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【第十三話】災いへの布告

 携帯のアラームの音。

 何か愉快な夢から宮彦は覚めると、半分覚醒しきっていない頭でカーテンを引く。

「ああ・・・いい朝だ・・・」

 ゆるみきった顔で伸びをして、手を寝床につくと「ふに」という感触がする。

 うん・・・?

「ふに」・・・?

 と、手を付いた傍らを見遣ると、宮彦はそこで硬直する。

 一人分しかスペースの無い布団の中に、宮彦の他にもう一人。

 白い寝巻きはその裾が大きくはだけ、細い足が露わになり、開いた襟元からは胸元が垣間見える。

 長い黒髪は布団の上で乱れ、扇情的な雰囲気に拍車をかけている。

 こ・・・こここここれはイッタイ!?

「ズザザザ」と後ずさりすると、彼は背中をしたたかに本棚に打ちつけ、その拍子に本棚の上に置いてあった達磨だるまが落下し、彼の頭に打ち付けられる。

「あだっ! つ〜・・・」

 それら諸々《もろもろ》の刺激で、一気に宮彦の頭の残り半分も覚醒する。

 何故・・・何故コイツがここで寝ているぅ!?

 どうしてカグヤが宮彦の寝床で寝ているのか、彼には全く理解できなかった。

 こ・・・これはいわゆる「据え膳食わぬは」とか言うやつなのか?

 そうなのか!?

「いや・・・」

 と、よくよく考えて「それはないな」と宮彦は思いなおす。

 コイツの性格からしてこちらをからかおうとコッソリ寝床に忍び込んだハラであろう。

「どちらにせよ、起こさないようにしなきゃな・・・」

 そうしなければ、何か言いがかりを付けられかねない・・・と、宮彦がこっそり部屋を出ようとした時だった。

「ふぁ・・・あ〜あ・・・もう、朝かの・・・」

 と、のっそりと蝿の止まるような動きで起き上がるカグヤ。

 あ・・・ヤバ・・・

 と思ったのも束の間。

 まずカグヤは視線をこちらにやり、次に自らの服装を見る。

 そして数瞬硬直した後、面白いようにみるみる顔が赤くなってくる。

 あ、故意じゃなかったのか。

 そう宮彦が心中で呟いた瞬間だった。

「い・・・」

 い・・・?

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 朝の閑静な住宅街。

 少女の叫び声が響くと、それはそのまま朝もやの中に吸い込まれていった。




「う〜・・・何で俺が引っ叩かれにゃならんのだ」

 宮彦は、方の頬を赤く大きく腫らしたまま、通学路を歩いていた。

「俺は何もしてないのに・・・」

 宮彦がぶーたれると、傍らの元凶が事も無げに言う。

「見物料じゃ、見物料」

「アンタが寝ぼけて勝手に俺の布団に入ってきたんだろ・・・」

 真相はこうだ。

 まず、夜中に目を覚ましたカグヤがトイレに行き、無事に部屋まで戻ってくる。

 そしてそのあと、そのまま自らのベッドに戻れば良かったのだが、半分眠った、それも船を漕いでいたような状態だったため、そのまま間違えて宮彦の布団にもぐり込んできてしまったそうだ。

「部屋を別々にしない貴様ら家族が悪い」

「あんなに小狭い一軒屋じゃ無理だ、無理」

 彼らの住んでいるのは、未だにローンの残った築二十年の一戸建て。

 一階にはリビングとキッチン、両親の部屋にトイレと風呂、そして二階には宮彦の部屋と、小さな小さな三畳ほどの物置。

「とてもじゃないがもう一人分の個室なんてない」

「あの金を使ってもか?」

 と、カグヤに言われ、彼女が持ってきた金塊の存在を思い出す。

 一つの大きさで一千万を大きく上回る価値を持つ金塊が、詰め込めるだけ詰め込める鞄をカグヤは彼らに渡していた。

 あれだけあれば、ローンの返済どころか豪邸が一軒立ちそうなものだが・・・

 と、そこでさらに新たな疑問が宮彦の頭に浮かぶ。

「なあ、あの金や月一で払われる給付金って、やっぱり税金から出てるのか? だとしたら、罪人一人あたりにあれだけの金を与える月ってのは、どれだけ豊かな所なんだ?」

 確かに、一人あたりにあれだけの金を与えているならば、毎年どれだけの月の人間がこちらに流されているか知らないが、月の都の政府と言うやつは、とてつもなく豊かなはずである。

