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【第二話】災いの正体

「ん〜・・・あぁ・・・な夢見たなぁ・・・」

 何かとてつもなく滑稽な、しかしとてつもなく恐ろしい悪夢から目を覚ますと、宮彦は着替えのため、体のあちこちに湧いた痛みを押し殺して立ち上がる。

 なれない布団で久しぶりに寝たせいだろうか、それとも昨日竹藪を這いずりまわったせいだろうか。

 こういう時、今日が休日で良かったと心底思う。

 ふと、堅い床で寝る羽目になったその元凶を見遣る。

「う〜ん・・・うぅ・・・堅い・・・寝床が堅い・・・」

 長い黒髪の少女が布団を肩のあたりまでかぶったまま、うんうん唸っている。

 柔らかい方の寝床を譲り、自らの体を痛めたというのに、こいつは寝言でまで文句を言うのだろうか。

 確か昨夜寝る前にもベッドの堅さに関して文句をぶーたれていた“それ”に、宮彦はふつふつと怒りがこみ上げてくるのを覚える。




 おい、その方、名は何と言う。




 やはり自分がこういう目に遭うのは、昨日目の前の少女が言ったその言葉に、「さ、讃岐宮彦だ・・・」と素直に答えてしまったのがいけなかったのか。

 と、宮彦はやはり今更ながらも、後悔の念に捉われる。

 あの夜――というか昨日――月光を背負って現れた少女は、何故かそのまま付いて来て、宮彦の家に転がり込んできてしまった。

 彼女の言うところによると、「わらわを拾ったそなたの宿命」というものらしい。

 なんともはた迷惑な宿命だ。

 出来る事ならこんな宿命を作った神様に不良品として送り返してやりたい。

 コイツもまとめて今すぐに。

 事情も詳しく聞かずに泊めてしまう宮彦の親も親である。

「あら〜、かわいそうに・・・ウチで良ければいつまでも泊って行きなさい」と、なにも聞かずに家出少女と決め込んで家に上げてしまった。

 人一人を、である。

 ペット飼うのとは訳が違うのだ。

 食費だってその他の費用だって馬鹿にはならない。

 父も宮彦と同じく反対すると思いきや、あっさりと了承した。

 といっても数日間だけなら・・・という条件付きであったが。

「ん・・・ん〜・・・」

 と、宮彦が思案にふけっていると、後ろで人の動く気配がする。

「ああ、アンタ、起きたのか。早速だけど話を・・・」

 振り向いて少女に話しかける。

 ・・・と、そこで宮彦は硬直する。

「ん? どうした? 妾の顔に何か付いておるかの」

 大きくはだけた寝巻きの胸元に、太ももまで露わになっている脚。

 これは、生で見るにはいささか刺激が強過ぎた。

「だ・・・だぁ〜! 何でそんな格好なんだよ! とっとと・・・とっとと服着ろ!」

 耳まで真っ赤になりながら、宮彦は慌てて反対の方向を向く。

「・・・? この格好の何がいかんのかのう・・・」




 数分後、聞こえてくる衣擦れの音に宮彦はまた顔を赤くしたり、「照れておるのか?」などの少女のちょっかいを受けた後、二人は向き合っていた。

「さて・・・じゃ、色々と質問に答えてもらう」

「? 何故じゃ?」

「何故じゃ・・・って、まだ俺の方はアンタの名前も知らないんだが?」

 あの後、宮彦が名乗った後、彼女は「早く貴様の家に連れて行け」と言い出し、「詳しい説明は後でしてやる」と言いながら、その後何とか数十分かけて家に辿り着いたと思ったら、「妾は疲れた、寝る」と、他人の家ではあるまじきことを口走り、同情した宮彦の母が勝手に宮彦の部屋に上げ、ベッドで寝かせてしまったのだ。

 と、いうことで、宮彦は未だに少女の事については「カプセルから出てきた変な少女」という事しか分からないのだ。

「ふむ、そうだったかの」

「そうだったんだよ」

「まあ、いい、妾は月の都の姫、名は・・・そうじゃな、こちらでも分かりやすいように、カグヤ・・・としておくかの」

「・・・“月の都”って、何? キャバクラかなんか? 姫・・・ってことは人気ナンバー1とかそういう・・・」

「きゃばくら? 何じゃそれは」

 どうやら違うらしい。

 いや、まさか本当に月に人がいるわけがないし・・・

「月の都について貴様ら一般庶民が知らんのも無理はない、か」

「ふーやれやれ」といった感じで溜息をつくところや、一般庶民などという単語に宮彦は少々カチンと来たが、ここは会話をスムーズに進めるため、一生懸命怒りを殺すことにする。

「貴様らは知らぬかも知れんが、月には人がおる。空気もある。そして貴様らより技術の面で幾ばくも進んでおるのじゃ」

「へ・・・?」

 月に・・・人?

