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【第十七話】災いと石

 夏休み前日。

 熱気のこもった体育館から生徒達が一斉に解放される。

「いや〜・・・校長の話、長かったなぁ・・・誘拐なんて俺らには関係ない話なのに」

「それでも前の校長よりはマシってもんよ・・・」

 一二三のその言葉に、宮彦は前の校長の事を思い出す。

 生徒の心情をよく理解しており、ノリは良い方だったが、その分話も長かった気がする。

 体育祭やこういった集会の際にには、常に二十分ぐらい時間が延長され、数人貧血で必ず倒れていた気がする。

 それに比べれば、時間内で済ませてくれる今の校長なんて可愛いもんだ。

「お、アレ、安形さんじゃね? その隣に居るのは・・・池速さんかな」

 一二三の指さした方向を見ると、長い黒髪に、特徴的な髪型の銀髪。

 あの宣戦布告以来犬猿の仲となり、勝負に関する事以外は全く顔も合わせようとしなかった二人が一緒に居るところとなると・・・

「ま、勝負の打ち合わせなんじゃないか?」 

 そう言って、特に気にも留めなかった宮彦だが、まさかこの後、彼をも巻き込む大事件が起こるなど、思いもしなかった。

 



「・・・で、話ってなんでしょうか?」

 集会の後、校舎裏に呼び出されたカグヤは、少し不機嫌そうな顔をする。

「次の勝負の事で、少しお話がありまして・・・」

 そう言って、命はカグヤに耳打ちする。

「・・・! なるほど・・・それならば、讃岐君がどちらを想っているか、白黒付きますね」

「でしょう? そうとなれば、早速準備しましょう」

 そう言って、敵同士であるはずの少女二人は、まるで親友同士のようにきゃっきゃと騒ぎながら、自分たちの企みを膨らせはじめた。




「はぁ? 誘拐ぃ!?」

 教室の一角で帰り支度を整えていた宮彦は、素っ頓狂な声を上げる。

「そう、この手紙に・・・」

 そう言って雅子が差し出した手紙には、筆跡を読み取られないよう、新聞の文字の部分を切り抜いて綴られた文があった。

「えっと・・・『安形美千代、池速命両名を預かった・・・返して欲しければ、讃岐宮彦を下記の場所まで連れてくること』・・・ってなんで俺?」

 普通、誘拐して身代金を取るならば、親に連絡を取るはずだ。

 それなのに、何故、犯人は宮彦に来いというのだろう?

