、宮彦はうなずく以外の術を知らなかった。




 帰り道。

 宮彦は自転車を押しながら、カグヤと並んで歩く。

 すれ違う人々は老若男女皆が振り向き、男は魅了されきってとろけた視線を、女は羨望せんぼう眼差まなざしを送り、そして男は決まってその後に、宮彦に針のような視線を突き刺すのだ。

 い、痛い・・・

 場所は図らずも商店街。

 人通りだって当然多いが、その分宮彦に突き刺さる針も多い。

 もう、宮彦は自分がハリネズミになったかのような錯覚まで覚えていた。

 体が、重みのないはずの針の重みで鉛のように重い。

「どうしたのじゃ・・・?」

「いや、なんでもない・・・なんでもないさ」

 そんな宮彦の様子に疑問を感じたのか、カグヤが声をかけてくる。

「そう言えばさ・・・」

「うん・・・?」

 宮彦の問いに、カグヤは首をかしげる。

「何で転入試験の結果も出てないのに制服買ってるんだ?」

 転入試験の結果が出るのは、恐らくあと少なくても一週間はかかるだろう。

 もし落ちていたら、どうするつもりなのだろうか・・・?

「フン、わらわが落ちるハズが無かろう」

 さも当たり前のことだと言わんばかりに胸を張る。

 確かに、王位を継ぐためにこれまでロクに遊びもせずに、勉強漬けだったのに、地球の高校の転入試験ごときで落ちていては、何をしているのか分からない。

 まあ、もし落ちていたら、盛大に笑ってやろう。

 そんな宮彦の邪気を感じ取ったのか、カグヤはトゲのある声で問う。

「よもや、妾が落ちるのを願っておる・・・などという事はなかろうの・・・うん?」

「そ、そんな事はないだろ? ははははは・・・」

 最後の方顔が引きつっていたのを見られた気がするが、カグヤはそれ以上そのことには何も聞かなかった。

「まあ、いい・・・それよりも、この制服、似合っておるか?」

 白のシャツに、チェックのスカート。

 着慣れていないもの故に、多少ぎこちない感じはするが、似合っている、と思う事が出来た。

 が・・・

「似合ってない・・・」

 ここでほめれば、また更にこの元姫様はつけあがる気がしてならない。

「な・・・なんじゃとう!?」

「似合ってないって言ったの・・・」

「む、むう・・・そなたの目は節穴か、この見る目の無い男め!」

「はいはい、何とでも・・・」

「そ、そなたは・・・」

 宮彦は何やらギャーギャーうるさいカグヤを適当にあしらいながら家へと帰る。

 途中、さらに針が鋭くなったのは、この際気のせいだと思う事にした。

二日を語るのに間幕入れて六部分も使うなんて・・・OTL

精進せねば・・・

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