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【第一話】降って湧いた災い

 



 災いは急に天から降ってくるものだ。

 



 まだ幼かった頃、それこそ記憶も曖昧な昔に祖父がそんな事を言っていた気がする。

「だったらさ・・・こういう風にしてればその災いってヤツが落ちてくるのを見れるのかな・・・」

  今は亡き祖父を想いながら、彼はそんな戯言をボソリと呟く。

 自分でも馬鹿げていると分かる戯言を、だ。

 目の前には、空。

 背中には、太陽に熱せられてじんわりと熱を帯びたコンクリートの天井の無機質な、しかし暖かい感触。

 管理委員長とかいう訳の分からん身分だからこそできる、役得というやつだ。

 クラス全員の陰謀により任命された当初はどうなるものかと思っていたが、委員長と言う肩書の割に、主な仕事は教室の施錠のみ。

 たまに意味もなく(無論教師の方はそんな気さらさら無いが)呼び出されたりするだけで、他に面倒な仕事も無いのにこの屋上を独占できるのは大きい。

「しかし・・・」

 こうして屋上に寝そべって空を仰いでいると、ふと自分が空へと落ちていくような――いや、吸い込まれる、と言った方が正しいか――そんな感覚に捉われる。

 そんなはずはないのに。

 重力がある限り、この星に足がついている限り、そんな事はあり得ないのに・・・

 だとすれば、地球から重力が無くなれば、やはり自分はこの大空へと吸い込まれていくのだろうか・・・?

 半分惰性的な思考を巡らせていると、彼は視界の隅で何かが光るのを見た。

「・・・ん?」

 その光を彼が見ることが出来たのには、偶然の要素が大きい。

 もし少しでも彼の頭の角度が違えば、その影すら見る事もできなかっただろう。

「流れ・・・星だよな・・・」

 どう見ても先ほどの光は流れ星のそれだった。

 しかし、こんな真昼間に流れ星が拝めるとは・・・

「今日は案外・・・ツイてるかもな」

 確か朝のニュースの星座占い、天秤座は一位だった。

 別の番組の血液型占いも、A型が一位だった。

「願い事言っときゃよかったな・・・」

 かすかな後悔を残しつつ流れ星の流れた方向を見遣ると、丁度学校裏の竹藪であった。

「・・・まさかな」

 ほんの少しの胸騒ぎを覚えつつも、ゆっくりと彼は上半身を起こす。

『二年D組、讃岐宮彦さぬきみやひこ君、至急職員室まで・・・』

「はいはい、今行くってば・・・」

 もはやこもった音しか垂れ流さない、古びたスピーカーから聞こえてきた自身の名前に比較的ゆっくりと反応しながら呼ばれた当人――讃岐宮彦――は、校舎へと姿を消す。

 まさか、本当に災いというやつが天から降ってきたとも知らずに・・・




 


 数時間後、すでに太陽が眠りにつき、月が夜空に我が物顔で鎮座しているその時。何故か宮彦は裏山の竹藪の中にいた。

「何故か」と問われても、宮彦自身にも「何故なんだろう」としか答えられない。

 そもそもの間違いは、昼間の流れ星の存在をクラスメイトに漏らしてしまったことか。

 いや、祭り好きの悪友が先頭に立ち、「じゃあ竹藪探してみようぜ」などと血迷ったことを言い出したのを、止めなかった事が悪いのだろうか。

 ともかく、宮彦は数分前まで共に流れ星を探していた友人ともいつしかはぐれ、完全に遭難していた。

 昔から宮彦の家の持ち物だったこの竹藪の事は、幼少から遊んで来た宮彦ならば獣道に至るまで全て知り尽くしている・・・はずだった。

「おっかしいな〜・・・暗くて周りが・・・」

 しかしそれも昼の話。

 光の量が全く違う夜は勝手が違ったようだ。

 携帯で連絡を取ろうにもかなり深いところまで来てしまったらしく、普段三本の線が走っている場所には、「圏外」の文字がむなしく浮かんでいる。

 この分では、他のヤツも二、三人迷子になってるかも知れない。

 と、その時であった。

「・・・うん?」

 竹藪の合間から、光が見えた。

 月明かりなどではない。明らかに人工のものだ。

「街の明かりか、良かった・・・」

 これで少なくとも遭難の危険性はなくなったと言って良い。

 宮彦は安堵の息を吐くと、明かりの方向へ歩き始める。

 これで家に少しでも近づいたと思うと、俄然やる気が湧いてきた。

 力強く土を踏みしめ、竹を掻き分け、宮彦は明りに向かい進む。

 やがて近づくにつれ、光がだんだん大きくなってきた気がする。

 あれ、街の光ってこんなに強かったけ・・・

 そんな疑問を感じ始めたころには、もう光のすぐ近くまで来ていた。

 この竹の向こうに、どうやら光の源があるようだ。

 かすかな疑問を抱きながら、竹を掻き分けて、光源に近づく。

「な・・・何じゃこりゃ・・・」

 突然宮彦の目に飛び込んできたのは、地面に半分程埋まった巨大なカプセル。

 それは、目もくらむような眩い光を放っていた。

 大きさは地面に露出している分だけで彼の背丈ほどもあり、一見すると棺のようにも見える。

 周囲の地面が大きく陥没し、表面が微妙にすすこけている辺りからして、どうやらあの流れ星は、このカプセルらしい。

 もし宮彦が普段の通りなら、驚きと共に、一種の喜びを感じていたであろう・・・がしかし。

「てことは・・・さっきまでの明かりはコイツってことかよ・・・」

 つまり、遭難しているという事態は全く好転していないわけで・・・

「う・・・うそだろ」

 その場でがっくりと膝を付きうなだれ、脱力する宮彦。

 先ほどまで足に入れていた気合いが、凄まじく無駄なように思えてくる。

 何故こんな紛らわしい光を出すのだろうか。

 いや、そもそもコレが落ちてこなかったら、自分はこんな目に遭ってはいなかったのではないか。

 そう思うと、だんだん腹が立ってきた。

 怒りをぶつける対象は、無論目の前のカプセルである。

「こんなモノがなければ・・・!」

 怒りの声を放ちながら、力任せにカプセルの壁面を蹴る。

 すると、宮彦の蹴った部分がまるで敷石が脱落するように、不自然に陥没した。

 それと同時に、今まで沈黙を守り続けてきたカプセルから駆動音が聞こえてくる。

 もしかしたら自分はとんでもない事をしてしまったのではないか。

 感情になりふり任せて振舞っていた宮彦は、その行動に今更ながら後悔を覚える。

 やがてカプセルから空気の漏れるような音が聞こえたかと思うと、ゆっくりとその扉が開いていく。

 その様子を、宮彦は緊張した面持ちで見つめる。

 扉の中から現れたのは、長い長い、黒髪。

 着物の裾を風に流しながら、扉に手をかけたそれは、ゆっくりと伸びをする。

「ん〜・・・やはり久しぶりの地球の空気は美味じゃののう・・・あの狭っ苦しい月なんかとは大違いじゃ。さて・・・」

 それは、月の光を背負いながら。

「おい、その方、名は何と言う」

 それは、不遜な物言いで名を尋ねながら。

 風が、静かに、しかし力強く竹の葉を揺らした。

 それが、宮彦と、いわゆる災いとの初めての出会いであった。

今まで書いたことのないジャンルなのでギャー

な感じです(汗

拙い文章ですが、楽しんでいただけると幸いです。

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