 どうやら彼女――カグヤとかいったか――は、墜落のショックで少々頭がおかしくなってしまったらしい。

 どうやったらあの月に人が住めるというのだろうか。

 あんな空気も何も無いような場所で。

「その目・・・疑っておるのか。まあ、いい・・・普通はいきなり斯様かような事を聞かされても、受け入れられぬものよの」

 そう言うと、着物の懐から細長いペンのようなモノを取り出し、スイッチを入れる。

 すると、ペンの先から放たれた光が、壁に像を結ぶ。

「何だこれ? 映写機・・・?」

「まあ、黙って見ておれ」

 軽くたしなめられると、やがて即席のスクリーンに月が現れる。

「これが、貴様らが月とか勝手に読んでおるものじゃ」

 やがて、月の表面へと画面は近づいていく。

 丁度月面に画面がぶつからんとするその直前、ひび割れた地面が不自然に浮き上がり、開口部がその姿を現す。

「な、何だこれ・・・」

「黙って見ておれと言うとるに・・・まあ、いい」

 開口部にカメラは突っ込むと、内部へと進んでいく。

 闇がしばらく続いたのち、画面が光に包まれる。

「・・・これが」

「そう、月の都じゃ」

 画面に映し出されたのは、きらびやかで巨大な都市。

 画面が画面なので分かりにくいが、少なくともCGや特撮といったそれらの類には見えなかった。

「ホントに・・月の中にこんな・・・」

 やがて画面は、月の内部構造を示す画面へと切り替わる。

「気温も低く、大気も存在せず、水も何も無い月面にはとてもではないが住めないが、中になら住める、という事じゃ」

「いつ月を・・・こんな都市にしたんだ?」

「逆じゃ、逆」

「逆?」

 一瞬宮彦はその言葉の意味するところが分からず、鸚鵡おうむ返しに答えてしまう。

「貴様らの呼ぶ月は、いわば巨大な宇宙船であった。しかし、事故によって偶然にも地球の重力につかまってしまい、今に至ったわけじゃ。表面の岩石など、カモフラージュのためにすぎん」

「な、なるほど・・・」

 確かに信じがたい話ではある・・・が、このような映像、一朝一夕で作れるものではない。

「ん・・・待てよ」

 と、そこで宮彦はあることに気が付いた。

「なら何故技術的にも進んでいらっしゃる月の姫様が、こんなこぉんな辺鄙なところへいらっしゃったのですか?」

 わざと慇懃に、しかしイヤミっぽく宮彦は尋ねる。

「う・・・それは・・・じゃな・・・」

 言い淀んだカグヤに、宮彦の疑問は一種の確信のようなものみ変わる。

 今この少女はカグヤと名乗ったが、昔話においても、かぐや姫が地球に来た理由と言うのは・・・

「罪を・・・犯したからじゃ」

 やはり、そうだった。

 竹取物語においても、かぐや姫は月の都で罪を犯し、地球へと送られたという。

 どうやら、向こうにおいては、地球行きは一種の“島流し”のようなものらしい。

「罪に対する罰ってことは、竹取物語みたいにいつか月に帰れるんだろ。いつまでだ?」

 竹取物語のように比較的短期間でカグヤが月に帰ると思った宮彦は、いつまでもカグヤがここにいるのではないという事が分かったという事だけでも安堵し、その滞在期間・・・というか刑期を訪ねた。

「いつまで・・・というものでは無い」

「うん? じゃあ、ここで仕事を規定量したら・・・とかそう言う事?」

「そうでも・・・ない」

 少しおかしなカグヤの様子に、宮彦まで不安になってくる。

「じゃあ、どいう刑なんだ?」

「無期・・・じゃ」

「は・・・?」

 何ですと?

 一瞬自らの耳を疑った宮彦は、もう一度聞きなおすことにする。

「今、なんて・・・」

「無期だと言うたのじゃ!」

 いきなり大声を出したカグヤに少し驚きながら、宮彦は思考を巡らせる。

 えーと・・・むき・・・ムキ? 無期・・・つまり、期限が無いという事で・・・

「ずっと・・・帰れないって事?」

 その宮彦の問いに、彼の目の前の少女は半べそをかきながら、ただ「こくり」とうなずいた。

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