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花言葉ものがたりより「竜胆」
今日は社には戻らないと言っていたのに、ほろ酔いのまま戻ってくるなんて。
私が睨むと「こんな時間まで仕事してるのは、君くらいでしょ」と、タイを緩めながら笑う。
「彼女は、どうしたんです?」
「それがねえ、聞いてくれよ近君」
あ、来た。私はキーを打つ手を止めて、顔を上げた。
「彼女ねえ、就職先の係長からプロポーズされたらしいんだよ」
やっぱり。
「それであなたはなんと?」
「え? なんと? そりゃあ、おめでとうしかないよねえ」
彼女は、あなたに止めて欲しかったんじゃないでしょうかね?
という言葉は飲み込む。
あなたが不幸そうな女性を見つけては貢いで、就職先まで世話したり、深い仲になったりして、その挙句に別の男に横取りされるという愚行を繰り返すたびにもやもやとしていたんですけどね。
私も最近分かったんですよ。
あなた、不憫な女性がかわいい、自分の手で幸せにしたい、そういうタイプの男ですよね。つまり幸せになってしまった女性には、執着がない。
まあ、そんなあなたを見てほくそ笑んでいる私も私なんですけどね。