「どっかで恨み買ったとか・・・そういうんじゃねぇの?」

 一二三が後ろから会話に割り込んでくる。

「う〜ん・・・どうだろう」

 頭をひねってみるが、それらしい節は見当たらない。

 できるだけ棘を立てないように、対人関係には細心の注意をはらっていたはずなのだが・・・

「とりあえず、行ってみるよ。警察には・・・」

「ああ、大丈夫、連絡してあるから」

 携帯を取り出しかけた宮彦を、慌てた様子で雅子が止める。

「あ、そう・・・か、わかった、じゃあ、行ってくるよ!」

 そう言って鞄を掴み、駆け出す宮彦の背を、雅子は手を振りながら「頑張ってねー」と見送る。

「狂言誘拐とは・・・よくそんなの思いつくねぇ」

 宮彦の去った後、一二三が呆れたように呟く。

「さあ、何のことかしら?」

 うそぶく雅子に、一二三はまた溜息を漏らす。

「この様子だと警察に電話したってのもブラフだろ? 全く、嘘は良くないぜ?」

「あら、嘘が服着て歩いているようなあなたに言われたくないわね?」

 その言葉に、一二三は「違いねぇ」と苦笑する。

 この二人も、そして宮彦も、この後起こることなど、何も知りはしなかった。




「それにしても、驚く讃岐君の顔が楽しみですね」

「そうね、必ずアッと言わせてやるんだからっ・・・と、それにしても遅いわね、迎えは」

 彼女らは、買い出しを終え、商店街の路地裏で、じき迎えに来るはずの、命の家の車を待っていた。

「あとはどちらを讃岐君が選ぶか・・・」

「それが勝負のとき・・・負けませんよ?」

 そう言って、お互いに微笑みあう。

 その様子は、つい先日までいがみ合っていた者同士とは思えない。

 と、その時、一台の黒い車が近づいてくる。

「・・・? あれかしら?」

 命が首をかしげてそちらの方を見やると、車は彼女らの直前で停止する。

「おかしいわね、確かバンじゃなくてセダンで迎えに来てくれと言ってあるはずなのに・・・」

 彼女らの目の前にあるのは、黒い大きなバンタイプの車だ。

 と、いきなり車のドアが開き、中から腕が伸びてきて、彼女らの腕を掴む。

「・・・え!?」

「きゃぁ!?」

 成す術もなく車に引きずり込まれると、命は抗議の声を上げる。

「なにするの!? 乗せるにしてももう少し優しく・・・」

 そこで、命は口どころか全身の動きを止め、小さく震えだした。

 そこにあったのは、いつもの執事の顔ではなく、全く見知らぬ男の顔だった。

「ま・・・まさか・・・」

「本当に・・・誘拐されましたね」

 目の前の男三人は、不敵にニヤリと口を歪めた。




「うん・・・? 何だこりゃ?」

 指定された廃ビルの部屋に到着した宮彦は、目を白黒させていた。

 目の前には、他の部屋とは違い、装飾が施され、丁度類の数々が並べられた豪華な部屋。

 そして、そこには不釣り合いな、サングラスをかけた黒服を着た男が二人。

 缶コーヒーをすすりながら、椅子の上に腰掛けていた。

「あ、アンタたちが・・・誘拐犯?」

 というよりは、どう見ても誘拐を防ぐ方の人間のようだが・・・

「ああ、貴方が讃岐様ですね?」

「はぁ? あ、ああ・・・」

 ゴツイ方の黒服にいきなり様付で呼ばれ、狼狽する宮彦。

「そろそろお嬢様方も来られるはずなのですが・・・おかしいですね」

「あの、いったい何が・・・」

 そう、宮彦が問いただそうとした時だった。

「大変だ! お嬢様が・・・お嬢様が本当に誘拐された!」

 部屋に飛び込んできた彼らと同じような格好をした黒服が、随分慌てた様子で叫ぶ。

「何だと!?」

「間違いない、約束場所に、お二人の荷物が・・・」

 そう言って黒服の取り出した鞄の片方は、確かにカグヤのものだ。

「あの・・・状況の説明をお願いしたいのですが・・・」

 恐る恐る手を挙げる宮彦の方を見ると、黒服は今度は仲間と顔を見合わせ、そして頷き、宮彦の肩をがっしりと掴んで話をはじめる。