「違うな。あれは税金ではなく、わらわの資産の一部じゃ」

「一部・・・?」

 いまいち話の全容が分からない宮彦は、つい鸚鵡おうむ返しで返してしまう。

「そうじゃ、まず地球に流される者は一度全ての資産を金に換算され、その総量に応じて、持参できる金の総量に対する割合が決定する」

「ほうほう・・・それで?」

 そう促すと、カグヤも続いて話す。

「それで、決まった金を持参して、その総量が一定値以上の場合、さらにその半分を百二十等分して、十年間の間、毎月給付金という形で給付するのじゃ」

「へぇ〜・・・つまり、元々持ってる資産が多ければ多いほど、こちらでの生活に不自由しなくなる・・・ってことか」

「端的にいえばそうなるが、ある程度の平等化を図るために、金の総量が多ければ多いほど、持って行ける金の量も少なくなってくるのじゃ」

「ふ〜ん・・・」

 という事は、カグヤの元々の総資産は、王家と言う事もあって、かなりのものだったらしい。

 本当ならば、自分など一生顔すら見ることすら叶わなかったであろう。

 そんな人物が、自分の隣を歩いていると思うと、少し感慨深いものを感じる。

 と、その時。

「待ちなさい!」

 と、鈴のなるような甲高い声。

 壁から飛び降りて華麗に着地し、彼らの目の前に現れたのは、青みがかった銀髪の少女。

「安形美千代・・・この私と、学校一の美少女の座をかけて、勝負しなさい!」

 呆気に取られるカグヤに、頭を抱える宮彦。

 うあ〜・・・何だかまた災難の予感・・・

 宮彦は、また自らの身に災いが降りかかってくるのを感じずにはいられなかった。




「え〜と・・・池速命いはやみことさん・・・でしたっけ」

 そう言って、宮彦は目の前に座る少女の名を確かめる。

 結局彼女は、朝にあんな宣戦布告をしておいて、「詳しい話はまた昼休みにするから、待っときなさいよ!」と捨て台詞を残し、去って行ってしまった。

 そして昼休み、彼女は宣言通りやってきた。

「ええ、間違いありません」

 そう返事をして、右の側に大きくまとめた銀髪を揺らしながら、小さく一礼する動作さえ、「美しい」と思える。

 実際彼女、カグヤが来るまでは「学校一の美少女」として、学校中からもてはやされていた。

 美少女コンテストか何かにも、本人曰く、グランプリ寸前まで行ったらしい。

 しかし、カグヤが来てからというもの、話題は全てカグヤに持って行かれ、彼女に注目する者はめっきり減ってしまった。

「と、言う訳で、皆さんに誰が学校位置の美少女かという事を知らしめるため、貴女に勝負を申し込みに来たのです!」

 そう、「ビシィ!」という擬音すら聞こえてきそうな勢いでカグヤを指さす命。

 それに対し、「良いですよ」とアッサリ答えるカグヤ。

「え・・・良いの?」

 完全に勢いを削がれた命は、思わず問い返してしまう。

「あ・・・ゴ、ゴホン・・・それでは、最初の勝負は夏休み前の期末試験・・・その合計偏差値が高い方が勝者です、よろしいですね」

 カグヤの返答も待たずに、命は教室から足早に出て行ってしまう。

「おい、いいのか? 彼女、滅茶苦茶頭いいぞ?」

 実際命は、校内の試験では毎回五百人中一桁を常に叩き出しているらしい。

「よい。負けようと勝とうと妾には関係ない事じゃし、学校一の美少女の称号など、何の意味も持たない」

 確かに、それはそうである。

 称号など、所詮は限られた区域、限られた時間しか意味のないものだ。

「それに・・・」とカグヤは付け足す。

「それに・・・何だ?」

 少し口元に笑みを浮かべ、カグヤは答える。

「・・・面白そうじゃからじゃ」

 その答えに、宮彦はまた頭を抱えた。

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