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【第十九話】災いを守る者

 死の間際に、周りの時間がやけにゆっくり流れていく。

 そんな表現を、宮彦も何度も本で目にした。

 それまでは「そんな馬鹿な」と、まるで信じていなかったが、この時宮彦は、それが本当だったことを嫌というほど思い知った。

 ゆっくりと振り下ろされる白刃。

 普段なら肉眼で捉えることすらできないはずのその動きを、宮彦の目はハッキリと捉えていた。

 しかし、体を動かそうなどとは思えなかった。

 動かそうとしても、その動きはこの刃の動きよりも遥かに緩慢で、刃を避けることなど叶わぬだろう。

 迫りくる白刃の切っ先を目にしながら、宮彦はぼんやりと考える。

 俺はここで、死ぬのだろうか?

 そう考えた瞬間、短い人生の出来事の一つ一つが、目の前を走っていった。

「走馬灯が走る」とはこういう事の事を言うのだろうか。

 実物のそれを見た事がないため、その比喩が自分が体験しているものを指すのかどうかは良く分からなかった。

 目の前を、次々と思い出が走っていく。

 父さん、母さん、先に逝ってしまった爺ちゃん、そして・・・

 目の前に流れる光景は、やがて宮彦の大切な人々へと変わっていく。

 そして、

 カ・・・グヤ・・・?

 最後にその瞳に映ったのは、黒い髪の少女。

 カグヤ? いや、違う、カグヤならそこで泣いているじゃないか。

 視界の隅で、黒マントに羽交い締めにされながらもこちらに手を伸ばしながら、叫ぶカグヤの姿が見えた。

 悪いな、こんな終わり方で。

 王宮にこれまでずっと閉じ込められていたんだ、もう少し、色んな所に連れて行ってやりたかった。

 もう少し、ワガママを許してやっても良かった。

 もう少し、面白い話を聞かせてやりたかった。

 そして、もう少し・・・

 ああ、そうか、俺は・・・

「宮彦ぉ!!」

 自らの中の彼女の存在の大きさを理解したその瞬間。

 刃がその脳天に振り下ろされるその時、カグヤの声が、聞こえた気がした。




「宮彦ぉ!!」

 叫ぶ。

 もう間に合わないことなど頭では理解できている。

 叫ぶ事でその刃が止められるはずもない。

 だが、しかし、叫ばずにはいられなかった。

 体が、魂が、沈黙を拒否した。

 振り下ろされる刃を前に、それ以外は何もできなかった。

 彼女の目の前の宮彦は、呆けたように刃を見ているだけだった。

 かわそうと、しない。

 最早、全てが終わった。

 そう、諦めかけ、瞼を閉じた瞬間だった。

「やれやれ、通常監視に切り替えた途端にこれかい?」

 飄々《ひょうひょう》とした声と共に、鈍い金属音が響きわたる。

 恐る恐るカグヤがまぶたを開くと、そこには、彼女が待ち望んでいた姿があった。

「姫、遅くなりました・・・申し訳ございません」

「遅い・・・それから、私は既に姫ではない、気づかいは無用じゃ」

 黒マントの刀を叩き折った月野を、カグヤは軽くたしなめた。




 自らの脳天に振り下ろされるはずだったはずの刃が叩き折られ、その持ち主が崩れ落ちるのを、宮彦は呆けた目で見ていた。

 目の前には、彼らと同じような日本刀を携えた優男。

 頭の後ろで小さく括ったその髪は、月野のそれに他ならない。

「讃岐君も、悪かったね・・・怖い思いをさせてしまったようだ」

 こちらをおもんばかる月野の言葉にも、ロクな反応が返せないほど、宮彦は呆然としていた。

「先生が・・・何故?」

 やっと出た言葉は、それだった。

「何故、か・・・ま、彼女と君を守るのが仕事だからね、教員と言うのは裏の顔さ」

 月野は質問に答えながらも、さらにもう一人の黒マントの刃をはじきつつ、峰で強打しノックアウトする。

「ちっ・・・動くな! 動けばこの者の命はない!」

「そ、そうだ! 動くなよ・・・」

 残された二人は状況が不利と見るや否や、カグヤを人質に取り、逃げに入った。

「分かった・・・」

「まずは武器を置け!」

 男のその指示に従い、月野は刀を手から離す。

「・・・と、言う訳にもいかないんだよね、職務上さ」

 月野は先ほどの男の内の一人がやって見せたように、彼らの背後に一瞬にして回りこむと、 ほぼ同時に二人の首筋に強打を叩きこむ。

「がっ・・・!」

「貴・・・様・・・!」

 黒マント二人が崩れ落ちるのと、月野が手から離した刀が地面に落ちて鈍い音を立てたのは、ほぼ同時だった。

「恨まないでおくれよ、これも仕事だからね」

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