「これから我々の言う事を・・・しっかり聞いていただけますか?」

「は・・・はい・・・」

 宮彦は、少し青ざめた顔でそう答えた。




「狂言誘拐!?」

「そう、その通りなのです・・・」

 黒服から事の顛末を聞いた宮彦は、また素っ頓狂な声を上げる。

「でも、なんでそんな事・・・」

「私たちはお嬢様の言うとおりに動いていただけですので・・・ただ、勝負がどうのこうの・・・と言われていたような気がするのですが・・・」

 おそらく、三番勝負の最後の勝負の演出だったらしい。

 しかし、先ほどこの男たちは・・・

「ちょっと待ってくれ、あんたたちがさっき言っていたホントに誘拐されたってのは・・・」

「残念ながら本当です・・・」

「我々が行ったときには、既に荷物だけで・・・通行人が、お二人が連れ去られるところを見た・・・と証言していますので、間違いないかと」

 どうやら、狂言誘拐を実行しようとして、本当に誘拐されてしまったらしい。

「車のタイプは分かったらしいのですが、残念ながらナンバーまでは視認できなかったようで・・・」

「そんな事より、すぐに、警察に連絡を!」

「もうしています・・・しかし、携帯がここにある以上、我々にできることといったら、もう何も・・・」

 携帯を彼女らが持っていないため、GPSで位置を把握する事は出来ない。

「だからと言って・・・!」

 そう言って、宮彦は立ち上がる。

「どこへ行くのです?」

「探します・・・このままじっとしてるなんてガラじゃない」

 そう言い残すと、扉を勢いよく閉め、駆け出す。

「若いな・・・行くあてなど、探すあてなど、どこにも無いだろうにな・・・」

 部屋には、沈黙だけが残る。

「さて・・・私は少し空気を吸いに行ってくるか・・・お嬢様を探すわけじゃないぞ?」

「待て、私も付き合おう」

「私もだ・・・あの少年だけに任せられるか」

「フッ・・・我々もまだ若い・・・か」

 三人はお互いに苦笑し合うと、急いで部屋を後にした。




「さて・・・ビデオはここでよし・・・と」

「三脚どこだっけ?」

「そこにないか?」

 三人の中年は、彼女らに手錠をかけ、ベッドに座らせると、いそいそと何かの準備を始める。

 手錠以外にロクな拘束をしないのは、両腕を使えなければ放置していても大した害はないという意思の表れだろう。

「い、いったいなにする気?」

 恐る恐る、命が聞いてみる。

「何って、ビデオ撮影かな・・・」

「そうそう、とても表にゃ出せないような・・・な」

「ぐふふ・・・今回はこんな上玉が手に入ったし・・・さて、楽しめそうだな」

 そう言って、三人は下卑た笑みを浮かべる。

「い、いや・・・助けて・・・」

 おびえる命に、毅然とした態度のカグヤ。

「大丈夫です、池速さん・・・讃岐君は、きっと来ます」

「この状況で・・・この状況で、そんな事」

 目の前には、三人の男。

 そして、宮彦はこちらの居場所を知る術を持たない。

 このような絶望的な状況で、何故この少女はこのようにあの少年を信頼できるのだろうか。

「大丈夫です・・・信じて下さい」

 その強い意志を込めた言葉に、命は、多少ながらも怯えた心を勇気づけられるのを感じた。

「え、ええ・・・」

 三人の男は、未だいそいそと準備を進めている。




「クソッ・・・やっぱ無理か?」

 街中を走りながら、宮彦は多少の諦めを込めて呟く。

「携帯も持ってないんじゃ、どこにいるかなんて・・・」

 そう、命の携帯は今はあのビル、カグヤはそもそも携帯を・・・

 その時、宮彦はある物の存在を思い出した。

 そうだ、あれだ、アレがあるなら・・・

 携帯を取り出すと、急いで電話をかける。

「あ、秋平おじさん? うん、そう・・・できる? 説明している時間はないんだ、急いで! それから、警察にもこのことを・・・」

 電話の向こうで狼狽する秋平を急かしながら、宮彦はその場所へと向かう。

 間に合うか・・・?

