表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/59

花言葉ものがたりより「椿」

 あれはどなたの主催の夜会であったか。

 初対面の男が不躾に声をかけてきた。


「やあ、君は君自身というものをまったく分かっていないらしい」

「あなた、誰ですの?」


 胸の内に芽生えた不快感を押し殺す。


「君の父上の古くからの友人だよ」


 燕尾服が良く似合うその男は、私の父よりもずいぶんと若く見えた。


「君の家の乙女椿の生け垣は、今もまだあるのかい?」

「もちろんですわ。あれは父が私のために植えてくださったもの……」


 男は私が言い終わる前に、出し抜けに笑い出した。


「あのさえない男は、君にそんな風に?」


 そしてまたひとしきり嗤う。


「あれは君、彼女を閉じ込めるための檻さ。控えめな女。優しい女。君にふさわしい花。あの男は自分の妻に呪をかけたのさ」


 男の言う父の妻が、私の亡くなった母であると理解するまでに少しばかりの時間を要した。


「君には似合わないな」


 男の手が乙女椿の髪飾りを抜き取る。

 かわりに飾られたのは、どこかで手折ってきたらしい白い椿の花だ。


「君、本当の自分に逢いたければいつでも訪ねておいで」


 男の背中を見送る私の手に、一枚の名刺が残されていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
[一言] 北海道では、椿は越冬しないので、鉢植えで白の侘助を買った記憶があります。とても奥ゆかしいというか、楚々とした鼻でした。 オペラ「椿姫」を考えると、髪にさすのはちょっと危険な香りがするような。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