 何に間に合うかは間に合わないかは分からない。

 だが、何か焦燥感のようなモノが、彼の背中を駆け抜けていた。




「ぐふふ・・・さあ、準備完了・・・」

「カメラよし・・・じゃあ、早速行きますか」

 どうやら準備は整ってしまったらしい。

 中年の内の一人が、下着一枚状態でにじりよって来る。

「いや・・・止めなさい・・・来ないで、助けてー!!」

「ぐふふ・・・誰もこないぞぉ?」

「いーやー!! だれでもいいから助けなさい!」

 泣きじゃくる命に、無表情なカグヤ。

「おや、お嬢ちゃん、怖くないのかい?」

 やたら落ち付いているカグヤに、男が不精髭だらけの顔を近づけてくる。

「・・・どうやらそなたらの破滅は、すぐそばらしいぞ」

「・・・何?」

 男が聞き返したその時、「バキィ!」と言う凄まじい音とともに、小さなプレハブの二階のドアが弾け飛ぶ。

「な、何だぁ?」

「だ、誰だ?」

「警察? 警察なのか!?」

 慌てふためく男たち。

「なんだぁ? 最後の勝負って言うのはオッサンの相手してどっちがオッサンをヒーヒー言わせるかの勝負?」

 バット片手におどける宮彦。

「本当に・・・本当に来てくれた?」

「・・・遅い」

 涙で濡れた目を見開く命に、不機嫌そうなカグヤ。

「悪いね・・・どうにも最近床で寝はじめたせいか体が硬くてさ」

 そう言って、バットを使って準備運動のような動きをする。

「この・・・ふざけやがってぇ!」

「あのねぇ・・・いくら俺が平平凡凡の高校生って言っても、同年代のヤツとか二十代の大人ならともかくさぁ・・・」

 バットを投げ捨て、殴りかかってきた男の懐に飛び込むと、鳩尾みぞおちに拳を叩きこむ。

「げふっ!? がっ、がはっごほっ・・・」

「人の道外れた四十五十超えたメタボなオッサンにやられるかって・・・父さんのほうがまだ十倍強いよ」

 男は床に転がり、嗚咽を漏らす。

「この・・・そいつは喘息持ちなんだぞ!? もうちょっと年長者をいたわろうとかそう言う気持ちはないのか!?」

 仲間の男が怒鳴る。

「いや、アンタらそんなこと言える立場かよ・・・」

 どう考えても、女子高生を拉致して襲おうなどという卑劣漢が言えたセリフではない。

「おりゃぁー!!」

 気合いをこめてもう一人の男が三脚で殴ってくるが、宮彦はそれをひょいとかわす。

「のわぁ!?」

 宮彦に叩きつけられるはずだったエネルギーは腐りかけた木造の床を突き破り、男は上半身を床に埋める羽目となった。

「ほう、これがホントの『頭隠して尻隠さず』・・・ってやつですか」

 脚と尻だけを床から生やした男はじたばたともがくが、抜けることも、落ちることも叶わないらしい。

「ぬう・・・くそう・・・」

 残ったのは、咳をし続ける男に、床から生えた二本の脚。

 そして最後に、パンツ一丁のオッサンが一人。

「さあて・・・もうじき警察も来るし、アンタらもこれでお終い・・・ってわけだ」

 宮彦がにじり寄ると、男は後ずさりする。

「く、来るなぁ!」

 しかし、このような状況においても、男は自らの勝利を確信していた。

 そう、自分にはまだコレがある・・・!

 ビデオの売り上げを上納した組員に気に入られた時のこれさえあれば・・・

 男は、笑みをこぼすのを必死に我慢しながら、それのしまってある棚へと後ずさりするふりをしながら近づく。

 そして・・・

「死ねぇ!!」

 棚から取り出したそれを、男は構えた。




 この男、何かがおかしい・・・

 カグヤは、男の挙動不審さに、いち早く気づいていた。

 宮彦が足を踏み出す前に、棚の方向に後ずさったようにも見える。

 そして、どこかその表情は、恐怖と言うより喜色でこわばっているように見えた。

 そして・・・

「死ねぇ!!」

「・・・! 危ない!!」

 男が取り出したそれを何か知覚すると、カグヤの体は勝手にその射線に飛び出していた。

「・・・っ!!」

 胸を、強烈な衝撃が打ち付ける。

 薄れていく意識の中カグヤが最後に見たのは、拳銃を構えた男が、宮彦の拳を顔面に受ける姿だった。




「全く・・・無茶をするものだ」

「あたたた・・・もっと優しく縛ってよ、おじさん」

「表面をかすってるだけで貫通もしてないし体内に弾があるわけでもない・・・我慢しなさい」

 肩に受けた傷の手当てを秋平から受けながら、宮彦は文句を言う。

 その後、秋平がカグヤの腕輪の電波により位置を特定し、その連絡を受けて駆け付けた警察により、ノビているパンツ一丁の男と、残りの二人は、めでたく逮捕された。

「本当にじゃな・・・ともすれば死んでおったぞ?」

 その隣で、カグヤがため息交じりに呟く。

「いや、アンタも十分無茶してるから・・・というか、何で生きてる?」

 あの時、銃弾から宮彦を守ったカグヤは、なぜか無傷でピンピンしている。

 至近距離で確かに胸に銃弾を受けたと思ったのだが・・・

「それは、コイツのおかげじゃな」

 そう言って、首にかけたチェーンの先の青い石を取り出す。

 表面に銃痕らしき傷は付いているものの、それ以外はヒビも入っておらず、ほぼ無傷と言ってもよい。

 これに銃弾がぶつかって、カグヤは傷を負わずに済んだのだろう。

「ほう・・・これはサファイアかな?」

 と、秋平

「さあ? なんという宝石かは知らぬが・・・昔、友人にもらった、約束の証じゃ」

 約束の・・・証・・・?

 この石・・・

 この石・・・どこかで?

 約束?

 追い出されたら・・・家・・・で・・・?

「う・・・うう・・・」

「ど、どうした?」

 いきなり頭を抱えた宮彦の顔を、心配そうにカグヤが覗きこむ。

「いや・・・だ、大丈夫・・・疲れて少しめまいが・・・」

「そ、そうか・・・」

「ああ、大丈夫だから・・・」

 そう言いつつも、宮彦には先ほどの散発的な思考が何なのか分からない。

 見たこともない石を、俺は・・・?

 いや、そんな事はない。

 そう言い聞かせ、頭を激しく振り、その思考を振り払う。

「さて、じゃあ、私はもう行くよ」

「あ、ああ・・・ありがとうございました」

「助かったぞ、礼を言う」

 そう言って、二人で秋平に礼を言う。

 秋平が去った後、命が彼らに近づいてくる。

「あの、ですね・・・」

「あ、池速さん、大丈夫・・・でしたか?」

 こんなところでも通常モードと学校モードを使い分けるカグヤに感心しながら、宮彦はその様子をぼーっと見ている。

「今回の勝負ですが・・・」

「ダメになっちゃいましたね、どうしますか?」

 そのカグヤの問いに、命からは思わぬ返事が返ってきた。

「勝負は、貴女の勝ちです」

 その答えに、二人はしばらく呆然とする。

「私は、結局、貴女ほど讃岐君の事を信頼してもいなければ、身を呈して守るなんてこともできなかった」

「あ、あれは・・・体が勝手に動いて」

 これは、カグヤの本音である。

 考えるより、先に体が動いた。

 そう、自らの身を盾にしてでも、コイツを守ろうと・・・

「でも・・・まだ、私は諦めない」

 命は、言葉を続ける。

「必ず、貴女に負けないようになって、リベンジしてあげます」

 そう言って、命は満面の笑顔で微笑んだ。

「・・・ええ、待ってます」

 そう言って、カグヤも微笑み返す。

 わだかまりは、既に溶けて無くなっていた。

「さて・・・大木、帰るわよ!」

「はっ!」

 その言葉と共に、黒服が命の方に駆け寄る。

「では、失礼いたします・・・ありがとうございました」

 最後に投げかけられた感謝の言葉に、宮彦は、「は、はあ・・・」と応じるのみだった。




「なあ、カグヤ?」

「なんじゃ?」

 いつもの通学路を、並んで帰る。

 しかし、二人とも満身創痍である。

「池速さんが言ってた、俺を信頼してたってのは・・・」

「あ、あれは・・・ほら、宮彦ぐらいしか、あの腕輪の事を知らぬから、の・・・」

「そうか」

 そう短く答えると、再び二人の間に流れる沈黙。

「まあ、それがなくても信じておったかもしれぬが・・・」

「え、今・・・なんて?」

「な、何でもない!!」

 聞き取れなかった小さなカグヤのその呟きに、頭に疑問符を浮かべながら、「そうか」と宮彦は再び歩き出す。

「それより、ようやく名前で呼んでくれたのう」

「・・・何をだ?」

 その言葉に、宮彦は再び頭に疑問符を浮かべる。

わらわをじゃ。ずっと『アンタ』と呼んで『カグヤ』と名前で呼ばれた事は今までなかったからの」

「あれ、そうだったけ?」

「そうじゃ」

 そう言われ、「そうだったかもしれない」と宮彦は心中で呟く。

 だが、それならば・・・

「それなら、カグヤだって俺のことさっき初めて『宮彦』って呼ばなかったか?」

「・・・そうかの?」

「そうだよ、ずっと『そなた』って呼んでたじゃないか」

「そう・・・かもしれないのう」

「そうだって・・・」

 その日は、あんな事があって疲れているのに、いつもより二人とも饒舌だった。

 他愛のない事を話しながら、家路を歩く。

 いつのまにか、宮彦にとってカグヤが居る事が、日常となりつつあった。

えー・・・いかがだったでしょうか?

今回の話のみやたら長くなってしまいましたが・・・

サブタイトルの石だって最後の方にチラッとしか出てきません。

なんか色々申し訳ありません(汗

相も変わらずつたない文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。


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